表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/64

佐々達の捜査~②

 この程度なら佐々達でも推測できる。それでも彼は二人の上司に当たる人間だ。念の為に何か気付いた点があれば、隠すことなく早急に連絡をくれるよう伝えておいた。

「もちろんです。うちの大事な社員が殺されかけたのですから、犯人逮捕に繋がるようなら、もちろん協力は惜しみません」

 彼は素直にそう言った。だがマスコミの言葉は信用できない。もし取材内容が特ダネで、秘匿しなければならない情報提供者によるものなら、例え警察が相手だとしても彼らは隠すに違いないからだ。

 烏森が秘密裏に行っていた取材内容を掴む為、的場と大山には次のターゲットとして渡辺を選ばせた。直接尋ね、被害者と接触があったかを確かめる為である。

 すると言った。

「東朝新聞の烏森という記者ですね。伊豆で襲われたとニュースで見ました。確かに会いましたよ。三週間くらい前だったかな」

「何を聞かれましたか」

 以前面識がある大山の質問に、彼はすんなりと答えた。

「主には経理部における人間関係ですね。特に社内からの不正アクセスで疑われた私や井ノ島さん、元部長の中条さんと寺畑さんについて詳しく知りたかったようです」

 彼に聴取を任せた方が良いと判断したのか、的場は聞き役に回ったようだ。

「何と答えたのですか」

「色々ですね」

 そこから時間をかけて詳細に聞き取りをしたところ、大まかな形が見えてきた。その情報を元に、今度は部長から課長に降格させられ、後に部署も移動した中条と面会させた。

 彼は以前被害者と須依から取材を受けたが、その後一度だけしか会っていないという。どうやら烏森は中条への取材をそれほど必要ないと判断していたらしい。それでもかつての部下だった渡辺からのネタの裏取りをする為、話を聞いたと思われる。

 するといくつかの点で彼が知らない点はあったものの、認識の一致が多数確認できたようだ。よって渡辺が被害者に告げた内容は、ほぼ真実に近いと判断できる。

 そこから寺畑がかつて住んでいたマンション周辺で被害者の写真を見せ聞き込みをし、足取りを追わせた。そこで彼は複数の人に取材していると分かり、何を調べているのかもかなり輪郭が明確になった。

 ちなみに寺畑は逮捕され拘留中の為、彼女の親の手続きでマンションの部屋は既に解約されている。

 大山達は以前須依達が寺畑を取材した際に仕入れたという、彼女が使用していたと思われるSNSのアカウントを発見した経緯を把握していた。これは本人による要請がなければ脱退手続きは無理だ。

 別に使用料が発生する訳でもない為、恐らくそこまでは親に依頼していなかったらしく、まだそのまま残っていた。そこからも、これまでは全く気付かなかった手掛かりを佐々達は得たのである。

 新たに入手した情報と、被害者のICカードから読み取れたいくつかの使用履歴を使って二人は捜査を進めた。そうしてかなりの証拠を掴んでから、最後に井ノ島の家を訪ねた。

 この頃には静岡県警による現場待機が解け、彼も含めた宿泊者全員が帰宅の途についていた。その為事件から三日経ち、会社から早めに帰宅した夜を狙って的場はインターホンを鳴らしたのだ。

 もちろん事件後から、会社を退社し帰宅するまでの行動は他の捜査員に見張らせていた。その為夜遅くにならないタイミングを待ち、訪問させたのである。

 応答したのは妻の詩織だった。

「はい」

 明らかに不審がっている声だ。佐々自身、彼女とは須依を通じて学生時代だけでなく社会人になってからも何度か会い、会話を交わしている。

 だが今はあくまで彼女には見えない場所にいた為、的場が前に出た上でスマホの画面を見せながら告げさせた。

「夜遅くに申し訳ございません。警視庁の的場と申します。井ノ島詩織さんですね。少々お待ちください」

 そこから佐々が話し始めた

「同じく警視庁の佐々晃です。覚えていませんか。同じ大学で須依さんとも親しくさせていただいた、あの佐々です」

「え? 佐々さん? ご無沙汰しています。そうでした。警察庁にお勤めでしたよね。あれ、でも今警視庁と言われませんでしたか」

 知っている人物だと分かったからだろう。声のトーンが先程とは異なり明るくなった。

「よかった。覚えてくれていたのですね。実は今、警視庁に出向中でして。例の情報漏洩事件の捜査を担当しているのです。何度も恐縮なのですが、その件を含めお話を伺いたいと思い、部下を通じこうして参りました。ご主人はご在宅ですよね」

