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江の島7wars  作者: 浅野エミイ


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四、保健室の女王様


「先生! 今度は弁天様探しましょうっ!」

「はぁ? なんだよ、授業終わって呼び止めたと思ったら……」

 昼休み。ちょうど前の授業が公民だったので、俺と隼真は授業終わりの岩屋を取っ捕まえてお願いをしていた。

 なぜ弁天様……弁財天を探してほしいかというと、彼女こそが七福神の紅一点だからだ。それ以外の理由はない。

 前回の戦いでわかったことがいくつかある。一ノ瀬や二前は自分の影……つまりヤンキー集団を使って攻撃を仕組むタイプ。だが、三ヶ岳は違った。ひとりの人間を乗っ取り、攻撃を仕掛けてくる。これは結構厄介だ。しかも、先の戦いでは毘沙門天の生まれ変わりである八幡先輩を乗っ取っていたからな。七福神の誰かの身体を乗っ取られてしまったら、封印することができなくなってしまう。それに……。

「最大の問題は『招福』ですよ!」

「そうそう! 七福神って、男ばっかだろ? ってことは、これからも誰かが犠牲になって、同性にキスしなきゃ気を取り戻せなくなるってことだ! オレたちには大問題なんですよっ!」

「あー……くだらね」

「くだらなくないっ!」

 声が重なると、岩屋はぷっと笑った。

「さすが幼なじみ、シンクロ率高けぇなぁ」

「はぐらかさないでくださいっ! 『招福』のせいで、俺は、俺は……あああっ!」

「オレだって! とんだ巻き込み事故だよ! 最初から航太がキスしてれば、ファーストキスは女の子に取っておけたのに……」

「おい! それじゃ、俺が初めから先輩にキスしておけばよかったってこと? 俺だって嫌だったよ! なんであんなピアスだらけのクレイジーヤンキーにキスなんてっ!」

「お前ら、勝手にケンカするのはいいけど、みんな見てるぞ?」

「あ」

 気がついたらクラスメイトや授業を終えた先生が、俺たちを見ていた。こんな話、他人に聞かれただけで死ねるっ!

「と、ともかく、次の七福神は弁財天でお願いします」

 俺がぼそっと言うと、岩屋は頭をかいた。

「言ったと思うが、七福神は自然に集まってくるんだよ。この場合、最初に覚醒したお前の周りだな。だから、次に誰が見つかるかはわからねぇ」

「そんな!」

 今度は隼真が岩屋の腕をつかむ。それをムッとしながら離させると、岩屋は冷たく俺たちに言った。

「それに、弁財天が女って保証はないからな? 天女が俺だったんだから」

「あ……」

 その答えを聞いた俺たちは、その場にがっくりと崩れ落ちる。

「ふん」

 岩屋はそのまま鼻でせせら笑うと、職員室へ帰ってしまった。

「……大丈夫?」

「大丈夫じゃないっ!」

 また声をハモらせてうしろを向くと、そこには八幡先輩がいた。

「や、八幡先輩? なんでここに……」

「そうだよ、ここ、一年の廊下ですよ?」

「この間、キミたちが僕を助けてくれたんだよね。お礼……したいんだけど」

「ひっ! お、お礼参り?」

 隼真は俺のうしろに隠れる。俺だって怖いわ! こんな細くて白い粉やってそうな病弱っぽい顔でこっちを見られると。

「いや……普通にお昼ごちそうするから……屋上行こう」

「お、お昼ですか?」

 意外な申し出に、俺もびっくりする。でもこの先輩、ピアスジャラジャラだとか、ひょろひょろしてるとか、そういうことを抜きにして、目の下のくまがなければ、そこそこイケメンだとは思うんだよな。

なんか色々損してそうな先輩だ。そんな俺の考えは、ほぼ当たっていた。


「うわ、おいしそう!」

 さっきまで怯えていた隼真だが、屋上に出てお弁当……というか、重箱を見せられると、ころっと態度を変えた。

 おいなりさんに、巻き寿司、サンドイッチ、おにぎり。主食だけでもこれだけのバージョンがある。おかずの種類はもっとだ。ウィンナーに唐揚げ、ミニハンバーグに卵焼き。サラダはポテトと中華風春雨の二種類。パプリカのおかか和えなど、野菜もしっかり入っている。栄養バランスもよさそうだ。

「先輩、これってお母さんが作ったんですか?」

「ううん、僕が作った……普段はあんまり作らないけど、料理は得意」

 意外な特技だ。でも、こんな栄養バッチリなお弁当を食べてるなら、不健康そうな顔にはならないと思うんだけど……。

「先輩、あんまり作らないって、自分のは?」

「僕、食事に興味ないんだ。ゼリーとかポテチでいい」

 そこか。だから不健康そうなんだ。やっぱり八幡先輩は損してる。会話はまだ少ししかしていないけど、浜辺で助けた年下の俺たちにここまでしてくれるんだから、なんていうか……礼儀正しいっていうか、義理堅い人だし、怖いところなんてない。見た目がちょっとなだけだ。

 ホッとした俺は、お弁当をいただきながら、何気なく言った。

「先輩、クラスの人たちが『さん』づけしてたから、てっきり怖い人だと思ってましたよ」

 隼真もおいなりさんを頬張りながら大きくうなずく。

「そうそう! 他校の生徒を病院送りにしたとか噂されてたし……最初はすごくビビってたんですよ?」

「あ、それは本当だけど……」

「え」

 つまんでいた唐揚げがぽろっと落ちそうになる。

「たまにケンカ売られるから、仕方なく……」

 し、仕方なくで病院送りしちゃうのか……。この先輩、いい人だけど、闇が深い……深すぎるっ!

