#4 高速コーナー #初詣
ノイジー・エナジー #4 高速コーナー
★本作品はフィクションです。実在の人物、団体、出来事、法律などには一切関係ありません。法令を遵守し交通ルールを守りましょう。
#初詣
アタシは晴海ちえりって言います。高校一年生、花も恥じらう乙女な女子高校生です。少なくとも本人はそう思ってます。ウワサの巨大女子ハルミさんとは別人です。ていうか、誰があんなウワサを流しているんだろう。たまに真に受ける人がいて困る。アタシは身長は166チョイ(ちょっと伸びた…)だから巨大ではないし、殴る蹴るの暴力を振るったことなんてない。たまにアタシの目の前で転んだり、倒れたりする人がいるけど、アタシのせいじゃないし。とにかくアタシはたまにふらっと倒れて病院に担ぎ込まれるような、繊細でか弱い女の子なんです。皆さん、そこの所をよくよくご承知置き下さい。
徹夜で騒いだクリスマスから一週間が経ちました。皆様あけましておめでとうございます。今年も良い年でありますように。
本当はバイクで初日の出を見に行きたかったけど、とにかく寒いし、みんなの都合は合わないしで今年は見送ることにした。なので家族水入らずの正月休みを満喫するのだ。杏姉は天崎先生が気に入ったみたいだけど、いきなりお付き合いするほどじゃなかったようだ。天崎先生は正月は実家に帰るらしく、次は始業式で顔を合わせるはずだ。
今日は元旦です。昨夜の大晦日は母さんの好きな紅白を見ていたら、いつの間にか寝ていたらしい。美味しそうな匂いで目を覚ますと、こたつで寝ていた。
「母さん、ちえり起きたよ。」
すでに起きて髪をブラッシングしている杏姉が、上半身を起こしてぼーっとしたアタシを見つけた。
「ちえり、お餅幾つ?」
そういえばお腹が空いている。
「三つ…いや、四つ。」
杏姉が酷い顔をしてアタシを見た。汚いブタを見るような目つきだった。
「ちえり、冬眠する熊じゃないんだから、食っちゃ寝、食っちゃ寝してると太るからね。」
姉さん、いいじゃん正月休みくらい。
「いいの、アタシは太らない体質だから。」
そこへ母さんがおせち料理を持ってきた。煮しめと雑煮と黒豆は母さんお手製。数の子や昆布巻、田作りなどは買ってきたものだ。お屠蘇はなくて、お神酒代わりの冷酒で乾杯する。
「ちえりはひと舐めだけだからね。」
「杏姉のケチ。」
「ちえり、神棚と仏壇にもお神酒上げてくれる?」
母さんのお願いは断れない。一番背の高いアタシが高いところにある神棚にお神酒を上げる係だ。お神酒を上げて、ぱんぱんと手を叩いて礼をする。別に信心深いワケじゃないけど、手を合わせると何となく落ち着く。
「ちえりも大きくなったねぇ。髪が短くなって…なんだか、あの人に似てきたかもねぇ。」
母さんがなんとなくしんみりして言った。アタシが父さん似なのはホントだけど、まだ十六歳の乙女を捕まえてちょっと酷くない?
グウ。
お腹が鳴った。こたつに戻り料理を眺めると俄然食欲が湧いてきた。
「母さん、もう食べていい?」
母さんが雑煮を持ってきた。ナイスタイミング!
