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曖昧なセイ  作者: Huyumi
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142.邪道を敷く

「どうしてこんなことに……」


 戦力の確認を行った後、安定の中庭で僕はヒカリと並び、武装した親衛隊副隊長のツバサ、新入りであるアレンにココロ、そしてシュバルツと対面していた。

 二対四だ。それも相当の手馴れ、現実的じゃない。


「アメが散々シュレーを煽るからでしょ」


 元々組んで戦ったことの無かったヒカリと組み、模擬戦をする予定はあったのだがその相手の中にシュバルツは居なかった。

 さっきまで着ていたメイド服の件に加え、殺す気で戦ったあの時でも結果的に力を抜いていたことに相当思うところがあったらしい……と今もなお油を注ぎ続けているヒカリは仰っている。半分以上キミに対する憤りだと思うのだけれど。


「合法的に女を殴れる機会を得れて嬉しいかこの野郎! 全然倫理には反しているからな!!」


「言ってろ」


 ふとももから短剣を抜き、遠いシュバルツの方へと何度もぶんぶん振り回し宣戦布告のように告げると彼はそう鼻で笑っただけだった。


「それでどうしますかな、アメさんや」


 自慢じゃないがこの面子だとココロ一人相手にするのですら僕には重たい。

 実力ではまだ上に立っているものの、潜在能力や手の内がばれている点ではだいぶ劣っている。気を引き締め、不測の事態に対応できなければココロとタイマンしても勝てる確率は怪しくなる。


「適当に」


 未だ作戦会議を続けている四人を遠くから見守り、ただ僕達は武具を構えてそれが終わるのを待った。

 事前にこの戦力差を覆せる何かを考えている……等無い。この絶望的な戦力差、この程度を意識して対応できないのであれば、僕とヒカリは肩を並べて竜に挑むなど考えたりしない。


「こちらの準備は整いました」


 どこか申し訳無さそうにツバサがその旨を告げてくる、如何に効率よく僕達を抑えられるか算段が立ったのだろう。

 一見して気の優しく、少女である僕達に暴力など振るう想像もつかない男だがそこは腐っても親衛隊副隊長。ヒカリ相手に両刃剣で立ち回る戦闘力に、人をよく見て把握した状況から最適解を導き出せる頭脳、あとは立場や容姿に関わらず無慈悲な暴力を振るえる心意気を僕は良く知っている。


「なら、行くわね」


 そう告げ駆け出すヒカリに遅れて続く僕。

 最大戦力であるヒカリにどう対応してくるのかを見極め、そこから後手ではあるが突破口を探す態勢だ。


《貫くは無双の境地》


 牽制目的ではなく、単純に僕達が扱うそれより出力の劣る雷の一撃。展開された魔法陣が収納されるより早く届いたシュバルツの閃電をヒカリは抜刀している剣に魔力で流れを作りいとも簡単に振り払い、次いで先陣を切ってきたココロに振り下ろす。


「――相も変わらず、重いですねぇっ!」


 ヒカリは片手でロングソードを振り下ろすのに対して、ココロは両手で刀を扱っている。

 にもかかわらずココロは優勢どころか、何とか均衡を保ち押し切られ無いよう堪えるのが限界で。

 体格に大差は無い、いや寧ろココロの方が若干ながらも優れていると言って良いだろう。ただ重心の移動、腕に入れる力の使い方、足腰の安定、魔力による身体強化の効率化。こうした細かい要素全てで、体格、両手持ち。ヒカリはこの二つを超えて先へ進もうとしている。


「そして速い。けれど知っていれば避けられぬ速さでは、無い」


 ココロが引き受けた初撃の隙を利用し、アレンが手の届く範囲まで潜り込む。

 対してヒカリは呼吸の合間をココロとは意図しずらしたタイミングで鍔迫り合う剣を引き剥がし、次の呼吸が訪れる前に薙ごうとしていた剣を当初の目標ではなくアレンに切り替えて振り下ろす。

