第百六十一話 秘策
イレギュラーの分身体との戦闘が長引きサラたち4人が段々とその顔に疲労を滲ませ始めるも、元々表情が分からないのもあるが全く疲れを見せないイレギュラーに対し額から流れる汗に疲れだけでなく焦りも含まれ始めた。
レベルなどのゲームのような概念を取り入れているにも拘らず相手のHPバーは見えずオマケに疲れ知らず、終始動きの切れを乱さない。
一向に終わりを見せない戦闘、逆に自分たちの終わりが脳裏にチラつき始めたことで怪我の所為もあるのだろうが普段口の減らないレックスですら苦い顔で黙っている始末。
「っ!?」
これまで格上のイレギュラー相手に紙一重でその攻撃をいなしていたケビンの呼吸が乱れる。
目にも止まらぬ高速の攻防でそれは致命的で、奴の残忍な手刀がケビンに迫る。しかしサラがすんでの所で攻撃の間に割り込み受け止めその瞬間イブが仕掛けるもぐにゃりと気持ち悪く躱されてしまう。
「すまん……」
「今、一人でも欠けたら一巻の終わりだからな、それよりもケビン……」
「なんだ?」
・・・
「ぐぅぅ……クッソがよぉ」
レックスはイレギュラーの不意打ちを喰らった場所を押さえて苦悶の表情を浮かべる。
(こんな傷さえ無けりゃあ……いや、正直アイツに俺の攻撃が当たる気がしねぇ。てか当たったとしても……いや! そんなはずねぇ!!)
レックスはどことなく甘く見ていたイレギュラーの強さを目の当たりにし自分の築き上げたプライドが崩れるのを必死に抑えていた。
奴の不意打ちを喰らっても生きているのは自分が凄いから、俺の雷撃を躱すのは当たると不味いから、そう自分に言い聞かせ、歯を食いしばり痛みに耐えその機会を待ち続けていた。
(次だ、次に奴が動きを止めたら、最大威力でぶち込んでやるぜ! そのためには……)
「イブゥ! ケビンを援護しろ!!」
レックスは自分に備わっているもう一つのスキルを発動させる。するとイブは青白く発光するベールのようなエフェクトに一瞬包まれる。エフェクトが終わると現れたのは元々高かった身長が少し伸びて体つきも男性の目を引く部分が更に目を引く大きさになっていた。
「ちょっと!? こんな時に!?」
「いいからさっさとケビンの援護に回れ!!」
レックスが使ったのは『成長』というバフ系のスキルだ。
効果は対象の肉体を物理的に成長させるスキルで時間経過で元に戻る。見た目が変わるだけに思われるがちゃんと身体能力などが上昇して有用ではある。
メジャーなバフ系スキルの『強化』と違うのは見た目が変わらない……だけでなく強化は膂力や皮膚の防御力が向上させるのに対し成長は身体能力、つまり膂力や反射神経、体格を向上させるスキルで見た目ではわからない場所も向上している。
聞いただけだとデメリットは見た目が変わるくらいだなのが、それが大問題で普段使いはあまり出来ない。
体つきが急激に変わるため体の感じや動かした時の違和感、武器を使う者は間合いの違いなどで感覚がドンと変わり、ケビンやサラなどは返って弱体化するという事態に陥った。
その状態で戦う訓練を積めば慣れてくるだろうが、レックスのレベルが上がると共にスキルの性能も向上し体つきに微妙な違いが生まれ結局サラとケビンには使わないという事になった。
だが、その中でもイブは例外で彼女は体格が変わっても特に気にする事無く活動が出来た。それでも本人が気付かないだけで多少のズレがあるみたいで、普段使いはしないが緊急時には使うという取り決めになった。
発動にそれなりのマナを使ったがそれぐらいしないと奴の動きを止めることが出来ないと思い、レックスは遠慮なくイブにバフを掛ける。
後はこの策が上手く行くことを祈るのみ。




