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Noisy Energy ノイジー・エナジー  作者: 小鳥乃きいろ
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#3 Sカーブ #囮

ノイジー・エナジー  #3 Sカーブ


#囮


 しんしんと更けてゆく夜、窓には水滴が浮いて、しばらくするとつつーっと流れてゆく。水滴の大半はアタシがついたため息とアクビで出来ている。

 キュキュッと窓ガラスを拭くと、窓から見下ろせる駐車場の片隅に、アタシのNSR(追跡装置付)がカバーも掛けずに置いてある。

 ゴシゴシと眠い目を擦りながら、冷めてしまったコーヒーをすすると、侘しさからか、かみ殺したアクビのせいなのか、涙がポロリとこぼれた。袖口で涙を拭い、何度目かのため息をついた。

 横を見ると、暖かい布団にくるまった夏子がすやすやと可愛い寝息をたてている。ココは夏子のマンションの寝室で、夏子の計画に従ってアタシのNSRを囮にバイク泥棒を捕まえようと見張っているのだ。


 アタシ達は高校生なので、学校が休みの週末に囮作戦を敢行しようということになった。金曜日の夜から日曜日の夜まで。本当はローテーションを組んで女子会メンバーで回すのが負担が少ないんだけど。

「え?私は門限があるからダメだよ。追跡装置も作ったんだから、そこは戦闘員でやってよ。」

 吉野先輩が先輩風を吹かせる。娘の健全な成長を願う親なら、どこの家だって門限くらいあるさ。うちは緩いけど。

「俺は別にいいぜ。ちえりと交代で寝起きして見張ればいいんだろ?てか門限てなんだ?」

 え、それはヤダな。御厨先輩ならいいけど。

「…やっぱ、辰巳は除外。」

 さすがの吉野先輩も、男女で寝起きをともにさせるのはまずいと考えたか?

「一度寝たら起きなさそう。」

 そっちか。

「ミクリンにも心配はかけられないしねぇ。」

「私のうちなら、ちえりもたまに泊まりに来てるし、大丈夫じゃないかな?」

 夏子が責任を感じたのか、手を上げてくれた。天使に見えてきたよ。

「でも見張りはお願いね。寝不足はお肌に響くから。」

 交代してくれないんだ!あ、天使に尻尾が生えている。


 初日金曜日は勤勉なマンションの管理人さんが違法駐輪と勘違いして、回収業者に回収されそうになった。慌てて夏子と一緒に適当な説明をしてなんとか勘弁してもらった。夜が明けたら少し寝て、昼頃から期末試験の勉強だ。母さんにはそっちが目的と話してある。

 二日目の土曜はアタシが夏子と交代し、しばらくしてアタシが起きたら、夏子は寝息をたてていた。慌てて窓から見ると、ヤンキーのお兄さん達がアタシの大事なNSRに跨がっていた。ハラハラしながら見ていたが、しばらくするとどこかに行ってしまった。

 翌朝、NSRが動かない!なにをされたかと思ったら、キルスイッチを切られて、燃料コックをオフにされていただけだった。まぁ、可愛いイタズラでしょ。イラッとしたけどね。


 と、いうわけで今日は三日目の日曜日の夜だ。明日は学校だけど、ここまできたら意地だ。夏子は悪いと思っているのか、たまに代わってくれるのだが、気が付くと寝てるので、頼りにならない。

 早く解決したいけど、NSRは盗まれて欲しくないというジレンマ。実際、なかなか盗まれるものじゃない。


 そろそろ夜が明けようかという頃、新聞配達のお兄さん達が走り始めた。ああ、今日は学校か、残念ながら収穫無し。学校行ったら、休み時間は寝てよう。そろそろ家に帰ろうかと思った頃、アタシのNSRに近づく人影があった。あと犬影も。えぇぇ!まさかのマーキングですか!それは困るぅ~。

 バタバタ!バタン!

 アタシは着の身着のまま、夏子の家のサンダルを突っ掛けて、エレベーターを急いで降りた。

 神様!お願いします。間に合って下さい!マンションの駐車場に停めたNSRの横にちょうど犬が飼い主と歩いて来たところだった。間に合った。

「あの、ここで犬のおトイレはさせないで下さい。どこか他でお願いします。って、あれ?」

 見慣れた犬と男子がいた。

「よう、起きるの早いな。ていうか、寝てないだろ。凄い顔してるぞ。ちょっと気になるから来てみたんだ。サクラも少し元気になったしな。」

 まさかのサクラと翔吾だった。アタシはパジャマ代わりのヨレヨレスウェット上下に、夏子に借りたはんてんを羽織って、サンダルを突っ掛けていた。髪もおでこのところでピンで止めただけでボサボサだ。こ、これは、かなり恥ずかしいかもしれない!

「…あ、また後で、学校でね…。」

 アタシは逃げるように夏子の家に戻った。しかし、無情なオートロックのドアに阻まれ、マンションのガラス張りの入り口で夏子が起きるまで、恥ずかしい姿を晒し続けたのだった。


 結局その日は月曜だから学校に行ったけど、休み時間どころか授業中から爆睡で、朝から放課後まで先生に怒られっぱなしだった。

 作戦は見直しが必要で、追跡装置は一旦吉野先輩に返したのだった。翔吾はスクーターが売られてしまうに違いないと泣いていた。


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