君のことを(皇森羅視点)
崩れ落ちた身体を受け止める。
酷く苦しそうな顔をしているのを見ていられなくて抱えた。
「相変わらず被害者のように振る舞う。……気を付けた方がいいぞ。その女は男女問わず人を狂わせ挙げ句死なせるからな。まあ、手遅れだろうが。」
「口を開くな。……この子に感謝しなよ。お前の命があるのはこの子の頼みだからだ。」
殺そうと思った。
耳障りなことしか言わない口を中から弾いて吹っ飛ばしてしまおうとしたのに。
腕をつかみ青ざめた顔で懇願する彼女。
そんな姿を見ていたくないから殺さないでおいたのだ。
そうでもなきゃ人一人の命などどうでもいい。
回りの人間の目など狂わせてしまえばいいだけだ。
押し黙ったのを見て踵を翻す。
従者君は慌てたように後をついてきていた。
列車の個室の中は沈黙で満ちている。
さくらが起きている間はやりとりをしているが、彼女が間にいない場など所詮こんなものだろう。
俺は他人に興味がないし。
「気になりますよね。さくちゃんのこと。」
「ああ、まあね。人を死なせた?殺した?どっちでもいいけど。」
事実死んだ人間については興味がない。
万に一つあり得ないがさくらが好奇心から殺したのだとしても何も思わない。
それはそれで狂っていて面白いなと思うだけ。
でもあの憔悴ぶりだとそうじゃないんだろう。
「おれは、姉から『暁山家の話はするな』としか聞いてなくて。あとは……そういえば姉の代わりに出た会合で噂みたいなものは聞いたんですけど。」
「どんな?」
「……暁山家の当主が亡くなったのは毒を煽ったからだって。」
毒ねえ。
おおよそそれを盛ったのが養子のさくらだと下衆な噂でも立てたんだろう。
気になるのはそれを実子であろう男が信じているらしき素振り。
何があったのか。
いずれにせよ聞くべきではないのかもしれない。
自分の分のコートを毛布がわりにかけて寝かせた少女の顔を眺めながら考える。
そんなに君が苦しむなら全てを壊したっていいのに。
それでも君は止めるんだろうね。
「あーあ。人はこの子に感謝すべきだよね。本当に。」
平常通り呟いたつもりの声色は相当物騒な音をしていたらしい。
青ざめた従者君の顔をみてにっこりと笑う。
「大丈夫。この子の意識が最優先だから。悪戯に壊したりなんてしないよ。」
それもこの子が立ち直ればだけど。
心の中でそう付け足して窓を見た。
もうそろそろ皇都につくらしい。
起きたらどう声をかけようかな。




