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アルペングロー

「そろそろいい頃合いだろ。あんまし暗くなるのも冷える。嬢ちゃんが運転すんだろ?疲れてねぇか?」

 サンポは、皆で食べていたクッキー缶が空になって、一休みできたタイミングで立ち上がった。


「疲れてないわ。嘉成(かなり)に戻って、白虎に報告しないといけないし、一刻も早く行かないと」

「急ぎの用があるのか?回り道させちまって悪かったな、あいつも、今は悪さはしてないはずだ。ただ、自分の縄張りを守ろうと必死なだけなんだ。その……なんだ。西の守護者としてあいつからきちんと今回の礼もさせるし、俺個人としても礼をしたい」

 サンポはもじもじと頬を掻いた。


「サンポ殿。礼をもって接してくれるのは嬉しいが、あいにく我々は表立って式典に出れる立場ではないのです」

 バンニングは語気を強めてサンポの誘いを断る。


「あー、そういや訳ありだったか。それじゃ、貸し一つってことにしといてくれや。何かあったら炎国の西側はあんたらを助ける。勿論、白虎の報酬とは別に、だ」

「……ありがたい。ではその貸しは、クインテに預けておこう。おそらく、一番機会があるだろうからな」

 断ってもダメそうなのを察して、バンニングが肯いた。


 クインテはそっと目を伏せて、後にサンポの目を見つめて答えた。

「わかりました。私が預かるザマス。でも、無茶を言うつもりはないザンス」

 サンポが笑って答える。

「んはっ!無茶苦茶な依頼をやってもらったんだ。無茶な事くらいじゃなきゃ返した事にはならん。こっそり飯くらいは食っていけ」



 そうしてキャビン達はサンポを送り届けて、依頼達成の報告をするためにトラックで嘉成へ戻ることになった。


 出発してからサンポは落ち着き無く荷台の中を歩き回っていたが、ふと覗き口があることに気づいて歩み寄った。

「何だよ、あんまり外は見れねぇのかよ」

 サンポは荷台にある小さな覗き口から必死に外を見ようとするが、眩しくてよくわからなかった。

「機密の関係で下は見られないの。ごめんなさい」

「気にすんな」

 トラックが出発すると、荷台のサンポはそのまま窓にかじりついていた。


「何だよサンポ。ここらへんの景色は見飽きたんじゃねぇのか?」

「珍しいもんが見れそうなんだよ。出てきたら代わってやるから楽しみに待っとけ」


 サンポがシシオンに含みを持たせて指で合図する。


 キャビンも気になってサンポに尋ねる。

「どっち行けば見られるの?」

「普通に北に行ってくれ。西側にでてくるはずだ山頂に気をつけとけ」

 キャビンはサンポに言われて、高度を下げる。


 しばらく進んでいると、青空がわずかになり、夕焼けの眩しいオレンジ色が発輝してきた。


「綺麗な夕陽! 雪に反射しててこんなに明るい!すごい景色ってこれ?」

「いや? それより、どっか山頂で雲がかかってるとこはねぇか?」

 キャビンはサンポの普通の反応に歯がゆさを感じながら、期待を込めて探してみる。


「隊長、左下の方にそれらしいのがある」

「了解!」

 バンニングの指差す方へトラックを傾けて進む。


「こいつは……」

 バンニングが息を飲むとサンポが嬉しそうに呼びかけた。

「お、見つけたか?」


「何これ……山が燃えてるの?」

 キャビンは異常な景色にどきりとしたが、サンポは豪快に笑い飛ばした。

「だっはっは……いい頃合いかと思ったが、お前らは運がいいな。あれは燃えてるわけじゃねぇ……夕陽が灯火を掲げてんのさ」


 サンポが言う様に、向こうに見える一つの山の山頂。

 そこにかかる雲が真っ赤に染まる。

 炎の揺らぎのような雲は形を変えて、山頂の尖った部分を覆う。

 それは、星に灯ったローソクのようだった。


「綺麗……」

「俺も見てぇ」

 荷台の小窓では、代わる代わるにアルペングローを見ようとわちゃわちゃしているようだった。


「ゆっくり、そっちからも見えるようにするから」

 キャビンは速度を落として、小窓から見やすいようにと、進む方向も少し変えて進んでいく。


「あ、暗くなってしもたわ」

 エイテルが見ている時に、日は落ち、辺りは急に青く、濃い藍色にかわり、山頂のローソクも消えていった。


「珍しい景色つったろ。日の向きやら雲の位置やらで変わるらしい。おまけに短時間しか見られんが最高だったろ」

「せやな、ちょっとしか見れんかったけどすごい景色やった。あれくらいの炎魔法使えたら、便利やろうけどなぁ」

「何物騒を言ってるザマス。山一帯火の海にする威力のどこが便利ザマスか。そんな危険な力はなくて結構ザマス。ですが……光魔法でマネが出来たら華やかザマスね」

 クインテも、いつもみたいにムキになるのを止めるほど、景色が心に沁みた。


 皆がしんみりしていると、サンポが手をパンと叩く。

 キャビンもはっと気を取り直した。


「さぁ、暗くなる前に嘉成へ戻らないと。寄り道した分、少し飛ばすわよ」

 何となく満たされたような気がしたキャビンは、気分良くアクセルを踏み込んで、トラックを加速させた。

 

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