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白銀の王

 バンニングたちは白銀の王と対峙した。山頂に聳え立つ巨大な体躯。

 対峙というよりも、見下されている。


「こいつが主だな?俺の攻撃じゃ効きそうもない」

 シシオンがサポートに回ろうと弾を変えようとするとクインテが止めた。 

「待つザマス、サンポを見つければいいだけ。こんなの相手するほどの準備はしてないザマス」

「それゃそうだ。それじゃ駆け回ってサンポの落とし物でも探すか?竜の方もこっち気づいてても攻撃してくる気配は無さそうだし」

 シシオンが言うとバンニングもうなずく。

「襲ってくる気配はない……なら探させてもらうとするか」


 三人は距離を詰めないように、ぐるっと白銀の王の周りを回った。

 少しでも近づくと、睨んだり咆哮が上がる。


「一周したが手がかりはなさそうだ。もっと上なら何かあるかも知れんが、白銀の王の側は吹雪すぎて何が落ちてるかなんか分からんがな」

 苦々しげに吹雪を見つめているとバンニングは声をかけられた。


「こんなところまで、やってきたのは冒険者かい?ここらはハイキングにはちと寒すぎるぜ」

 O脚で日焼けした足が見えた。日焼けした腕もだ。こんな雪山の山頂で半袖半ズボン。

 男はひょうきんな笑顔でポケットに手を突っ込んだ。


 バンニングは、困惑しながらも日焼けした男に訊ねた。

「もしや、先代白虎のサンポ殿か?」


「おうよ。俺がサンポだ。殿なんてよしてくれ、今は自宅の周りを徘徊してるただのジジィだ」

「自宅、ここが自宅の周りだって?いかした庭だな、じぃさん」

 シシオンはノリが合う気がして、気さくに話しかける。

「イカしてるだろう? チィと涼しくなりすぎてんで、見に来たって所さ。あんたら、下のデカい車で来たんだろ?お嬢ちゃんに言われて、あそこから追っかけてきたんだ。帰りは乗せてってくれっと助かるぜ」

「帰り?まだ、白銀の王を倒せてはおりませんが」

「ん?誰かに倒せなんて言われたのか?ギルドじゃ原因も把握してないはずだが」

「当代の白虎殿からサンポ殿がこちらにいるから様子を見て来てほしいと依頼されました。白銀の王を倒さねばサンポ殿は帰れないのでは?」

「あー。そりゃ誤解だな。別にあいつを倒す必要はねえ。この山脈の主だぜ。ダンジョンのモンスターは違う。この世界の生物だ。あいつを倒すほうが世界にとって良くないぜ」

「サンポ殿はどうしようと?」

「どうもしない。見に来ただけだし、今は見守るためにここにいる……つもりだったが、おいそっちの堅苦しいの。名前は?」

「か、堅苦し……バンニングです」

「バンニング。バンでいいや。硬い話し方はやめろ。ジジィは気に食わないとしつこくて面倒だぞ」

 サンポが睨めつけるようにバンニングに目線を送ってくるので、バンニングはたじろぎながら返事した。

「わかり……わかった。」

「おうよ。それでいい。バン。帰るためにも手伝え。多分時間はかからん」

「何をすればいい?」

 サンポは山頂を指で示した。

「ちょっと行って、山頂を温めてこい」


「はぁ!何を言ってるザマス。それがどれだけ危険か」

 クインテが大声で止めに入る。


「そっちの嬢ちゃんもせっかちだな。これから順を追って説明してやるから聞いてからにしろ」

 サンポはドサッと腰を降ろし。どこから取り出したかスキレットを取り出して飲み始めた。


「白銀の王と言われてるが種族名はシルバードラゴン。あいつはメスだ。それで、奴は卵を守ってる。不運なことに、あいつが目を離した際、いくつかあった卵が割られて、残り一つになっちまった。そっから奴は怒り狂って悲鳴を上げてたんだ。その悲鳴を聞きつけて俺が様子見に来た。奴は敵に近づかれて卵を割られないために氷嵐(ひょうらん)を張ってる。あの吹雪を強化してるやつな。奴は卵が孵るまでは少なくともああしてるつもりだろうが、見ての通り冷たい。そのせいで卵が温まらず、孵らない。俺の目的は卵を孵してやつを大人しくさせることだ」


「それで、何か質問はあるか?」

 静かに聞き入っている三人に、サンポが促した。


「シルバードラゴンの卵は普通の鳥の卵なんかより遥かに硬いザマス。誰が卵を割ったかわかるザマス?」

「わからん。俺が悲鳴を聞きつけて、奴の巣を見たら割られてた。さっと見てすぐ離れたから詳しくは調べられていない。それも気になる点だな」

 質問した後クインテはうつむいて思案を始める。


「じゃ。オレからも質問だけどよ。サンポは何で半袖で歩けんだ?」

「気合と言いてぇが、気合だけじゃ何ともなんねぇ。ダンジョンで見つけたAランクアイテム『遊覧足』のおかげだ。魔力も対して使わねぇし、ジジィがこんなとこに来ることも出来る」

