五大国会議(G5首脳会議) 一日目
お読みいただきありがとうございます。
(うう~胃が、胃が痛い。大体なんで一般人の私にG5の会合に出ろと無理難題を・・・この世界のことは基本自分たちで何とかして!)
先程から心の中で不平を唱えていると、
「顔見世だけすればいい。すぐに済む。」
お腹を手でさすっているのを、片目で見たティルルが言う。
二人は現在五大国会議の間への控え室にいる。円形状の建物で、会議室を囲む形で7つの部屋がある。7つ。そう昔は7大国だったわけだ。その二つの空き部屋は今は国教会の立会人の部屋と国教会騎士の控え室になっている。
「そのあと戦神子が一堂に会するわけです。五大国会議はは前座でこちらが本番ですから、前座で全力を出し切らないでくださいね。」
ティルルの言葉でほっと息を抜いたのに、直ぐさまアーカネがプレッシャーをかけてくる。
「アーカネ、絶対長生きする。」
「それはまたなんでです?」
「『憎まれっ子世にはばかる』ってことわざが私の国にあった。」
「それは、名誉なことです。」
ドアがノックされる。
ビクンと体が跳ねる。
「お部屋にご案内いたします。」
何故か泣きそうです。お腹もぐるぐる。すみません・・・おトイレ行っていいですか?
お水もらっていいですか?
「大丈夫ですよ。皇帝陛下が付いておられますから。」
クレイが優しく背中をさする。
「クレイ~」
クレイは会議の様子を『聞き耳』して記録を取るためにいる。もちろん国教会の人間が立ち会って、記録を取るのだがこちらに公開されるのは、決まった『事実』だけで駆け引きやニュアンスまでは伝わらない。積極的賛成と消極的賛成では意味合いが違うのに『賛成』の一括りでは、のちの外交に参考にはならないらしい。
それをおいてもここにいてくれたのはありがたい。でなければトイレから絶対出ない!
会議室とは言ってもテーブルはない。あるのは元首が座す、ドアの前の豪華な猫脚の椅子一脚だけだ。
沙耶はティルルの座る椅子の後ろに立つ。
在位が浅いものからの入場になるので、二人の右前にはメドー公国の公主と戦神子座っている。
椅子の座っているのは若い男だ。顔が引きつっている。
(わかる~その気持ち。同士がいる。)
顔立ちは平凡だ。
(新人だから仕方ないけど・・・ティルルは堂々としていてカッコイイ。)
後ろに控えている男が新しく召喚された戦神子だ。
大きい。
バールも大きかったが、この戦神子もガタイがいい。同じタイプのように見える。召喚されたばかりというのにこの男のほうが公主より落ち着いて見える。視線があったので軽く目礼しておく。
むっと引き結んだ口元が少し緩んだ感じがした。
「エリドゥ帝国 ガランティア=ディーナ=エリドゥ様、並びに同国戦神子ジョニー=ミコト=エリドゥ様ご出座にございます。」
(肉?)
ドアの向こうには人はいない。布の角度が変わる。ずいっと人・・・が入ってくる。途端に部屋が狭くなったような気がする。
「この椅子じゃ、座れないよ。」
そう言って後ろに指示すると、椅子を持って男たち(一人では持てないくらい大きいのだ)が新たな椅子を苦労して運び入れると椅子を置き換えて出ていく。
「しょ!」
ドサリと荷物を置くような音をさせて座る。座ると肉がじわっと広がる。
(太らないようにしよう!)
そう決意させた女性は隣国の女帝だろう。
(ジョニー君は?)
彼はガランテイアの後ろにかろうじて頭の一部が見えるところに立っていた。
「ジョニー、あんた小さいから前にお立ち。」
「はい。」
「子供とは聞いていたが、まだ小さいではないか。」
メドーの戦神子から思わずといった声が漏れる。
「子供だって能力は一級さ。何なら戦ってみるかい?賭けなら乗るよ?」
バタバタと扇をあおる。
「マッシュール王国 ウガリッド=シンミャ=マッシュール様、並びに同国戦神子様ケンジ=ミコト=ホサカ様ご出座にございます。」
ぶった切るように声がする。
(え?なんて言った?)
入ってきたのは40代後半の四角いいかつい系の顔をした男と目元に愛嬌がある20代の男だ。
(日本人・・・)
男は緊張感が薄いらしく周りを見回す。視線が沙耶と会う。
ヒュッ
小さく口笛をその男が吹く。
(なに!軽薄!)
同じ日本人で召喚されたのなら親しく出来るかもしれないと思ったのに。
ティルルの肩あたりがピクと上がる。
「静かにしてろ。」
国王が男をたしなめる。
「へいへい。」
「エステリオ王国国王にしてマエール国教会枢機卿 プエブロ=シンミャ=エ=エステリオ様並びに同国戦神子アルーン=ミコト=シン様ご出座にございます。」
五大国の最大の国家エステリオ王国。その戦神子は、国外はおろか国内にさえ姿を見せることは希という。姿かたちをメドーの前戦神子と違った意味で知られていない。
ティルルもあったことがないと言っていた。
入ってきた人物は、柔らかな笑みをたたえつつ
「お待たせいたしましたな。」
と言って入室してきた。
(このオジ様が国王?)
