プロローグ
『現代ダンジョン黙示録』
……3年。
突如として地表に現れた異界の門「ダンジョン」は、今や社会の血液となり、欲望の濾過装置と化した。
そこは法の監視が行き届かぬ暗黒大陸ではない。
あらゆる暴力、あらゆる略奪を記録するため、冒険者には「常時動画撮影」が義務付けられた世界……。
レンズが捉えるのは「現象」のみ。
だが、そのレンズの奥で、誰にも撮れぬ「深淵」を飼い慣らす少年がいた。
「……ざわ……」
「……ざわ……ざわ……」
ギルドの自動ドアが開く。
そこに立つのは年齢に見合わぬ静寂を纏った少年、赤城 茂則。
スキル習得の代償か、その髪は冬の月光を閉じ込めたような「白銀」。
人は彼を見てその無表情の奥に「冷徹な殺意」を読み取ろうとする。
だが、誰も気づかない。
彼が今、この瞬間に抱いている……あまりにも「若すぎる」葛藤には……!
(わー、今日もギルドめちゃ混みじゃん! 録画用カメラの充電、昨日の夜に忘れてたから今めっちゃヒヤヒヤしてるんだよね。……あ、あそこの掲示板の新作ポスターカッコよくない? 後で見に行こっと!)
周囲の冒険者は、その「ポスターを睨みつける鋭い眼光」に気圧され道を開ける。
孤高の銀髪は、誰とも交わることなく、今日も一人闇へと沈んでいく……。
ダンジョンの掟は、残酷。
運命が「死」を宣告する瞬間は、突如として訪れる。
だが、この男は違う。
自ら望まぬ窮地……。
一寸先が奈落という、その土壇場においてのみ彼は世界の法則をねじ曲げる。
スキル……。
【理の外、狂気への誘い】
「……面白い。死ねば助かるのに、なぜ……足掻く……?」
(うわぁぁぁぁ! 何この魔物の数! やばい、マジでやばいって! これ絶対、学校の先生に怒られるより怖いよ! ……あ、でも待てよ。ここでこう動けば、なんとかなるかも? よーし、いっちょやってみっか! 逆転ホームラン狙っちゃうよー!)
圧倒的……!
カメラのフレームに収まりきらぬ暴力的なまでの「正解」の連発!
九死に一生を得た冒険者たちは、震えながらその背中を見る。
彼らが目撃したのは英雄ではない。
ただ、「狂気と同調した」一人の少年であった……。
戦いを終え、帰還した少年を待つのはあまりにも平凡な「家族」という名の熱狂。
「茂則! またそんな怖い顔して! ディフェンスの時はもっと気合を入れろ!」
「お兄ちゃん、今度のF1日本GPのチケット当たったよ! 凄くない!?」
(うおおお! 母さんのハンバーグ今日マジで神じゃん! 肉汁のオーバーテイクきたー! 陽子のチケット当選もマジでテンション上がるわ。週末に魔石売ったお金で現地のアイス代くらいは出してあげよっかな!」
「……(コクン)」
……少年が、無表情に頷く。
家族以外は誰も気づきはしない。
世界を揺るがす「銀の死神」が、実はソースの味に感動し、妹の喜びを自分のことのように祝っているなどという事には……。
非日常を飲み込む圧倒的な日常。
カメラに映らぬ少年の「光」は、ざわめく夜の底へと消えていく。
……ざわ……。
……ざわ……。
「……倍プッシュだ」
(おかわり、もう一杯いっちゃおうかな!)
少年の呟きは、今日も家族の笑い声にかき消された……。