 避けられ、慌てて肉薄するアレンから身を翻し。


「まぁこうなるな。問題はここからどうなるか、だが」


 躊躇い無く慕う主の肌を、シュバルツはヒカリが逃げた先で切り裂いていた。

 まだ決定的ではない僅かなダメージ。出血も問題なくすぐに収まるだろう、その傷を塞ぐ暇を相手が与えてくれるかは別だが。


「悪いな。アメをヒカリ様の場所へは行かせない」


 あの群れに割って入り干渉しようとしたところで、ツバサが僕を止めに両刃剣を横に薙ぐ。


「なるほど、そういう作戦で」


 慌てて身を屈め避け、前ではなく後ろへ避けると僕が居た場所へ本来剣の柄がある箇所の刃で地に触れぬギリギリまで剣戟が軌跡を残す。

 本来であれば前に転がりつつ自身の間合いに入りたかったが相手もそんな欲求は十分承知だろう。疲労も油断もまだない開戦直後、蹴り飛ばすなり魔法を咄嗟に構築する用意なり、あるいは両刃剣を手放し僕を組み伏せる戦術は頭の中にあったはずだ。

 リスクを取らなかった分、ヒカリとの距離が取られてしまった。単純に最も戦力で優れるツバサで僕をさっさと戦闘不能に持ち込み、あとは四人でヒカリを倒す、そんなところか。


「――っ」


 一度袈裟切りを短剣で凌ぎ、本来ならば次の攻撃へと移る時間が掛かるはずの斬撃ももう片方の刃で行われ、何とか耳の僅か数ミリ隣を横切る風を切る音に心臓を冷やしながら、短剣を突き出すと勢いよく撒かれ上へ飛びかねない感覚が出るほど巧みに両刃剣を回転させてあしらわれる。

 まるで双剣の連撃に、剣による巻き上げを味わったような感覚だ。おそらく武器特有の器用貧乏さを持ち前の技術力で器用万能に昇華しているのだろう。

 相も変わらず申し訳無さを含めながら優しい顔でこちらを見るツバサに、性格的にも技術的にも引き出しの底が見えず竦みそうになる体をどうにか奮い立たせる。


 ヒカリを見るが何とか押し切られぬよう上手く三人相手に立ち回れている。

 目立った傷もないし、今すぐに倒されるような事態はないだろうが、アレンとココロの息があった連携に、シュバルツにより慕うが故に予測できる行動に対応できる動きが合わさり、あちらから突破口を作ることは期待できそうにない。


