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4人の魔法使いの冒険  作者: 藤見倫
第3章:巻き起こせ、労働革命
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第109話:浮かぶ難破船

 ボロボロの船―――見た感じは完全に難破船―――が漂流しているのが見つかり、船が停止した。船の先頭側に乗組員が集まって来て、拡声器やら笛やらで呼び掛けている。乗客の俺らと同じタイミングで気付いたぐらいだ、レーダーとかは積んでないのだろう。


 乗組員たちから「船長」と呼ばれている立派な帽子の人が無線機のような物を取り出し、何やら話している。


【船が動きます。ご注意ください】


 と放送が入り、船がゆっくりと動き出した。前方やや右にある難破船に向かっている。


「何なのかしらね、あれ」


「さあ。あんまり良い予感はしないけどね」


「一応否定してもいい?」


「どうぞ」


 心のうちでどう思っていても、結果は変わらないからね。


「どっかから流れてきたのかしら?」


「どうだろ。少なくとも、最後にここを船が通ってからそんなに時間たってないはずだよ。1時にブラッキを出てエデュケインに向かうやつが、多分お寿司食べてる間にこの船とすれ違ってるはずだから」


「そっか。・・・え、じゃあ、10分とかそこらでアレが出て来たの?」


「そうなるね。さすがにサウスポートからブラッキに向かった船が気付かなかったってことは無いでしょ」


「じゃあ、何だろ・・・」


「色んな偶然が重なって、大昔に遭難した船が突然ポンと現れたとか」


「うーん・・・」


 釈然としてなさそうな反応。言った俺でさえ、ちょっと無理があると思ったぐらいだ。3人してウンウン唸っていると、船が難破船に接近し、停止。乗組員が4人乗り移った。中を調べるようだ。


「ま、ここは乗組員の人たちに任せて待とう。最悪、あまりに足止め食らうようだと脱出するけど」


 幸いにも、航路は基本的に島の外周に沿うので陸地が見えている。さほど遠くもない。


「明日には、スノーウィーンの職場に行かなきゃいけないのよね?」


「うん。行かなきゃ“企業活動妨害罪”で刑務所行きだからね」


「「え・・・?」」


「部長に直接言われたよ? これは、相当だよ。路頭に迷いたくなければ言いなりになるしかないってことだね」


 普通にやってて飛ばされることも珍しくないみたいだけどね。俺は部長に盾ついて飛ばされたけど。


「そんなのって・・・」


 “嫌なら辞めろ”が会社の常套句で、辞めても生活に困らない人にはそれが通用しない訳だが、なんとここエコノミアでは“嫌なら刑務所行け”になる。


「明るいうちには着きたいから、あんまり足止め食ってる訳にもいかないんだけど」


 どうも、調査に時間が掛かっているようだ。


「もう少し様子見る?」


「だね」


 しばらく難破船の方を眺めていたが、特に動きが見られないまま時間だけが過ぎていく。もう俺も乗り込みたい・・・。


 さすがにそんなことしたらもっと面倒なことになりそうなので、こっちに残ってる乗組員に聞いてみることにした。偉い人に聞くのが一番だ。船長のもとまで歩き、


「何か分かりました?」


「あ、いえ。・・・突入部隊からはまだ連絡がない状態で・・・もう少々お待ちください」


「ちなみに、途中下船させていただくことって、できますか? 急いでるんですけど」


「いえ、それはできません。確かに既に国境は越えていますが、入出国が同時にできる関所とは違い、出国の手続きしかしておりませんので、港に到着してからの入国手続きが必要です」


「そう、ですか・・・」


 俺はここから見えている陸地の方を杖で差し、


「もし、手続きせずにそこから陸に上がったらどうなりますか?」


「その場合は、不法入国となります。陸に向かう姿が見えましたら私からナチュレに通告しますし、下船時にいないことが判明してもその場で指名手配されます」


 マジか。それは参ったな。エコノミアでの刑務所行きを避けるためにナチュレで指名手配されたのでは、本末転倒だ。ただでさえ問題山積みのエコノミアをどうしようか頭を抱えてる真っ最中に、ナチュレまで相手にしてられない。


 自力での上陸を諦め、今度は難破船の方を杖で差した。


「僕らも、見に行っていいですか? じっと待ってるのも落ち着かないので」


「いえ、乗客を危険にさらす訳にはいきません」


 まあ、そうだろうな。


「既にナチュレの方に応援を要請しています。こちらは客船ですので、応援が到着しだい出発させてもらうことになってます」


 つまり、それ待ちか。


「ちなみに、勝手にあの船に乗り込んだらどうなりますか? 不法入国にはならないと思いますが」


「航行中におきまして、乗組員の指示を無視した場合も、処罰を科せられます」


 じゃあ不法入国と同じか。やはり待つしかないのか・・・。


「ところで、あれ、ちゃんと管理されてる船じゃなさそうですけど、民間人が船を出すことはできるんですか?」


「漁業者として登録されている者であれば、できます。それと、ごく一部ですが、貴族や政府の要人はプライベートシップが認められている場合もあります。ですが民間人が無断で船を出すことは禁止されています。密漁や不法入国をする不届き者はいますが」


