第79話 〜深雪side〜 やっと、あなたに
冬の街は、音より先に光の気配を運んでくる。
高校三年の十二月。
吐く息は白く、空気は薄いガラスみたいに冷たかった。
私は白杖を右手に持ちながら、ゆっくりと繁華街を歩いていました。
見えていないわけじゃない。
けれど世界はいつも輪郭が淡く滲んでいて、光はほどけた糸みたいに広がってしまういます。
だから冬のイルミネーションは、私にとって少し特別でした。
街中に散ったシャンパンゴールドの光は、はっきりした形を持たないぶん、まるで雪が空中に浮かんでいるみたいに見える。
きれいだな、と思いました。
耳に届くのは、誰かの笑い声。
遠くで鳴るクリスマスソング。
コートの擦れる音。
屋台から漂う焼き菓子の甘い匂い。
世界は見えにくくても、ちゃんとそこにありました。
白杖の先が石畳を軽く叩くたび、私は少しずつ人波を抜けていく。
広場の近くまで来たときでした。
不意に、音が降ってきました。
ピアノ。
その瞬間、私は立ち止まりました。
『Merry Christmas Mr. Lawrence』
冬の夜に溶けていくような旋律でした。
静かで。
寂しくて。
なのにどうしてこんなにあたたかいんだろう。
胸の奥に積もっていた雪を、そっと撫でられるみたいな音でした。
私は音を辿るように歩き出します。
白杖より先に、心がその場所へ向かっていきました。
近づくにつれ、ピアノの音の向こうに、ひとりの女の子の輪郭が浮かび上がってくる。
アイボリーのコート。
揺れるパールの光。
冬のイルミネーションをまとったみたいに、やわらかな存在。
その姿を見た瞬間、胸が苦しくなるほど締めつけられました。
ずっと。
ずっと探していた気がした。
何度も夢に見た。
名前も知らないのに。
この人に会いたかった。
音が止む。
広場に拍手が広がる。
彼女が立ち上がり、去ろうとする。
行かなきゃ。
今を逃したら、もう二度と辿り着けない気がした。
わたしは白杖を握りしめ、一歩ずつ前へ進む。
白い息が夜へほどける。
光が滲む。
それでも、その人だけは不思議なくらい、はっきり見えた。
ようやく近くまで辿り着いたとき、彼女がこちらを振り向いた。
わたしは唇を震わせる。
ずっと胸の奥で凍っていた言葉が、やっと溶けていく。
「やっと会えました……」
その瞬間だけ、冬の街のすべての光が、 私たちのために降っている気がしました。
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作者です。
『スポンジ』を最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
『初期衝動』
私にとって初めての作品であったこの作品は、この言葉が一番当てはまる作品です。
お時間のある時で構いませんので、正直なコメント・レビューをいただけると勉強になります。
どうぞ、よろしいお願いいたします。
最後に、哲人、栞、深雪がそれぞれが28歳になった『スポンジ2』を書きましたので、読んでいただけると幸せです。
ありがとうございました。




