第8章・2幕 行方不明
今回の登場人物
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◎置田村・内政派
・置田 蓮太 (おきたれんた)
16歳。本編の主人公。置田村の創始者・置田蓮次と置田藤香の子。英雄の息子として、副統括となり、次期・乙名としての期待が高い。武勇の才にも長け、心身とも強靭に成長を遂げる。
・鈴谷 稲穂 (すずたにいなほ)
黛村の旧名・鈴谷村の元乙名・鈴谷与志夫の娘。蓮太の許嫁となり、蓮太に乙名になることを望んでいる。17歳に成長し、髪は更に伸ばし、大人びた服装になるも、蓮太への想いは変わらない。
・鈴谷 与志夫 (すずたによしお)
現在は置田村の北地区・神奈備の乙名。稲穂の父。元は鈴谷村(現・黛村)の乙名で置田蓮次と共に、後に村を奪われ、置田村を発足した。蓮次亡き後は藤香の指揮下となった。
・香本 有 (こうもとあり)
沙汰人・置田村中央部・本置田 顧問。藤香のブレーン的存在。若い時は都に住んでいた経験もあり、考え方は至って現代的。しかし、残すべき古い文化は守るべきという側面も併せ持つ。
・野崎 妖 (のざきあやかし)
乙名・野崎飛助の妹。蓮太のお抱え忍者。蓮太の許嫁である稲穂と、忍者としても才ある小夏を敵視する。対切創網タイツを纏うも、透けた下はビキニの様な紫の下着のみという大胆な服装も、その自信の現れである。
◎変若水・攻勢派
・缶 杏 (ほとぎあん)
黛村・北地区の変若水の缶梅男の双子の娘で長女。狡猾で、弓の名手。父と同じ、暴力で支配、解決するタイプ。脚が露になった、黒と杏子色のツートーンのチャイナドレスの様な、風変りな装束を纏う。
・缶 桃 (ほとぎもも)
黛村・北地区の変若水の缶梅男の双子の娘で次女。姉の杏にそっくりな顔立ちだか、それ以上に感情的で暴力的。火遁の術を用いて火焙りにし、接近時は短刀で八つ裂きにする野蛮性を持つ。姉と同じ、脚が露になった、黒と桃色のツートーンのチャイナドレスの様な、風変りな装束を纏う。
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ー和都歴452年 3月13日 15時 置田村・神奈備 鈴谷の館
「おお、香本殿、戻られたか。青田の息子と一緒ということは、同盟の話は上手くいったのですな?」
鈴谷が香本らを出迎える。
「ああ、お陰様でな。鈴谷殿、それより大変なことが起こった。」
「大変なこと?わかりました、奥で話しましょう。」
鈴谷と香本が奥へ移動する。
「一体何が起こったのです?」
「それが、小夏が変若水で行方不明になった。」
「なんと?襲撃にあったのですか?」
香本の言葉に慌てる鈴谷。
「梓の見立てでは恐らく…」
「ええ?小夏ちゃんが?」
稲穂が驚愕する。
「まだ死んだと断定はできないが、状況的には…ただ…」
「ただ?」
「小夏捜索に蓮太と剛堂が向かって数日経つも、音沙汰がない。」
「ちょ、ちょっと待って!蓮太が小夏ちゃんを?それを香本さん何故御止めにならなかったのです?」
蓮太の行動に焦燥する稲穂。
「すまない。」
「すまないって…蓮太は?どうなっているの?今どこなの?」
「・・・」
「ねぇ!答えて!蓮太ぁ…」
香本を掴み、泣き出す稲穂。
「私が、様子を見に行って参ります。」
「妖?よせ!また蓮太の様に帰れなくなるかも分からんぞ?」
「それでも、次期乙名、稲穂の旦那様を見殺しに出来ません。それに私は蓮太様のお抱えの忍者。引き留める理由は有りますまい。」
「…わかった。しかし深追いはしてはならぬ。黛村にもなるべく入るな。直ぐに救出隊を組む。良いな?」
香本の言葉に頷く妖。
「では。」
「おねがいね、妖。」
「お任せを。」
そういうと妖は急ぎ、館を出て疾走する。
「小夏なんか元より、蓮太がどうなっているか分からないけど、これは私が蓮太を奪うチャンスかもしれないね、ウッフフフ。小夏は私の手で始末したかったが、まぁいい、私に機会が巡ってきたという事。」
邪な理由を胸に潜め、蓮太捜索に向かう妖だった。
ー和都歴452年 3月13日 16時 黛村・惟神収容所
手足縛られ全裸で吊るされる蓮太に尋問する杏と、それを奥で眺める桃。
「そうだ。書本小夏の情報をやるから、1つ情報交換といかないか?」
「小夏…今どこにいる?」
蓮太の質問に笑みを浮かべる杏。
「だよなぁ? やっぱライオンちゃんはそのくノ一に何か関係あるんだろ?」
「汚いぞ?小夏の居場所を言え!」
怒る蓮太に杏と桃は顔を見合わせて、頷いてみせる。
「じゃあ教えてやるけど、ライオンちゃんも、勿論、代々伝わる神器を持っていて、下手したら使えるんだろ?」
「神器?何のことだ?」
「まさか!神器すら知らないなんて嘘だろ?」
桃が割って入ると、杏が掌で諫める。
「なぁライオンちゃん?惚けるのはそれこそ汚くないか?」
「お前らこそ、頭がおかしいのか?神器だと?」
「わかった。それでも英雄の息子。きっと隠された神器を使う由縁はあるハズ。知らないにしても、惚けてるにしても、それは後で解決させてもらうさ。」
杏が嫌らしく笑みを浮かべる。
「で?神器とやらは俺は知らない。今度はお前らが小夏の監禁場所を話す番じゃないか?」
「アッハハ!」
桃が奥で笑う。
「いや、監禁も何も、私たちも小夏を探してるんだ。」
「何?」
「ああ、小夏の死体をな。」
「死体だと?ー・・・どういうことだ!?」
「だからぁ、死んだらしい。」
「アッハハ!傑作だな!」
唖然とする蓮太を嘲笑する杏と桃。
「死んだ?小夏が?」
「ああ。でもふざけたことに私らにその容疑が掛かっててね。ホントに殺した奴が別にいるってことだから?」
杏が桃を見に振り返る。
「よかったら、ライオンちゃんも私らと組まない?敵討ち出来るわけだし?」
桃が蓮太に近づきながら話すと杏の顔を見る。
「目的は一緒ってわけ。どう?悪い話じゃないでしょ?」
杏が誘いをかける。
「小夏が死んだ…か。それなら、勿論、仇を討つ。」
蓮太の言葉に、杏と桃は微笑む。
次回2025/6/8(日) 18:00~「第8章・3幕 惨憺」を配信予定です。