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追放されたオークは人族の街で肩もみ屋を開きたい  作者: まさつき
13 花嫁の歓待

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後編 祝いの宴

 ミルカは大ババに連れられ、板張りの渡り廊下を歩いていた。森の中を縫うようにして延びる、館と館を結ぶ道だ。


 等間隔に並んだ柱が廊下を覆うかやぶきの屋根を支え、左右は腰ほどの高さの板塀で囲われている。腰から上は風が吹き抜けるままだが、敷地を埋める樹木が天然の目隠しとなっていた。


 人族なら一帯の森を広く切り開いてしまいそうなものだが、オークたちは森の佇まいをそのまま巧みに利用するらしい。街暮らしでは知りえなかったオークたちの暮らしぶりに、ミルカの興味は尽きなかった。


 前を歩く大ババにもだ。てっきり、大ジジと呼ばれるオークの老人が長であるのだとばかり思っていた。しかし、大ジジは人族で言うところの摂政のような立場で、大ババこそが里を束ねる女王であるらしい。


 オーク族の中では、男性よりも女性のほうが立場が上なのだろうか。でもそれなら、人を、他種族の女をさらうのは矛盾する気がする……いったい、どういうことだろう――ミルカは、物腰柔らかな頂点権力者の背をじっとみつめた。


「あの、大ババ様。女衆の館というのは……?」


 遠い地には、王が多数の夫人を囲う離宮を持つ国もあると聞く。しかし女衆の館というのは、それとは違うように思えた。


「里の女たちが暮らす館や。昔からのしきたりでな。オークの女たちは一つ所に集まって暮らすんや」


 わずかに首を振り向けて、大ババはミルカに答えた。


「それなら、旦那さんは?」

「館の嫁のところへ通ってくる。普段は、別居やな」


 妻の元に夫が通う、暮らしは別居――〝子作りは?〟とも訊ねてもみたかったが、気恥ずかしさが手伝い口にはできなかった。


「子育てもですか?」

「物心つくまで、子供らは女たちと暮らす。あとは男衆たちにまかされる。男子であればな」


「そう、ですか……」呟くミルカには、戸惑いしかない。


「オークは、女の生まれが少のうてな。目につくところで男女が一緒におってみい。いさかいが絶えんのよ。別れて暮らすようになったんは、ご先祖の知恵や」


 もし、自分がこのまま里で暮らすことになったら。オクオとは、離れ離れになってしまうのか?


「ま、ミルカのような娘が増えてくれたら、それも変わるかもわからんなあ」


 まるでミルカの心中を見透かしたように、大ババは冗談めかして呟いた。


 いったん身の危険は去ったとはいえ、これからいったいどうなるのだろう……目を落とし、ミルカが思案するうちに、大ババの足が廊下の突き当りで止まった。


「――この先が女衆の館や」


 正面には重たげな引き戸があり、背の高い板塀が左右に広がっている。館の全容はうかがい知れないが、女性が住む場であるのに華やかさを感じない。むしろ、不逞の輩を近づけない用心なのか厳めしくすらある。さらに物々しさを強めるのは、門戸の左右に立つオーク女の猛々しさだった。館の門衛であるようだ。


 二人の女丈夫は、黒塗りの長い棒の先端に曲刀に似た刃を備えた得物を手にしている。見慣れない槍のような武器を縦に構えたオークの女たちは、やはり見慣れない衣服をまとっていた。二人で街へ出かけた日にオクオが着ていた服装にも似ている。違うのは、裾の広いスカートのような長ズボンの形だ。オークたちの装いは、人族ほど男女で差がないのかもしれない。


 大ババが軽く手を振ると、門衛は二人して左右から入口の戸を引いた。女衆の館のへの道が開く。ミルカの前に樹木の茂る庭が広がる。渡り廊下は庭を横切り、その先は大きな平屋の屋敷に繋がっていた。


