最終話 演者勇者とそれからの事9
「……ここまで出来ておいてあれなんだけど、本当にいいのかな」
ででん、とそびえるその壮大な建物を前に、ライトはついそんな本音。
「ご主人様らしい感想だとは思いますが、例えば私の様な一般使用人が暮らすだけならその考えも良いでしょうが、王女様のお部屋もあるのですから、貧相にするわけにはいかないのかと」
「まあそれもそうだけど……」
クレーネルは専属使用人だから兎も角エカテリスとそもそも一緒に暮らすのも、と一瞬口に出しかけて止めた。そんな野暮な事を、と周囲に怒られるのが直ぐにわかった。――成長したのかもしれない俺。
さて改めてライトが見上げているその壮大な建物は、ライトと仲間達がこれから暮らす屋敷であった。場所は城内の敷地を整地して造られた物であり、紆余曲折あって、今日からライト騎士団の仲間達とこれからはここで暮らしていくのだ。
現在の人数から今後更に増える可能性も考え、部屋は大分余裕を持って建設。来客用の部屋も勿論多めに。各々が希望する施設も色々。そんな風に詰め込んでいたらあれよあれよという間に立派を飛び越えた屋敷になった。そしてライトは性格上、どうしても謙虚になってしまうというわけである。
「ライト君ライト君、あれならこの家を売れば大金持ちに」
「そしてその瞬間俺は色々な物を失いますが俺の横」
「大丈夫、私はいなくならないから」
「流石にそれだけじゃ大丈夫じゃないよ!?」
そんなレナはレナで設計の段階でライトの部屋の隣の部屋だったらそれだけでいい、と一番に希望を提出。立場的な物もあるがライトがそれを承諾し、周囲から羨まれたのが記憶に新しかった。
「ライト団長、私は本当に構わないのか? 確かに私も騎士団所属ではあるが、罪人である事にも変わりはない。そんな私が」
「大丈夫、キュレイゼの事は見てどんな人間だか知ってるから。そもそも駄目だったら国王様王妃様に報告して騎士団から除名して貰ってる。ライト騎士団に所属している時点で、その権利はあるんだって」
「……感謝する」
一方で最後まで入居を拒んだのはキュレイゼ。理由は本人が言っている様に、どうしても立場上の後ろめたさがある様子。だがライトが考えている様に、キュレイゼは騎士団所属になってから、本当に所属するに相応しい立ち振る舞いをして生きている。ライト達には隠している……つもりの様だが(クレーネルが報告した)、タカクシン騒動での被害に対する贖罪も日々続けている。
「キュレイゼ、不安だったら一緒にご主人様に奉仕しませんか? ご主人様も喜びます」
「物凄い誤解を生む発言は止めてくれクレーネル」
「? 私はご主人様が屋敷持ちになり、広くなったのであれだったら一緒にメイド服を着て清掃しようと誘っているだけなのですが」
「それはそれでまた違う誤解を生むから止めて!?」
俺がメイド服好きみたいな。いや嫌いじゃないけど。
そんなクレーネルは今では使用人二大巨頭だったハル・リバールと並び、その実力で三大巨頭となりつつある。ライトへの崇拝が強く、何かと奉仕(?)しようとしてくるのがライトとしては困ったり困らなかったり。――そしてこちらもタカクシン騒動での贖罪を忘れず続けている。
「うおおお……」
「ローズ!? いきなりどうした!?」
「こ、これから私もここに暮らすんですよね? 驚いた時はこうすべきなのかと」
「ローズは俺の弟子なのは認めるけどそこは見習わなくていいよ!?」
ローズは勇者として日々忙しく、でもライト達に囲まれて元気に暮らしている。父親ヤザックとも仲直りでき、交流も頻繁に。先日はライトもヤザックと食事を共にした。最初に会った時とは嘘の様に別人で、ローズの褒め合いとなり、ローズが照れて間に入ったのが記憶に新しかった。
「長、ありがとう。屋敷持ちになってくれた事、本当に感謝している。庭が出来た。ついに俺も犬が飼える」
「うん、まあ、俺の意思だけで建てられた屋敷じゃないけどな」
「大丈夫だ、ちゃんと責任持って世話をする。散歩も出来る限り自分で行くし、どうしても駄目な時はシンディに相談するつもりだ」
「お前今犬の事しか考えてないな!?」
ドライブは変わらず、ライト騎士団所属の戦士として活躍中。イケメンっぷりも噂に広がり城内で彼を慕うファンが増えつつありそうで、シンディが必死になっているとかいないとか。そのシンディとの仲も、進んでいる……と思われる。多分。きっと。
