通常営業
読んでいただきありがとうごさいます。
「また、そんな持ち方をして!あなた様には“進歩”という言葉を持ち合わせていないのですか!」
「ひえええええええええええ」
朝から賑やかな声が、ミコト宮に響き渡る。
王宮内の荒れ果てていた戦神子のための一角が、沙耶のために綺麗にされて新しい主人として移ったのは、帝都に戻った日だ。
伴侶でないものが、後宮にずっというのはいかがなものかという声に、鼻で笑って突っ返した皇帝だったが、戦神子の警備や直属の兵士────アーカネ達が出入りできないと訴えたので、移動することになったのだ。
「やっぱり神子様がいらっしゃると賑やかで、華やかだねぇ。」
と厨房で働く者や下働きの者たちはのどかに言うが、沙耶は再び地獄の特訓の日々だ。
「ちょっと、休憩させてください!死んでしまいます。」
「そのようにすぐ死んでしまうなら、むしろ死んでやり直した方が近道です。」
「ぎょえええええ。」
『ルイーズの女神』が怒って怒鳴り込んできそうな声である。
沙耶がとりあえず 解放されたのは、昼食後のことである。
「絞られたようだな。」
こちらも、食事休憩中のティルルである。
魂の抜けた抜け殻のようにテーブルに突っ伏している沙耶に声をかける。
「食べた気がしない。帰宅したくない病になりそう~。」
「それは困る。が、儀礼も覚えることは必要だ。」
「わかってます。セエルさんには、お世話になっています。」
「サヤ。セエルに『さん』付はもうやめておけ。」
「え?」
「自分だけ、壁を建てられているようで応えるそうだ。リガードも、この城の者たちもだ。」
「目上の人たちを呼び捨てって、普通はないでしょう。」
「地位はお前の方が上だ。正式に契約を交わした神子だしな。」
「仕方がないか・・・緊張しそう。慣れるまで。」
セエルさんが、部屋に入ってくる。午後の部の始まりだ。
「さあ、サヤ様。思い出すまでもう一息です。」
追い出される形のティルルは部屋を出るときに、聞き捨てならないことを沙耶に言って行く。
「明日は、閲兵式だからな。セエルに聞いておけよ。」
「へあっ。」
いっぱいいっぱいです。
「お任せ下さい。これから、磨き上げます。本当に旅行のあいだはほったらかしで・・・今度巡察には是非ともついていかなくては。」
恐ろしいセリフを聞きました。
『神子とゆかいな仲間達』はまるまるミコト宮に移りました。ユリルは、今“呪紋”を習いに出ています。血統でなくとも、異世界の品があれば、触媒にして使えるというので、私のコスメから口紅を貸しました。『隷属の呪紋』という呪紋もあるけど、呪紋は生活に便利な付与魔術でもあるのは間違いはないので、ユリルに勧めました。彼女も“役に立たない”と自分のことをそう思っていたから。
どちらの世界でも、考えていることや、悩んでいることは変わらない。そう思うようになってきた。必要としてくれる人は必ずいるんだって。こっちの世界の方が必要とされているのがちょっと複雑な気もするが。
セエルの宣言どうり、磨かれるのと作法の訓練の並列作業で進みました。半分は魂が抜け出ていたので、気がついたときには真っ暗になっていました。
そうそう、セエルって緊張気味に呼んだら、「何ですか?手加減はしませんよ。」といったセエルの顔が柔らかくなったのは覚えている。
「食事の時くらい、その白い毛皮はなんとかならないのか。」
シロです。久しぶりに帰った昨日はすねていて寄り付かなかったけど、今日はその反動でさっきからべったりです。椅子に座っているこっちの座高より頭一つ分大きい。時々、ゴンって頭を擦り付けてくると、椅子ごと動かされそうで踏ん張らないといけない。