    §


 ミルカを出迎えたのは、亜人の女性たちだった。さほど広くもない板の間にオークの女性が七人、獣人が三人、合わせて十人。人族の女は見当たらない。


 それにしても、館に住む女性はこれですべてなのか。大ババほどではないにしろ、年かさの者ばかりだ。亜人の外見では実の年齢は分かりにくいが、佇まいからして父親のムムカと同じほどの年格好に見えた。熟年、といったところだろうか。


「あら、人族の娘さんなんて初めてね」


 野太いが朗らかな声で獣人女性の一人が小走りにミルカに駆け寄ってきた。それを合図に、熟年の亜人女性たちはミルカの周りを囲んだ。皆、体格はミルカよりもずっと大きい。いきなり土塀に押し込められたようで、ミルカはすっかり怯んでしまう。


「まあまあ、かわいらしい娘さんだこと」

「オクオが連れてきたんやて」

「里を出ていったあの子が? やるもんだねぇ」


 なにやかにやと――かまびすしい。


「あの、えっと……こんにちは……ミルカです。オクオの妻の……」


 体躯には圧倒されるが、女たちの物腰はどこまでもやわらかだ。


「ほれほれ、皆、落ち着かんか」


 大ババがたしなめると、女たちは潮が引くようにして後ろに下がり、かしこまって端座した。


「おぬしの支度を手伝うてくれる者らや。見ての通り気のええ女しかおらんから、安心せい」

「は、はい……あの、ほかの方たちは?」


 ここにいるのは熟年の女性ばかり。しかも、頭数が少なすぎる。


「若い女子と子供らは、屋敷の離れにおる。祝言を終えたら、引き合わせたるから」

「何人くらいで暮らしているのですか?」

「子供らから婆さんまで合わせて、八十ほどやな」


 オークの里で女性が少ないというのは本当のようだ。里の中で見た男たちの数に比べて、ずっと少ない。だからなのか。他所から女性を攫い、人狩りを行なって――


「人族の女はな……もう長いこと、ここにはおらん。今はミルカだけや」


 訝るミルカの気持ちを、大ババは察しているらしい。しかし、オクオは七歳の時、最初で最後の人狩りに出たと言っていた。なら、そのとき〝狩られた〟女性は――


「でも、オクオは三年前に……」


 同じ人族の女性が辿ったかもしれない末路を思って、ミルカは言い淀んだ。


「里に来るのを、拒まれたんやろ」


 大ババもはっきりとは答えない。ミルカもこれ以上は、聞く気になれなかった。


「さあさ、難しい話は後にしましょう、大ババ様。女は支度が多いのですから」


 山猫に似た獣人の女性が立ち上がり、ミルカの身支度を誘いかけた。場が、すっとなごむ。ミルカの気持ちも、幾分か軽くなる。


「そうやな」と大ババが応じる。女たちが一斉に立ち上がった。オーク女性の一人が別室への扉を開けると、そこはさらに大きな広間で、華やかな衣装が並べられていた。どれも様式は様々だが、婚礼の装束であると一目で分かった。


「急ごしらえであったろうに、手際のええことや」

「恐れ入ります、大ババ様」


 ゆるりと頷く大ババに、亜人の女たちはかしこまって礼を取る。


「さて、どれでも好きなものを選ぶとええ。少し大きめかもわからんが……ミルカは人族の女にしては大柄やからな。なんとかなるやろ」


「はい。それなら――」と、ミルカは目にした一つの衣装のもとへと足を運んだ。


    §


 オクオは大ジジに連れられ、里長の館の奥座敷へと招かれていた。大ジジの私室で、二人きりだ。


「楽にせい」


 大ジジは足を崩すと、対面で端座するオクオに茶を勧めた。森の木の実を集めて作った、甘い菓子まで用意してある。人に勧めておきながら、大ジジはさっさと先に菓子をほおばり、茶をすすって飲み下した。


