表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
テオロッド戦記 —異世界転移した俺、式術世界で国家戦争に巻き込まれる—  作者: ヨダカカツキ
第四章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

91/91

エピソード・オブ・アウトランド 第三話

「おりゃ!これで一丁上がりや!」


ハルカゼの茶の式術──土の式術は衰えていないようだった。

ギルドから指定された荒地は、あっという間に整地されていく。

全体を仕切っていた監督の男は唖然とした。


「こりゃすげえ。式術ってのは便利なもんだな……」

屈強な肉体に相応しい口髭を触りながら、呟いている。


「ハルカゼ……トランジアでもやってるだろ」

その手さばきの良さを見て、俺は聞いた。


「もちろん。国づくりは土木からや。若手の茶の式者も少しずつ出てきたから、バシバシ鍛えとるで」

ハルカゼは自慢げに答えた。


国家代表兼、土木工事責任者。

なかなか珍しい兼務だが──ハルカゼの場合、現場の方が好きなんだろう。

大方、政治実務はアゲハが担っているんだろうな。


整地が終わると、監督に声をかけられる。

「なあ。あんたら、うちのボスに会っていかないか?頼みたい仕事が山ほどある。

報酬も弾むぜ」


その言葉を聞いて、ハルカゼは俺の方を見る。

──作戦成功や。

ハルカゼの顔がそう言っていた。


俺たちは、監督に連れられて街の中心部に向かった。

さぞかし立派な建物にでもいるのだろうと思っていたが──。

そこは古びた石造りの建物の地下だった。


「うちのボスは変わり者でね。地下が好きなんだ」

監督が言った。


タツオは、その建物を見て『なんだか懐かしい感じがするな』と言っている。

フォージリア領に来たのは初めてのはずだが。


地下に案内されると、そこには男が座っていた。

長髪で、髭も髪のように長い。

元の世界で見た──救世主のような風貌。

しかし、身体は大きく、がっちりしている。


その男を見るなり、タツオが呟いた。

「あ、お前は」


男は、吸っていた煙草を吹き出し、こちらを見た。

「おお。赤の式者の坊主。久しぶりだな」


え?タツオの知り合いか?

