妖精祭り
時間軸は閉幕後の2ヶ月くらい前です。
アンルーンセン帝都で行われる祭りは年に一度だけ。アンルーンセン初代女王陛下ローザリアの生誕と建国を祝うお祭りが、ローザリアの誕生月である中秋月に3日かけて行われる。
それ以外は小さな市が月2程で立つ程度だ。
だがこの度、離れてしまった妖精の祝福やその感謝を捧げるとの名目で新たに「妖精祭り」を恒例化するとの布令が皇帝陛下より下された。開催期間は2日間。
聖女の活躍により、妖精の悪意はかなり落ち着いた。だが時々思い出した様に酷い悪夢を見る事もあり民衆は大いに賛同の声を上げた。
妖精は花が好きな事もあり、開催は春爛漫真っ只中の中春月。参加する者は生花でも刺繍でも飾りでもいいので花を身につけて妖精を喜ばせる事、と発布された。
祭りは東西南北のメインストリート、皇宮門前広場まで出店が許された。皇宮も一部一般開放されるとの事で、帝都は俄かに活気付いている。
それはここ、帝都ボードル男爵邸でも同じ事で。
「おー!その荷物は右、そっちは左に纏めてくれ」
「これは何処に置きますか?」
「食品系は一時厨房へ」
妖精祭り前日、ベルナルドが届いた荷物を振り分けていく。
妖精祭り開催にあたり、次男ジェルードはレオポールの推薦を受けて、めでたく実行委員会メンバーに選ばれた。そのコネをフル活用して、メインストリートが交差する出店希望1位の中央広場と、希望2位の皇宮前広場の2ヶ所に出店スペースを得る事が出来たのだ。
ボードル領民総出で商品を用意し、今日は搬入である。
どんどん荷物が運び込まれ、邸の広くも無い玄関ホールは圧迫感がすごい。
「よーし、ありがとう!当日売り子する人とその家族はウチに泊まってくれ。他の荷運びの者は宿の予約してあるから、執事に案内させるな。悪いな、ウチ狭くって」
「いえいえ、宿代ありがとうございます。それではまた明日」
「おう、よろしく〜」
ベルナルドが荷運びの領民を宿へ送り出す。
ボードル邸宿泊組も部屋へ案内されて行き、やっと玄関ホールが落ち着いた。
今回ボードル家から来たのは、父、ベルナルド、アルメーヌだ。
父は現在、明日の出店の天幕や机の設置に行ってしまっている。
母と、嫁、生後1ヶ月の甥っ子エディオンはお留守番だ。
そして。
「わあ、せまっ」
アメリィがひょこっと玄関扉から顔を出した。
今回のアメリィはひと味違う。何せレオポールから外泊許可をもぎ取ったのだ。
木箱の間を縫う様にアルメーヌの元へ行く。
「来たわねアメリィ!!ねぇねぇサンプルがあるのよ!明日の髪型決めましょうよ!」
「嬉しい!でもいいの?ほら、助っ人が来てるわよ」
アメリィが横にずれると、もう1人が玄関から入ってくる。焦茶の髪に深緑の瞳の落ち着いた、優しい雰囲気の男性だった。
「リュデック様!!」
「やあ、アルメーヌ。お言葉に甘えて来ちゃったよ」
この春、無事婚約が成立したアルメーヌのお相手リュデック・ワーズガニーだ。男爵家の嫡男で、アルメーヌは次期男爵夫人になることが確定した。
リュデックとの顔合わせは去年の秋にはしていたのだが、デビューが散々だった為中々決める事が出来なかった。しかし春になり甥っ子が生まれると、その可愛さに触発され「私も産むわ!!」と婚約を決めたのだ。
来年の春、結婚予定だ。
「やあ、やあ義弟君!来たな!!」
「義兄さん!今回は勉強させてもらいます!!」
ワーズガニー領はボードル領と同じくらいの大きさなのだが、領内に大きな川が流れており治水に税金の大半を持ってかれてしまう。しかし楽しい事が大好きな彼は、いつか自領で祭りをして領民を喜ばせたいとの夢を抱いていた。
ボードル領のお祭りもお忍びで何回か行った事があるらしい。
「今回は女性陣、男性陣で面子が分かれるからな。君は俺と一緒だ」
「そういうことでしたら仕方ありませんね。アルメーヌ、きっと僕達の出店の方が売り上げてみせるよ!」
彼の良いところはその外見を裏切る熱血さにある。
アルメーヌはアメリィの腕をガシリと組んで不敵に笑った。
「そうはいかなくってよ!こっちには可愛い妹がいるんだから!サンプルで目一杯飾り立てて客引きにしてくれるわ!」
「お姉様、お揃いにしましょうよ」