「さあ、じゃあ食べる前にお屠蘇代わりの祝い酒ね。」
姉さんはお酒をお猪口に注ぐと、こっちも待ちきれない。
「しょうがないね。ウチの娘は食い意地が張っていけない。」
と、言いつつもお猪口に手を伸ばして持ち上げる。
「「「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。」」」
三人は声を揃えてお猪口を干すと料理に取り掛かった。
お腹いっぱいになったアタシ達は、腹ごなしに初詣に行こうということになった。神社までは少し歩くけど、ちょうどイイ運動だ。
「そういえば、もうすぐ父さんの命日だけど、お墓参りはいつ行こうか?」
歩きながら母さんが切り出したとき、姉さんとアタシはちょっとびっくりした。父さんが配達中にバイクの事故で亡くなってから、もうすぐ二年になる。去年は一周忌だったから親戚の人が何人か来たけど、母さんは父さんのことを思い出してずっと泣いていた。普段はお店の忙しさで気が紛れるみたいだけど、じっと父さんの写真を見たりしていると、ポロポロと涙をこぼしていたものだ。
「大丈夫よ。取り乱したりしないから。」
アタシ達姉妹がよほど心配そうな顔をしていたのだろう、母さんは安心させるようにニッコリと笑みを浮かべた。
「そうだね。次の休みに行ってみる?あ、ちえりは学校があるか?」
姉さんが早速スマホを取り出して予定を考え始めた。せっかく母さんがその気になっているのだから、あれこれ悩んでるよりはパパッと決めちゃった方がいい。
「よし、来週の日曜の午前中に行きましょ!それなら午後から店開けられるし。」
おお…母さんが速攻で決めた。
お墓参りということは富士山方面に行くんだよね。う~ん…。アタシはちょっと犬のサクラのことを思い出していた。
神社まで行ってみると、けっこう人がいてぞろぞろと歩いている。見回すと何人か知った顔がいる。同中の友達だ。わお久しぶり、とか手を振ったりしながら歩いていくと、そんな中に夏子と春男くん達、佐藤さん一家を見つけた。あっちも家族が揃っての参拝だ。ちょうどお参りが終わったみたいで帰るところらしい。
「あけましておめでとう。今年もよろしくね。」
夏子も挨拶を返してくれたけど、杏姉さんを見ると、ヒクヒクと引きつった笑い顔になった。なんだか変な笑い方が凄く気になる。アタシはコソコソと耳打ちした。
「夏子、大丈夫だよ。あのあと特にアプローチはなさそうだし、姉さんはお店で忙しいし、接点ないから。」
「そ、そう?私は別に気にしてないから。」
心持ちほっとしたような表情が、夏子の思いを正直に語っていた。
「ねぇ、見てよコレ。」
夏子が小さな紙切れを差し出した。ん?なに…ああ、おみくじだった。なんと!そこには大凶の文字が!
「…引くんじゃなかった…。」
「まぁまぁ…。滅多にお目にかからないし、むしろコレで今年の悪運を使い切ったと思えば…。」
「ママと同じ事言って…。あとココ。」
夏子はしゅんとして恋愛運のところを指差した。
『叶わず。』の一言のみ書いてあった。救いの言葉は無し。
うわぁ、これは泣いちゃうな。アタシは慰めのコトバを探したが、なんと言えばいいか?仕方なくモゴモゴとワケの分からないことを呟いていた。
一通り挨拶を交わすと、春男くんの持っているお守りに気づいた。
「お、春男くん!合格祈願だね。頑張って!」
春男くんは照れちゃったのかちょっと頬を染めて嬉しそうだ。
「ハイ!頑張って晴海さんと同じ高校に行きます!」
可愛い後輩が自分を慕ってついて来るというのは嬉しいな。なんだか子犬みたいだ。
「チッ。」
ん?夏子が舌打ちしたような気がするけど、まぁいいか。アタシ達はまたねと言うと、神社の境内に入っていった。
本殿の前はお参りをする人達がけっこう並んでいる。列についてしばらく待っていると、ようやくアタシ達の番になった。本殿のお賽銭箱にぽいっと硬貨を投げ込み、お祈りをする。母さんはたぶん家族の無事と健康を祈ってくれているだろう。姉さんはきっと商売繁盛と恋愛関係のお願いをしているはず…。アタシはというと、年末に失恋したとはいえ、新しい恋に走るよりは、バイクで思い切り走りたいな。
「…今年はサーキットで思いっきり走れますように…」
は、いけない!声に出ちゃいました。母さんが心配するかも…。
「いいな、ソレ!行こうぜサーキット!」
いきなり隣から耳元に大声で呼びかけられてアタシはびっくりして飛び上がった。恐らく垂直跳びの新記録が出たに違いない。
「だ、誰?!って、翔吾?あんた、いつからそこに?」
ホントにいつからいたのだろうか、隣りに翔吾がいてお参りをしている。足元にはリードに繋がれたサクラがいて、尻尾を振りながらアタシを見上げていた。
「あら、翔吾くん。あけましておめでとう。お正月は御実家に帰るんじゃなかったかしら?」
母さんは去年のクリスマスパーティーでの食べっぷり、呑みっぷり(烏龍茶のはずだが…)が気に入ったらしく翔吾の顔を覚えていた。
「あ、おばさん、お姉さん、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。ちえりもな。」
海外を飛び回る翔吾の両親は海外での正月に呼び出したらしいが、コイツはめんどくさいからと断って日本に残ったらしい。海外での正月休みなんて羨ましい。芸能人か?それを蹴るなんて、勿体ないお化けが出るぞ!