国王というオーラがない。庭いじりが趣味の初老の紳士といった程度だ。
それに比べて後ろから入ってきた男は・・・
皆の視線(沙耶も含めて)が釘付けになる。
視線に圧力があるのなら、『猛烈な勢力を持つ台風』の暴風域並みだ。
沙耶は国王の後ろから入ってきた人物に目が釘付けになった。
おそらくエステリオの国王を除くこの場にいるもの全てが釘付けになっただろう。
白銀の髪に印象的な赤い瞳にかかる長いまつげ、スラリと伸びた四肢。人という範疇を超えた存在のようだ。
(綺麗・・・)
ため息しか出ないというのはこのことを言う。
(年は20代に見えるけど、在位が一番長いエステリオ国王であるから二代目ということかな。メドーの戦神子さんも美形だったけど、こっちは突き抜けているわね。女装しても似合いそう。)
つっとエステリオの戦神子の視線が沙耶に向けられる。
ドキン
超絶美形に見つめられて心臓が跳ねる。
「ではこれより五大国会議を開きます。恒例によりマエール国教会司教が進行を務めさせていただきます。異議はございませんでしょうか?」
「俺はこっちに来たばっかで、ここにいてもてんでわっかんないんで出て言ってもいいスかね。」
マッシュールのチャラ男が手を挙げて言う。
マッシュールの国王が、舌打ちをする。
「すぐに退出することになる。我慢しろ。」
戦神子がひ弱だと国が侮られることになる。それは沙耶にもわかる。
「へ~い。」
周りが冷ややかな目で見ているのも気にしない。
応えないタイプのようだ。
「では異議なしと認めて、務めさせていただきます。今回が元首の代替わりがあった国が一カ国、戦神子が新しく召喚された国が二カ国ございます。」
「二カ国って、俺以外に新顔がいるんだ?誰?そこの綺麗なお嬢さん?君もあっちの世界から来たんだ?ねえ、君日本人でしょ?」
「マッシュール王国の戦神子様、戦神子には後ほど神子様がたの顔合わせがございますのでその時にお願いできますでしょうか。」
(この司教さん、冷静ね。)
「オッケー。了解っす。」
そう言うと沙耶にウインクしてきた。
(同じ日本人として・・・・ごめんなさい!)
心の中で周りに謝る。
「只今お話していたマッシュール王国の戦神子様とメドー公国の戦神子様です。」
司教が手のひらで指し示す。
「なんだ、ガタイのいいお兄さんの方か~」
「少し黙っていろ。」
とうとう怒られた。
クスッ
小さい笑い声がする。
「お!僕には受けたな。これ以上は怒られっから後でな。」
ジョニー君にもウインクする。
(悪い人ではなさそうだけど・・・)
半数の人間がどす黒いオーラを放ち始めている。
司教がこほんと咳払いをする。
「今回の議題は
例年通りのものとしては、緩衝帯の資源の割り振り、同じく緩衝帯の奈落との境界の楔の割り振りがあります。そして今回ラーヴェラル帝国から動議として交易商人の共同鑑札と鑑札に対する保証金での通貨為替制度の導入が出ております。審議する内容としてはご賛同いただいています。」
「割り振りについては、メドー公主以外は経験済みなので、細かいところは個別折衝でよろしいでしょう。メドー公国については、私とウガリッドと公主の三人で別に場を設けましょう。皆国を長く開けておくのは不安でしょう。特にメドー公国は変わったばかりで国内の政情や治世が不安定でしょう。」
エステリオ国王が優しげな笑みを浮かべつつ発言する。
チャラ男の発言でグダグダになりかけた空気が戻る。
司教が各国の元首の顔を見て、意志を確認する。
「異議がないようですので、そのようにいたしましょう。ここからは戦神子様には無用の話になりますので、ご退出を。後ほどお呼び致しますので控えの間でしばしお待ちください。」
「はあ~~~」
ソファーにどかりと腰を下ろす。
「精神的に疲れた。」
「大変でしたね。」
クレイがお茶を入れてくれる。レモンが入ったお茶だ。爽やかな香りが気分をリフレッシュさせてくれる。
「うん、強烈だった。」
「聞こえていました。マッシュールの戦神子様の『鉄面皮』はすざまじいですね。聞いていてお腹がよじれそうでした。サヤ様にニホンジンと声をかけていらしたようですが?」
「いや、同じ地域から来たというか。」
言葉を濁す。
「クレイ。会議が再開する。」
「はい。」
アーカネの言葉にクレイは持ち場に戻る。
沙耶はお茶を飲みながらしばし放心状態が続いた。
ダグル領主に変わってうざい人間としてマッシュールの戦神子登場しました。
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