 僕から、動くか。

 正面からツバサに立ち向かえど、まだ見えていない技術に対応できなければ一瞬で意識まで奪われる可能性が十二分に存在する。

 ならば。

 なればこそ。正道を往くのではなく、邪道一本で道を作るべし。


「させない」


 一歩ヒカリの方へ踏み出せば僕の動きに気づき、二歩踏み出す頃には刃が届く距離で。

 振るわれた刃に対し短剣で身を守り、先と同様に反撃に巻き上げられそうになる防御に身を委ねる。

 宙を舞う僕の得物と、それを追うように上へと浮く僕の右腕。


「ヒカリっ!!」


 その右腕から魔道具を展開し、左腕は精一杯の魔力を込めて両刃剣の攻撃を受け止めて、僕は四名の塊へと向かいチェーンを伸ばした。

 僕の意思は届いた、ヒカリに鎖と共に。


 まるで意味のわからない行動に戸惑う相手四名を置き去りにしつつ、僕は地を蹴り体を浮かせる。

 ヒカリは全力を持って腕に巻きつけた鎖で僕を引き寄せ、魔道具の伸縮も相まってだいぶ傷みを伴うだろうが顔一つ歪めず僕を手元まで運んで見せた。

 魔道具を収納し、残ったのは戸惑う四名と、変わった位置関係、それと僕に乗っている運動エネルギーだけだ。


「そんな無茶で――」


「――道理を押し通すっ!」


 標的はココロ。狙われたからか、それとも付き合いが長いからか咄嗟に反応し刀を横に僕の物凄く勢いの付いた(・・・・・・・・・)蹴りを防ぐ。

 もはや調整など難しいので構わずその箇所を蹴り上げ、魔力で保護した足は靴を断てど骨までは断てず、まともに受け止めたココロは宙に蹴り飛ばされる。


「お前らしいな」


 地に足をつける。半分切られた足は痛い、でも動くから問題はない。

 何が起きたのかをようやく把握できたアレンとシュバルツに、ヒカリの気配が既に無い事を確認しつつ僕は近寄ってくる二人よりも早く宙で無防備なココロにチェーンを巻きつけて手元へ引き寄せる。

 引き寄せられながらも僕の血が付いた刀を躊躇いも無く振ってくるココロの攻撃を、上体を逸らすことで避けながら魔道具の解除と共にシュバルツへ蹴り飛ばす。

 飛んでくるココロの体を受け止めたのは優しさか、それとも僕へと肉薄する勢いが強すぎて避けようが無かったのか。何にせよ一人残ったアレンの初撃を往なすものの、流れるような追撃、当身をモロに食らい咄嗟に自ら地を蹴り距離を離す。


「こうして拳を交えるのも久しいな」


「……そう、ですね。た、たまには戦い、ますけど、あの頃と比べたら」


 新しい経験を増やすために様々な人を中心に相手する親衛隊の日々、それと比較する奴隷時代散々体に技術を叩き込まれた日々を思い返しつつ、体の状態を確認。

 ……だいぶ酷い有様だ。去り際ツバサの一撃を受けた左腕は裂傷には至っていないものの魔力装甲を貫き打ち身になっているし、ヒカリに引き寄せられた体の負荷も少しある。左足は刀傷に、今アレンに行われた当身は破壊魔法が込められていたようで単純なそれより全身へのダメージが大きい。

 再生を行う時間は与えられないだろうし、使った魔力もそれなりだ。長くは保てないだろう。

 間に合えばいいなぁ。そんな淡い期待を抱きつつ、僕はまだ地面に転がり体勢を戻せていないココロとシュバルツに視線をやり、体を横にして右半身を前に左脚を主軸、腰に左腕を右手は胸より少し高く構える。

 同じ構えを取るアレンに奇遇ですね、とか流派が同じなのだから当たり前だとセルフツッコミを入れながら、転がっている二人が体勢を整える前にこちらから距離を詰める。


「――おまたせ」


 これからギリギリの戦いを、そう意気込んでいた僕達を一蹴するかの如くヒカリが後ろから現れ、腹部に深い傷跡を残しながらアレンを僕から引き剥がし戦闘に持ち込んでいた。動揺し後ろを見るとツバサは無数の傷に血塗れで倒れながらこちらを見ており、合った視線は戦闘意欲が無い事を示していた。

 なるほど、捨て身で彼を倒して、さっさとこちらに加勢したのか……にしても速過ぎるし、やり過ぎではないだろうか。


「早くっ! アレンさんがやられる前に、私を蹴り飛ばしてくださいっ!」


「い、いや……」


 なにやら怪しい会話がこちらまで聞こえ、視線を向けるとシュバルツの上に乗って体を起こしたココロがそんなことを彼に言っていた。

 僕が蹴飛ばした時お互いを上下を交代しながら転がって行ったが、最終的にはココロが上になった時に止まったのだろう。少し彼女の方が早く態勢を整えられたようだ。


「なんだっていいですっ、あの人に、あの人達に勝つためなら形振りなんて構ってられない! 早く!!」


「……後で文句を言うなよ」


 諦めたようにシュバルツはそう言って、ココロと足の裏を合わせて横になった状態で強く蹴りだす。

 奇策には、奇策を、か。発想も、手段自体も悪くはないのだが、如何せん状況が悪い。勢い良くこちらへ飛んできたココロは宙で回転しながら、まずは片手で持つ鞘の底でこちらを殴ろうと一振り。飛んでいる速度と間合いを計算し少し後ろへ跳び避ければ、二手目にして最終の攻撃、本命である刀がまともに受けてしまえば死にかねない勢いで振られる。

