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佐々達の捜査~①

 佐々はまず的場に、被害者の妻である弥生(やよい)から了承を得た上で、自宅の家宅捜索を行わせた。

 当然刑事部長や一課長から了承して貰い、表向きは県警との共同捜査の一環として鑑識にも出動を依頼した。その為的場だけでなく、所属する五係を捜査に加えられたのだ。

 伊豆にある被害者の所持品は県警が管理している。その中に取材ノートや録音機器はあったが、そこから何故井ノ島に取材を申し込んだのかは分からなかった。

 ノートパソコンもあったけれどパスワードがかかっており、その番号は須依も知らない為、中身を見ることは叶わなかった。CS本部に持ち込み分析すれば、時間はかかっても確認できただろう。

 しかし被害者の持ち物をそこまでしなければならない理由が、現在の所無いと県警は判断していた為にそのまま放置されていた。

 佐々も被害者が意識不明の状態とはいえ、記者の命とも言える情報を勝手に覗き見るのは捜査として行き過ぎだと考えた。

 もし彼が亡くなれば、遺族の了解を得て分析をかけることもできるだろう。だが今の段階では難しい。それでも須依までが知らないという井ノ島への取材目的は調べておきたかった。

 家宅捜索までしたのは、伊豆の病院に駆けつけていた弥生から話を聞いた際、疑問を持ったからだ。

 それは会社から一カ月間の傷病休暇を与えられていたにも関わらず、彼は怪我をして十日ほど経過した頃から、会社には内緒で外出し取材をしていた形跡があると知った為である。

「私は止めたんです。でも彼は聞きませんでした。骨折やひびなんて時間が経てば治る。コルセットで固定はしているし、無理をしなければ悪化なんてしない。ずっと家で寝てばかりいたら余計に体調が悪くなるって。だから私も無茶はせず怪我を長引かせないという条件で、目を瞑ることにしました。彼は毎日朝早く出かけていましたが、その日の晩には戻ってきました。それに体調も悪くなく痛みも引いているというので、適度に歩きまわっていた方が調子はいいのだろうと軽く考えていたんです。それが間違いでした」

 涙ぐむ彼女を慰める的場が嵌めたスコープの映像を見ながら、佐々は内心猛烈に腹を立てていた。というのも、その間は組対課と二課の監視下にあったはずだ。

 報告も毎日それぞれの課長から受けている。毎日家で寝ており、安静に過ごしていると聞いていた。しかしそれが出鱈目(でたらめ)だと分かったからだ。 

 その為二課と組対課に直接乗り込み、どうなっているのかと問い詰めた。そこで改めて状況を確認すると、最初の一週間は間違いなくしっかり監視をしていたと彼らは弁明した。

 けれども全く動きが無い為、直接の監視は早朝が組対課で夜間は二課と分担してそれぞれ二時間ずつだけになったようだ。

 後は神葉やセレナ自体の動きにより注意を払っていたという。その判断は現場の人間が勝手にしたのではなく、それぞれの課長が相談の上で許可したと聞かされたのである。

 しかし問題だったのは、組対課が朝の監視をしていなかったことだ。恐らく被害者はそうした動きに気付いたのだろう。そこで朝早く出かけ、二課による夜の監視が始まるまでに取材を終え帰宅していたと思われる。

 監視報告の虚偽については、年上だが階級は警視正で下に当たる組対課長が平身低頭していた。けれど彼としても、部下の反発を押さえられなかった為に止むを得なかったのだと理解できた。

 一度被害にあったとはいえ、組対課の刑事達が一記者でしかない人物の警護に当たるなど、現実問題としては耐えがたかったに違いない。上の命令とはいえ、全く別の部署からの公私混同にも思える理不尽な指示に反発を覚えていたようだ。

 佐々としても正式な命令ではなく、あくまで組織犯罪対策部長を通じた、組対課への協力依頼に過ぎなかった。よって嘘の報告の件を除けば、強く抗議する権限はなかったともいえる。

 それに監視体制を解くまでの間、二人に実害がなかったのも事実だ。他の記者と共に行動していた須依はともかく、隠れて取材し動き回っていたと思われる烏森さえ襲われていない。

 結果論とは言え、組対課の判断が間違っていたとは言い難かった。その為虚偽報告の件だけ叱咤し、それ以上責任の追及はせず席に戻った。後に組対部長からは、佐々に謝罪の電話があった。

 とはいっても相手は警視監で階級が上だ。警視正の組対課長とは立場が異なる。よって形式的なものにすぎず、佐々は恐縮した素振りだけみせ受話器を置いた。

 気を取り直し、当初の予定通り被害者の自宅から押収した資料などを基に、傷病休暇中における彼の動向を探り始めた。伊豆に持参していたノート型とは別のパソコンもあったが、さすがにその中身までは確認できなかった。

 それでもスケジュール帳や走り書きなどの痕跡、また静岡県警から彼の所持品にあった交通系ICカードの利用履歴を調べた結果を取り寄せ、足取りを追ったのである。

 そこで明らかになったのは、被害者が頻繁に白通本社の最寄り駅で乗り降りしていることだった。自家用車を使い渋滞に嵌まれば、時間通り戻って来られない。その為公共交通機関を使ったのだろう。

 他には逮捕された寺畑が住んでいたマンションの最寄駅、さらには経理部で容疑者の一人に挙げられた渡辺の部屋の周辺に加え、井ノ島の家がある場所へも通っていたようだ。

 後は一度だけ、義肢(ぎし)装具士(そうぐし)を訪ねていた。義肢装具士とは法律に基づく国家資格者で、リハビリテーションチームを構成する医療従事者の一員である。ただし他のスタッフとは異なり、一般には制作会社に勤務する社員がほとんどだという。

 烏森は義足だけでなく、陸上のパラアスリートとしても活動していた為、自分に適した装着物をそうした人に維持、管理を任せていたようだ。恐らく襲われた時か何かで不具合があり、調整し直す為に訪れていたのかもしれない。

 主な行動経路を分析した所、烏森は井ノ島と係わり合いがある経理部の三人を洗っていた可能性が見えてきた。その為彼が所属する東朝新聞の編集長を的場達に訪ねさせ、取材していた件について心当たりがあるかを質問させた。

 しかしそれほど期待した答えは返ってこなかった。

「分かりませんね。刑事さん達もご存知のように、元々彼は傷病休暇中でしたから。調べていたとすれば、例の情報漏洩事件の可能性が一番高いでしょう。ただ話によれば、あの須依も知らされていなかったようですね。だったら違うかもしれません。例の件は二人でやっていましたし、寺畑の情報に辿り着いたのも須依のおかげです。そんな彼女に黙って取材していたというのなら、別件の可能性が高いでしょう。あの井ノ島って奴は、須依の大学時代の同級生でしたよね。だったらプライベートな件かもしれませんよ」

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