秘密
時系列的にはもう少しあとです。
〈金剛のスサノオ バールの秘密〉
分厚いカーテンで窓を覆い、外の明かりが入らないようにされた小部屋の真ん中で、巨体をこれ以上ないというくらいに縮こませて、先程から襲ってくる痛みと苦しみに耐えている。
どうやら落ち着いたようだ。
発作の起きる回数も時間も増えている。
医師には、初期のうちに見せたきりだ。
年による心臓の病という判断だった。
食事に気をつけ、医師には症状は収まったといってある。
バールは隠していた。
もう後進に道を譲ってもいい年だ。
だが、戦神子には引退はない。
引退=死を意味する。
国に一人の戦神子。
ラールヴェルとの緩衝地帯が狭くなっているのを、今はあちらに戦神子が召喚されたからと見ているからいいが、早晩メドーとの緩衝地帯にも影響が出てくるだろう。
自分の体にガタが来ているのがわかれば、国王は即座に自分を切ろうとするだろう。
王座に昇りたての頃は憧憬を持って、必死に国土を守ろうとしているときは、信頼を持って自分を見ていた王の目は、
今は厄介者を見るようだ。
いや、既にバールを見ようとはしない。
多くの死を与え、見てきたバールだが自分の死を間近に迎え千々に乱れる。
まだ、しびれが残る指でバールは送られてきた密書を掴んだ。
〈無垢の残虐者 ジョニーの秘密〉
「ママ。ただいま。」
すがりつこうとする手を、途中で止める。
扇が目の前に突きつけられたからだ。
「おかえりなさい。旅は楽しかったかい?」
仕草とは打って変わった優しい声でガランティアが聞く。
「う、はい。とっても。あのね、帰ると」
「ラールヴェルの戦神子とあったのだろう?」
ジョニーが話すのを遮る。
「・・・はい。・・・とっても綺麗なお姉さんでした。」
ママの顔が歪む。
ママ、怒ってる?
僕、なんかした?
「お姉さんなんて呼んではいけない。戦神子なのだから。」
「はい。ごめんなさい。」
「で、どんな能力だった。」
「と~ても綺麗だった。光の珠を作って。そのあと虹も作って見せてくれた。」
「? 光の珠と虹?」
ママが後ろの爺にも聞いている。爺は無言で肯定する。
「使えないね。やっぱり、あそこの戦神子の力は二分されたようだね。」
ママの側にいる人が、どういうことか聞いている。
「シロという異世界の猫に半分持って行かれてるってことだよ。無能で能無しの戦神子。」
そう言うと嬉しそうに笑い始める。
よかった、ママの機嫌が直って
でも・・・
「じゃあ、あの・・・綺麗な戦神子さんはいらない子なの?」
「はあ、綺麗なことは確かなようだね。いらなくはないさ。戦神子だもの。鎮護と召喚くらいには役に立つだろう。」
そう言うと側のものに、
「あの冷血皇帝がそのまま飼っておくとは思えないね。その神子を使って新しく召喚すれば、『白き守護獣』と実質二枚になるならそのほうが得じゃないか。密偵にそのへんを念入りに探らせな。」
「いらない子、僕と同じ。」
頭が痛くなってきた。
「ママ、ボク、アタマガイタイ」
ボク チョット ネルネ。
「おや、久しぶりだね。・・・ブラトニー。」
ガランティアは、ジョニーだった者を違う名前で呼んだ。
「どう、面白くなりそう?」
〈『三元竜マジ・ダハーカ』の秘密〉
とうとう充電が切れた。
その前に接続も切れていた。
あの時と今とどこが違うのだ・・・・
イサイ=ブロウン。冴えないオフィス事務機器の営業マンだった。
営業先でエレベーターに乗って降りた先が、この世界だった。
召喚された時は、ヒーローとして選ばれたのだと思った。
だが、実際はキマイラへの当て馬としてだった。
キマイラとの最初の戦闘、ブロウンは逃げた。
見つからないように、祈った。
人でない何か、そうだ、木になれ、木になれ、木になれ。
気がつくと『木』になっていた。
ブロウンの能力。
それは、変身だ。
今では無機物にでさえなれる。
『3元竜マジ=ダハーカ』というのは、戦闘で竜の形態に変身するところからついた。
あの時の彼は、マッシュールの戦神子とエリドゥの戦神子が国教会の仲立ちでラールヴェルの新しい戦神子と合うということを聞きつけて、聖都マエールに来ていた。
もちろん、正体を隠すために動物混じりの助祭に変身してだ。
(なる程、あれがラールヴェルの戦神子か。)
目の前にとても同じ異世界人とは思えないほど、綺麗な少女がいる。
いや、少女のみずみずしさのなかに、大人の色気も交じり始めているように見える。
彼は、使えない携帯を触った。
緊張した時の彼の癖だ。
携帯はお守り。自分が異世界から来たという証、変身の能力ゆえに希薄になった自分の再確認だ。
いつもと違った感覚が襲う。
何だ?