「ライトくん、はいこれ」
「? サラフォン、これ何だ?」
「屋敷で使えるリモコンだよ。主であるライトくんが持たなきゃ。細かい使い方は説明書を渡すけど、このボタンがあの正門を自動で開閉するボタンで、これが不審者を迎撃するボタンね」
「何でまず教える機能がその二つなんだよ!?」
サラフォンは出世した。魔具工具室室長となり、部下が出来、ライト騎士団だけでなく、他の近しい人にも魔道具を提供する様になった。出会った時と違い、本当に立派な魔具工具師として、ハインハウルス軍でその名は有名になりつつある。――親しくなると謎のグッズを勧められるのは相変わらずなのが知れ渡るのも時間の問題かもしれない。ハルは最近ホラン・ルラン姉妹にハリセンを教えているという噂まであったり。
「へえ、想像以上に凄いお屋敷になったじゃない。私の部屋も作って貰おうかしら」
「なっ! エカテリスもこっちに引っ越すのにヴァネッサまで居なくなったら寂しくて死んじゃう!」
「冗談よ。第一エカテリスにしても敷地内なんだから普通に徒歩で会える距離なんだから変な心配しないのよ?」
「わかっているさ。――とは別にライト君。こっそり私の部屋も用意してくれないかね? いや何も新しいプライベートルームが欲しいわけじゃなくて、単に……あっ違う違うぞハル君! だからそんな目で見ないで!」
ヨゼルド・ヴァネッサ夫妻も相変わらず。勿論この国を一番に支える夫婦であり、一番忙しいはずなのだが、何だかんだで楽しい交流がある、気さくな夫婦である。――先日はヨゼルドから大旅行案の企画書を渡され一緒に行こうと誘われた。原案ヨゼルド、そこにヴァネッサとエカテリスで手を加えた物らしい。現在はスケジュール調整が進んでいるが、決定は時間の問題と思われる。
「団長、すみません。敢えて比べたら私の希望の箇所が一番多い様な気がします……」
「大丈夫だってそこは気にしなくていいよ。訓練所なんて皆使うんだし、ハーブ園だって見栄え的に凄く綺麗だし」
「そう言って貰えると助かります。これからも、騎士団の為に団長の為に、私とアタシ、両方とも頑張ります」
ソフィも一見変わらない……のだが、淑女状態と狂人化状態の使い分けが更に上手くなり、ほとんど自分の意思でも切り替えられる様になった(やっぱり自動でも変わるが)。そして癖になってしまったライトとのハグ。何となく一日最低一回はハグをしないと気が済まなくなってしまった様で、してないと夜に部屋にやって来てしまったりもするのでライトとしては嬉しいやら恥ずかしいやら。
「住み慣れた塔ともお別れ、心機一転ね。――ありがとう、ライトさん。私達の入居も許可してくれて」
「イルラナス達は色々あって以前と違う箇所はあるけど、ライト騎士団の団員である事は変わりないと俺は思ってるから。だから当然だよ」
「私としては屋敷が小さいと思える位だが。旦那様なら城の一つ、持っていてもいいだろう」
「別に俺は国を作るわけじゃないんだぞ……」
「えっ、作らないんスか? 団長さん大使になったじゃないスか」
「何でそんなピュアな目で大きな誤解を俺に投げ掛けてくるんだよドゥルペは!?」
イルラナス一行の戦いは続いている。最初に比べれば随分と彼女達の存在を好意的に見てくれる国や人達は増えたのだが、それでもまだまだ認めて貰えない箇所や人達もいなくならない。それでも彼女達は諦めない。そして諦めない限り、ライト達は彼女達を支え、いつか本当にわかって貰える日が来るのだろう。
「レインフォルやドゥルペじゃないけど、私の中でもまだまだこれからよ。マスターはもっともっと凄くなるんだから。そんなマスターを支えるのが私の仕事。私も世界一の事務官になるわ」
「俺は世界一にならないしなれないけど、でもネレイザが頑張ってくれるのは嬉しいかな」
「でしょ! 世界一の事務官ともなればプライベートも色々支えてあげるし、どんどん頼って」
「ネレイザちゃん、ガチな話ライト君の周りにどれだけのメンバーが揃ってると思ってる? ネレイザちゃんがプライベートを支える余白があると思う? ネレイザちゃん仕事一筋に生きた方がいいよ。だから一緒にも暮らさない方がいいんじゃない?」
「真剣な顔でそんな提案してこないでくれる!? それでも私もマスターを支えるの、見てなさいよ!」