「なんだ、それなら大晦日からウチに来ればよかったのに。おせちもあるし、よかったら、今からでも…。ねえ?ちえり?」
いやいや母さん、女の園に男を入れるのは危険だよ。
「ありがとうございます!いいんですか?」
え?ちょっと!翔吾を見ると目を輝かせて、しかもあろう事か、ヨダレを垂らしそうな顔をしていた。いや、本当に垂らしたみたいだ…。口元を手の甲でグイと拭っている。しかも…。
グウ。
「あらあら、お腹が空いてるの?やっぱりウチにおいでなさいな。手抜きおせちしかないけど。」
ちょっとぉ…。母さんたら…。
「よかったじゃない。新しい恋の始まりかもよ?イケメンの先輩にフラれたんでしょ?」
姉さんがコソッと耳打ちしてきた。
無い無い無い!それだけはずぇーったいに無い!
「美味いです!あ、お餅もちゃんと焼いてるんですね!あひはひ…んがっ!」
「ちょっと…。いいから黙って食べなよ。あっ!ちょっ!ヤダ…なんか飛んできたよ!」
結局、翔吾はウチまで来て母さんのおせちとお雑煮を食べていた。サクラは今日はケージが無いので店には入れず、裏のガレージに繋いである。姉さんがサクラも食べられそうなモノを見繕って、ぬるめに暖めてくれた。犬は猫舌だから、アツアツには出来ないけど、冷たいままじゃ可哀想だもんね。
「あ、お母さん!ホント美味しいっス!も一つ…いや、もう二つお餅頂いていいっすか?」
この欠食児童が!
「翔吾!ちょっと調子乗りすぎ!それから、お母さんてなによ!」
アタシはキッと睨みつけた。翔吾は箸を休めずに答える。
「え?こんなに美味い料理が毎日食えるなら、娘も料理上手いんだろうなぁ…。嫁に欲しいなぁって…。」
え、嫁って母さんじゃないよね?え、娘のアタシを?何言っちゃってんの!と、思いつつも何となく顔が熱いような…。翔吾が不思議そうな顔をしてアタシを見ている。
「…ちえり、熱あんじゃねぇ?…なんだか顔赤いぜ?」
ギャー!見られた?しかも心配された?変なフラグ立てるな!折れ!
「…あ…嫁って、お姉さんだぜ?可愛いし、オトナだし、歳上ってなんかイイ…イテテ!」
思いっきりスネを蹴り飛ばしてやった!
「バッカじゃないの!アンタみたいなガキを相手にするワケないでしょう!とっとと食って帰れ!」
アタシは立ち上がってサクラのいる裏のガレージに逃げていった。
まったく…不覚だわ…。
「ご馳走様でした!」
「はーい。お粗末様でした。」
ひとしきりお腹に食べ物を詰め込んだ翔吾はサクラの様子を見に裏のガレージにやってきた。アタシはサクラのお腹をコチョコチョしていた。ひっくり返って気持ち良さそうに目をつぶっていたサクラだが、翔吾が来たらシャキッと起き上がってお座りをした。よく躾してあるなと素直に感心する。アタシだったら甘やかし過ぎて、可愛くないサクラにしてしまっただろう。
「はぁ、食った食った。おい、ちえり、バイクの調子はどうだ?」
アタシは埃をかぶったカバーに包まれているNSRを振り返った。
「…どうもこうも…封印中だよ。」
バイクの玉子様事件の後、アタシが入院しているうちにNSRはカバーをかけられ、防犯チェーンでロックされてしまった。母さんからバイク禁止令が出たのだ。そろそろひと月になるだろうか?
「ねぇ、今度さ、父さんのお墓参りに行くんだけどさ。」
翔吾は少し怪訝な顔でアタシを見た。
「サクラのお母さんのお墓参りもしようと思うんだ。」
ふむ、と翔吾は腕を組んだ。
「オレにサクラを連れて行けと言うんだな?」
アタシは翔吾の様子を伺っていたが、どうやら前向きに考えてくれているみたいだ。
「わかった。連れてってやる。で?いつだって?」
やった!持つべきものは単純でお調子者の男友達だなあ。