「はーすっげえなぁ」

「おうよ。つっても、一つ所に留まると大変なことになるんだがな」


「そろそろ本題入るぞ。どう言う作戦だ?」

 バンニングが声を落として尋ねる。

「シルバードラゴンは周りが寒いと更に冷やすが、暖かいと逆に大人しくなる。冬に山頂に近づけなくて、春には観光出来るくれぇになるのはそのせいだ。だからその習性を利用してやりゃあいい。その、バンのあっためる能力を発揮しながら近づいて、奴を温められりゃ、自然と氷嵐は弱まる」


「今の『炎熱の世界』では、シルバードラゴンの氷嵐に打ち負けてるザマス。これ以上出力を上げたらバンが焦げるザマス」

「んだよ、放り投げるとか、なんとか何ねぇのか?」

 クインテの反対意見に、サンポは舌打ちする。


「離れたら使えない。放り投げるのは却下だ。それ以外で方法がある。その前に確認だが、シルバードラゴンは攻撃はしてこないんだな?」

「卵を守ってるからな、離れる事はないだろう。氷嵐の威力はおそらく増すだろうが」

 サンポは少し期待しつつ、バンニングに説明する。


「そしたら、隊長達を呼んできてくれ。ちょっとした手品を見せてやる」

「何やる気だよ、バン?」

「細かくはまだ考え中だ。隊長達が来たら説明する」

 バンニングはシシオンの疑問に、口元を強くすぼめた。


 サンポは手を叩いてフッーと息を吐いた。

「やっと光明が見えたな。俺が行ってこよう、一番早い」

「サンポ、ちょっと待て。隊長宛にメモを書く。いいか、窓から見える少女がキャビン隊長だ」


「隊長?冒険者どもの連れ子かと思ってたが、お前らワケアリか?」

「特殊な冒険者とでも思っておいてくれ。後でいくらでも説明する時間はあるだろう」

「そうか、まぁ何でも構わねぇ。メモよこしな。さっさと行ってくるぜ」


 サンポはメモを受け取ると、軽く足を踏み出した。


 バンニングが気づいたら、その一歩目の着地で『炎熱の世界』の端にいた。次の2歩目で氷嵐の向こうへ行き、見えなくなっていた。


「なるほどサンポね。あの速度に、あの環境耐性。どこでも散歩気分で歩けるってのも名前負けしてねぇな。あれだけ速く動けるなら、遠距離戦負けなしだぜ」

「魔力弾なら発射できそうザマスが、何も持ってなかったザマス。おそらく近距離タイプ。それでも間合いが自由ならば相当有利ザマス」

 サンポの圧から開放されて、二人はホッとしておしゃべりする。


 バンニングは渋い顔のままだ。

「お前らに言っとくことがある。今回は俺が魔力供給を受けて魔法を使う。その時には隊長の魔力を使う。だが、あくまで、魔力量が多い子供って範囲しか見せないようにしたい」

「わかったザマス」

「んだよ?キャビン魔力量って、そんなになのか?」

「そんなに!!ザマス!Sランク討伐した魔法使いの私よりも、そこらの子どもが膨大な魔力あるわけないザマス」

「まぁ、俺だって訓練しないと魔力が上がらないのも、元々の血筋で変わるのも知ってるけど両方ともいいんだろ?」

 シシオンがキョトンとして尋ねる。


「まさか、ずっといっしょに闘っていて知らなかったのか?」

 バンニングが呆然とシシオンに聞き返す。

「キャビンの父親はブレイブだろ?本人から聞いてるからもちろん平民だって知ってるけど、最強格の剣士だ。魔力も相当だったんじゃねぇのか?」

「まぁ、本人が隠してはいたザマス……。まさか身内で分からないほどとは」

「何だよはっきり言えよ」

「ブレイブは魔力量ゼロだったザマス。だからこそ魔力耐性もなくて、強化魔法もよく効いたザマス」


「なっ……マジかよ」

「だからこそ、普通に考えるとキャビン隊長の魔力量がおかしいわけだ。探られると厄介な問題にしかならんからな。シシオン、一応国家機密扱いだからバラしたら軍に追われる覚悟しとけ」

 バンニングはわざと厳しい顔で、げんなりするシシオンに注意する。


「誰が追っかけてくんだよ」

「俺だ」

「最悪すぎる。別に、聞きなくなかったぜ……」

「さて、隊長がこっちに向かい始めた……くれぐれも内密にな」

 バンニングはキャビンのトラックのエンジン音を合図に、準備体操を始めた。

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