ネレイザは実力は兎も角、立場はすっかり魔導殲滅姫の欠片も薄れ、しっかりと事務官として知れ渡り始めていた。ライトも気付けばマークが居た頃のマークの様にネレイザを頼る場面が増えた。プライベートも……若干空回りはあるが、それでもその真っ直ぐさで、確実に突き進んでいる。――ちなみにマークは新婚なので流石にここには暮らさない。
「あたしとしては嬉しいんだけど、本当に騎士団に所属もしてないあたしもこっちでいいの?」
「ジアは確かに騎士団所属じゃないけど、でも親密に貢献してくれてるし、仲間だし、その……ジアだけいないってのは、俺が嫌だったってのもある」
「そう、なら遠慮なく。ライトも遠慮しないで甘えてくれていいから。団長としてもプライベートでも。前もって言ってくれたら、色々準備も出来るし」
「待ってくれジアは俺が一体何を要求すると予測してるんだ」
「大人になったから、あたし達」
「その返しも怖い!?」
フリージアは役職は変わらず、研究所城内支部の所長としてハインハウルス軍、そしてライト騎士団と連携しての功績を挙げ続けている。美人所長として噂になっているとライトはソーイから聞いたが、「興味無い。あたしにとって大事なのはそこじゃないし」とライトの目を見ながら言われ、ソーイにからかわれたりしている。
「いくら敷地内ですぐ近くとはいえ、やはり新しい住居に引っ越しというのは気持ちが改まりますね」
「うん、それは俺も。ハルはだから今日は私服なの?」
「私はここへは使用人としてではなく、騎士団団員として、一個人として入居するので初日はどうしてもこうしたくて。あっ、でもご安心下さい。屋敷に関しては先輩、クレーネル、更には不在時にはホラン・ルランの手も借りて清掃等が行き届かない事などない様に既にシフトも組んでありますし、ライト様個人で必要とあらばいつでもお呼び頂ければ、私個人としてお傍に参りますので」
ハルはヨゼルド専属使用人を降りる事なく、忙しくともぶれない日々を過ごしている。それでも昔からの彼女を知る人からすれば、最近の彼女はとても表情が豊かになったとの声が多い。それはきっと、仲間達に囲まれ、大切な人の傍に居る事で、良い意味で新しい彼女が生まれた、という事なのだろう。
「ライト殿、我の希望も受け入れて頂きありがとうございます。本格的な魔術研究室が欲しかったのです」
「ニロフは世界一の魔導士だろ、その位持ってて当たり前じゃないか。それに新しい弟子が出来たんだし、俺もまだまだニロフに教わらないと」
「? ライト殿に我が教えるスケベの素質はもう何も無かったと思いますが」
「魔法だよ!? というか百歩譲って俺がそのスケベマスターになってます言い方もどうなの!?」
「はっはっは、冗談です。ライト殿の魔法の師として恥じない様に、我もまだまだ自らを磨いていくつもりですぞ」
ニロフ。ライトは何処かで別れがもう直ぐ来るんじゃないかという寂しさがあったが、マリーナという弟子が新しく出来、まだまだこちらに残る様子でこっそり安心していた。今でも相変わらずのスケベな紳士で、時にハルに怒られ、時に皆を導き、そして自らが名乗る事はないが誰しもが彼を世界一の魔導士だと思っている。
「引っ越しなんて初めてだから、物凄い新鮮ですわ」
「いや寧ろエカテリスは王女様で別に立場を放棄したわけでもないのに城からこっちに引っ越しちゃって大丈夫なのかが俺としては凄い不安なんだけど」
「私はライト騎士団副団長ですわ、ライトの隣に立つと決めたのだから、一緒に引っ越して当然です」
「そして姫様が行かれる以上、勿論このリバールもお供致しますので。これは姫様の意思ですので、ライト様が拒まれても私の技術で屋敷の鍵を開けて中に侵入しライト様の身柄も――」
「根本的に駄目って言ってるわけじゃないってわかってるよね!? 俺個人はウェルカムなんだから止めて!?」
「ウェルカムですか。では具体的に私と姫様はいつ頃お伺いすれば」
「今のウェルカムはそういう意味合いじゃないってわかってるよね!?」
エカテリスも王女として日々の勤勉鍛錬は相変わらず、公務で忙しくともライト騎士団副団長の任務もこなすスーパーガールっぷりを見せている。勿論その隣にはいつでもリバール。リバールのエカテリス愛も変わらず日々暴走中。唯一変わった事と言えば、ライトに対する距離感、だろうか。
「おう、マジかお前……屋敷っていうからある程度は想像してたが、流石にデカ過ぎるだろ」
「いえ当の本人が一番驚いてます……ってアルファスさん、わざわざ来てくれたんですか?」
