G5首脳会議 二日目 昼食会
お読みいただきありがとうございます。
昨日のお披露目でとりあえず沙耶の出番は最終日の晩餐会までない・・・わけがなかった。
「昼食会には一緒に出るんだ。」
「政治の話なんてとんでもない!」
食べたものがどこに入ったかわからないじゃないか!
それでなくても、この旅ではティルルが一緒に同行しているのでアウトドア料理とは縁遠くなっている。密かに楽しみにしていたのに・・・
豆とクズ肉のワイン煮なんてもう随分と食べていない!ジュル・・いかん唾が。
「政治の話をしろとは言っていない。昼食会にでろと言っているのだ。」
「エルテリオ国王がいらっしゃるのでしょう?」
「当然だ。向こうの戦神子も来る。」
「そんな偉い人となんて・・・」
(俺も皇帝陛下と呼ばれてはいるのだが。)
自分が別格扱いされているのが、嬉しいティルル。
「食事中は差し障りのない会話で楽しむことになる。男だけだと間が持てないからな。セリーン、サヤの支度を頼んだぞ。」
「承知いたしました。腕によりをかけまして。」
午前中ティルルが会議に出席している間中、昼のための支度に費やしました。
支度に三時間近くなんて信じられない!
向こうでは出かける前10分で支度していたのに・・・
その結果は、セリーン以下侍女たちはガッツポーズをし、護衛の騎士たちは口が開いたままになるという成果を引き出した。
但し肝心の皇帝陛下の反応が悪い。
「エステリオ国王との昼食会とは言え、ここまで磨かなくても充分なのに、労力の無駄使いだな。普段のままで充分だったのに。晩餐会ではもう少し抑えろ。注目を浴びるとボロが出やすい。」
沙耶以外の人間はここで脳内翻訳をかける。
『普段のままで充分綺麗だから、これ以上磨くな。晩餐会では自分以外の男どもが大勢いるから、抑えないと群がってくる男どもが煩わしくなるぞ。』
とこんなところだろう。悪意には敏感だが、好意には鈍い沙耶は言葉通りにしか受け止めない。
「そうだよ。支度だけに何時間もかけたら、始まる前に疲れ果ててしまうよ。」
とのほほんと賛同している。
昼食会は聖堂内のエステリオ王国の貴賓室に招かれる形になった。テントにお越し願うわけにも超過密状態の聖堂内に捻出するスペースが大広間しかないから致し方ない。
ちなみに沙耶は貴賓室に入るのは初めてだ。
ラーヴェラル帝国がどちらかというと華美な装飾が少ないのに比べて、貴賓室は国教会の威信を示すためでもあるのだろう大層きらびやかな部屋だった。
「お招きありがとうございます。」
ティルルが挨拶する。
沙耶も軽くドレスをつまみ会釈をする。セエル持込みの見事な所作だが、内心は
(うわ~うかつにどこもサワレナイ)
中流中の下のど庶民としては、引き比べる物の知識が乏しい。強いて挙げれば○○夫人と呼ばれるセレブのお宅訪問で映し出されていたような職人技がふんだんに振るわれている家具が並べられている。
花瓶も何気なく置かれている水差しも“高いに違いない”オーラを出している。
(場違いだ。)
ティルルは皇帝としては若輩だが、貴族としての教育は受けている。エステリオ国王は言うまでもない。同じ世界から来たはずのシンも『シンガポールでマリンスポーツ中に召喚』の文の中に、セレブっぽい匂いがするではないか!
家具調度だけならここまで緊張はしないだろう。王宮は大体こんなものだ。ミコト宮が沙耶の希望でシンプルにしているだけだ。
だが、その中に他国の国王と戦神子がいるということは緊張に輪をかけることになっている。
「そう固くならずに、気軽な非公式の昼食会です。」
エステリオ国王が好々爺のような笑みで招き入れる。
「かねてより皇帝陛下と戦神子にはお会いして親しく話をしてみたかったので、厚かましくもいい機会だと思い声をかけたのです。よく来てくださいました。」
声も人の警戒心を溶かすようなやわらかさだ。
「随一の大国のエステリオ国王にそのようにおっしゃられると、若輩者の皇帝故に冷や汗が出ます。」
ティルルが珍しくしたでに出ている。
「ラーヴェラル帝国は素晴らしい皇帝を戴くことになった、と常々臣下の者にも言っているのですよ。とくに内政面での改善は素晴らしい。」
ティルルの顔つきが変わる。帝国内の政策が筒抜けと言っているに等しいではないか。
「ありがとうございます。ですが、まだまだ改善の余地はありますので先は長いですが、帝国をエステリオ王国と比肩しうる位の豊かな国にする所存です。」
「それは頼もしい。」
今の言葉はティルルを揺さぶったのかどうかわからないほどあっさりと返された。
「陛下、立ち話もそれくらいにしてテーブルにつきませんか?午後も会議があるので、時間にゆとりがなくなりますよ。シェスタをしたいのであれば。」
シンが脇から言うと
「ラーヴェラル皇帝、異世界から来た戦神子とは皆時間にうるさい、貴公の麗しの神子はどうであろうか?」
国王が苦笑しつつ言う。
「同様ですね。すけじゅーるなどというものを立ててその通りに行動していますから。」
ティルルの顔が少し柔らぐ。彼も緊張しているのだ。
ティルルの言葉を聞くと、
「気が合うね。僕も無計画でダラダラ過ごすのは好きじゃないよ。陛下。」
と再度シンが促す。
「わかった。では食事にしよう。」
国土の広さと治安(キマイラの脅威を含めて)の良さから食材は豊富なのだろう。それに加えて沙耶に馴染みのある料理が多く見られた。
人の欲望の中で、沙耶は食欲がかなり上位にくる。(だから、向こうでは彼氏も出来にくかったしぽっちゃり体型でもあった)
並べられたグラタン、ハンバーグ、フライドチキン、パスタ。どれも懐かしく緊張が吹っ飛ぶほどアドレナリン(ドーパミン?)が出る。
しかし、と残り少ない理性が囁く、ランチにしては重くないか?
自分はいいが(いや太るな)ティルルは会議を控えていて居眠りでもしたら、顰蹙を買うだろう。
でも久しぶりの向こうの料理、全部食べたい!少しずつでも!
沙耶が料理を前に悶えているのが傍目からでもわかる。
「どうした?」
「こちらにご用意した料理は、異世界ではポピュラーなものをご用意させていただきました。サヤには懐かしく思われるのでしょう。」
シンが柔らかく言う。
ティルルが目で聞いてくる。
「はい。とても懐かしいです。お心遣いありがとうございます。」
「全部手をつけていただいて構いませんよ?」
(い、今一番聞きたい言葉です!)
「給仕にお気軽に申し付けてください。」
サヤはティルルにお伺いを立てる。
「では、私も戦神子のいた世界の料理を楽しんでみましょう。」
前回に引き続き食べ物で釣って見ました。




