第四百十四話 演者勇者と導かれし仲間達14
キィン、カァン、ガキィン!――静かな空間に響き渡る、剣のぶつかり合い。
「おう、どうしたどうした! 威勢がいいのは最初だけか?」
モヨネダのラッシュ。リンレイは防戦一方。そもそもヨゼルドを気にしながら戦わなくてはならないので、ハンデを背負っているも同意。
「おりゃああ!」
ズバァァン!――モヨネダ、気合一閃。リンレイもガードをするが、そのガードを飛び越えてダメージが入り後退。
「がっははは、要するにあれだ、お前さんは守りながら戦うのは苦手だな?」
「…………」
リンレイは答えない。ただ冷静に、モヨネダの剣を見ていた。
再び始まるモヨネダのラッシュ。リンレイはギリギリの所で捌き続ける。
「隼騎士か! 名前からして速度勝負をするんだろう! なのに一定範囲から動けないんじゃ、そりゃ実力も出せないわな! そもそもその貧弱な細い剣じゃ、俺の剣は――」
「見抜いた」
モヨネダの再びの挑発に被せる様に、何処までも冷静にリンレイはその一言。
「確かに私は速度勝負が得意よ。でも誰かを守るのが苦手ではないし、貴方の攻撃ならもう全て見切った。もう喰らう事は無いわ」
「ほー?」
「それに貴方は、私の「誇り」を馬鹿にした」
スッ、と愛用の剣をモヨネダに向ける。――確かに一般的な剣と比べても細い。でもこれは、アルファスがリンレイの為に作ってくれた、リンレイにとっての「誇り」である。
「だから、この国を国王様を守る以外にも、個人的に貴方を倒す理由が出来たわ。――覚悟して」
「ひぐっ……ぐすっ……ふっ!」
まだリンレイがヴァネッサの部隊に配属されてそこまで時が流れていない頃のとある日。その日リンレイは、泣きながら裏手で素振りをしていた。
ヴァネッサはリンレイの才能を早くから見抜き、自分の部隊に抜擢し、近くで育てていた。ヴァネッサ隊は当然軍でも随一の部隊、憧れの部隊。そこにヴァネッサに突然見抜かれて抜擢されれば、どうしても嫉妬妬みが生まれる。
自分が悪口を言われるのは我慢出来た。だが抜擢したヴァネッサの影口まで言われ我慢出来なくなり、言ってきた相手と模擬戦で決着をつけようとし、リンレイは負けてしまった。
悔しかった。負けてしまった事よりも、ヴァネッサを馬鹿にされた事を覆せなかったのが。それが自分の実力不足が原因だったのが。考えれば考える程涙が止まらなくなるが、でも自分に出来る事は強くなる事しかない。そう思い、必死に素振りをしていた。
「泣きながら素振りしてたって、身に入らねえぞ」
「っ!」
ハッとして見れば、そこにはアルファス――当時こちらもヴァネッサの抜擢によりメキメキと頭角を現していたが、リンレイとの相性は最悪の頃である――がいた。
「何ですか、馬鹿にしに来たんですか! ええそうですよ、私が悪いんですよ!」
「馬鹿か。俺はお前を虐めても別に楽しくとも何ともねえ」
「じゃあ放っておいて下さい!」
ブン、ブン、ブン。――零れる涙と響く素振りの音。
「ヴァネッサさんは別に気にしちゃいねえよ。その位わかるだろ。お前が負けてもあの人が負けたわけじゃねえ」
「でも許せないんです! 悔しいんです! 強くなって、ヴァネッサ様の見立ては間違いじゃないって、証明するんです!」
ブン、ブン、ブン。――零れる涙と響く素振りの音と、
「――はぁ」
漏れる溜め息。実を言えばアルファスが来たのはヴァネッサの頼みだからであった。――何で俺が様子見に行かなきゃなんねえんだよ。ヴァネッサさんが直接見に行けよもう。
ブン、ブン、ブン。――零れる涙と響く素振りの音を、アルファスは見続ける。
「お前さ、剣を斬る物だと思ってるだろ」
「は!? 当たり前じゃないですか、突然何言ってくるんですか!?」
そして、気付いた事を伝え始めた。
「あー、言い方が悪かったな。お前、剣を斬る物としか考えてないだろ」
「ですから、それは当たり前の――」
「他の使い方もあるだろうが」
そこでアルファスはジェスチャーで「突く」仕草。
「お前多分、そういう使い方織り交ぜるだけで段違いに変わるぞ。俺のアドバイス聞くのがどうしても嫌じゃなければ、試してみろ」
アルファスはそう言い残し、その場を後にする。
「何よ、結局よくわからない事だけ言い残して、結局馬鹿にしに来ただけなんでしょ!?」
ブン、ブン、ブン。――アルファスへの文句が加わり、リンレイは素振りを続けるが、
「…………」
ふと手を止めて、動きを変えてみる。精神を集中させ、一点を見て、全力でそこに向かって剣を「突いた」。
「……!」
その時、リンレイの中の何かが変わった。――隼騎士誕生への、第一歩であった。
「がっははは、誇りか、誇りでメシが食えたら楽だし、誇りだけで命を賭けた勝負に勝てれば苦労しないぞ!」
モヨネダは怯む事なく、勝負を決めに動く。速度を乗せて、全力で剣を振るった。――キィン!