「――祝言とは思い切ったな。おまえ、でまかせで言うたろう?」


 片頬を弛めて大ジジはオクオを見やる。受けたオクオは戸惑いながらも、


「いや、そんなことは……ないで」

「ふんっ、ごまかさんでもええ。責めとるわけやない。あの娘を守りたい一心と見た。惚れておるのは、ほんまやろが」

「惚れて……いや、よう分からん。よう分からんが、大事な娘やとは思っとる」


 体を揺すりながら、大ジジは鼻で笑った。


「ミルカはオースベルクのもんやろ。街暮らしはどうやった?」


 さすがに、人としての年季が違う。何もかもお見通しというわけだ。


「知っとったんか?」

「いいや、知らん。ここらでおまえの行くあてなど、あの街ぐらいしかなかろうと思うてな。ドミナもおることやし」


 なんとも居心地の悪い心持ちになった。里を出た日は大真面目ではあったが、振り返れば確かに、浅はかであったと自嘲もしてしまう。


「ドミナを当てにしたのは、その通りや。あいつも半分オークやろ。ならワイもと思たんやけど……さすがに甘かったわ」


 苦く笑って、オクオはオースベルクでの出来事を手短に語った。


 オクオを見る者にことごとく逃げ出された街への道中のこと、魔獣に襲われていたミルカ一行を偶然助けたこと。振るうつもりのない暴力を封じるために呪具を首に嵌められたこと。ミルカを助けた縁で護人として働けるようになったこと、〈肩もみ〉で街中を飛び回るほど忙しく働けるようになったことなどを――


 目を閉じ黙して、なにやら思案気にして話を聞いていた大ジジは、やがておもむろに面を上げた。


「――しかしそれなら、なぜ戻った? 話の通りなら、街でうまいこと馴染めてたんと違うのか。親しい娘ができるほどだったんやろ」

「それがな――」


 重い口をオクオは開く。思えば、まだ昨日の出来事なのだ。神殿で起きた、起こしてしまった忌まわしい行いについて、覚えている限りのことを大ジジに聞かせた。


「むう……んぬぅ」喉を震わせて低く、大ジジは唸った。眉間に皴を刻みこみ、ひどく渋い顔を浮かべて呟いた。


「――あんなえげつないもんが、まだ残っておったとはのう……」

「知っとるのか?」


「おうよ……」と一声、大ジジは重く頷く。


「オクオ、おまえが狂ったのはな、人族の作った毒のせいや。誰かがおまえに〈獣狂い〉を仕込んだのやろ。吸った者は我を失くして獣に堕ちる……昔、ここいらの土地を儂ら亜人たちから切り取ったときに、人族が使った心を壊す毒や」


 自分が生まれるずっと以前に、人族との間に大きな戦があったことはオクオも聞いている。戦いに敗れ、この土地に住んでいた亜人たちは散り散りに追われた。度重なるオーク狩りのせいで、ついには森の奥に身を潜めて生きるようになったとも――


「それで、おまえはどうするつもりや? このまま里に落ち着いて――というつもりは、ないのやろ」


 過去のことはともかく、今は自分の身の上が大事だ。


「ワイは、自分の生まれについて、ほんまのことが知りたい。ワイの〈肩もみ〉、人族は神聖術言うてたけど、これは人族の母ちゃんから受け継いだものらしいんや。そのせいか知らんが、神殿の人らから目の敵にされとるらしくて……」


〈獣狂い〉の毒を仕掛けた……それが、いつも自分に憎悪を向けてきたマーロの仕業だったとして――しかし、オーク嫌いというだけで、それほどの仕打ちができるものなのか。


「父ちゃんのことも、よう分かっとらん。戦士だったというだけで、里のもんからも話を聞いたことがない。ワイはただ、自分が拾われた子だとしか知らんのや」


 腕組みをしたまま、大ジジは黙って話を聞いている。眉間の皴は深いままだ。


「ワイが拾われた詳しいいきさつを、知っとるもんはおらんのか?」


 訊ねるオクオに応えて、大ジジはゆるりと顔を上げた。


「――赤子のおまえを拾ったのは、〈世話焼き〉のゴンドや。あやつにおまえの両親が暮らした家まで、案内させよう。まあ、家言うても……もはや森に呑まれて跡形もないような場所やがな」


