未来の話
あれからどれくらいの時が流れただろうか。まあ大体十年ぐらいである。
今では俺は入婿として家督を継ぎリーンベル家当主としての日々を送っている。
ところで二十代後半で家を継ぐのは慣例より早いけどまさか早めに隠居してのびのび暮らしたかった訳じゃないですよねお義父さま?
それにしてもあれから何年も経ったけど俺老けねえな!いや成長はしたよ?身長伸びたし顔つきも大人っぽくなったよ?だけどある程度の年齢で固定されてる感がある。
それはエリシアも同じであいつも二十代後半なのにお肌とか十代の頃と同じ質をキープしてやがる。ついでに言うと性格もちょっと落ち着いたぐらいであんまり変わってない。
うーん、一応この世界じゃこれくらい普通らしいんだけどこれたぶん登場人物は常に美男美女であるという乙女ゲーの法則とかいうやつだよね?ミリナもそう話してたし。
この世界ってば基本的に普通の世界なのにたまに法則を無視しやがるから困る。正直見た目で年齢わかんないんだよねこっちの人達。
そういう時は大体「えーマジ歳? 若く見えるっすね(意訳)」とか言っとけば問題ないけど。
そんなどうでもいいことに思いを馳せていたらクイクイと服を引かれた。下を見るとそこには昔のエリシアそっくりの幼女が本を持って立っていた。
「おとーさま」
「どうしたアルテンシア?」
この娘はお察しの通りエリシアと俺の子供である。昔からの友人からは「外見は奥さんだけど中身をお前だな」とよく言われる。
「ご本を読んでほしいのでしてー」
この子のことでよくわからんのはその語尾だ。どっから輸入したの?エリシアは未だにですわーとか言ってるけどアルテンシアはでしてーだ。なんか違う。
「いいぞ。 ところでエリーゼがどこにいるか知ってる? たぶんミリカッセも一緒だと思うんだけど」
さっきエリシアが探し回っていたのだ。最近のエリシアはエリーゼを立派なレディにするのだと張り切っている。でもエリシアがエリーゼくらいの頃はいろいろアカン娘だったのだから無理にやらなくていいと思うのだが。
「おねーさまとミリちゃんはお外でしてー」
どうりで部屋にいないわけだ。この時間は勉強の時間だというのにしかたない娘だ。
あ、エリーゼというのはアルテンシアの姉、つまりリーンベル家の長女である。そしてミリカッセはミリナの娘だ。娘しかいねえな。
二人は一応主従関係ということになっているがそんなもの子供には関係ない。そんなわけでアクセル全開のエリーゼとブレーキ役のミリカッセで相性は良く大体いつも一緒に遊んでいる。ちなみにアルテンシアは二人とは遊ばずに俺かエリシアと過ごすことが多い。仲が悪いわけじゃないから気にしてないけど。
ちなみにミリナは子供を産んでからも引退することなくメイドをやっている。元々俺達とは主従とはまた違う関係を築いてきているので他人の目がなければ昔のようにお喋りをしたりお茶しているがそれ以外では完璧にメイド業をこなしている。
そういえば次期メイド長だとも聞いたな。母親にガチ泣きするまで指導されたこともあってミリナはかなりの有能だから当然か。
そんなことを考えていたら噂をすればと言うべきか、外から声が聞こえてきた。
「ちょっとエリーゼ! ミリカッセを巻き込んでまでお勉強から逃げちゃダメですわー!」
「あ、お母さまだ。 逃げなきゃ!」
「だ、だめだよエリーゼちゃん。 たくさん遊んだしそろそろお勉強しよ?」
「いーやー! 私は勉強よりも自由を望む!」
「エ、エリシア? もういい歳なんだからそんな全力ダッシュは止めたほうが・・・もう! ミリカッセ、アルくん呼んできてくれる? これもう収拾つかないわ」
「は、はいお母さん」
「エリーゼ待つのですわー!」
「ぜったい嫌なのー!」
外めっちゃ騒がしいな。元気なのはいいことだからとやかく言う気はないけど。
エリーゼに関してもどんどん遊んでいいよって感じだ。子供は遊ぶのが仕事だし勉強漬けの人生なんて俺も嫌だからな。
でも勉強はさせるよ。無理に詰め込む必要はないけど恥ずかしくない程度にはちゃんと学んでもらいたい。
「どうも呼ばれてるみたいだな。 しかたない。アルテンシア庭行こう」
「ご本はー?」
「後で読んであげる。 そうだな、もう少ししたらご飯の時間だし食べ終わったら好きなだけ読んであげよう」
「うれしいのでしてー」
もっと無邪気に喜んでいいんだよ?あーでも確かに昔の俺に似てるな。でも俺は精神年齢が高かったからおとなしかったわけで・・・まさか、ね。
一瞬頭に浮かんだ考えを振り払ってアルテンシアを連れて庭に行こうと一歩踏み出した時、また服の裾を引っ張られた。
「おとーさま、だっこしてほしいのでしてー」
良いけどどうした突然。普段はだっことかねだらないのに珍しい。まあその分ねだる前に行動してくるのだが。
「おねーさまにおとーさまにぎゅっとされてるところ見せつけてやるのでしてー」
なんで?
「おねーさまはぜったいじぶんもやってほしいと言ってくるのでじょーけんとしてべんきょうしてもらうのでしてー」
わぁ策士。我が娘ながら将来有望だなー。将来が別の意味で心配だ。
あーでもアルテンシアは将来なんだかんだでスムーズに相手みつけそうだなー。ミリカッセも器量よしで家事も有望らしいから問題はないだろう。
不安なのはエリーゼだ。じゃじゃ馬っぽいからガッツのある男じゃないと無理だろうし。
ま、未来のことなんて考えてもしかたないな。そもそも娘たちまだ年齢一桁ですし?とりあえず今は外の騒ぎを静めなければ。
だっこをねだり続けるアルテンシアを抱き上げると庭で騒ぐ家族のもとへ向かうのであった。
というわけでこの物語はひとまず完結です。
ここまで読んでくださった皆様ありがとうございました。