↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Noisy Energy ノイジー・エナジー  作者: 小鳥乃きいろ
PR
20/38

#3 Sカーブ #ピザは持ち帰りがオトク

ノイジー・エナジー  #3 Sカーブ


#ピザは持ち帰りがオトク


 週末の張り込みが失敗に終わった、その翌日のことである。

 アタシは久しぶりにバイトに来ていた。吉野先輩も一緒だった。休み時間にアタシは昨日までの張り込みの話をし、吉野先輩も追跡装置の改良型を持ってきたらしく、色々説明してくれた。

 昨日からたっぷり寝て、今朝は遅刻しそうになったが、体力は随分回復した。若いって素晴らしい。けど、寝不足だったツケがお肌に残ってる。乾燥注意報が出ている今日はお肌もリップもガサガサです。

 夏子は週末の張り込みの時、試験勉強をするアタシの横で、爆裂弾の改良型を作成していて、今日はアタシのカバンの中に入ってる。なんでも、音と共に一瞬の閃光が出るらしい。本当に危険じゃないのかな?甚だ怪しい。

 翔吾はアタシがいつ駆け込んでも、レーシングスーツが着られるように準備してくれている。準備は万端なんだけどさぁ。なかなか思った通りには話が進まないよ。


 学校が終わってすぐのピザ屋はまだ空いている。冬の夕暮れは早く、そろそろ暗くなってきた。夕飯直前の駆け込みから夜食の時間帯までが忙しい。そんなちょっとヒマな時間帯のことだった。


 ピザ屋の入り口のドアが開いた音がした。アタシは今日は内勤で吉野先輩と一緒にピザを作っていた。

「アニキ、なんでピザなんすか?戻ってから飲みましょうよ。」

 なんかどこかで聞いた気がする。ヤンキー風な話し方、聞き覚えのある話し声だった。ピザを作っている厨房からは、よく見えない。

「今日は大漁だったからな。そういう時にはたらふくピザを喰うんだよ。」

 アニキと呼ばれた男のざらついた声には一度聞いたら忘れられない、冷たい響きが含まれていた。アタシはピザの生地の上にトマトソースをぶちまけそうになった。アイツらだ。


「晴海?どうかした?顔色が良くない。」

 アタシの隣で凄いスピードでピザを作っている吉野先輩が、その手を止めることなくアタシを見た。

「アニキ、戻ってから頼めばいいじゃないですか。」

「バッカ野郎!お持ち帰りがオトクなんだよ!」

「アニキがクルマでピザ食べるとしばらくチーズの匂いが消えないんすよ?」

「だからなんだ!」

「…なんでもないっす。」

 アタシは怖くてレジカウンターを覗けない。

「…吉野先輩、奴らかもしれません。威張ってる奴って、金髪じゃありませんか?」

 吉野先輩は一瞬ハッとしたが、かろうじてカウンターを凝視せず、具材を棚から出すフリをして、ちらっと見た。

「キャップを被ってる奴の後頭部が黄色いね。声はどう?横浜の奴らに似てる?」

「そのものです。」

 雨の配達で見かけたバイク買取のトラック、その時に目に焼き付いた鮮やかな金髪。横浜で因縁を付けてきたバイク買取屋のヤンキー風な男と、金髪の男。バイク買取屋のトラックの前で翔吾を襲った男。恐らく、その男が今バイト先のピザ屋のレジにいる。


 横浜ではヘルメットを速攻で被ったから、顔は見られてない。完全に無視したから声も聞かれてない。でも、あの時も足の震えが止まらなかった。翔吾やサクラにした仕打ちを思い出すと、怒りもあるが恐怖も込み上げてくる。

 どうしよう。

「晴海!しっかりしな。ちょっと事務所に行こうか。…店長、晴海が具合悪いみたいなので、ちょっと事務所につれて行きます。」

 アタシと吉野先輩は仕掛かっていたピザをオーブンに入れると、何事もなかったかのように、事務所に向かった。

 その途中、レジカウンター越しに奴らを見た。案の定、横浜で接触した男達だった。アタシ達には目もくれずピザの注文をしていた。


「見た?」

「奴らです。」

 事務所に入った途端、背中から汗が吹き出した。冷たい汗。気が付くと手もじっとり濡れている。

「外にトラックもあったね。バイクが三台積んであった。でも、『バイクの玉子様』のペイントはなかったな。電話番号だけ残ってた。」

 吉野先輩よく見てるなあ。

「『バイクの玉子様』が泥棒っていうのが、バレたんだろうね。」

 吉野先輩は事務所の備品ロッカーを漁っている。

「あ、あったあった!」

 ガムテープ?次いで先輩はカバンから追跡装置のスマホを取り出すと、ガムテープと一緒にアタシに押し付けた。

「ほら、急がないと、奴らが行っちゃうよ!」

 え?アタシ?

