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3.運命が変わりました(完結)

「まぁ……そういうことだったのかい。ごめんね、ルーイ」

「……だ、大丈夫さ……マリー」


 あれから青年を家から叩きだそうとする女性―マリーを少女はどうにか止め事情を話すと、マリーは慌てて青年を担ぎ上げ、椅子に座らせた。少女は本当に大丈夫かと青年を心配そうに窺った。さっきプロレス技をかけられた時首があらぬ方向に曲がったように見えたのだ。

 そんな少女の足は今温かいお湯の中につけられていた。雪が降る中裸足で歩いていたと言ったら、「凍傷になっちまうよ!」と湯を入れた桶を持ってこられそこに足をつけるように言われた。こういうのはぬるい温度から徐々に慣らしていくのではないかと少女は思っていたが、マリーの鬼気迫る様子に逆らうことはできなかった。

 もう感覚もなくなってきていた足に湯の熱さがじわりとしみた。少女はそのなんともいえない感覚にふわりと笑んだ。温かいミルクが出され泣きそうになる。温かいミルクなんて飲んだのはいつぐらいぶりだろう。そもそもミルク自体めったに飲めるものではない。マリーを窺うと、「飲みな」と優しく促された。少女はふーふーと熱いミルクを覚ましながらゆっくり飲んだ。いつしか少女の頬を熱い何かが伝っていった。


「落ち着いたら風呂に入ろうね。服とか靴は……明日調達するとして今夜はそれでいいかい? ああ、もちろん食事は用意するから安心おし」

「……は、はい。ありがとうございます。でも、その、こんなによくしてもらっていいんですか……?」


 放火しようとしたのに、と少女がおどおどしながら呟くと、マリーは眉根を寄せた。


「こんな寒空に薄着で小さな子を放り出す親が悪いんだよ。しかもこんな質の悪いマッチを全部売ってこい? 子どもに死にに行けって言っているようなもんだ。あんたは何も悪くない。あんたは生きようとした。それだけだろ?」


 どうしてこのお姉さんは私を泣かせるのだ、とまた少女の頬を熱いものが伝った。それをハンカチでぬぐってくれながら、マリーは笑んだ。


「放火か。ルーイ、ちょっとこれからこの子の父親のところに行ってみないか? 子どものしたことは親の責任だろ?」

「ああ……それもそうだな」


 話が見えなくてマリーと憲兵の青年―ルーイを少女は交互に見た。そうしたら口に甘い物を突っ込まれ、少女は目を白黒させた。


「それを食べたら出かけるよ。なぁに、すぐにまた帰るから心配はいらない」


 そう言ってマリーがにやりと笑った。それがなんとも様になっていて、少女はなんて格好いいお姉さんなのだと感心しながらもぐもぐと口の中のそれを咀嚼した。



 ぼろぼろの服の上から何枚も布を重ねられてルーイに抱えられ、少女は自分の家へと彼らの道案内をした。辺りはもう暗くなってきていた。雪もまだまだ降り続いており、石畳には雪が積もり始めていた。こんな中マッチが売れず、家にも入れなかったら間違いなく少女は天に召されていただろう。

 マッチを擦ったら暖炉が現れたり、豪華な食事が現れたり、亡くなったはずのおばあちゃんに抱えられたりして少女は命をなくす予定だった。そんな幻を見てしまうほどつらく哀しい生とはなんだろう。

 そんなことを少女が考えているうちに家についた。ぼろぼろの長屋の一角で、建てつけも悪ければ隙間風もあり、居心地は決していいとはいえない家だ。だがこんな家でもないよりはましで、冬の夜は毛布を体に巻き付けてがたがた震えながら寝ていた。

 ルーイが私を抱えたまま薄い扉を叩く。


「お父さん、開けて。私よ、アマリアよ」


 扉の中に向かって声をかけると、すぐではないがどたどたと音がし、扉が勢いよく開いた。


「てめえマッチ売るのにどんだけ時間かかってやがる! 全部売ってきたんだろうな? 金はどうした!? ……って、え?」


 ぼさぼさ頭の薄汚れた父親はそこまで一気に怒鳴ってから、ようやくルーイの存在に気付いたようだった。


「け、憲兵!?」


 慌てて扉を閉めようとした父親に、マリーが一足早くラリアットをくれる。


「ぎゃああ!!」

「いたいけな子どもになんてことさせるのよ! あんたの大事な子どもでしょーが! 育児放棄、児童虐待、放火の罪で逮捕だ、逮捕!!」

「いてえ! いてえええええ!!」


 ラリアットの後、マリーは父親にアルゼンチンバックブリーカーまでかまし、少女を呆然とさせた。


「あ、あの……さすがに背骨折れるんじゃ……」

「ちゃんと加減してるから大丈夫。マリーはあれでも元騎士だからね」


「あのかっこよさに惚れたんだ」とルーイは照れ笑いをした。そういう問題なのか。ツッコミどころは満載だったが、こうして少女は自分の運命から逃れることができたのである。



 *  *



 父親はマリーが言った罪状で捕まり、牢屋に入ることになった。冬の間は出られないだろうとのことである。春になって少しは改心すればいいと少女は願った。

 少女はルーイとマリーの養女になった。てっきり孤児院に行くのかと思っていたがマリーたっての希望だった。


「養女っつーか、妹が欲しかったんだ。アマリアならもしあたしたちに子どもが産まれても可愛がってくれるだろう?」

「もちろん! ありがとう、マリー」


 あの夜失ったはずの命を救ってもらったのだ。孤児院に行ったとしても自分より小さな子の世話をするだろうと思っていたから、二人の子どもを想像するだけでわくわくした。

 ルーイとマリーの馴れ初めの話なども聞いた。マリーはルーイが言った通り元騎士で、ルーイよりもはるかに強いらしい。

 二人の夫婦喧嘩はとても激しかったりと毎日刺激的である。



 それから何年過ぎても、雪が降ると少女は思い出す。

 あの、運命の日のことを。


「マッチなんか売らなくてよかった」


 少女は満面に笑みを浮かべた。



おしまい。

読んでいただきありがとうございました。

「マッチ売りの少女」が幸せに暮らした話が書けて満足です!

メリークリスマス!!

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