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1-8 3189-血のクリスマス

「ウワ゛アアアアアアアア!? アアアアアアアアアア!!!!」

「消せ!! 早く消火しろ!! 衛生兵!!!!」


 宇宙連合軍がデモ隊に対して音響兵器を使用してから、第二港区が戦場と化すまで全く時間は掛からなかった。民衆に紛れた一人のゲリラが、隠し持っていた火炎瓶を火星防衛軍の海兵へ投げつけたのだ。

 これを皮切りに、暴徒鎮圧部隊からは鉄条網のこちら側へ、強化ゴム弾で容赦の無い一斉射撃が浴びせられた。


「追撃しろ! 高圧放水車、前へ!!」


「虐殺者に裁きを!! 火星に自由を!!」


────バンッ!! ドォンッ! パキンッ……!


銃撃を確認(ショット・ファイア)! 銃撃を確認(ショット・ファイア)!」

接敵(コンタクト)!! ゲリラだ!! 応戦しろ!! 全部隊、無制限武器使用許可オール・ウェポンズ・フリー!!」


────バババババッ!! ドドドドッ!! タァーンッ!! バンッ……! ドンドンドンドォンッ!!


 そこからは、暴徒鎮圧用の強化ゴム弾やピストルでの威嚇射撃に留まらず、自動小銃、軽機関銃、車載機関砲、低致死性ガス、攻撃型手榴弾──ありとあらゆる凶器が群衆へと向けられ、人々の多くは倒れるか、泣き叫びながら逃げ惑った。


「げほっ!! げほっ……! オエッ……! くそっ……! なんだよ、これ……ッ!!」


 銃弾飛び交い、鋭い刺激臭のあるガスが漂う屋台通りで、レンは壁にもたれ掛かり、涙と鼻水に塗れながら、嘔吐し、呼吸困難寸前にまで陥っていた。


「クソッ! こんなの……もう食えねーよ!!」


 レンは、大事に懐で隠していたにもかかわらず、いつの間にか催涙粉末弾(ペッパーボール)とガスに侵されてしまったサーモンの燻製を悔しそうに放り捨てる。こんなときにも、彼の脳裏には、寂しそうに笑いかけるニナの面影が走馬灯のように浮かんでいた。


「!? いま……何時だ……!?」


 レンが、黄色に濁ってもやついた視界で必死に腕時計の針を確認しようとする。おそらく、少し前に三時を回ったところ。つまり、状況はさらに最悪だと気付いてしまう。レンは、仲間たちへ確かに伝えてしまったのだ。『今日は一人で第二港区を軽く偵察してくる』と。

 約束の時間になっても自分がアジトに戻らなければ、仲間たちはルールに従い、まず真っ先に戦闘区域(ここ)まで探しに来る。


「ダメだ……。来るな……? ダメだ、ダメだ……ッ!?」


 レンは、朦朧とした意識でふらつきながら、ここまで通り道にしてきた点検用通風口を必死に探す。確か、この辺りのはずだ。いや、違う。どこだ、どこだ? 五感はどれも正常に作動しない。視界は遮られ、くぐもった世界でずっとけたたましい耳鳴りが続き、口の中と鼻の奥では苦辛酸っぱい感じの何かが立ち込めている。指先は痺れ、両脚は激しく震えている。もはや彼は、この世と地獄の狭間にある暗闇を彷徨う亡者になりかけているといっても過言ではなかった────


「動くな」


 背後から、レンの後頭部に硬い何かを押しつけられる。今更気付いたが、どうやらそのままうつ伏せに組み伏せられてしまったようだ。鼻の奥から、温かい何かがどろりと流れ出ているのが分かる。


「宇宙連合軍、テラーマン大尉だ。貴様……なぜその外套(ジャンパー)を着ている。軍属か」


 レンには、質問の意図が分からなかった。きっと、普段なら軍人や警官からの質問には、熟考して、もっとまともな受け答えが出来たのかもしれないが、今の彼には、こう口走ることしか出来ないし、意識にすらなかった。


「俺はいい……! 頼む……女の子、ふたり……男の子、ふたり……たすけてやって……!!」

「質問に答えろ、少年。貴様は軍属か?」

「名前はニナ、メイメイ……マサムネ、リヒトだ……!」

否定(ネガティブ)。質問に答えろ、民間人。その外套、貴様の身内から譲り受けたもので間違いないか?」

「だったら……なんだよ……!!」

「貴様が軍属なら救護対象だ。さらに、それは先ほどの四名が、配偶者を含む三親等以内の親族であるならば、同じ扱いが適用される」

「分からねえ、分からねぇ!! もっと簡単に、分かるように言えよ!!」

承諾(コンファーム)。例えば、君の親が軍人で、君の言う四人が、君の家族であるならば、私には全員を助ける義務がある」


 一方的な質問を浴びせられ、憤りと絶望に包まれていたレンの意識に、一筋の希望が差し込める。そうとくれば、もはや反射的に藁にもすがる思いで出鱈目を口走る。


「げほっ、げほっ! 親父が軍にいる! 四人とも俺の大事な家族なんだ────!!」

「了解した。規定に従い、まずは君を救護するが、安全確保が必要だ──」

 レンが思い付きを言い終えるよりも前に、軍人は背後から手刀か何かでレンを気絶させてしまう。

 

 辛うじて、レンは最後にこう聞き取った────


「君の家族の保護に努力しよう────」

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