第三話 悪役にされる令嬢 解決編
「では、まず結論から申し上げます。セシリーは毒など盛られておりません」
シャーレットの言葉に会場はどよめく。
「な、何を言ってんだ! お前らも見ただろ?! あの弱りきったセシリーを!」
「それでは、ワタクシが犯人でないというところからお話しさせていただきます」
「ふざけんじゃねェ! 他でもねェセシリー本人がお前に毒を盛られたって言ったんだ!」
「このグラスをご覧ください」
「それはセシリーが持ってたグラスだろうが」
「その通りです。ですが、ワタクシが先ほど調べた時は指紋が1人分しか浮かび上がりませんでした。セシリーは手袋をしているため指紋はつきません」
「ッ……」
「では、この指紋は誰のものなのか。憲兵が用いる道具で調べたところ、ワタクシの指紋でした」
「ハ……ハハッ! そ、それが証拠だろうが! セシリーは指紋が残らないんだろ?! じゃあ毒を盛ったヤツ! つまり、お前の指紋しか残らねェ!」
「ですが、妙なことにグラスには指紋のみ。飲まれた形跡がないのです」
「な……だか——」
「つまり。このグラスに入っていた飲み物で毒を盛られたなどありえないのです」
「そんなもん! こうして飲めばいいだけじゃねェか!」
トライオン王子はテーブルにあったグラスを片手で取り、口をつけることなく、勢いよくグラスを傾け、注がれた飲み物を口へ、投げ込むように飲み干した。
「セシリーは平民だ! こんな飲み方してもおかしくねェ」
「仮にセシリーがそのような飲み方をしていたとしても、問題はまだあるのです」
「なんだってんだ」
「道具で調べてわかったことは、それだけではないのです」
「だからなんだってんだ!」
「ワタクシはグラスに注がれた飲み物、それが何かわかればと思ったのです。その地面にこぼれた液体と、このグラスに注がれた飲み物が同じ反応を示せば、毒を盛ったかどうかの証拠になります」
「ッ……」
「しかし、反応は違ったのです。おかしいですね。落ちたグラス、その周囲に飛び散った液体。それらが全く関係がないだなんて」
「んなことオレに言ってなんだってんだ! 何が言いてェんだ!」
シャーレットはトライオンのことを無視し、別の人物へ話を向ける。
「お医者さま、こちらに散った液体を見ていただけないでしょうか」
「え、えぇ。ん、この匂いは?!」
「匂いだけでお分かりになるのですか?」
「最近よくこの匂いを鼻にしますので。設備がないため断言は致しかねますが、こちらはおそらく、現在若者の間で流行っている薬でございます」
「若者の間で流行っている薬……」
(そのような話も今日、耳にしましたわね。確か——)
「効果は仮死状態のような、強制的に身体の機能をオフにするもので、通常の睡眠よりもスッキリするなどとして使われているのです。ただ、最近はそれを犯罪などに悪用されるため、製造は中止されているはず」
(これでセシリーが弱っているように見えたのにも納得がいきましたわね。ただ、セシリーはそれを飲み、その瞬間を見た人も何人かいる。にも関わらず、その証拠となる物はない……。やはり——)
「トライオン殿下」
「な、なんだ」
「ワタクシの記憶が確かであれば、本日お会いした際、殿下は手に何もつけていなかったはず」
「ッ!?」
「ですが、今は黒い手袋をなさっています。どうかされたのですか?」
「か、今そのことは関係ないだろう!」
「それと、殿下はセシリーが倒れた際、すぐに抱えるなどされていましたね。念のため持ち物を改めてさせていただきたい」
「ふ、ふざけるな! オレを疑ってんのか?! 冗談じゃねェ! 無礼者が! オレはこの国の第二王子なんだぞ!!」
「じゃあボクが見てあげるよ」
今にも暴れ出しそうだったトライオン王子を抑え込むように、ヒース王子がなにかを探る。
「おや? トライオン、なぜこんな物を持っているんだい?」
「ッッ!!!」
ヒース王子の手には、トライオン王子のマントの影から取り出されたグラスが握られていた。
調べると、グラスに注がれていたものと、地面に飛び散った液体の反応が一致した。
これにより、シャーレットの無実の罪は証明され、セシリーとトライオン王子、2人によるシャーレットへ濡れ衣を着せるための犯行だと判明し、ヒース王子の命によりトライオンは憲兵に連行されようとしていた。
「オレは! オレは、この国の王子だぞ! お前らこんなことしてタダで済むと思ってんのか!」
(トライオン殿下……)
「クソォ! セシリーに触るんじゃねェぞ! アイツはオレのだ! オレはアイツと共に——」
(ワタクシは貴方のことを——)
『オレさまの許嫁って女はお前か!』
『シャーレット・ホームズと申します』
『ふーん、なかなか可愛いな』
『え?』
『オレさまはトライオン! 決めたぜ! お前はオレさまのモンだ! ゼッテェに誰にも渡さねぇ!』
『あ、あの……』
『いいな? シャーレット! 一生オレさまのそばにいろ』
『は、はい!』
トライオン王子を連行するため憲兵たちは会場を去った。このような事態になってしまったため、本日の舞踏会は中止となる。ヒース王子主導の元、出席者たちは次々と会場を後して、残ったのはシャーレットたちだけだ。
「ホームズ様、私たちも戻りましょう。当主様には私から伝えておきますので」
「ごめんなさい、ワトソン。少し、1人にしていただけるかしら」
「…………かしこまりました。準備できましたら、またお声がけください」
「ありがとう」
その時、ジェーンは出口へ振り返る瞬間、目の端でとらえた。シャーレットの目から光がこぼれる瞬間を。
そしてもう1人、シャーレットのことを見ていた者がいた。
「シャーレット・ホームズ。トライオンには勿体無い面白い女性だ。また会う時が楽しみだね」
この事件をきっかけにホームズ家の令嬢であるシャーレットの日常は変化していく。
鉄の令嬢と言われるほど、表情が乏しいシャーレットの誤解されやすい人生は拍車をかけ、事件に巻き込まれると、犯人、悪役に仕立て上げられる。
悪役の令嬢は、その無実を証明し続けられる。




