ラスボス?
帝都はお祭りの季節を迎えたかのようだった。
人々は着飾り街に繰り出し、露天は街に出ている人の胃袋を掴んで財布を緩めさせようと、美味しい匂いを振りまいている。
ちょっとした子供のおもちゃを出して、搦手から財布の中身を吐き出させようとさせる者もいる。
永らく先帝の圧政に耐え、奈落の侵食に耐え、新皇帝の即位から少しづつではあるが改革が進み生活が上向きになって来た。
ここに至って、新しい戦神子が召喚された。
その戦神子は新しい領土を帝国にもたらした。
新しい財をもたらした。
これらの明るい兆しに人々は苦しい時代が終わったのを実感して湧いていた。
(いや~すごいなぁ。シロ人気は。)
馬車が満足に進めないほどの人である。
綺麗に装飾された無害馬車(ロイヤルウェディングの馬車のような)の座席に座る沙耶とシロ。
沙耶はこの日のために誂えられたドレスを着ていた。
黒い髪を引き立たせるために、髪を結い上げ真珠の髪飾りで止め、淡いブルーのシンプルデザインだが胸元にやはり真珠が縫い取られている豪華なドレスだ。
(コケでもしたら汚れてしまう。いやそれより、真珠が取れたら・・・)
着慣れてないことこの上もないので、肩がこる。
行きの騎士服でよかったのに・・・思うことはは愚痴ばかりである。
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。」
一般庶民がこんな大それた出迎えを受けることへの謝罪が念仏のように口からです。
沙耶は、新婦よろしく(新郎はシロ)座って沿道の人たちに手を振っていたがさすがに手が疲れていた。
機械的に振っていると、特訓の副作用で眠気が襲ってくる。
(だめ、だめ、こんな衆目の中で居眠りなんてありえないから!)
必死であくびをおしころうとする。
いつしか笑みも引っ込む。
傍目にはあくびをこらえているなどとは見られない。
いっそ凛々しく見える。
シロはマイペースだ。
(ここに乗っていることが奇跡よね。)
それ以上望まれないシロが羨ましい沙耶である。
横目で見ると、くわ~とシロが大あくびをした。
緊張の糸が切れて、思わず笑ってしまう沙耶。
笑ったところを目撃した沿道の見物人が皆黙ってしまう。
馬車の周辺だけが静かになっているだけなので沙耶は気がつかない。
警護のため側で馬を打たせていたウェイは気づいた。
シロがあくびをした時に見ていたので、沙耶の笑い顔にも気がついたのだ。
(サヤ様は真顔と笑顔の差が激しいからな。)
旅をしているあいだも、タブレットやらをいじっているときなどの顔は本当に近づき難いほどの、清冽な雰囲気をまとうのに、笑うと冬から春になるようにほころぶのだから。
(ご本人はあまり自覚していらっしゃらないが)
沙耶自身は30年近く付き合ってきた顔の方に馴染んでいるので、脳内でつい前のルックスに変換されるのだ。
鏡をみるときはいつも自分のような気がせず、撫で回している。
父親に肩車をされて見物をしていた女の子もそれを目撃した。
「ねえ、お父さん。戦神子様って『ルイーズの女神様』みたいだね。」
それはその子のお気に入りの童話に出てくる女神だった。
氷に覆われた湖の主で主人公の願いを聞き遂げ、一瞬のうちに夏の湖にした女神の名だ。
「・・・そうだな。その通りだ!」
以降沙耶は戦神子の他に『ルイーズの女神』と呼ばれることになるが、本人がそう言う異名がついていると知るのはもっとあとのことである。
一方城では、
「そろそろ、城門に着く頃だな。」
皇帝が自らも儀礼服に身を包みつつリガードに言う。
「はい。そのように連絡が来ております。ですが到着は少し遅れるかと。」
「不都合でもあったか。」
皇帝の眉が上がり、リガードを見る。
リガードは軽く首を振ると、笑って
「シロさまもご一緒になりましたので。4頭立てに変更いたしました。」
「それは好都合だ。あの猫の人気も相当だからな。」
「はい。そのため民がさらに熱狂して、集まっておりまして思うように進まない状態であります。」
「まあ、いい。こちらはゆっくりと到着を待つとしよう。」
ラールヴェル帝国も5大国として長く統治している以上、城の内部は格式がある。
後宮だけ(それも部屋と中庭)しか見ていない沙耶は皇帝が謁見する部屋に通されるとあまりのきらびやかさに見回してしまう。
あ、当然のことながらシロはいない。
そこまで奇跡は望めない。
天井は高く上から光が落ちてくるように、ガラスとステンドグラスが交互にはめ込まれている。
壁のカーテンはちょっと見ただけでも恐ろしい程細かい刺繍が施されている。
これを最初に見ていたなら、夢とは疑わなかったろうにと思われるほどの、本物の迫力である。
コホンと控えめな咳払いが聞こえた。
沙耶の後ろに控えているアーカネの咳払いだ。
ウェイ隊長とアーカネだけが従っている。
慌てて跪く。
騎士の服ではないので、立て膝ではない。
地位としては、戦神子は皇帝と同格とされているが、召喚され保護されている身なので儀礼を尽くすのだ。
(ティルルはいない・・・・よね)
顔を伏せるときにざっと見たが、見知っている顔はなかった。
「ラールヴェル帝国27代皇帝ラールヴェル陛下ご出座。」
典礼が皇帝の訪いをする。
一斉に頭を下げる。
「戦神子サヤ=ミコト=スメラギ。国境の楔打ちご苦労だった。また地方巡視における上申には、これから帝国を富ませるであろう献策がみられた。私ティルル=シンミャ=ラールヴェルはその功績に感謝するものである。」
頭の上から声が降ってくる。
(皇帝の名前ってティルルと同じ名前)
思わず顔を上げると、そこにティルルがきらびやかな服を着て玉座に座っていた。
(ええ~~~~)
「神子様にかわりまして申し上げます。」
アーカネの声だ。
テンパっている沙耶を後ろから見ての助け舟だ。
「許す。」
「皇帝陛下のお言葉は身に余る名誉でございます。これからも今まで以上に帝国のため陛下のために非才を尽くしたいと存じます。」
「期待している。今日はゆっくりと休むが良い。」
「2日後に皇帝陛下は戦神子と契約の儀を執り行う。」
再び典礼の声がして皆頭を下げるが沙耶は皇帝の顔を見つめたままだ。
(ティルルが皇帝?召喚した張本人?)
そのあとどうやって退出したかわからない。
セエル教官の地獄の特訓の成果で無意識にきちんと戻ってきたらしい。
我に返ったのは、自分の部屋に帰ってきてからだ。
「伝言を承って居ります。」
ユリルさんとの再会を祝うことすら思い浮かばないほど惚けていた私にリガードさんが言った。
「図書室で待つとのことです。」
沙耶はついて来なくていいからと心配する侍女たちに断って、図書室へと歩く。
城は久しぶりだが忘れてはいないものだ。
ティルル・・・沙耶の中では皇帝とわかった今でも、彼は図書室で調べ物をしている秀麗な美貌の男としか見られない。
あの上から言うものの言い方は、皇帝ならではのものかと納得するくらいだ。
歩きながら、今までのことを思い返してみる。
明日で国内編は終わりです。
でも、伏線(大それたことをしてしまった)を貼ったままなので
もうすbgんh、。(シロやめい!)
もう少しお付き合いください。