「そうか、分かった」と、にわかに立ち上がりかけたオクオを、大ジジは「まあ、待て」と座らせた。


「まずは祝言が先や。ミルカを守りたいのやろ。終わってからでないと、おまえも里を好き勝手には動けんのやで」


 そうだった。忘れていたわけではないが、やはり気がせいている――しかし。


「ええんやろか……里のもんらを騙すことになるんやで」

「構わん、〝嘘も方便〟いうやつや。大ババが決めたことやしな。儂の嫁はんやで、間違ったことはせん。何か、思うところがあるんやろ」


 大ババは何を望んでいるのだろう。祝言を終えてから、直々に聞いてみればよいのかもしれないが。もし、里に残れと言われたら――そのときはまた、掟破りか……。


    §


 陽は西の空に陰りはじめ、森に隠されたオークの里を照らすのは、樹木の間に立てられたかがり火の炎にとって変わった。


 とりわけ、里長の館は明るい。集会場を兼ねた前庭に、オクオとミルカの祝言の場が設けられたのである。


 急な宴席であるというのに、前庭には一面茣蓙が敷かれ、祝いの料理が用意されていた。当然、たっぷりと酒樽も置かれている。


 宴席に招かれているのは夫婦であるオークたちばかりだ。これには歓待の意味のほかにも、新たな番を見届けるという役目もある。皆すでに、宴の膳を前にそれぞれ茣蓙の上に座してた。


 祝言の始まりを待ち構えるオークたちを、オクオは客席よりも一段高く設けられた上座からミルカと並んで眺めていた。両隣には、大ジジと大ババが座している。


 宴席の者たちの視線は、やはりミルカに注がれていた。値踏みするようでもあり、興味本位といった風でもあった。生きた人族の女がおとなしく婚礼の衣装をまとい座している、その光景が物珍しい――ということなのかもしれない。


 あるいは、その姿そのものがだ。


 ミルカの選んだ衣装は、オクオにとっても意外なものだった。


 オクオが着るオークの礼服は大ジジからの仕着せであったが、ミルカもまたオーク族の古式ゆかしい婚礼装束をまとっていた。


「いろいろ取り揃えてくれたんだけど、ひと目でこれに惹かれたの。どうかな?」


 支度を終えて女衆の館からオクオの前に現れたミルカが、はにかむようにして言った。となりでミルカの手を引く大ババが得意げにして頬を弛めた。


「儂の婚礼衣装や。おさがりで悪いがの」


 おさがりというが、古びたところはまるでない。長い間、手入れを欠かさなかったのだろう。


 歳月を経ても色褪せない衣装は、裾から樹木のような装飾が立ち上がり、枝ぶりには豊かな実りを表すように葉や果実で飾られている。朱、金、蒼――とりどりに彩られた柄は、雄々しい炎を描く男の装束とはまったく違う。


 審美に疎いオクオの目にも、命の恵みと慈愛を体現するかのように映った。


 かがり火が照らすことも相まって、ミルカの赤毛は日の光に萌えるようでいて、婚礼の装束によく映える。支度を終えて女衆の館から現れたミルカを見たオクオは、


「きれいや……」


 ただその一言のみしか、持ちえなかった。


 その想いはこうして、宴席に二人並び座る今も、変わらない。


「嫁はんの若いころを見ておるようやなあ」


 隣で大ジジが、冗談まじりに感嘆してみせる。


「それはないやろ」

「どっちの意味や?」


 大ジジは笑みを返し、オクオの隣から立ち上がった。とたんに、宴席のざわめきが鎮まり、皆、居住まいをただして平服する。


 大ジジが大ババに目をやる。大ババがひとつ頷く。いよいよ、オクオとミルカの祝言が始まるのだ。


 大ジジは小さく咳払いをして喉の調子を整えるようにし、おもむろに祝詞のりとをそらんじた――


「掛けまくもかしこき、天地万物を創り成し給ひし我らが大神の大前に、かしこみ恐みももうさく――」


 朗々とした声はのびやかで、森の中を満たしていくようだった。


 それはオークに古く伝わる祝いの祈りで、正直に言えば、オクオには意味するところはよく分からない。しかし、自分たちオークを生み出した古の神に新たな夫婦の誕生を報告し、願わくば加護を賜りますよう――そのような祈りであるとだけは理解でき、オクオは身が引き締まるのを感じていた。


