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俺が聖女だなんて聞いてない! ~幼馴染を助けたら、なぜか『癒しの光』が発現しました~  作者: エス


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リディアの日記①

(いったいどういうことだ)


 ユナとカイルの出生をめぐる奇妙な食い違い。リーベルのやつらと俺たちで、言ってることがまるっきり正反対だなんてこと、あるのか?


 確かに、カイルがリーベルで生まれたことも、ユナがそこで生まれて育ったことも、二人の両親からそう聞いていただけだ。本当のところがどうだったのか俺たちには確かめようがない。


 ただ、俺たちにもわかっていることはある。カイルが生まれてすぐ王都へ戻ってきて、そのままこっちで育ったこと。ユナが少なくとも王都では生まれていないこと。これは父さんや母さんにもさっき確認したし、ここらに住んでいるやつらならみんな知っている事実だ。


 となると、リーベルのやつらの「カイルはリーベルで育った」「ユナは王都で生まれた」って話は、カイルの家族がわざと事実と違うことを話していたってことか? 


(なんでそんなことを?)


 というかそもそも、カイルが生まれてすぐこっちへ戻って来たなら、大流星群の時にリーベルにいた赤ん坊は誰なんだ?


「ロイ、お肉冷めちゃうわよ」


 母さんの声に、はっと我に返った。慌てて冷めかけた肉にナイフを入れ、口へ運ぶ。大蒜を効かせて皮目をこれでもかとパリパリに焼く母さんのチキンソテーは、俺の大好物だ。なのに、今日はどうにも味が頭に入ってこない。


「でも、ほんと変よねえ」


 母さんがナイフとフォークを置き、俺を見つめる。


「アルベルトもリディアも、そんな嘘つくような人じゃないのに。なんでリーベルじゃそんな話になってんのかしら」


 父さんも母さんも、カイルたちの両親とはずっと仲良くしてきた。それだけに、もし本当に二人がそんな嘘をついていたのなら、何かよほどの理由があったはずだと考えているようだった。


「なあ。カイルやユナが生まれた頃、二人に何か変わったこととかなかったのか?」


 ふと思いついて、そう尋ねてみる。もしかすると、当時の二人の様子に何か手がかりがあるかもしれない。


「変わったこと?」


「ああ。急に様子がおかしくなったとか、今までと違うことをし始めたとか」


「うーん……」


 母さんは腕を組み、考え込むように首を傾げた。父さんも食事の手を止め、記憶を探るように宙へ目をやる。


「そうねえ……あ、でも、どちらの出産の時も、リーベルに行くのはずいぶん早いなって思ったわよ」


「早い?」


「そうそう。カイルちゃんがお腹にいるってわかって、そんなに経ってなかったんじゃないかしら。なのに、向こうで産むからってさっさと行っちゃってね。お腹だって、まだそれほど目立ってなかったのに」


「そんなに早く?」


「ええ。ユナちゃんの時なんてもっとよ。妊娠したって聞いたと思ったら、すぐいなくなっちゃってさ。お腹が大きくなったところなんて一度も見てないもの」


 母さんはそこまで言うと、「ねえ?」と父さんに顔を向ける。


「ああ。俺もずいぶん気が早いとは思ったな。まあ、二人とも向こうで産むって決めてたから、早めに行ってゆっくり過ごしたいんだろうって。そのときはそれ以上気にしなかったが」


 父さんはそう言うと、再びフォークを動かし始めた。


「ふーん」


 とはいえ、俺には妊娠だの出産だののことなんてさっぱりわからない。リーベルへ行くのが早かったと言われたところで、それが今回の件と関係あるのかどうか……。


 俺はひとまず頭を切り替え、すっかり冷めてしまった肉をもう一切れ口へ放り込んだ。


「こういう時、あの二人のどっちかが日記でもつけててくれたら早かったんだけどな」


 別に答えを期待したわけじゃない。肉を頬張ったまま、半ば独り言のつもりでそうこぼす。なのに母さんが、「あら、あるわよ?」なんてあっさり返してくるもんだから、思わず咀嚼が止まった。


「は?」


「日記よ。リディアの。そうね、それを読めば何かわかるかもしれないわね」


 呆気に取られる俺をよそに、母さんは思いついたようにぽんと両手を合わせた。


「あるのかよ!? だってカイルたち、今までそんなことひと言も――」


「だってうちにあるんだもん」


「なんでだよ!」


 驚きすぎて、そりゃ声も裏返る。ったく、「だもん」じゃないんだよ。めちゃくちゃ重要な手がかりじゃないか、それ。


「リディアが亡くなる前にね、『あの子たちが大きくなって、どちらかが結婚する時にでも渡してほしい』って言って、私に預けていったの。そんな話になってるなら、もう渡しちゃってもいいかしらね」


 母さんは席を立つと、自分の部屋から一冊のノートを持ってきた。


「これよ。私は一度も読んでないから、あんたたちが探してる答えがここにあるかはわからないけど」


 そう言って、そっとテーブルの上に置く。淡い桃色の表紙には小さな花模様があしらわれていて、普段使うものより少しだけ上質に見えた。ただ、よく見るとところどころ色が褪せ、角も少し擦れている。それなりに長く使われていたものらしい。


「これ、あいつらに持っていってもいいか?」


「もちろんよ。もともとあの子たちの物だもの。何かわかったら教えてね」


「ああ」


 今すぐカイルの家へ走って持って行きたい気持ちをぐっと堪え、残りの夕飯をさっさと平らげる。食後に出てきたぶどうにはちょっと心惹かれたが、それは断り、俺はノートを手にカイルの家へ向かった。

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