「そうね。誇りで全てが片付けば苦労しない。でも、誇りを捨てたら戦う意味が無くなる」
「!?」
モヨネダの全力の一振りは、リンレイの「突き」によって止められていた。モヨネダとしては頭が理解出来ない。自分の大剣を、細身の剣で、突きで止めている。戦闘経験が豊富だからこそわかる、今の有り得ない現象。それをリンレイがやってのけている。
「この一突きと、この剣が、私の誇り。私の誇りが、貴方を止めている」
「……!?」
「アルファスさん!」
それはアルファスが剣聖の称号を授与され、ヴァネッサ隊副長から独立が決まった日の事。
「おう、新副長、どうした」
「それです! アルファスさんが次の副長に、私を推してくれたって本当ですか?」
空いた副長の座。使命されたのは、リンレイだった。
「あー、何でばらすかなあの人は……自分が指名しましたでいいじゃねえか」
勿論ヴァネッサの事である。アルファスは頭を軽くかく。
「その……私で、いいんでしょうか」
「何だ、不満だったのか?」
「そんなわけありません、光栄も光栄です! でも、私はまだアルファスさんの様には」
実際不安気な表情を見せるリンレイ。――ったく、しょうがねえな、いざって時に限って。
「なあリンレイ。お前は十分やっていけるよ」
「アルファス……さん……?」
アルファスは不意にリンレイの頭を優しく撫でた。そしてそのまま言葉を続ける。
「来た当初はどうなるかと思ってたけどな、ヴァネッサさんが連れて来ただけあったよ。俺が意味もなく推薦なんてするわけないだろ。自信持て。お前ならやれる」
その言葉と、優しい笑顔と、頭を撫でられる感覚。リンレイの鼓動が早まる。頬が赤くなるのは気のせいじゃない。
「ああそうだ、ついでに渡しておくわ。――ほれ」
「これ……剣、ですか?」
「お前専用の剣な。お前のスタンスに合わせて俺が作った」
受け取った剣を鞘から抜いてみる。少し細身の綺麗な剣。だが持った瞬間にわかった。決してアルファスが作ったから、という理由からではなく、純粋にこれ以上自分に合う剣は無い。その感覚が持っただけで伝わる物だった。
そして、逆に言えばこれをアルファスが自分の為に作ってくれた。こんなに嬉しい事があっていいのだろうか。喜びが心の中で爆発しそうになる。
「ありがとうございます! この剣の持ち手に相応しい騎士になります! この剣は、アルファスさんが作ってくれたこの剣は……私の、誇りです」
「大袈裟だ。でもま、作り手としてそう言って貰えるのは作った甲斐があったってもんだな」
ぽんぽん、とアルファスはリンレイの肩を叩き、手を放す。もっと撫でて欲しい、いっそのこと抱き締めて欲しいとは流石に言えない。
「アルファスさん。私、称号持ちを目指します」
だからもう一度褒められたくて、もっと認めて欲しくて、その決意を固めた。
「ヴァネッサ様とアルファスさんの隣に立てる様に、隣にいて相応しい人間になれる様に、頑張ります」
「デカく来たな。でもお前なら夢じゃねえな。頑張れよ」
「はい!」
それが、リンレイの誇りが生まれた日。それからずっと、リンレイはその誇りと共に――
「はああああっ!」
気合一閃。リンレイの突きはモヨネダの剣を彼の手から弾き飛ばし、
「な……馬鹿な、がはぁ!」
ズババババァン!――そこから高速のラッシュで、モヨネダ自身も吹き飛ばした。
「貴方には誇りは無かったのかしらね。決して弱くは無かったけど、貴方程度に苦戦するわけにはいかないの」
既にモヨネダは動けない。勝負あり、の瞬間である。
ハインハウルス軍、隼騎士リンレイ。その名も称号も、伊達では無かったのだった。
「はあっ!」
エクスカリバーを持ったローズが、セツナと一対一の激闘を繰り広げている。
「っ……これはこれは、これが勇者の力ですか、参りますねえ。ちょっと甘く見ていたかもしれません」
そうは言いつつも一歩も退かないセツナ。一対一で互角、なら普通に考えればここに他のライト騎士団団員が援護に加わればそれだけで勝負がつきそうな物なのだが、
「オラァァァ!」
「ふむふむ、それだけ聖属性を放ってその気迫ですか、素晴らしいですねえ。王女様との連携のタイミングもお見事」
「私達は貴女に稽古をつけに貰いにきたわけではありませんわよ! はあっ!」
セツナは合計四人に増えてしまったので、残り三人と残りの団員が戦闘中。なので援護には行けない状態なのだ。
「……どうなってるんだこれ」
「流石に私もわからないや……リバールと違って本当に増えてるんだもん」
一歩離れた箇所で見守るライトと護衛のレナ。その完全にセツナが増殖したという事実に、つい緊張感よりも驚きが勝り、頭がついて来ない。
「実を言えば私も原理はわからないのですよ。気付いたら会得して出来る様になっていたものでして」
と、そんな二人の疑問にセツナが――
「っていつの間にっていうか何だそれ!?」
――五人目のセツナが、ライトの横に絨毯を敷き、テーブルを置いてお茶を飲んでいた。緊張感の欠片も無い。
直ぐに隣のレナを見るが、レナも反応し切れなかった様子。――レナでも防げないのなら、どうする事も出来ない。
「ああお断りしておきます。戦闘能力はあちらの四人にほぼ振り分けてしまったので、私は何も出来ません。なので見学者同志でお話でもいかがかな、と思いまして」
「お話……?」
「興味があるのです。ハインハウルス軍……というより、貴方方、ライト騎士団とやらに。――さ、どうぞお座り下さい。御持て成しさせて頂きますよ」
笑顔で着席を促すセツナ。
「レナ。何かあったら頼むな」
今ここでレナがこの五人目のセツナを倒したとしても、戦況が大きく変わるわけではない。それに彼女は、何か不思議な特別な物を持っている。そんな気がした。だからライトは、
「それじゃ、お言葉に甘えますよ」
「どうぞどうぞ」
その誘いに乗り、セツナと「対峙」するのであった。