きゃっきゃしながら2組は其々部屋へと戻った。
今回事前の出店情報によると、中央広場付近は飲食店多め、皇宮門前広場は装飾品店多めらしい。ジェルード調べ。
よって中央広場では肉の串焼き、飴がけフルーツ串を販売する。担当責任者はベルナルドとリュデック。
一方の皇宮門前広場は騎士の見回りが多いという安全性からアルメーヌ、アメリィが担当責任者となった。販売する品は村の女性陣が作った髪飾りだ。
両出店の総責任者が父である。
アルメーヌはテーブルに髪飾りのサンプルを広げた。
それはレース編みで作られたリボン型の髪飾りだった。大中小とサイズがあり、大はかなり大きく、後頭部に着けてちょっと斜めを向けばひらりと存在感を発するサイズだ。レースの柄は花柄。
レース編みなので清楚、上品な印象があるが大きい物は可愛らしい。また透け感もあるので軽やかだ。
「この、大きいサイズはすっごい大変だったの!普段の糸で編むともったりしたり、自重に負けてへたったり。このキリッとふわっと感を出すのに、村の奥さん達が何パターンも羊毛で糸を撚り上げてくれたのよ!」
「では明日は張り切って売らなければいけないですね!責任重大です」
むん!と気合いを入れるアメリィの髪をアルメーヌがハーフアップに編み込む。
「お姉様お上手ね」
「ジレニスに教わりながら、エミリーお義姉様で練習させてもらったの。そう言えばコレットは来ないのね。練習しといてよかったわ」
「実は皇宮の一般開放エリアに聖女印商品の出店を出す事になって」
皇宮の一般開放エリアの出店許可は貴族のみだ。大体が会員制の店だったり、高級店からの出店なのでとんでもない値段だが、普段目にする事が出来ない商品を見る事が出来ると、平民の間でも話題になっている。
「あらぁ、アメリィはそっちに行かなくて大丈夫なの?」
「コレットが気を使ってくれました。私、夏になったらお披露目がある予定でしょう?だから多分、来年は大手を振って妖精祭り行けないかもしれないから楽しんできてって。出店はコレットがリーダーになって公爵家のメイドさん達が売り子になってくれるみたいです」
アルメーヌは大サイズの髪飾りを手に取り、アメリィの髪に着ける。
「そう言えば聖女の名前はアメリィって知られてるんだっけ」
「お兄様がお店の名前にしちゃったからね」
「じゃあ明日はアメリィとは呼ばない方がいいわね…そうねぇ、メリーでいっか」
アルメーヌが生花を手に取りアメリィの髪の上で見比べる。
「うふふ、明日私はメリーね!わくわくしちゃう」
「うーん、やっぱりアメリィはピンクが似合うわねぇ。アメリィどれがいい?」
「あ、えと。空色はあります?」
「やだー、公爵様のお色ね。そうねぇ、ネモフィラと勿忘草かな。どっちも挿して盛ってみようか」
ネモフィラをリボンの真ん中に来る様に挿し、その周りに勿忘草を飾った。お花畑に蝶々が居る様な出来栄えに満足する。
「良いんじゃない?凄く可愛いわ。生花も多めに持ってきてるから、サービスで渡しちゃおうか」
「そうね。髪飾りが白だからどの花にも合うというのが良いです。ピンクは可憐に見えるし、オレンジだと元気で明るい感じだわ」
アメリィとアルメーヌは場所を入れ替わって、今度はアメリィが髪を編み出す。
「アップにしていい?」
「いいわよ」
編み込んだあと、くるくる髪を巻いてまとめ上げていく。
「リュデックお義兄様とはどんなお話するの?」
「最近はいかに低予算でお祭りを開催するか、という話が一番盛り上がるわね」
「低予算か…規模を小さくせずに、というのは難しいですね」
「そうよねー。もっと上手い治水の方法はないかしら…。命がかかってるから絶対手は抜けないものね」
アメリィはアップにした髪の下の方に、大サイズの髪飾りを着ける。
「そうですね。お姉様お花は何色にします?」
「え、もう出来たの!?早い!」
「ふっふっふ〜」
前世で娘もいたからね、と心の中で呟く。
「私ももっと練習してくればよかった〜。えーとお花ね。そうねぇ。折角のお祭りだしカラフルにしようかな。黄色とオレンジとピンクと」
アメリィはあまり花の名前は詳しくないので、大きさやバランスで挿してみる。中央に大きいオレンジ色の花、周りに中くらいのピンクの花、黄色の小花を襟足から耳の後ろにかけて飾る。
