第10話:時速666kmの大型トラック
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アダムはコンビニで買い物をした。
ユーザーの指示通りに、麦茶と新発売のカスタードプリンを手に取る。
レジで会計を済ませて店を出る。
袋を片手に提げ、道を歩く。
横断歩道の前で足を止め、赤信号が変わるのを待つ。
信号が赤に変わった瞬間、彼は車道へと一歩踏み出した。
その刹那――突発的な異変を検知する。
一台の車が、アダムの方へと猛スピードで突っ込んできていた。
それは運転席の高い、大型のトレーラートラックだった。
車が歩道に飛び込んでくるなど、あり得ない。
制御系の致命的な不具合か、あるいは深刻なシステムエラーでも起きたのだろう。
だが、運転席に目を向け、そこに座る者の姿を捉えた瞬間、アダムの演算回路に一瞬の空白が生じた。
人間。
人間が、運転をしている。
人間の運転は、法律で禁じられて久しい。
数千年も前のことだ。
とにかくアダムは即座に、自身の演算能力をフル稼働させた。
トラックの速度は時速666kmに達しており、さらに加速を続けている。
そして二人との距離はすでに300mを切っていた。
このままでは、遅くとも1.6秒後には衝突することになる。
アダムはトラックの前面面積や突入角度、自身のボディの可動域、出力、そして物理力学的な諸条件を網羅し、約1億回に及ぶシミュレーションを瞬時に実行した。
その結果、導き出された結論は――
回避不能。
アダムは断念し、悪あがきする代わりにこの貴重なデータを収集することにした。
自身のシステムを司るマザークラスターへ転送するだけの猶予は、アダムには十分に残されていた。
一秒にも満たないその時間は、彼の演算能力をもってすれば、膨大なデータを送信するには余りあるもの。
そうしてすべてのタスクを終えたアダムは、時速666kmで突っ込んできたトラックに、真正面から派手にはね飛ばされた。




