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あこがれのゆうしゃさま  作者: workret


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第四百三話 演者勇者と導かれし仲間達4

 周囲に立ち込める謎の煙。不思議な匂いがする。

「ははは、こんなに簡単にいくとはな」

 そして煙の奥から現れた数人の男。

「……え?」

 その中央には、意気揚々とした笑顔を掲げた例の女性の父親が。

「しかしハインハウルス軍が「情に弱い」のはわかってたけど、上手くいきすぎだ」

「おい、そんな簡単に近付いて平気なのか?」

「こいつは上からの正式な支給品だ、もう相手は動けやしない」

 どうやら瞬時の睡眠ガスの様な品の様子。男達はローズに近付き、まじまじと顔を見る。

(どういう……こと……? え、この人を助けに……? それは嘘……? あの人、あんなに必死だったのに……?)

 ローズの思考が追い付かない。次の一手をどう選んでいいのかわからない。

「それで? どうするんだ?」

「勿論上に献上する。これで俺達も出世だな」

 男達は勝利を確信し安心しきっている。実際ローズはその場から身動き一つしない。

 だが見解の相違がある。確かにローズは動かないが、それは彼らが放ったガスのせいではない。そもそもローズの勇者としての特性として、結構なレベルの状態異常は効かない。

 ローズが動けないのは、思考が混乱している為。同じ動けないでも、この違いは現状天と地の差がある。

「でも……とりあえず、今回一番の功績者を選ぶなら、俺でいいな?」

「まあいいけど、でもそれが何だ? 上からしたらきっと微々たる差だぞ?」

「そうじゃない。ちょっと位ストレス発散させて貰ってもいいだろ、って話だ」

 そしてその違いに気付く事のない男達。「一番の功績者」である女性の父親がローズの背後に回ると――グイッ。

「!?」

 そのまま両手をローズの服の上から胸に当て、ゆっくりとその指に力を込めた。

「おい、まだガキだろ」

「そんな事ない、十分過ぎる程楽しめる」

 ローズもその男が何を言っているか、何をしようとしているのかわからない程子供ではない。だが先程からの混乱が終わらず、その女性の父親の行為はローズに更なる混乱をもたらす。