次の瞬間、彼は驚愕に包まれた。
声を上げなかったのが不思議なくらいの衝撃だ。
物陰に急ぐ。
そして、震える手で握り締めた携帯を見る。
充電のランプがついている!
携帯が生き返っている!
フリッパー式の携帯を開ける。
そこには家族の待受が入っている。
本当に、本当に久しぶりに見る。
震える手をどうにか抑える。
それでも、画面を見ると携帯を落としそうになる。
アンテナが立っている!
通話ができるのか?
戦神子どころではない。
我が家へ電話をする。
・・・・呼び出し音がしない。
もしかすると、番号が既にちがっているのかも・・・そうに違いない。
メールだ。
・・・送れない・・・メールも変わっているだろう。
インターネットは使えるのか?
ダメだ。
だが、電源は入った。
携帯は動いている。
あの時、携帯は生き返っていたのだ。
同じ場所、同じ時間。
携帯は沈黙したままだ。
考えろ、考えろ、あの時とどこが違う。
戦神子。
三人の戦神子。
いや、一人の戦神子・・・ラールヴェルの戦神子。
あの戦神子は元の世界とつながっている。
ランス=シンミャ=メドーに命令されて、あらゆるところに潜入した。
侍従に化け、侍女に化け、大臣に化け、飼い犬にまで化け。
そうして大公陛下に対して、批判的なものを報告していった。
国の上層の者に限っていたはずなのだが、噂になり噂が一人歩きをし、今やメドーは猜疑と欺瞞の坩堝と化した。
互いに互いを監視する。
この国ではいつしかペットさえ飼う事をしなくなる国になった。
『何を考えているかわからない国家』
それがメドー公国に対する評価。
ブロウンはその中心にいた。
誰も心から自分と親しくなろうと思ってはくれない。
マドー大公は最近体調が思わしくなく、それが猜疑にも拍車をかけていて、自らの後継者と定めた息子にもそれは及んでいる。
『息子は孝養を望んでいる。』
本来ならば嬉しい言葉も疑ってかかる。
既に自分の言葉でさえ疑っているのだろう。
逆らうことのできない戦神子の言葉も・・・
おそらく、大公の死は自分の死だ。
半ば今のこの孤独から解放されると死を受け入れようとしていたはずだった。
携帯の復活はブロウンにまだ定かではないが、何か囁くものを感じた。
「ラールヴェルに行ってみるか。」
この国では、神子が単独にいなくなるなど日常茶飯事だ。
多少長期になっても疑う者などいない。
むしろ大公の体のことを考えると今行くしかない。
「マッシュールのじじいにも声をかけるか。」
マッシュールのバールも隠してはいるが、体調は思わしくないはずだ。
変身ができるブロウンには、三大国すべて筒抜けだった。
エステリオを除いて。
変身、それは男のロマン、女の憧れ。
ブロウンはまず、ヒーローになってみた。
仮面Oイダー、ウルOラマン、ガンOムはちょっと無理だった。
周りの目が痛かった。
女に化けてみた。
ボン・キュッ・ボンの凶悪なスタイルの女
自分でもふもふ・・・意外につまらん。
とびきりのいい男に化けてみた。
おねえちゃんにモテモテだ。
よっしゃーハーレムだ!
・・・だが、外見だけを好きになってもらっていることが虚しくなってきた。
次は犬。
好みの女のペットになって、もふもふされる。
女の日常の姿って、怖い。
女性不信になった。
今のマイブームは、鳥だ。青い空を思いっきり飛ぶ。
狩人の的にされなければ、開放感この上ない。




