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「共に生きる……ね。プロポーズしちゃうくらい、惚れ込んだわけだ」

「ち、違いますわ!! お友達として、一緒にいると約束しただけで……」


 メアリーが慌てグスタフに詰め寄り、リチャードが不愉快そうに眉を跳ね上げた瞬間、グスタフは足をもつれさせながら、メアリーに接近。左手の銀のナイフを首元に突きつけた。


「ボーンチャイナの骸骨(スケルトン)に、銀が有効だっていうなら……お嬢ちゃんの特性ボーンチャイナも、破壊できるよな」

「触らないで! 汚らわしい、この野蛮人!」

「おっと……暴れる前に良く見た方がいいよ、お嬢ちゃん」


 いつの間にか右手に持った銃は、床に転がったスキットルを向いている。


「隣の部屋から漂う可燃性のガス、スキットルの中のアルコール度数の高い酒。そこに火種をくわえたら……ぼん! とね。みんな焼け死ぬ。さあ……お嬢ちゃんの大事なミスターを死なせたくなければ、大人しくついてきた方がいいぜ」


 メアリーの首の根元にナイフを突きつけたまま、ジリジリと階段方向へと進む。

 リチャードも手出しできずに、歯噛みした。


「リチャード。俺、この子のボーンチャイナ凄い興味あるんだけど……エリオットに話したら、すぐ殺そうってなるし、もったいないじゃん? しばらく黙っててやるよ。だから……クリスと手を組むのを辞めて、お嬢ちゃんと二人で逃げな」

「どういう事だ?」

「グスタフは僕を殺したいんだろう」

「そうそう。上の人間の命令(オーダー)がクリスを殺せだったから。任務をこなせないと報酬減らされちまうぜ」


 ケラケラと笑うグスタフを、リチャードは冷ややかな目で睨んだ。


「エリオットのような信心深さもないグスタフが、なぜ異端審問官なんかを……と思ったが。金目当てか? 愚かな……」

「紳士気取りのてめぇには、金の為に生きるなんて永遠にわかんねぇよ」


 笑顔を削ぎ落とし、グスタフは強くリチャードを睨みつけた。榛色(ヘーゼル)の瞳の奥に、メラメラと炎が宿ったように強く光る。


「大英帝国がなんだ。この国は天国と地獄。上の人間は楽してお上品に生きて、下の人間は野垂れ死に。俺は五歳で煙突掃除夫になったが、大人になるまで生きられたのは俺だけだった。他の仲間は仕事中に死んだ。そんな現実てめぇは知らないだろうよ」


 グスタフの言葉に衝撃を受けて、リチャードは立ち尽くす。その姿を嘲笑うように、グスタフは見下した。


「リチャード。俺は昔から紳士気取りのお前が嫌いだった。お坊ちゃんにわかってもらおうなんて、思っちゃいないが、俺はたんまり稼いで、稼いで、稼いで。その金で地位でもなんでも買ってやる。それで一生何不自由なく生きるんだよ」


 階段の前まできて、顎でくいっとリチャードに指示する。


「とにかく目障りだ。俺はクリスを殺して帰る。リチャードはお嬢ちゃんと逃げる。それで何も問題なし。って訳で……さっさと帰んな」


 リチャードは迷った。グスタフの言いなりになるのは癪に触るが、それでメアリーと二人無事に生き残れて、メアリーの秘密が守られるなら、従うべきだろうかと。

 そんな迷いを吹き飛ばすように、クリスが沈黙を破った。


「リチャード。ベアトリクスは僕の仲間が保護してる」

「クリス、てめぇ、デタラメでリチャードを誑かそうってのか?」

「デタラメではない。地下(アンダーグラウンド)に隠れていたベアトリクスと昨日会った。彼女の妹ジュリアから黒曜石でできたロザリオを受け取って、預かり所を通して連絡を取り合ったのだろう? リチャード」


 それはクリスにもグスタフにも、話ししてなかった事実だ。

 ベアトリクス本人から聞く以外方法はないだろう。


「あのロザリオは、元々僕がジュリアにあげたものだ。その意味がリチャードならわかるだろう?」


 それを聞いた時、リチャードの頭が高速回転し、ある事実を悟った。それで覚悟が決まった。


「ミス・ベネット!」


 リチャードに名前を呼ばれただけで、メアリーは何をすれば良いかわかった。グスタフの拳銃を持つ手にかぶりつく。それと同時にリチャードはスキットルを蹴って、グスタフへ接近した。

 近接格闘術(コンバット)では、リチャードはグスタフに叶わない。しかし……メアリーがいれば話は別だ。

 メアリーが怪力でしがみついている隙に、リチャードがグスタフの頭を撃鉄で殴りつけ、片手をナイフに持ち替え、グスタフに突き刺す。

 ナイフが突き刺さる寸前で、グスタフはぬるりとメアリーの拘束から逃れ、階段の上へと駆け出した。


「仕方ねぇな……。クリスを殺せなかった穴埋めは、これで帳消しにしてもらうかな」


 そう言って手に取ったのは、メアリーの鞄だった。


「待ちなさい! 私の鞄!」

「魂の意思が宿ったボーンチャイナのタイプライター。研究にはうってつけだよな。もらっていくぜ。あばよ!」


 グスタフは楽しそうに笑いながら、懐から爆弾を放り投げた。今引火すれば建物が崩壊して生き埋めになる。

 リチャードもメアリーも、思わずそちらに意識を取られた隙に、グスタフは階段を駆け上った。

 爆弾が床に落ちる寸前、クリスが爆弾を掴んで、強く抱きしめる。

 バァン! 炸裂音が鳴り響くが、火は出なかった。クリスは縮こまったまま微動だにしない。

 クリスの栗色の髪は真っ白になり、その唇はヒビ割れたようにボロボロだ。


 クリスの異常な姿に、リチャードとメアリーは言葉を失った。


「リチャード……君を信じて、共闘……だ」


 そこまで言って、力尽きたように、クリスは気を失った。


 二人の容疑者 END

 NEXT 小休止ーa short breakーⅢ

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