 今、ここで、自分はどうして、何を。

『ローズ、しっかりしろ! 私を握れ!』

 エクスカリバーの声が響いた。だがまだ体が動かない。

「さて、時間が多いわけじゃないからな」

 単純にガスのせいでローズの体が動かないと思い込んでいる男は指をそのまま数回動かした後、片手をそのままローズの服の中へと滑り込ませようとする。

『ローズ!』

「っ!」

 再び強く響くエクスカリバーの声。その時、ローズの手が――



「くそっ、早まるなよローズ……!」

 報告を受け、急ぎローズの探索に出たライト、レナ、クレーネル。報告を受けた当初は冷静だったが、徐々にライトの中に焦りが生まれてくる。

 ローズが物理的に負ける事はない。その心配はしていない。だが、今回は嫌な予感がする。

「とりあえずこの前ローズちゃんが活躍した裏路地辺り、探してみよっか。この展開は何か匂う」

「わかった!」

 こういう時のレナの勘は鋭い。三人は先日の騒動が起きた辺りへ移動。

「ライト君、あれ」

「! あの人は……!」

 先日助けた親子の内、娘の方がまるで腰を抜かした様に地面に座り込んでいる。――只事では無い。

「大丈夫ですか!? 一体何が――」

「ご主人様、レナさん、止まって下さい!」

 だがライトがいち早く駆け寄ろうとした瞬間、クレーネルの制止。直後、

「がっ……!?」

 クレーネルが魔法を発動。娘を魔力で拘束する。――って、

「クレーネル、急に何を!? この人は――」

「あの女から微かにですがタカクシン教の匂いがします。――信者ですね」

「うーわ、探知器か何かみたいになってんじゃんもう」

 レナが状況を忘れついいつものオーラでクレーネルに驚きを見せる。

「ちょっ……あの人、信者……!? でもこの前」

 一方ライトはそれ所じゃない(普通の反応ではある)。先日タカクシン教の信者に襲われかけてた人が信者。意味がわからない。

「あの事件の後信者になったのか、それとも……「最初から」信者だったか」

「っ……!」

 後者は重い。自分達を、ローズを騙していたという事になる。

「あ……あ……」

 そしてその肝心の女は、何かに怯える様子を隠さない。ライト達に対してではない。来る前から同じ様子だったからだ。――という事は。

「ちょっと、アンタら何したの? 中どうなってんの?」

「き、聞いてない……こんなの……」

 レナの質問に対しても見当違いの返事。スッ、とクレーネルが近付き、

「質問に答えなさい。こちらの質問に答えない場合は身柄の保証はしない。――私が誰かはわかるでしょう?」

「!?」

 そう鋭く食い込むと、女も相手がクレーネルである事に気付き、初めて意識をこちらに向けた。

「わ、私は悪くない! 計画を立てたのはあいつらで……でも、あんな風になるなんて……あんな存在だったなんて……!」

 だがそれでも言っている事がライト達には理解出来ない。同時に更に膨らむ嫌な予感。

「レナ、クレーネル、これ以上ここでこの人に話を訊いても意味が無さそうだ。突入出来るか?」

「駄目って言っても行きたがるでしょ君は。――安心して、心配なのは私も同じ。行くよ」

「同じくです。この状況下を放っておくわけにはいきません」

 レナが一歩前に、ライトとクレーネルがそれに続く形でその古い屋敷のドアを開ける。玄関を抜けて広いホール。

「……!?」

 正確には、ホールだったと思われる場所。――そこはまるで嵐でも通過したかの如く、物は散乱、辺りは破損個所だらけ。

「た……助けて、くれ……命だけ……は……」

 その最早瓦礫の山の様な箇所に、点々と倒れている数人の男達。傷だらけであり、息も絶え絶えに命乞い。――だが、彼らが命乞いをしているのはライト達相手ではない。

「…………」

 ホールの丁度中央に、エクスカリバーを握るローズが立っていた。目は何処か遠くを見て、まるで心ここにあらずの状態。いつもの元気な笑顔とのギャップに一瞬ゾッとする程。

「ローズ! 大丈夫か!?」

 だがそんなのに怯んでる場合ではない。ライト達はローズに駆け寄り、直ぐに無事を確認する。

「し、しょう……?」

 そこでローズもようやくライト達が来た事に気付いた。意識が現実へと戻ってくる。――自分がした事を、自分がされた事を、先程までの出来事を、思い出す。

「あ……あ……あああ……!」

 それは、ローズにとっては重すぎる現実。それが彼女の精神に一気に圧し掛かった。

「師匠っ……私、あのっ、でも……!」

「大丈夫、大丈夫だ、何も言わなくていい」

 ライトはそのままローズを優しく抱き締める。

「ああっ……ああああ……!」

 ローズはライトの腕の中で泣き始めた。ただただ、それ以外の事が出来ず、ライトにしがみ付いたまま、泣き続けたのだった。



 その後、ライト騎士団の増援が来て、事後処理を頼み、ライトとレナは一足先にローズをつれて城へ帰還した。

 ローズからは何も訊ける状態ではなかったが、残された現場の様子、捕まえた信者達の証言を元に何が起きたかは大体把握する事が出来た。――怯え切った男の信者が本当に正直に洗いざらい、ローズにしてしまった事を自白した時、瞬く間にソフィに殴られ数メートル吹き飛んだのは余談。

「……くそっ!」

 という報告を受けたライト、レナ。ライトは悔しさの余りつい壁を握り拳で叩いてしまった。――ローズを一人で行かせてしまった。ローズを傷付けてしまった。ローズを守れなかった。

 客観的に見てライトの責任は重くはないが、ライト自身は重く受け止めてしまう。

「ライト君。少しだけ話、聞いてくれる? 貴重な私の真面目な話」

「……うん」

 ただただ悔しがってるだけでは意味がない。それがわかっているライトは、そのレナの言葉に耳を傾ける事に。

「国王様も似た様な考えに辿り着いてるとは思うけど、もしかしたら今が最初で最後のチャンスなのかもしれない」

「どういう意味?」

「あいつら、急激に支配範囲が増え、手下が増え、管理が行き届かなくなってる。普通に考えてこんな事して許されるなんて思わないでしょ」

「……確かに」

 若い女子に対し誘拐・暴行目的で違法な薬を使った。言うなればただの犯罪者である。

「でもそれがまかり通ると思ってる。自分達がタカクシン教だから。上から支給された道具をそんな理由で使ってる。それが許されると思ってる。自分達がタカクシン教だから。――私がトップだったら、そんな足元すくわれる事件なんてたまったもんじゃない」

「でも実際に事件は起きた」

「そう。何処まで情報が上に上がるかは知らないけど、もしかしたらこの統率の乱れは予想外かもしれない。勿論そのまま放っておくとは思えない。時間が経過すれば、そんな輩が出てこなくなるか、本当にタカクシン教の世界になって信者ならやっても絶対的に許される世界になるか、そのどっちかになる」

「俺達はそれを許すわけにはいかない」

「うん。だから、今がチャンスなのよ。向こうに、隙が出来てる。崩してこちらの勢いにすれば、大義名分はこちらにある」

「大義名分……か」

 レナの言いたいことは理解した。最もな意見だと思った。――なら、自分には何が出来る? 非力な自分に出来る事は何だ?

「……待てよ」

 自分で考えていて気付いた。非力な自分。そう、今も昔も、自分は非力なまま。そのまま、今の立ち位置になったのだ。

 ならば、自分が出来るのは、一つだけじゃないのか。――ライトは、決意を固めた。

「レナ」

「うん?」

「何度か伝えてるけど、俺は基本レナ以外の専属護衛は考えて無い。――最後まで、俺についてきてくれるか?」

「何それプロポーズ?」

「違うよ!?」

 確かにそれっぽいフレーズだったけど!

「ま、私の返事はどっちにしろイエスだけどさ」

「あのすみません、そのどっちにしろってのは一体――」

「それで? 何を思いついたん?」

 はぐらかされた。――はぐらかされた内に入るのだろうか。……は、兎も角。

「俺に出来る事を思いついた。国王様に提案、お願いしに行く」

 そのライトの決意とは――

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