正面突破は女の花道
メイデイは2人に語る。
「さて、お前らが最後なわけだが…さて、と」
ラボの椅子にもふんと腰掛け、続ける。
「うーん。言いにくいが、お前らが1番危ない」
グルグルと回る椅子を回転させ、グルグルと自分も回りながら。
遠くなったり近くなったりする声を聞きながら、クリシュとフェスパイアは返事をする。
「心得ておりますわ、メイデイ様」
「勇者か、まだ私は見た事がない故…判断出来かねるが、どうなのだ?」
クリシュが貴族然と対応し、フェスパイアが引きこもりよろしくと、そんな質問をする。
「ありゃバケモンだ」
「と、言うと?」
「フェスパイア、お前の考える強者とは?」
「ふむ、フーアーズで言うとアエルやブラック。奴らには勝てる気が全くせん。他で言うと剣聖ジアビス。アエルが偉く剣聖を気にかけていたな。「アイツに勝つには骨が折れる」と、ほざいておった。後は…勿論だが未だに忘れられん。今は亡き魔王シャルロか。奴の殺戮を見たあの夜、初めて恐怖を感じたものだ」
「それだ」
メイデイは、語るフェスパイアの話を遮る。
何がそれなのかわからないフェスパイア。疑問符を頭に浮かべ話しの続きを促す。
「それは…というと?」
「この情報が何故出回っていない理由は想像でしかないが……イヤ、今其処はとりあえずいい。まあ聞け。事実だ。魔王を殺したのは勇者だよ」
驚愕に目を見開くフェスパイア、言葉が出てこない。
同じくクリシュも、信じられないといった様子で目を大きくしていた。
「それも、勇者が10歳の時だ」
「……は?」
あまりの驚愕に、間抜けな声を出すフェスパイアに、メイデイは続ける。
なぜなら魔王が亡くなったのは去年。
すなわち…
「今まで培ってきた努力がはてさて、どこまで通ずるやら……ここがスタートだ。この時をどれほど待ったか」
グルグル回っていた椅子を止め、クリシュとフェスパイアに向き直ったメイデイは、もう一度言う。
「冗談なんかじゃない。先に言っておく。勇者は11歳の子どもだ。そして…」
少しだけ言葉区切る。
嘘ではない。と、事実として受け止めさせる為に。
真実を受け入れられる様、少しだけ。
無音が響く。そこにメイデイの口がもう一度開いた。
「最強の座に胡座をかいていた魔王シャルロ・フィグザ・ビルゼート。奴を屠ったのは……紛れもなく、勇者だよ」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ふむ、ここか」
「ペテクベルディの言っていた情報通りね」
ーーーシュバン・フォルツ男爵領
そこから少し離れた、人気のない場所でフェスパイアとクリシュ嬢は高くそびえる砦へ目を向ける。
「男爵如きがよくこんな砦を作れるのよってくらい立派ね」
「ふむ、ペテクベルディの言葉の信憑性が増すな」
この領土に町を構える、領主のシュバンは、辺境伯領で爵位を持つ1人である。
かなり悪どいことさえも平気で侵す。重税に始まり、薬、殺しなど。機嫌が悪ければ、親子や恋人等を屋敷に引っ張り、殺し合いをさせて、命令を下した自分の存在の大きさを再確認してはその愉悦に浸る。
領土で生活する生娘を何十人と屋敷に引っ張り、あまり芳しくはないパーティを開いた際の___文字通り玩具にされる等、そう言った情報がペテクベルディから渡されている。
「ペテクベルディの話の信憑性を疑う訳ではないけど、どうして男爵如き小童がそんなこと出来るのよ」
「ふむ…ここは辺境伯領という話だったな?」
「ええ、そうよ」
「おかしな話だ。辺境伯の住まう地は確かここからかなり離れている筈」
「…確かに変ね、って良いから勿体ぶってないでさっさと言いなさいよフェス!」
フェスパイアの、幼子に少しずつヒントを与えていく様なその口調に、一瞬乗りかけたクリシュだが、すぐにハッと気付き、悔し紛れにぷんぷんと正解を促す。
「ふっ、クリス嬢も機微に通じて来たものだ」
「そうゆうのはいいからっ」
そう言うクリシュに微笑ましいものを見たなと微笑みそうになるフェスパイアだが、その感情を見せるとクリシュが「子供扱いするな!」と怒りそうだったので直ぐに表情を消した。
「何、簡単なことだよ。辺境伯領と行ってもここまで遠いと人間では不便であろう。要は、ここは辺境伯領の外れ。首都の方が近いであろうここに辺境伯はどれだけ目を光らせられるか」
「あー、そゆこと」
答えを言う前に理解された事を嬉しく思いながら、フェスパイアはここの領主がどう言った人間なのか推測を口にする。
「大方、この男爵は首都の誰かの取り巻きにでもなって、自分が偉いと勘違いている情けのないドブネズミという辺りか。まあ思考を使うのも勿体ない程度の相手でしかなかろう」
「ふーん…でも、興味あるわ」
ニコリと笑うクリシュ。
むぅ、と眉を顰めるフェスパイア
「…やめておけ。クリス嬢、お主にはあまり汚いものを見せたくはない」
クリシュが何をしたいのか直ぐに把握したフェスパイアは、反対だとやんわり口にする。が……
クリシュは結構わがままである。年長者の助言?そんなものにクリシュは縛られないのだ
「いやよ!これがメイデイ様の為になるかもしれないじゃない」
そう言うクリシュの目はランランと輝いている。完全にただの好奇心である。
「メイデイ様の為」という後付けを加えて、自分を正当化しているだけだ。とフェスパイアはすぐに悟る。
だが確かに人を知るには良い機会ではあるだろうと、フェスパイアはその後のクリシュの行動を想像して、「まあ、有りか」と口の中で呟き、今回はクリシュの好奇心のまま行動することにした。
「ふぅ、良いものではないぞ?」
「さすがフェスッ。話しが分かるじゃないっ」
手をパチンとして嬉しそうに跳ねるクリシュ
やれやれと、フェスパイアはクリシュが歩き出した後に付いていく。歩きながら、どう行動するつもりなのかをクリシュに尋ねる。
「それで、どうするつもりだ?」
「うん?どうするもこうするもないわ。どうせ死ぬ相手に気を使う必要なんてあるの?」
ニコッと花が咲いた様にクリシュは笑う。「決まってるじゃない」
閉じられている門にビシッと指を差す。カッコいい。
「正面突破よ!」