俺はタツオの方を見る。


「マルカドールからこんなところに来ていたのか。

──オーレン=ダバス」

タツオが言った。


「よく覚えているな。俺はお前の名前も知らないが──恐ろしい火の球は覚えているぜ。

一体こんなところで何の用だ」

オーレン──とタツオに呼ばれた男が言った。


「まさか、お前がこのアウトランドのボスか?」

タツオが聞いた。


「いかにも。なんだ、また正義を気取った話か?」


「……懲りずに色々やってるねえ。感心するよ」

タツオはため息をついた。


「おい、一体どういう知り合いだよ」

俺はタツオに聞いた。


「……マルカドールで、闇の奴隷貿易をやっていた元締めだよ。ミサキを拉致監禁したやつ。あの時は上手く逃げられたけど、こんなところで会うとはね」

タツオは肩をすくめる。


「それはこっちの台詞だ。せっかく俺が作った国に、一体何をしに来た。

国の使いか?土木に強い式術者が来たと聞いて招いてみたら──火の式術者じゃねえか」

オーレンは煙草をもみ消した。


「土木は俺や。ハルカゼ=ドモン。

茶の式術者兼、一応──トランジアの代表やらしてもろうとる」

ハルカゼが、大胆にも素性を明かした。

オーレンの目が、少し泳ぐ。


──仕方ない。俺も続くか。


「ユイト=カタギリ。アルカディアの代表だ。──このアウトランドの現状把握のために、ここへ来た」


「……アルカディア、トランジアの代表様がわざわざこんなところに来るとはな。予想もしてなかったぜ。どうだ、アウトランドは?居心地いいだろう?」

オーレンは新しい煙草に火をつける。


「アウトランドは勝手に独立宣言をしようとしていると聞いている。

──国の中に国を作るなど、治安と秩序の乱れになる。許すわけにはいかない」

グライスが割って入ってくる。

──なんやかんや正義感強いんだよな、この人。


「あ?なんだお前は。俺は代表の奴らと話がしたい。

なぜアウトランドが生まれたか教えてやるよ。──そこに座れ」



オーレンは、目の前のソファを煙草で指した。

俺たちは、そこに座る。


「じゃあ、聞かせてくれ。なぜアウトランドはできたんだ」

俺はオーレンに聞いた。


「……そりゃ、お前らの国の運営じゃ生きていけないやつらがいるからだよ。

犯罪者や、差別で虐げられたやつ。親に捨てられた子ども。そいつらが集まって楽しく生きていく場所が──ここアウトランドだ」


「……犯罪者の更生施設も、孤児院も増やしている。アルカディアでだって──生きていけるはずだ」


俺がそういうと、オーレンは笑った。


「相変わらず、為政者ってのは表面しか見えてねえな。人にはそれぞれ生きやすい場所ってのがあるんだよ。昔──テオロッドが式術者の国で、オルディアが科学者の国だったように。アウトランドは、〝何も持たないやつ〟の国だ」


オーレンは──真っすぐ俺を見据えて言った。


「だからといって、犯罪に手を染めていい理由にはならない」

再びグライスが言った。


オーレンはグライスを一瞥すると答えた。

「なんだ?兄ちゃんは憲兵か?犯罪なんて──もうほとんど手をつけてねえよ。

そもそも殺傷沙汰は禁止していたが……最近じゃあ盗みも禁止だ。

見つければ、アウトランドのブタ箱にぶち込んでる」


──そうだったのか。では、グライスが聞いた情報は──なんだったのか。


「アルカディア西部では、盗賊団の被害が増えている。お前たちの仕業じゃないのか」

グライスが反論する。


「……そいつらは、最近出てきたトランジアから流れてきた盗賊団だ。俺たちも被害にあっている。少なくとも、アウトランドの仲間じゃねえ」


俺たちは、ハルカゼの方を見た。


「ほんまかいな。まあ、トランジアには荒っぽい奴らも多いけど……基本皆いいやつらやで」


「トランジアの犯罪者扱いはどうなっているんだ?」


「まあ、基本数か月監視して、問題なければ出所やな。世界的にも刑期は軽いで、うちの国は」


何故か自慢げに話す。

……それが問題なんじゃないか?

俺たちはハルカゼをじっと睨んだ。


「なんや、そんな目で見るなや。盗賊団の件は、トランジアで責任持って対処するわ!アウトランドは──冤罪ってことやな。堪忍やで」


「──オーレンさん。申し訳ない。それでは、アウトランドは犯罪に手をつけていないと?」

グライスがオーレンに詫びた。


「……少なくとも、今はな。集まったばかりの頃は喧嘩や盗みなんてしょっちゅうだった。脛に傷あるやつらばかりだからな。だが、人が集まるにつれて、少しずつ整備していった。今は他国に迷惑はかけていないはずだ」