2人で鏡の前でチェック。
「同じリボンでも結構雰囲気変えられるね。いいわね、明日もこれで」
「はい!ばっちりです」
翌日、2人は未明に起き出し支度をした。
髪飾りの出店はゼオンさん夫妻とその娘さん3人が売り子を手伝ってくれる。奥さんと娘さん達の髪もセットした。
アメリィとアルメーヌはロングのエプロンドレスで、パフスリーブのブラウスとエプロンはシンプルに白だが、スカートがカラフルなパッチワークになっている。布もたっぷり使っているので、ふんわり広がるとお花畑を着ているみたいで可愛い。
「派手かしら?」
「皆お花を身につけてきますからね。これくらいカラフルでいいと思います」
夜明けと共に荷運びの人達が来て、出店へと運んで行く。それを見届けてボードル家御一行も戦地へ向かった。
途中兄達と別れ、アメリィ達は皇宮門前広場に到着した。既に準備の人達がちらほら集まって、商品を広げ始めている。
自分達の出店を探していると、手を振る男の人に気がついた。
「「お父様!!」」
父は昨日から忙しくしていてずっと別行動だ。
「アルメーヌ、アメ」
「しーっ、お父様。今日の私は従妹のメリーなのよ」
父は苦笑して「メリー」と呼んだ。
「今日と明日、私はあんまり居られないが協力し合って頑張る事」
「「はい!」」
そして、後ろにいるゼオン一家にも声を掛ける。
「娘達を頼む。特に変な輩がきたらゼオン、よろしくな」
「任せて下さい。ゴロツキの2人や3人、のして門番にでも引き渡してやります」
ゼオンさんは以前狩猟祭で、単身熊を狩った強者だ。見た目も大柄なマッチョで強面。平常時は天幕の陰に居てもらって、揉め事の時だけ登場してもらう予定だ。「2人や3人」など謙遜しているが、多分10人来ても大丈夫。大変心強い。
全員でテーブルを飾ったり、商品を配置しているとすっかり日が昇っていた。どの出店も準備が整いだすと、街の人々が皇宮門前にどんどん集まってきた。
暫くすると、カーンカーンと鐘の音が鳴り、門番のひとりが前に出てきて宣言した。
「これより妖精祭りを開始する!開門!!」
わぁっ!と拍手と歓声が上がり、人々は皇宮に入っていく。一般開放は皇帝位交代以来なので、一目見たいと集まった人々の波が押し寄せて来る。
入り口、出口用に門の真ん中に簡易柵が置かれたが、押し倒してしまわないよう、手の空いた門番が支えている。
「凄い人出ね。門に吸い込まれていくわ…」
「行きは皇宮一直線って感じですね。帰りの人を捕まえましょ!」
門へ向かう人達は、横目に出店も見ていて「後で行こうよ」「あのお店気になる」と話しているのが聞こえる。
「しかし…私達のスカート結構派手かと思ったのに。あ、見て!!真紅のスカートに大きく白い花の刺繍が入ってる!!」
「赤と白のコントラストが目を引きますね。しかもお洒落!」
「やっぱ帝都の派手と田舎の派手は程度が違うわね」
「良いじゃないですか。私はボードルのパッチワークスカート好きですよ」
雑談を交わしているうちに、出口側から先頭集団が出てきた。
「やばーい!高すぎて笑ったわー!!」
「ねぇ、何でガチなジュエリーが出店に並ぶわけ?」
「せめてゼロふたつ取ってくれって感じ」
相当高価な物が並んでいるようだ。
周りの出店が客引きを始めたので、アメリィとアルメーヌも負けじと声を張った。
「いらっしゃいませー!ボードルの髪飾りはいかがですかー!?」
「白の髪飾りなので、生花や他の花飾りとの相性もいいですよー!!おひとついかがですかー!?」
それを聞きつけたのか、先頭集団からひとり、女性が寄ってくる。
「ねぇ、ボードルってあの聖女様の故郷ですか?」
商品とアルメーヌを交互に見ながら訊ねてくる。
「そうですよ!こちらの大きいサイズの髪飾りは聖女様にも気に入って頂けて、なんと本日着けてお祭りに参加されてるんですよ!!ね、メリー」
アルメーヌがにこっと笑ってアメリィに話しかける。つられてお客の女性もアメリィを見るのでドキッとしてしまった。
「そ、そうです!よろしければいかがですか?ご希望であればこの場でお着けしますよ」
(嘘は言ってないけど…お姉様、商魂逞しいわ…!!)