「なるほど・・・。じゃあ、漁師か不届き者の船ということですかね」


 さすがに、貴族のプライベートシップには見えない。


「おそらくは」


 会話がそこで終わり、黙ったまま難破船の方を見ていると、


「こっちに来やがれ!」


 難破船の中から怒鳴り声が聞こえて来た。あれは、乗組員同士の会話じゃないよな・・・。不審に思ったのか、隣にいた船長もトランシーバーを取り出す。が、ザー音だけが響き反応がない。


 そして、難破船のデッキにぞろぞろと人が出て来た。見るからにガラの悪そうなのが多数と、首にナイフを突きつけられているこの船の乗組員4人。


「なんだ・・・! お前たちは・・・!」


 船長は驚愕の様子で、現れたガラの悪い連中に言葉を投げた。


「へっへっへ」


 1人、リーダー格の男が前に出て来る。


「この船に積んでる物、全部よこしな。そしたらコイツらは返してやる」


 要するに、この船がジャックされた訳か。わざわざ壊れた船まで準備して、ご苦労なことだ。昼食の間にこの船とすれ違ったであろう反対方面への船ではなく、この船にぶつかったことは不運としか言いようがない。


「くそ・・・よりにもよってこんな時に・・・!」


 ん・・・? 何かあるのか?


「ところが、“よりにもよって”じゃないんだな。 知ってんだぜ? この船に究極の名画が乗ってることは」


「な・・・なぜそれを・・・っ!!」


「へへへっ。裏には裏の情報網ってモンがあるんだよ。プライベートシップは狙われやすいってんで客船にしたみたいだが、残念だったな」


「く・・・!」


 どうやら、この船を狙って来たらしい。船長が、悲痛の表情を浮かべる。

 それでも、俺にとっては“よりにもよって”だな。偶然自分が乗った便で名画が運ばれていたために、この騒動に巻き込まれた。


「さ、コイツらを助けて欲しければ究極の名画を差し出すことだな」


 賊の手下たちが、乗組員たちの首にナイフを突きつけたまま数歩前進。


「くそっ・・・。だが、それを盗んでどうする。盗品であることは確実に知られるし、書い手はつかぬぞ」


「へへっ。善意の第三者って奴がいなくても、正当な金持ちにだって汚い手段を使う奴がいるんでさぁ。裏ルートなら直接販売。美術館にあったんじゃ独り占めできないだろう?」


 汚い手段を使う奴のどこが正当な金持ちなんだ。しかもその金は、不届き者の懐に入る。

 だが、愛好家には申し訳ないが、世界に1枚しかない美術品よりも、何千何万といる苦しむ人々の方が大切だ。彼らには、美術品を鑑賞する余裕なんて、経済的にも精神的にもないのだから。正直、その名画を差し出せば解放されるのであれば、そうしたい。


