同行者
皆の反対を押し切って私の乗る馬車に親子を乗せた。
衰弱した体に無蓋馬車の振動はきついだろうからだ。
母親の方の名前は ヴェブ=キンヨンダ=カリルス
子供の方は シオ=キンヨンダ=カリルス
意識を取り戻した母親に、話をする。
「気分はどうですか?」
やつれた顔にうっすらと笑みを浮かべる。
「生きているのですね。・・・死んでも良いと思いましたが」
そう言うととなりでまだ寝ている子を見る。
「この子には生きて欲しいと思い返しました。」
この親子が今までどのようにして暮らしてきたか、何故あそこに倒れていたかは話してくれるまで待とうと思う。きっと、想像もつかないことの連続だろうからだ。
それよりもこれからだ。
「一緒に連れて行けといったのは覚えていますか?」
「はい。神子様に対し図々しいことを申し上げました。」
頭を深々と下げる。
「ですが、どうか神子様のもとに私たち親子をおいてくださいませ。」
「聞きたいことがあるの。」
「能力のことでございましょうか?」
「それもある。まず人の生死を交換することができるって本当なの?」
「キマイラと人も可能でございます。本来はそのために前線へ投入された種族でございます。その能力ゆえに優遇され、恐れられ私どもは孤立していったのでございます。」
「・・・それって、戦神子と同じみたい。」
ヴェブの顔が明るくなる。
「ああ、やっとわかってくださる神子様にお会いできた。」
沙耶は実のところその時に連れて行くと決めていた。
だが、沙耶にも出来つつある“自分の居場所”を守るために確かめて置かなくてはならないことがある。
「もしカリルスさんのお子さんが死んだとして、この旅団の誰かを犠牲にして生き返らせようとする?」
ヴェブの顔が苦しそうに歪む。
「大事な人を失うとき、皆『お願い、力があるのでしょう?生き返らせてよ』と頼みます。断っても承諾しても地獄です。犠牲にしてまで我が子を救うことはしない。誰かを救うときには、私の命で贖います。これが私の今までの人生の中で得た結論です。」
母親はいいが子供は感情のままに能力を発揮するのではないか。その疑問から質問する。
「お子さんもこの能力を使えるのでしょう?」
「いいえ、この子は使えません。」
「ありがとう。いろいろ辛いことを聞いてごめんなさい。」
「あの・・・それで?」
「戦力ではなくて侍女見習いとしてついてきて。能力は使わなくていい。お子さんは侍従っていうのかな。城で二人共働けるようになんとかしてみる。こういう時には神子特権を使ってみないと。」
「あ、ありがとうございます。神子様にこの命を捧げます。」
拝むように言う。
「いらない。」
「は?」
「命捧げられても重いだけだから、いらない。幸せになったと言ってくれるだけでいい。」
(決まった!)
と重たい空気を薄める。
苦手なのだ。
熱血とか。
情熱とか。
一心にうちこむとか。
羨ましくない!
この親子に関してはこれでいいとして、アビスの3人以外がどう思っているか知っておかないと。
乗っている馬をウェイ隊長に近づけた。
「ウェイ隊長、お話があります。」
ウェイは沙耶と馬を後ろに下げる。
「あの親子のことですな。」
「はい。連れて行くことにしました。国境付近はきけんですからついてきてくれている侍女たちといてもらうことになります。」
「警護のものを付けるように手配します。」
「隊長はあの親子の素性をご存知なのですか?」
「キンヨンダですか?知っておりますよ。」
「悪い感情はもっていないのですか?」
「恐ろしい能力であるのと同時に切り札になる能力であると思っております。」
「彼女たちの能力は広く知られているのですか」
「悪名高いといえるでしょう」
「箝口令をひいて正体を隠すことはできますか」
「そのことについてはアーカネ様に聞かれたほうが良いでしょう。」
「騎士団の中にもあの親子に対して怯えるものはいるのでしょうね。」
「神子様はご自分の思った通りになさるとよろしいかと。今までの旅で神子様が我々に対しても公平に扱ってくださっているのはわかります。たまには我を通されても構いませんよ。」
とウェイは穏やかに言う。
「でも。」
「部下を掌握するのは私の役目です。神子様はあの親子を直属の配下となさるおつもりか。」
「あの親子がそんな能力を使わなくても良い環境においてあげたいと思っています。」
今まで辛い目にあってきたのだろうから、少なくとも安心できる場所を作ってあげたい。
ワタシモ ソンナ バショガ ホシイ
旅は続く。