昼とは違った意味で、食べた気がしない。
食事に関しては、受難が続くなあ。
夜もシロとべったりだったおかげで、今日は満足したみたい。閲兵式の真っ只中でスリスリ、ザリザリされようもんなら、化粧も髪のセットも台無しだからね。
セエルさんを筆頭に今日は気合が入っていますよ。
まず髪は上げて、クリスタルのピンで止めています。
これが、野外で陽に照らされてキラキラ光る。後れ毛とサイドは少しだけ下ろしてカールさせている。これが冷たくなりがちな顔を優しく見せる秘技なのだそうだ。
騎士服でいいという提案は皆の即時却下を受けて、ドレスになりました。
それも、タイトです。
よかった、体型が変わっていて。
今回のドレスの色は“赤”です。遠くからよく見えるという理由で。27年生きてきて、真っ赤なタイトのドレスを着る日が来るとは・・・
結婚式でもきっと選ばないよな。あ・・・体系的に無理だ。
色が派手なので、デザインはシンプルだ。
ティルルは、皇帝の第三正装。
第一正装は、他国の元首が来た時や婚姻の儀に着用、第二は契約の儀の時に来ていました。
第三正装は、もっぱら軍関連で着る時が多い服で、あまり華美ではない。
黒を基調にして、銀のモールやボタンで装飾されている。マント?もちろんあります。
黄味がかった金髪に彫りの深い顔立ち、秀でた額、形よく書かれた輪郭までは普通の美形でむしろ甘さを感じる。
だが、濃い青の瞳は、角度や感情で黒に転じる時があり、薄い唇はかるく引き結ばれて、こちらは意志の強さをあらわす。
そのことが、実に堂々とした君主であることを人々に感じさせるのだ。
見惚れるほど、かっこいい。
「なんだ?」
「魔王みたいで、かっこいい。」
「魔王・・・。」
「称賛しているんだけど?」
「いいか、式の間は変なことを口走るなよ。」
口にチャックのしぐさをします。
場数を踏んでいる人にはかないません。
「サヤ。」
「?」
「その髪型、似合っている。」
ボッ
音がしたと思いました。
おそらく、耳まで一瞬のうちに赤くなったに違いない。
何やら満足そうにニヤニヤ笑うティルル。
回りの視線も痛くて、いっそう赤くなる。
経験の浅さがもろ出ました。
さて、閲兵式。
目の前を、兵士たちが隊列を組んで歩いていきます。
まずは、歩兵ね。運動会の入場行進みたい。『横と縦をそろえるんだ、脇をいつも見つつ合わせろ』懐かしいです。
次も歩兵。でも、重量級。大型動物の動物混じりで構成されているらしい。
そのあとは、特殊部隊。脇で軍司令官が説明してくれている。その説明によると、とりの俯瞰部隊、スローンたち伝達部隊、ガゼル達伝令部隊などがいるそうだ。
次に来たのが騎馬部隊。第一から第12までの騎士団。いたいた!第6騎士団、ウェイ隊長の隊だ。久しぶり。懐かしいなぁ。
いい加減くたびれてきたころにやっと終わって、軍司令の挨拶をうける。
ティルルが
「諸君。我が帝国は先帝の御代に窮乏の時代を過ごしたが、今新しき戦神子を得て、国土の復活を成し遂げつつある。これからは勇躍すべき時代になる。諸君らの果たすべき役割も変わっていくことになる。今一層の忠誠を期待する。」
さすがです。場馴れしているというか、こういうときってティルルって怖いくらい威厳があるなあ。
しかしこれで何度目かな、人の注目を浴びるのって。結構経験はしたよね。慣れない、慣れないとは言いつつも、始めの頃とは違って大分MPを削られなくなりました。熟練度がアップした感じ。
サヤのレベルがアップしました。
美人度↑ カリスマ度↑ 耐久力↑ 戦闘力→ なんて・・・ね
次は戦闘力か・・・・
ミコト宮を神子宮にしたら、どうも野球場みたいに。
ミコト宮もしっくりこないですね。