「――久しく栄え行かしめ給へと、恐み恐みも願ひ奉る」


 やがて大ジジが祝詞を締めくくると、今度は大ババが立ち上がった。上座に据えられた酒壺から柄杓で酒を掬い取ると、ひとつの大ぶりの盃に注いだ。


 琥珀色の酒で満たされた白い盃を、オクオは大ババから受け取る。恭しく眼前に掲げて、盃の半分までを飲み干して大ババに返した。口の中に芳醇な香りが広がりながら、喉は焼けるようにして熱い。


 大ババが盃をミルカに渡すのを見て、オクオはふと不安にかられた。オークの酒は、強い。人族の娘に、口にできるものなのだろうか……形だけでも構わないと大ジジには教えられたが――


 厳かな空気に満たされた宴席に、静かなどよめきが広がった。


 ミルカは、盃の中身を、きれいさっぱり飲み干してしまったのだ。顔色一つ変えず、乱れるところがまるでない。


 驚くオクオを措いて、大ババは盃をミルカから受け取ると、高らかに言い放った。


「これにて、オクオとミルカは新たな里の夫婦と認められた。さあ皆の者、祝いの宴じゃ……!」


 オークたちは盃を掲げると、皆一斉に呷って祝いの一杯を飲み干した。立ち上がり、戦の勝鬨の如きを森いっぱいに轟かせる。それを合図に、好き好きに祝いの料理に手を伸ばし、食み、大いに酒を酌み交わし始めた。


 すっかり、上座に座るオクオとミルカなどそっちのけとなっている――


「ごくろうやったな」


 ほっとするオクオに、大ババが酒を勧めてきた。隣ではミルカも大ジジからの盃を受け取っている。


「おまえ、だいじょうぶなんか? だいぶ強いやろ、これ……」


 オクオの問いかけに、ミルカは一口呑んで「おいしいね!」と笑みを返した。


「平気へいき。お酒の強さは、パパゆずりなの」


 酒も過ぎれば毒である。まあ、あとで〈肩もみ〉してやればいいか――などと思っていると、一人の老齢のオークがオクオの元を訪れた。


「おめでとうさん、オクオ。それに、ミルカはんも」


 あいさつしながらオクオの盃に酒を注ぐのは、〈世話焼き〉のゴンドだった。盃を口に運ぶオクオに身を寄せて、ゴンドは囁くようにして言った。


「大ジジさまから話は聞いた。ほな、行こか」

「今から……宴の最中やで?」


 宴は始まったばかりだ。一応、主賓である。中座してもよいものなのか。ゴンドはじろりとした目で、オクオを見返してくる。


「あまり、のんびりしてはおれんのやろ」


 言われてオクオは妻となった娘を見やった。ミルカは、勝手に街を飛び出してきたのだ。気にかけてくれたとはいえ――オースベルクでは、オクオは咎人のままだ。追手がかからぬはずがない。


「行っておいでよ。あたしは大丈夫だから。みんなと楽しく呑めそうだし」


 ようやくほんのりと頬を朱に染めて、ミルカは手酌で盃に酒を注いだ。興味深げにして、オークの男女がミルカの方へと目を向けていた。


「おまえの嫁もこう言ってるんや。素直に従っとけ。ミルカのことなら、長老衆の目も光っとる。心配はないで」

「そか……そやな。すまんなミルカ――ちょっと、行ってくる」


 立ち上がるオクオに「行ってらっしゃい、おまえさん」などと、ミルカは冗談めかして声をかける。


 その声に背中を押されるようにして、オクオはゴンドと共に宴を脱げ出した。


次回は一週間程度あとの投稿予定(は未定)です。がんばります。

2026/03/13

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