「じゃあこの大きいサイズ、貰うわ。着けてくれる?」
「かしこまりました!リザ、お願い」
「はい」
リザはゼオンの奥さんだ。
髪を軽くセットしてると、お客さんは喋り出す。
「皇宮内の出店ね、聖女様の出店は他より遥かに良心的な値段だったのよ。私も聖女様のお化粧品狙ってたんだけど、ダメね」
「ダメとは?」
「コネで先入りしてた御令嬢の行列が出来てたの。気迫が怖くて並ぶの止めたわ〜」
オマケの花まで挿してあげると、女性は満足して人混みに入って行った。
「アメリィのお店凄そうね」
「コレットが心配だわ…」
その後も呼び込みを続け、午前中には大サイズが殆ど売れてしまった。
「聖女様すごいわ」
「私はドキドキしました…」
皇宮門へ向かう行列は途切れる事なく、午後の呼び込みも問題無さそうだ。
出口から出てくる人がまたひとり、出店に近付いて来る。珍しく男性だ。
「いらっしゃいませ!髪飾りですがピンを着けてタイにしても素敵ですよ!いかがですか?」
顔の半分程を覆ってしまう大きな黒縁の眼鏡を掛けた黒髪の男性は、アメリィを見て目を細めた。
「それを貰うよ」
「!?レッ…!?」
驚き目を見張るアメリィに、男性は自身の口元に人差し指を立てて「しー」と言った。
「ポールと呼んで」
「わ、私はメリーです」
「ん、メリー。髪飾りもスカートも素敵だね。かわいい」
横でピンときたアルメーヌはニヤリと笑う。
「髪飾りに合わせるお花なんですが、メリーはどうしても空色がいいと言っていて。どうですか?ポールさんも胸ポケットに空色の花を飾りませんか?」
レオポールはアメリィの後頭部に視線をやってから、「貰おうかな」とにっこり笑った。
真っ赤な顔のアメリィが首元にリボン飾りを着け、花も挿した。
「それと、こちらのお嬢さん少し借りても?」
「ええ!丁度お昼休憩なの。どうぞ」
真っ赤になるアメリィの肩をさっと抱いて、2人はお店から離れて行った。
「お嬢様、いいんですかい?」
ゼオンが天幕の陰から顔を半分出してくる。
「大丈夫、大丈夫。メリーの婚約者だから。お忍びで来たのね」
「っ、え、てぇと…今のが公爵様?」
「そうよ」
ゼオン一家が一瞬固まった。
「ポール、さん。驚きました」
「驚かそうと思ってたから。嬉しいよ」
「髪は?」
「ウィッグだよ」
レオポールがアメリィの肩を引き寄せて、入り乱れる人の波を器用に避ける。アメリィが「人混み歩くの上手ですね」と言うと、レオポールは少し遠い目で「前世で歩く機会が多くて…」と言った。
「ところでどちらへ?」
「中央広場だよ。メリーが熱心に推してたアレ、ギリギリ間に合ったから。一緒に見に行こう」
中央広場へ近付くと「わあぁぁ」っと凄い歓声が上がっている。
「これ以上近付くのは無理か。でも少し遠いけど十分見える。大きくして良かった」
歓声と共に移動して来たのは山車だった。
離れていても見上げる程に大きい山車。先頭に花を飾った牛が四頭繋がれ、ゆっくりゆっくり歩いている。騎士が進路を確保したり、後ろから押したりして山車が目の前を通り過ぎていく。
乗せられているのは妖精王を象った、生花で出来た人形だ。髪や目を葉や薄いグリーンの花で、肌や服には白い花で。頬や口にピンクの花が使われていてなんだか可愛らしい。足元は黄色、青、ピンク、赤、オレンジと色とりどりの花で埋め尽くされていた。
「メリー、ほらこの方がよく見える」
「わっ」
レオポールがアメリィを抱き上げた。
バランスを取る為にレオポールの頭にきゅっと抱きついて、再び視線を上げる。