「お客様から預かった、大切な荷物だ。お前たちなどに、渡す訳にはいかない」


 当然、船長の立場からすればそうなるか。


「船長さん」


「は、はい」


 船長が、何かを期待しているかのような視線を向ける。俺たちがこの恰好をしているから、当然か。魔法使いにお任せあれ。


「乗っていた船を襲って来た不届き者をこらしめるのは、法律違反ですか?」


 船長の表情が明るくなる。


「い、いえ! ・・・ぜひ、お願いします・・・!」


「分りました。 2人とも、準備はいい?」


「もちろんよ」

「うん」


 花巻さんは後ろに回ってもらって、俺と高松さんの2人で前に出る。


「そういうことなら、ちょっと待ちな」


 声のした方を見ると、剣や弓を持っている人たちが近づいて来ていた。2人組と、後ろの方からもポツポツ来ている。


「3人だけ、それもみんな魔法使いじゃ、あの数相手では厳しいだろう」


 どうやら、手伝ってくれるらしい。“それもみんな魔法使いじゃ”の文言は気に入らないが。


「おや・・・君たちは・・・」


 先頭の男が顔を覗き込んできた。


「やっぱり、スターリー神殿の・・・」


 同業者ともなれば、覚えているか。


「後ろの連中は知らないが、僕ら2人はプレイヤーだ。君たちのことは一目置いているが、こう言った荒事では引けを取る訳にはいかないね」


 こっちが3人しかいないことは気にしてなさそうだ。この人も今2人だけだし、別行動を取ることも珍しくないのだろう。


「そうですか」


 悪いが、魔法使いも立派な戦闘タイプの1つだ。荒事だろうと、こちらも引けを取る訳にはいかない。


「なんだ? 賊にでも襲われたのか?」

「みてぇだな、なんかクルーが捕まってるし」

「はぁメンドっ、せっかくゆったり船旅しようと思ったのに」


 後ろの方にいた人たちも近づいて来た。全部で15人ぐらいか。


「へっへっへ、ちったぁ骨のありそうな奴らがいんじゃねぇか。プレイヤーかトレジャーハンターか知らねぇが、そういうことでイイんだな? 船長さんよぉ?」


「くっ・・・」


 俺に話しかけてきた男が今度は船長の方に向かった。


「いいんですね? あなたに止められれば、我々は何もできなくなるので」


「ええ・・・お願いします」


「では、・・・船長の許可が出た! 戦うぞ!」


「「「おおーーっ!」」」


 血の気の有りそうな連中が武器を持つ手を上げて叫んだ。


「へっへっへ・・・そうこなくっちゃな。だがいいのか? こっちには人質がいるんだぜ?」


「っ・・・」


 首元にナイフを突きつけられる乗組員を見て尻込みしてしまう面々。まずあれを何とかするか。


「人質の皆さん、すみません」


「え?」


 後で高松さんに怒られるのも、覚悟の上だ。俺は杖を横に振り、雷を飛ばした。


「「「がっ!」」」

「「「う゛う゛っ!」」」


「ちょっと!」


「人質が敵の手から離れたよ、行こう」


「あ、うん・・・」


 風魔法を使って敵の船に乗り移った。乗組員よりも美術品を優先したのは船長の意志だ。乗組員は命を賭して荷物を守らねばならないし、乗客の俺たちも船長には逆らえない。


「我々も続くぞ! まずは人質の救助だ!」


「「「おおーーっ!」」」


 他の人たちも続いて乗り込んで来た。


「くお・・・!」


 痺れて動けなくなっている面々を余所に、同じく痺れている乗組員に肩を貸した。


「好き勝手にゃさせねぇぞ!」


 船の中の方から、また敵が出て来た。ぞろぞろと、10人、いや20人ぐらいは居る。


「まだあんなにいたの・・・!?」


「手の空いてる者は敵を止めろ!」


「くそが、油断したか・・・。野郎ども! 迎え撃て!」


「「「うぉおーーーっ!!」」」


 痺れていた奴らも少しずつ動けるようになってきたが、何とか船の端の方まで辿り着き、人質にされていた乗組員たちを船に戻すことができた。


「ちぃっ! まあいい・・・目的は名画だ。数ではこっちが有利だ! 返り討ちにしてくれる!」


 確かに、このままでは劣勢だ。敵の1人1人もそこまで弱くなく、数で押されている。


「すみません、僕らは向こうに戻るので皆さんを休ませてあげてください」


「分かりました」


 船長と他の乗組員たちに、俺が痺れさせた乗組員を任せた。担架や医務室ぐらいあるだろう。


「花巻さんもここにいて良いけど、戦闘の方を気にかけるようにして」


「うん」


「よし、戻ろう」


「ええ」


 人質を運んで来たメンバーで、再び敵船に戻った。だが・・・、


「おらぁ!」


「くぅっ!」


 やはり、押されている。敵の人数がこっちの倍ぐらいだから、当然か。


「うぅおらぁっ!」


「サンダーランス」


「があっ!」


 バカみたいに大声で攻撃を仕掛けてくるのが救いだ。


「んっ!」


「うおっ、このアマ! 風魔法か!」


 高松さんも頑張っているようだ。


「死にやがれ!」


「っ! ・・・と、あぶね。今度はこっちのばガアアァァッ!」


 敵の攻撃を避けた味方が、別の敵に後ろからナイフで刺された。


「あ・・・くそっ!」


 悔しそうにデッキの床を殴りつける。ピンピンしているからプレイヤーのようだ。同時攻撃は厄介だ。端の方で手すりを背にして戦った方がいいか。幸いにして、真後ろには味方しかいない客船だ。