 これが地に足を付けている状態ならば間合いをずらす等、調整と読み合いの世界になっただろうに残念ながらココロは人間大砲の最中。僕は先ほどとは違いあえて半身分踏み込んで刀を振る左腕そのものを握り、巴投げの要領で体を後ろへ倒しながら傷ついていない右脚で蹴り飛ばす。


「まぁこうなりますよねぇー」


 ココロ自身オチは見えていたのか、そんな気の抜けたことを呟きながらシュバルツが蹴り飛ばした勢い、そしてそれを利用した僕の投げで加速した自身の体が建物へ衝突する勢いを少しでも抑えようと刀を手放して受身の体勢を整えていた。


「もう勝負は決まったようなものだがな」


 説明、あるいは説得する時間が存在しない事を知り、仕方無しにココロを蹴り飛ばしたシュバルツは諦めたように短剣二本を構えてこちらへ近寄ってくる。

 ココロ、これは後でお説教かなぁと人事に思いつつ、僕は短剣を手放し得物の無い無手で迎え撃つ。

 右手で繰り出された斬撃を左手で受け流し、左手で切り上げられた攻撃を捌ききれず下から上へと刃が腕を貫くのを見て、痛みに歯を食いしばりシュバルツが傷を広げようとする前に刃を抜き去り血液を散らしながら首元を拳で狙う。再び薙ぎ払われ傷つこうとした右腕を予め想定していたように引きつつ、体の重心を強く前に押し出しながら肘を腹部にめり込ませ破壊魔法を送る。


「……短剣相手でもやればできるじゃないか」


「捨て身かつ意表をつければ、だけど。どちらかでも失敗したら無理」


 致死性は含めなかったものの、それなりの損傷をしたようで肘鉄が入った部分を摩るシュバルツ。その首元には長剣の刃。


「私達の勝ちね」


「はい」


 ツバサは何とか座るまで回復したものの重傷、ヒカリがここに居るということはアレンも似たようなものだろう。

 ココロは僕の遠い背後で今地面に落ちた音がしたし、大した傷を負っていなくとも距離は遠く刀も手元にない。シュバルツは比較的軽症だが、二人掛りとなれば一瞬で片が付く。僕もヒカリもだいぶ傷が酷いが、状況を鑑みればこの試合は勝ちで良いだろう。


「はふぅーやればできるものだね」


 足の痛みに堪えかね、勢い良く腰を下ろしたら今度は貫通している右腕の傷が痛み何をしているのだろうと後悔。流れの速い戦闘が終わり、ようやく傷を癒すことに魔力を費やせることに感謝だ。


「あの作戦は短い会話で決まったものなのですか?」


「いえ、全てアドリブよ」


 共に刃に付いた血を払い納刀する主従。僕の飛んで行った短剣はどこだろう。


「僕達ができることは最大戦力であるヒカリを暴れさせ、戦力で劣る僕が時間を稼ぐ。あとはそっちの作戦次第だったけど、まぁそこまで選択肢はないよねって。だから適当にアドリブでも何とかなる」


「その理論を成立させるための第一手があの奇策……元々用意してある戦術の一つですか?」


「いえ?」


「全然?」


 シュバルツは僕達の言葉を聞いて一つ溜息を漏らし。


「なるほど。それが二人並ぶ強さの秘訣、ですか」


 そんな意味のわからないことを呟いて空を仰いだ。



- 邪道を敷く 終わり -

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