「すごい……すごい、すごい!!」
花で出来た妖精王は、本物より親しみ易く優しげだ。花びら舞う中で、それは平和の象徴の様に皆の歓声を受け止めていた。
アメリィも口角がゆるゆると上がって夢中で見つめた。
「ア、や、メリー、ごめんちょっと…」
レオポールの声に視線を下げると、レオポールの顔が胸に半分くらい埋まってしまっていた。眼鏡も鼻下までズリ落ちてて、真っ赤な顔で視線がウロウロしている。
ここ数ヶ月で急激に育った胸が憎い。
「ごっ、ごごごめんなさい!!」
アメリィを下ろして眼鏡を直す。するとそのタイミングで通り過ぎた山車を追いかけていた人の波に押され、アメリィとレオポールが離れてしまう。
「あっ、メリー!」
「きゃ」
アメリィは人に押されて足がもつれた。
転ぶ、と思ったが、横にいた人が手を取って支えてくれる。
「大事ないか?」
「あ、ありがとうござい、ま…え?」
助けてくれた人は、綺麗なエメラルドグリーンの髪と目で。歳の頃はアメリィと同じくらい。髪は短く、下町の少年の様なラフな服装だった。耳の上に一輪、白い花が飾られていた。
その男はフッと口の端を上げて笑うとアメリィから手を離し、人混みに紛れて行った。
「メリー!!」
直ぐにレオポールがそばに来て、怪我が無いか確認する。
「大丈夫?…どうしたの?まさか痴漢でも…」
様子の変なアメリィを覗き込む。
「い、いま…」
「今?」
「アデリアス様がいた、かも…」
「えっ!?」
レオポールもアメリィの視線の先を追うが、そこは祭りに盛り上がる人ばかり。
「もし本当にあいつが来てたなら、大成功、って事なんじゃない?あいつの為のお祭りなんだからさ」
アメリィは何だか感極まって、目が潤んできた。
「ポールさん、ありがとうございます。このお祭りが出来たのは貴方のおかげです!」
ぎゅっと抱きつくとレオポールは優しく髪を撫でてくれる。
「お祭りも山車もメリーが何度も熱心に企画を出してくれたからだよ。…どうだった?あいつは楽しそうだった?」
「はい!耳に花を挿して、参加者みたいでした」
「じゃあ俺たちも楽しもう。この後どうする?」
「せっかく中央広場まで来たので兄達が担当の出店へ行こうと思います!」
レオポールはアメリィの手を取って歩き出す。
お祭りを楽しむ人達の笑顔は、この先の平和を予感させた。
***
お祭りは2日間共に大きなトラブルもなく、人々を大いに楽しませた。
山車は最初お焚き上げの予定であったが、2年前の帝都大火災で火への恐怖を克服出来ていない者が多く、変更された。
植物を思いのままに急成長させる魔法を持つザルツァンセン公爵が山車の花を枯らし、土を掘れる魔法を持つレオポール殿下が土に混ぜ込み、山車はその日のうちに土へと還った。
妖精の悪意の被害が大きい領地の者達が藁にも縋る思いでその土を持ち帰り、自分の畑に撒いてみた。
すると秋には豊作になった、との噂が流れるようになったとか。
攻略対象で魔法が使えないのはフェルヴェールだけ、との設定がありました。(あとザルツァンセンの息子)
ローザリアの秘密の扉を開けるのに、鍵として春の薔薇が必要で、レオポールがアメリィを助けに行く時、実はザルツァンセンが薔薇を咲かせたという話がありましたが、説明か長くなるのでカットしてしまいました。
こんな最後でザルツァンセンの魔法が登場です。
因みに騎士団長は火魔法使いの設定でした。全然使わなかったな…。
ありがとうございました。