──他国。オーレンは明確にそう言った。

国際上は、ここはアルカディア国内。

しかし、まったく管理が届いていなかったのも、残念ながら事実だ。


「俺たちはここで身を寄せ合って楽しく生きているだけだ。何か問題があるか?」

オーレンの言葉に、返す言葉はなかった。


すると、タツオがぶつぶつ話し始めた。



「あのさあオーレン。今アウトランドって一万人くらいいるんでしょ?」


タツオの言葉にオーレンは頷く。

「一応、住民管理はしているからな。今年の初めで、一万人を超えたはずだ」


「労働力、余ってない?元犯罪者たちなら──体力有り余っているでしょ」

タツオが言った。


「……実はそれが悩みの種だ。手に職あるやつや、話が上手な奴は商売をやっているが──雇用が足りていない。中には盗賊団に移籍したやつもいる」


──せっかく国としてまとまっても、人々は食い扶持を稼がなければ生きていけない。

その稼ぎどころがないとなると──犯罪に走るということか。


「よし。決めた。ユイト──アウトランドの独立を承認しよう」


は?一体何を言い出すんだこの男は。

そんな重要な決定を──この場でできるわけないだろう。


当のオーレンも、驚いた顔をしている。

「……なんだ?いいのか?やけにあっさりだな」


「──ただし、条件付き。アルカディアの科学長官──僕だね。その管理下の元、技術国家として独立してもらいます」


「どういうことだ」

オーレンは理解できない顔をしている。


「ここに来る途中、過去のフォージリアの遺物──工場がたくさんあった。

あそこを再生すれば、現在進めている技術開発の大きな発展に繋がりそうだ。

余っている労働力は、そこで働いてもらう。立ち上げには僕やアルカディアの技術者が参加して、技術指導をする」


タツオが──政治の提案をしている。

その状況もさることながら、両方の利益を優先した提案の鋭さに──俺は驚いた。


「それは……悪くない話だな。お前、名前はなんていうんだ」


「タツオ=ヤマセ。タツオでいいよ。オーレンには、引き続きアウトランドの治安および国家維持に専念してもらう。雇用が生まれ、国も潤う。アルカディアは、技術発展拠点ができる。どう?いい提案でしょ」

タツオは俺の方を見た。


「まあ、いい提案に聞こえるけど……国が割れると言うのはどうなんだろうか」


「そもそも、国なんて人が集まってできる意志でしょ。

それが、アルカディアとアウトランドで少し集まる人が違うだけ。無理やり一つにまとめる必要ないでしょ」


タツオはあっさり言った。


確かに──そうだ。

俺たちは、世界を科学で一つにしようとしたノクスと対立した。

そして、それぞれの国が自立し、尊重し合う世界を目指した。


であれば──アウトランドの存在は、俺たちの理想と同じ方向のように思える。


俺は少し考えたあと、頷いた。


「……正式には、国会承認後になると思うが。その方向で進めようか」


俺の言葉に、オーレンは立ち上がった。


「アルカディアのボスは、話の分かるやつだったんだな。驚いたぜ。

今日は──泊っていけ。宿を用意する」


その夜。俺たちはアウトランド初の〝国賓〟として、丁重なおもてなしを受けることになった。



タツオとオーレンは、酒を飲みながら話をしている。

「あの後、奴隷たちはどうなったんだ」


「全員解放したよ。ほとんどブレイヴェンに帰ったけど……マルカドールで働いてる人もいるみたい」


「そうか。幸せに暮らしているといいがな」

そう言ってオーレンは笑った。


奴隷貿易をしていたと聞いたが──根はいい人間なんだろう。

でなければ一万人の民をまとめることなどできはしない。


「オーレンはあの後どうしてたのさ。二階から飛び降りた後」


「とりあえず貨物船に乗ってポルトオーリオに行って、その後はあてのない旅さ。

用心棒をしたりしながらな。オルディアの崩壊後、国がガタついていると聞いたフォージリア領に来たのが八年前だ」


八年前。オルディア──ノクスとの戦いが終わってすぐだ。

戦後の混乱の中で、オーレンは居場所をなくした民をまとめ、一つの国を作り上げた。

過去の国を引継ぎ運営している俺たちより──それは凄いことなのかもしれない。


宴には、アウトランドの人々が集まって騒いでいる。

ハルカゼは、さすがの明るさを最大限に発揮し、打ち解けている。


こうして一緒に騒いでいると、彼らに後ろ暗い過去があるなんて想像もつかない。

ただ──アルカディアという枠組みに合わなかっただけだ。

それは、無理やり当てはめるものでもない。


自分に合う場所で、自分らしく生きていく。

簡単そうで難しいそれを、ここの人たちはやっているだけだ。


──俺は今、自分らしく生きているかな。


少なくとも、元の世界よりは、自分のいる意味や生きる意味を感じてはいる。

だが、仕事に追われ、家族との時間が取れない日々の中で──昔みたいに笑うことが減ったように感じる。



それに比べて、タツオは相変わらず何も考えていないようで──しっかりと決断ができる大人になっていると感じる。


いかんいかん。

こうやって考えすぎるのも俺の悪い癖だな。


俺は、グラスに入った酒をぐいっと飲んだ。

今日は酔っ払って大いに楽しもう。


アルカディアに帰ったら、休みをとって家族と旅行にでかけるぞ。


国家元首だって、たまにははじけたいし、休みたいのだ。


──それくらいいいだろ?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