「従業員口から出て、トラックに積んであるバイクに追跡装置をつけるんだよ。バイクはどこかに集めるはずだからね。」

 アタシが躊躇していると、背中をドヤされた。

「ほら、早く!私がレジで注意を引きつけるから!」 

 アタシは急いで従業員口から出た。


 従業員口は店の裏手にあり、表からは見えない。アタシは店の周りをぐるりと回って表の駐車場の端まで来た。駐車場に出るとお客様の待つベンチからは振り返らなければ見えない。トラックの影までの距離は五メートル。落ち着け、ちえり。心臓はバクバク言ってるけど、深呼吸して覚悟を決めた。顔を出してちらっと奴らを確認すると、ベンチに座っているが、トラックを見ていた。ダメだ。まだだ。と、誰かに呼ばれたようにレジの方を向いた。今だ!アタシははや足でトラックの影に滑り込んだ。


 急がないと。アタシはトラックに積んであったバイクに追跡装置を取り付けなくてはならない。バイクは三台あり、一台はカウル付だった。アタシはガムテープを何枚か適当な長さにカットすると、追跡装置の電源ONを確認し、アンダーカウルの内側、下の方に貼り付けた。あれ?なんか見覚えあるなぁ、このCBR。いや、余計なことは考えるな!


 装置を取り付け終わったアタシはガムテープをポケットに突っ込むと、トラックの影からベンチを見た。いない?よく見るとレジカウンターでピザを受け取り、こちらに歩き始めている。

 ヤバいヤバいヤバい!どうしよう?その時、奴らが一瞬レジカウンターを振り返った。アタシは速攻で動いた。


「さてと、ピザももらったし、帰るか。」

 金髪の男は手下にピザを任せると、出口の方に歩き出した。ドアを開けようと手を取っ手に掛けようとした。

「お客様!クーポンをお忘れですが?」

レジカウンターからの声に一度振り向いた。

「要らねえよ。もう、来ねえからよ。」

 キイッ。

「ありがとうございましたぁ。また、お越し下さい。」

 店員がニコニコと笑い掛けながら、ドアを開けて挨拶をした。

「おう。姉ちゃん悪いな。ドア開けてもらってよ。」

 ヤンキー風な二人は、トラックに乗り込んだ。

「アニキ、俺またココのピザ屋来ようかな。後から来たレジの姉ちゃん、色っペー目で俺のことじぃ~っと見てんすよ?気があんじゃね?痛っ!」

 ゴツンと、金髪がどつく。

「バカ言ってんな!俺たちゃ明日は日本にゃ居ねぇんだよ。」

 ブツブツ文句を言いながらも、手下はトラックを駐車場から出して走り始めた。隣の金髪はピザの箱を開けて、たっぷりチーズの掛かっているピザをガツガツと食べ始めた。

「うんめぇ!」


 気づかれなかったよ!よかったぁ!

 奴らが振り返った隙にアタシは表側のドアに走り、お客様のためにドアを開ける店員を装ったのだ。奴らと入れ替わりに店に入ってトラックが出て行くのを確かめるとどっと汗が流れ出た。

「店長!ちょっと抜けます!晴海!ぼーっとしてるヒマはないよ。」

 吉野先輩はアタシを引っ張って事務所に入ると、スマホを取り出し、追跡アプリを起動した。

「ふふっ、とりあえず追跡装置はちゃんと動いてる。よくやったね。とりあえず、翔吾のところで戦闘服に着替えてくれる?私のベスパを貸すから。」

 戦闘服?と聞き返すヒマもなく、ポイポイポイッとカバンとヘルメットとベスパのキーをくれた。

「私は夏子を呼んで、後から追いかけるから大丈夫。みんなには私が連絡する。早く行きな!」

 吉野先輩は、まだアワアワしてるアタシを送り出しながら、メンバーにメッセージを送っている。本当に凄いわ、この人!

 キュキュキュッ、プルルンッ!

 アタシはヘルメットを被るのももどかしく、ベスパを発進させた。すでに日もとっぷりと暮れた夜の中、スクーターの弱々しい光を頼りにアタシは走り出す。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。