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五年後


 戦いから五年後、大陸中東部のとある場所


 見晴らしもよく耕作に向いている豊かな土地。近くにはまだ手付かずの巨大な大森林が広がっている。穏やかなこの場所にはつい半年ほど前にできたばかりの小さな村があった。


 その村は普通の村にしては人や魔族の往来が激しく、木材などの資材を抱えて歩き回る者もいれば、農業を営むものもいる。かと思えば学者風の者達が建物の中で紙や地図とにらめっこしながら難しい顔をして相談している。


 この村は普通の村ではない。ここは戦いから三年後に亡くなったスタークの提案により始まった『開拓(フロンティア)計画』を支える組織『冒険者ギルド』の最前線とされている場所だ。


 スタークは長年、世界の果てを見たいと願っていた。その思いを形にしようとしたのがこの政策だ。新たな土地の調査と開拓。それにより得られる資源や情報、関連する雇用の創出。彼は土台を築くのは大変だがそれに見合う大きな利益がこの政策で得られると主張していた。その結果、ウールとシャーロットはこれを承認する。


 そして戦いから一年半後、戦いの復興がひと段落つきはじめると国家主導によってこの政策は始まった。しかし夢半ばでスタークは倒れ、彼はついにもっとも力を入れて基盤を作り上げた組織である冒険者ギルドの設立を前に亡くなってしまう。


 だが彼の意志を継いだ者達は大勢いた。特に強く受け継いだ者達、それは――


「ちょっとあなたたち。もし手が空いてるのならあそこのゴブリン達を助けてあげて!」


 マリーは近くを通りがかった数人の男達に指示を出す。男達はうっかり資材を落としてしまったゴブリン達に手を差し伸べ、マリーも一緒になって彼らを手伝う。動きやすさを重視した革の服を着ていることと経験のおかげか彼女は誰よりも手際よく片づけをこなしていく。そして片付けが終わるとゴブリン達は感謝し、マリーは彼らを労いながらワインの入った水筒を振る舞った。


 彼らがにこやかにしているのをマリーが眺めていると後ろからセドとレオが機嫌よく声をかけてきた。レオは彼女によく似た革の服を着ていて、セドは変わらずさすらいの旅人のようなコートを着ている。


「進捗はどうですか?」


 そう訊ねるレオはマリーよりもずっと背が高くセドを少し追い越すほどになっていた。マリーは眼帯で隠れていない方の目で彼を見上げる。


「こっちは順調。もうすぐで計画にあった施設の建設は終わるわ」


 ね? と男達とゴブリン達に訊ねると彼らは一斉に「おうよ!」と水筒を掲げワインを飲む。すると近くを通りがかった人々や巨人達、魔物達も彼らの雰囲気に触発されて近づき和気あいあいとワインを飲んで談笑を始める。


「ってこらあんた達! 仲良くするのはいいけどサボれとは言ってないでしょ?!」


「フハハハハハ! まあこれくらいよいではないかマリー。時間もそんなにないわけではないだろ?」


 男達からさすがだぜ! とセドを称える声があがる。セドは調子よくしながら彼らに混ざり懐にしまってあった縦笛を取り出し彼らに披露する。すると何人かが彼につられて楽器を持ってくると彼の演奏に合わせて音楽を奏でだした。真っ昼間だというのにまるで酒場のような空気が辺りに漂う。マリーとレオは揃ってため息をついた。


「ほんとセドは甘いんだから」


「ま、まあそれがセドさんの取り柄というかなんというか……」


「取り柄じゃないわよまったく。ところでレオ、あなたの方はどうなの?」


「順調。冒険者達の出発までに装備は準備できそうだ」


「ああそれもそうだけど」


 レオは不思議そうに首をかしげる。


「シャーロットのことよ。あんた達もうあの戦いからずっと一緒でしょ? なのにまだ結婚してないってほんと何してんの?」


「ああいや、今って忙しいだろ? だから落ち着いてからしようかなって」


 マリーはジーっと横目でレオを見ながら「気の毒ね」と漏らす。


「だよなー」


「あんたじゃなくてシャーロットが! なにが『だよなー』よ! 『だよなー』じゃないわ!」


 マリーのお説教がしばらく続きレオは萎縮してしまう。そしてお説教から数分後、マリーが落ち着きを取り戻すと二人はまだ呆れるほど盛り上がっているセド達を眺めだす。


「変わったよなほんと」


「ええ、そうね。これもウールのおかげなのかしら」


「そんなこと言ったらあいつは絶対否定するだろうな」


 マリーは「でしょうね」と小さく笑う。


「そういえばウールは今度の初遠征の見送りに来るのかしら?」


「多分来るんじゃないか? たしか今はここからそう遠くない場所にいたはずだから」


「へえ……。王都にいないんだ、珍しい。どこにいるの?」


「ベルムさんに会いにいってる」





 大陸南部、魔王城跡


 かつて魔王城のあったこの場所はもう見る影もない穏やかな場所となっていた。なだらかな丘には辺り一面に色彩豊かな花が咲き誇り、そよそよと吹き抜ける風が香しい花の匂いを乗せて流れゆく。


 そんな丘の少し高い場所。この辺り一帯を見渡せる所にベルムの墓はあった。簡素な石作りの小さな墓の前には彼がかつて愛用していた大剣が横にされている。大剣は午後の陽の光を反射し鮮やかな輝きを放つ。


 ウールは彼の墓の前で無言のまま立っていた。少し後ろにはリリーがついている。


 しばらく二人は黙って眠っている彼と挨拶を交わした。静寂の時が流れる。やがて一陣の風が吹くとウールは小さく息を吐き墓に背を向ける。


「もうよろしいのですか?」


「ああ、十分話せたからな」


 ウールが微笑むのを見てリリーもまた穏やかに微笑む。するとウールは彼女の方を向くとそっと手を差し伸べる。その手には銀色の指輪がはめられている。


「行こうか、リリー」


「はい」


 リリーはウールとよく似た指輪をはめた手で手を握り返した。指を絡め合い暖かな温もりを指先から感じ合う。二人の口元が自然と緩む。すると二人の背後から花びらを乗せた風が少し強く吹き抜け二人の髪をなびかせる。まるでベルムが惚気はいいからさっさと行ってくださいと言ってるかのように。


 二人はもう一度手を握り直す。そして雲一つない、陽だまりの降り注ぐ暖かな丘を降りて行った。

これにて完結となります。最後まで読んでくださった皆様、ここまでお付き合いいただき本当にありがとうございました。

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