「余所見してんじゃねぇ!」


「っ」


 念には念を入れて、自分の周囲に雷を出した。


「のわあぁっ!」

「くぉ・・・っ!」


 本当に2人いるとはな。


「にゃろっ」


 片方がすぐに体勢を立て直して迫って来た。


「こっちだ」


「ぬおっ!」


 もう片方の手をつかんで盾にするように前に出した。


「くっ・・・」


「んっ」


「うおっ」


 足を止めた奴に向かって押し飛ばし、


「アイスソード」


「「がああっ!!」」


 氷の剣で刺すと、2人はその場で倒れた。まだ息はあるようだが、放置すればどうなるか分からない。だが、こっちは先を急いでいる。善良なエコノミア国民の命も懸かっているという心構えだ。金儲けのために客船を襲うような連中まで気にしている暇はない。


「はぁ、はぁ」


 気を付ければ何とかなるが、数的不利は厄介だな。


「なぁお嬢ちゃん、回復魔法が使えるんだろ? レイズデッドあるなら頼む!」


 さっき刺されて戦闘不能になった味方が、手すりに両手をかけて客船の方に残っている花巻さんに呼びかけた。


「えっと・・・」


<断って。まだ結構な人数が残ってるから、あっさりやられるような人に使うMPはないよ>


「その・・・」


 花巻さんは2~3秒ほど逡巡した後、


<ごめんね、大村君>


「レイズデッド」


 体が光で包まれたその人は、大きくガッツポーズ。


「ありがとう! 助かったよ!」


 仕方ない。復活したのなら今度はやられないように頑張ってもらうだけだ。


「ぐあっ!!」


 が、すぐさま後ろから刺され、


「あばよ」


「うわあああぁぁぁぁぁ!!」


 バシャァン。


 海に突き落とされた。


「あ・・・」


 花巻さんが、驚きと、怯えている様子で見ている。おそらく、味方を海に落とした奴と目が合っているはずだ。


「おい! あっちの船に回復係の女がいるぞ! 何人か乗り込んで、ついでに名画も探せ!」


「おう!」

「アイサー!」


 しまった。回復係の存在と、客船側に戦力がないことまでバレた。あいつ、MP無駄使いさせた上に余計なことを・・・!


「させないわ!」


 風魔法を使って移動したのか、すぐさま高松さんが飛び込んで来た。


「うおっ、何だ! 体が・・・!」


 また風魔法で、味方を海に落とした奴の体を浮かせ、


「ウィンドショット!」


「のわあぁっ!」


 バシャァン!


 斜め下、海に向かって飛ばした。


「高松さん、船に戻ってもらっていい?」


「ええ。思えばあっちが手薄になってたわね」


 高松さんが戻ったのを見届け、敵船のデッキの方に視線を戻した。浮かぶ難破船の上で戦いが繰り広げられていたのだが、


「止まりな! 正義の味方ども!」


「ん・・・? おい!!」


 ちょうど、味方が人質にされた。武器と思われる細長い槍が、足元に落ちている。


「放してっ!」


「ケッケッケ、放すもんかよ」


「くそっ・・・」


 味方たちが、次々と動きを止めていく。


「やっちまえ」


「へい」


「ぐあぁっ!」


 まず1人、倒れた。HPが残っているのかプレイヤーじゃないのか、かなり辛そうだ。


「ふん。女の人質1人で、軟弱な奴らだ」


 それには同感だが、人質を取られなくても、既に怪我を負っている人やしゃがみ込んでいる人もいた。敵の数も減らせているとは言え、厳しい状況だった。


 もう、面倒だ。味方陣営も限界が近づいているなら。


「オイ何をするつもりだ、コイツがどうなってもいいのか?」


 俺が杖を構えると、当然のことながらそんな言葉が飛んで来た。こっちにもまだ普通に戦える味方がいる。せっかくの人質をすぐには手放さないだろう。俺は船の手すりを背にしているから、視界には敵味方とも全員が入っている。杖の先に電気をつけると、ジリジリと鳴るのが聞こえた。


「テメェこれが見えねぇのか!」


 見えてるさ。


「エレクトリック・カーニバル」


「「「がああああああぁぁっ!!」」」

「きゃああああぁぁぁっ!!」


 電気を、辺り一帯にまき散らした。MPが180ぐらい減ったが、仕方ない。


「くっ・・・! まさか、味方ごと攻撃してくるとは・・・!!」


「あいつ、俺たちまで・・・!!」


 力が入らず立ち上がれない面々が、それぞれ思い思いの言葉を口にしながら渋い表情を浮かべている。


「高松さん来れる?」


「行けるけど・・・」


 さすがに、反応に困っているようだ。


「今のうちに敵を捕まえてしまおう」


 こんなこともあろうかと買って置いたロープを出した。適当な長さに火で切って足元にポトポト落としていった。


「メンタルヒール」


 MPが150回復した。


「ありがとう」


 高松さんと、客船の乗組員が2人乗り移って来て、敵を1人1人縛り始めた。


次回:祭りの後に

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