第４章・1幕 八俣の副統括
今回の登場人物
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・野崎 飛助 (のざきとびすけ)
置田蓮次の信望者で右腕だった男。蓮次の死後は妻・藤香にも劣らぬ村人を束ね、黛村への侵攻を常に画策している。古き仕来たりを重んじるが故、美咲とは特にウマが合わない。
・赤島 猛 (あかしまたける)
野崎飛助に従い、一揆以前から兵士として活躍した男。蓮次と飛助に指名され、乙名に成り上がった。主に飛助の為に募兵や同士を集めている。酒と女にだらしなく、不道徳な男。
・豊倉 完以 (とよのくらかんい)
置田村南部・日輪の沙汰人で副統括。置田村でも指折りの豪商。出世欲が強く、またどこかケチで、小心者だが、知恵と金銭で権威を取り込んできた男。
・相島 権作 (そうじまごんさく)
置田村の沙汰人。置田村東地区・八俣の納税管理者。好みの女を襲い、嬲るという異常性癖を持つ。実は九狼党・幹部で❝尾❞の字で呼ばれる。
・綿貫 仁兵衛 (わたぬきにへえ)
置田村の東地区・八俣の刀禰。八俣の刑務主を担当 物静かで従順。しかし欲望にはそれ以上に忠実。相島の九狼党との関係に気づき、急接近。覚悟を示し、九狼党の❝毛❞として活動する。
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和都歴450年 8月1日・夜 置田村・東地区・八俣 相島邸
野崎らとの赤島の八俣・統括着任式を終えて、相島は自分の屋敷に帰ってきた。
「遅かったですね、何かありましたか？」
「いや…綿貫、お前、儂が八俣の副統轄になったら、どうする？」
帰宅を待っていた綿貫に、相島はボソっと話す。
「え？まさか任命されたんですか？」
「いや、正式にはまだだが…なればお前にも箔がついて良いよな？」
「勿論です。」
「この話は、まだ内密にしてくれ。いいな？ほれ。」
相島はそう言うと、綿貫に無理矢理、金１０枚を手渡した。
「え？こんな…」
「いいから。小遣いだ。その代わり、内密の件、頼むぞ？」
「わかりました。」
相島は昼間の席で、野崎と1つ約束をした。
和都歴450年 8月1日・夕方 置田村・南地区・日輪 料亭・伊佐 （数時間前）
「…副統括？儂が？」
「はい。頼まれてくれませんか？」
あまりに突拍子もなく、かつ、敵意を向けていた野崎と赤島からの反応に相島は驚きを隠せない。
「…どういう…了見だ？」
相島は野崎を睨むと赤島、豊倉に視線を移す。
野崎は赤島と豊倉を所払いする。
「相島さん、八俣はあなたが統治してきた土地でもある。置田藤香と一緒にね。無論、藤香からこの土地を引き継ぐにあたって色々と引継ぎは済ましています。」
「色々…例えば儂の悪事か？」
「ふふ。まぁどこまで本当かは藤香が調査中だそうで。俺はその件にはタッチしない条件が付いてます。」
野崎はそう言いながら盃の酒を一気に飲み干した。
「あん？じゃ藤香は儂をまだ疑ってんのか？」
「まぁ、そうみたいですね。それどころか、これまで以上に相島さんの件のみに注力出来てしまうでしょう。」
「まてまて、やはり儂を脅しに来たのか？」
慌てる相島。そんな相島に次の言葉をこの刹那のタイミングで応答することで、完全に心を掴めると踏んだ。野崎は即答する。
「逆です。我々は彼方を保護しに来たと言っていい。」
「何？保護？助けてくれると？」
「表立って何かすることは立場上は出来ません。そこは御理解いただきたいのですが。それを踏まえた上で、いくつか相島さんに有利になる手助けを２つ用意しました。」
「有利？藤香に対してか？」
「はい。」
野崎は淡々と話を進める。
「１つは、相島さんの善悪問わず、行動の権限は不問に致します。」
「何？」
「正確には我々は関知しない。目を瞑る、と言った方が正しいかもしれません。」
「ほう…じゃ例えば…例えばだ、儂が離れで女子とどんな遊びをしても…か？」
「ふふ、具体的ですね。まぁ赤島も俺も、構いません。事を大きくしない努力は今まで以上にしてもらえれば、感知しません。」
「…野崎といったか。話が分かる男で良かった。」
「赤島も立場は乙名ですが、俺の子飼い。御心配はいりません。」
「そうか、それが分かれば君とはもっと親しくする必要があったな。済まなかったな。」
「いえ。昔は共に置田蓮次の部下として黛と戦った仲。また再び利益を共有しましょう。」
「野崎…そうか、あの時の。蓮次も裏では色々やっていたな。」
「まぁ。しかし、英雄・置田蓮次であればこその今の私でもあります。英雄のままいてくれなければ困りますしね。」
「なるほどな。儂も置田蓮次を使うのもありかもしれぬな。」
相島は安心したような顔つきをすると、盃の酒を飲む。
「話を元に戻しましょうか。」
「そうだな。すまん。」
「いえ。でもまず1つ目の❝手助け❞は御理解いただけましたか？」
「ああ。それだけでも儂には十分じゃよ。」
相島は御機嫌になる。
「恐縮です。」
野崎は頭を下げると、食事の為に箸を取る。
「あ、相島さん、もっといい酒入れましょうか。」
「おお。済まんな。」
野崎は店の者を呼び、酒を注文する。
同時に豊倉が入ってきて、野崎に耳打ちする。
「相島さん。先程、赤島の売春宿から人気な女を4人連れてきたので、少し戯れた後に続きにしましょうか。」
「お？わかっとるな君は。」
「重ね重ね、恐縮です。」
豊倉に脅かされるように連れてこられる女性4人はまだ20歳にも満たない者ばかりだった。
「最後は好きなのをお持ちください。彼女たちもそれが生きる道だと御喜びになるでしょう。」
「ほ～う、中々良い女ばかりだ。」
相島は少し離れていた女に手を伸ばし、嫌らしい手つきで触り始める。拒絶しかける女性の髪を引っ張り横に座らせた。
「野崎さん、しばらく無礼講で見ていてくれな。」
「どうぞ。俺は酒を楽しんでいますので。」
怖がる女性たちは、ただ自分が選ばれないことを祈っていた。
次回2025/1/16(木) 18：00～「第４章・２幕 2つ目の❝手助け❞」を配信予定です。