「まあ弟子の出世祝いだし、ヴァネッサさんから今日だって念を押されてたからな。で、一応祝いの品を……ってあれ、何処にやったっけ」
「ライトさん、こちらです! 第一夫人のセッテからお渡ししますね!」
「待ちなさい、アルファスさんは順序は付けないって言ったでしょう? まったく恥ずかしい。というわけでライトさん、これは私から。主人共々、今後とも宜しくね」
「おうその前にまだ結婚してねえだろうが俺達は」
「「でも誓いの指輪くれましたよね」」
サッ、と二人ならんで指にはめたリングをアルファスに見せる。――って、
「お前等なんでそういう所は息ピッタリなんだよ!?」
「私達、アルファスさんのお嫁さんになるんですから、この位は。ねえ?」
「ええ、この位は出来て当然」
「勝手にしてくれ……とりあえず場所考えろ……」
「ライト、これ私から。沢山人いるだろうから、ケーキ沢山作ってきた」
「兄者、これは私からだ。妹弟子として、本当に鼻が高い」
「アルファスさん、セッテさん、リンレイさん、ありがとうございます。フロウ、スティーリィ、ありがとう」
アルファス一行は、リンレイも加わりついにアルファスが一歩進み(進まされた部分も多々あるが)、セッテ、リンレイと婚約。スティーリィは過去とは無縁の平和な暮らし、セッテも武器鍛冶師としてレベルアップの日々を送っている。とまあ進んではいるが、関係性も中身も相変わらず。ライトにとっては頼れる師匠であり、今も日々通って剣を教わっている。
「私はそもそも、平凡で平穏で毎日ぐーたらが一番の幸せなんだけどさ、君の隣はそれとは無縁なのに、ついにこんな所まで来ちゃったな、ってのが正直ある」
「本当、文句言いながらもずっと俺を守ってくれたよな。感謝だよ」
「私も感謝だよ。君と出会えなければ、こんな風に清々しい気持ちで今生きてない」
「色々あるけど、これからも宜しくな」
「こんな私で良ければ」
「出来ればもう少し真面目にはなって欲しいかな」
「えっ、そんなレナさんをお望みですか?」
「お望みですよ!?」
「うーん、じゃあ私の部屋から直通でライト君の部屋に繋がる様にする計画どうするかなー」
「即刻中止して!? 隣なんだから普通にノックして来て!?」
レナは炎翼騎士の役職に振り回される事なく、以前と変わらぬ立ち位置――ライトの護衛を続けている。夫婦漫才も変わらず。信頼関係も変わらず。手を伸ばせば触れられる距離が当たり前で、お互いを支え合うのが当たり前で、その姿は正に「パートナー」であった。
「えっと、皆さん、改めてこんな風な日を迎えられた事、嬉しく思ってます」
そして気付けば、代表としてライトの挨拶が始まっていた。
「皆さん一人一人との出会いや思い出を話し出したらキリが無いし、大変だった事、悲しかった事もあったけど、でも共通して言えるのは、ここにいる皆さんと出会える事が出来て、本当に良かった。こうして皆さんに囲まれているのは奇跡で、俺は本当に恵まれている。そう改めて思います」
何も無い自分だった。全てを一度捨てた自分だった。その自分が、これ程までに素敵な人達に囲まれて生きている。こんな幸せな事があっていいのか。今でも思ってしまう事がある程。
だからこそ守りたい。今目の前に広がる光景を。自分を信頼してくれる、仲間達を。大切な人達を。それに相応しい人間に、なっていく。その覚悟を胸に、ライトは口を開く。
「いつもながら、俺に出来る事は限られてます。皆さんに頼らないといけない事、沢山あります。でも俺は、これからも初心を忘れず、精一杯頑張っていくつもりです。どうか今後共、宜しくお願いします」
パチパチパチパチ!――全員から拍手を送られる。流石に恥ずかしくなる。でも、伝えられて良かった。
「ライト騎士団も、まだまだこれからです。頑張っていきましょう!」
こうしてライト騎士団は、ライトは、新たなる門をくぐり、進んで行くのだった。
これにて、「あこがれのゆうしゃさま」は完結です。
正直、まだまだ書きたかったエピソードや、アフターストーリーの案もあったりするのですが、一度区切りをつけないとダラダラと進むだけになってしまうので、これで最終回です。
まあ、リクエストがあったり、気が向いたりしたら、何処かで追加エピソードを書いたりすることがあるかもしれません。その時は、またお付き合い頂ければ幸いです。
最後までお付き合い頂き、本当にありがとうございました!