「はい。少々お待ちください」

 本人に確認しているのだろう。彼は嫌がるだろうが、事件と関わり合いのないと思われる彼女なら、画面越しとはいえ同窓生との再会を拒まないと踏んでいた。

 もし井ノ島が拒否すれば、何故警察に協力しないのかと訝しむに違いない。

 またこれまでの捜査や須依からの話を聞く限り、以前より衰えたとはいえ八乙女財閥の娘である詩織に、彼は頭が上がらないと聞いている。変に疑われ機嫌を損ねれば、これまで以上に家庭内での立場を失うだろう。

 佐々の読みは当たった。不機嫌ながらも彼の声が聞こえた。

「お待たせしました。今鍵を開けます」

 門扉のロックが解除され、敷地内に入った的場達は玄関先まで進む。すると開いたドアから井ノ島が顔を出した。

 まだ帰って間もなかったからだろう。服装はスーツのままで疲れた表情を浮かべていた。先日会った際のセミフォーマルを意識した明るい私服を着ていた時と比べれば、かなり老けて見える。

 彼には大山が話しかけた。

「お休みのところすみません。少しお話を伺ってもいいですか。あれから色々分かったことがあり、確認したい点がありますので」

 後ろに立っていた的場が目に入ったからだろう。彼はサンダルを履いて三和土に立ったまま、小声で尋ねてきた。

「それは伊豆の件ですか。それとも情報漏洩の件ですか」

「両方です。こんなところで立ち話は何ですから、中に入れて頂けると助かります。参事官も久しぶりに詩織さんともお話をしたいといわれていますので」

 そう言いながらスマホの画面を彼に向けた為、佐々は改めて名乗り頭を下げた。

「須依や詩織に、そんな知り合いがいたのか。つまり俺とも同じ大学ってことだよね。前に事情聴取された時は、そんな人がいるなんて言っていなかっただろう。どうして今頃出て来るんだ」

 引き続き囁くように話す彼の態度から、妻には聞かれたくないのだろうと分かった。だが敢えて、佐々はやや大きめの声で答えた。

「黙っていたつもりはありません。ただあなたとはお話しした事がありませんでしたし、わざわざお伝えするのもどうかと思い、タイミングを逃しただけです。他意はありません。それより中へは入れて頂けないのでしょうか」

「ちょっと、声が大きいよ」

 彼は慌てていたが、詩織には聞こえていたようだ。引き吊った笑顔を見せながら彼女が出て来て頭を下げた。

「どうぞお上がり下さい。すみません、こんな所でお待たせして。あなた。私がお相手している間に着替えてきたら」

 完全に主従関係は逆転しているらしい。彼は素直に奥へと引っ込み、的場達は応接間へと案内された。そこで二、三言葉を交わし、彼女は飲み物を用意すると言って台所へと引っ込んだ。

 さすがは良家のお嬢様だ。薄化粧とはいえ、平日の夜だというのに他人と会っても恥ずかしくない身だしなみをしていた。そんな彼女を見て大山がマイクに呟いた。

「須依さんや参事官と同い年でしたよね。それにしては若く見えませんか」

「何だ。俺達が老けているとでもいうのか」

 そう答えると、彼は慌てて否定した。

「いえ、そんなつもりはありません。参事官も十分若く見えますし、須依さんだってお綺麗ですよ。ただあの方が、年齢の割には童顔だと思っただけです」

 彼の言う通り、須依はどちらかといえば美人タイプだ。それと対照的に詩織は可愛いタイプと言って良い。

 佐々も老け顔ではないが、彼女達と比較すれば年相応だろう。また井ノ島は美容に気を付けているのか若く見える。それでも先程の顔はかつてほどの面影は薄まり、年齢を隠せていないと感じた。

 しばらくするとお盆を持った彼女が現れた。

「頂き物なのでお口に合うか分かりませんが、こちらもどうぞ」

 高そうなカップに入れた紅茶と一緒に、洒落(しゃれ)た焼き菓子を出された。大山達が恐縮し頭を下げる。

「有難うございます。お気遣いなく」

 佐々も画面を通じ軽く会釈すると、彼女は椅子に腰かけて話しかけてきた。

「本当にお久しぶりです。それにしてもあの佐々さんが、今回の事件を担当しているなんて奇遇ですね。今はどちらの部署にいらっしゃるのですか」

「どうぞ」

 事前に用意していた佐々の名刺を、的場が胸ポケットから出し渡した。大山達も同じく渡すと、三枚を見比べて彼女は目を丸くした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