「で、ちょっとふたりに聞きたいんだけど」

「な、なんですか?」

 隼真の声が裏返る。おいしくお弁当を食べていたのに、やっぱり狂犬だとわかったことで、また少し緊張したようだ。

「この間……なんで僕は浜辺に倒れてたの?」

 俺と隼真は互いの顔を見合わせた。この先輩にはどこまで話していいんだろう。岩屋には『なんか聞かれたら全部話せ』と言われている。一応この人も七福神のひとり、毘沙門天の生まれ変わりだ。五頭龍との戦いに参加してもらわないといけないし、きっと戦力になる強い人だと思う。でも、なんて切り出せばいい? 隼真もそれを気にしているんだろう。どちらも口をつぐんでしまう。

無言になると、先輩はぼそっと言った。

「記憶はないけど、もしかしてキミたち、僕にケンカ売った? ……それで勝って、負けた僕が記憶をごっそり失ったとか」

 先輩の表情は下を向いているからわからない。ただ、ずももも……と暗い闇のオーラが漂って来た……気がする。

「もしそうだとしたら……僕、ケンカに負けたってことだよね? それなのに、『助けてもらった』なんてごちそうを振りまいて……」

「え、い、いや、違うんです!」

「ケンカじゃありません! 先輩は操られていてっ! あっ」

「操られて……?」

「バカ、隼真!」

「悪ぃ、口が滑った」

 こうなったらちゃんと説明するしかない。最初からそういうように、岩屋からも言われていたんだし。

 俺はこほんと咳払いをすると、話し始める。

「先輩は……毘沙門天の生まれ変わりなんですよ」

「……毘沙門天……って、七福神の?」

「はい」

 俺は、隼真に説明したときと同じように、先輩に話をする。五頭龍を封印できるのは、天女ではなく、俺たち七福神だと。

 説明し終わったが、八幡先輩はただ首を傾げるだけだ。

「……すみません、意味、わかりませんよね」

「気持ちはわかりますよ! オレだって、最初は信じられなかったし……」

「いや、そうじゃなくて……僕には入れ墨も、『宝具』ってものもないよ?」

 再び俺と隼真は顔を見合わせる。確かに。

 岩屋と戦っていたときは、宝棒を使っていたけど、あれは空中から取り出したものだ。俺たちみたいに、普段使っているものではない。

それに入れ墨も。岩屋は前に『七福神が転生した先は、天女の力か、同じ七福神の力を流し込むことによって覚醒する』と言っていた。俺は首筋を一ノ瀬に噛まれ、そこに天女の力を流された。だから首筋に『恵』という入れ墨がある。隼真もそうだ。手首に『布』の入れ墨がある。だが、八幡先輩には、俺が唇から……というとなんだか嫌だが、そこから気を吹き込んだんだ。岩屋と同じように、気を入れたところに入れ墨ができるなら、口辺りにあるはず。しかし、八幡先輩の身体に、入れ墨は見えない。

「うーん……だったら入れ墨は、先輩の見えないところにあるとか?」

「宝具は宝棒だったので、それっぽい武器を使ったことは?」

 俺と隼真はずいっと先輩に寄り、質問する。

「身体はそんなに見ないからわからないけど……宝具だったら、もしかしてこれかな」

 先輩が取り出したのは、小さなフォークだった。

「こ、これが宝具……? なんでこれだと思ったんですか?」

 たずねると、先輩はフォークの柄の先の部分を指した。

「今までここに、黒い石はなかった。キミたちに助けてもらった後、気づいたんだ」

「でも、なんでフォーク……?」

 隼真が聞くと、八幡先輩は黒い回答をした。

「これが武器だなんて、誰も気づかないでしょ? こっそりポケットに忍ばせておくんだ。それで、相手が油断したとき、これで目を……」

「あー、わかりました、わかりましたっ! 多分、これが宝具で間違いないっス!」

 隼真はコクコクうなずきながら、肯定する。俺も多分、これが宝具で間違いないと思う。

岩屋の宝具が羽衣なのは天女だからだろうけど、俺の宝具は、自身も使っていて、恵比寿

様も持っている釣り竿だし、隼真の宝具は普段から愛用しているリュック。布袋様の持っているのもリュックではないが袋だ。そう考えると、先輩の持っているフォーク自体は小さいけれど、宝棒と形は似ているし、これの可能性は高い。俺たちの持っている珠もついている。

 でも、入れ墨はどこにあるんだ? 毘沙門天だったら『毘』という字が身体にあるはずだ。

「どこかで調べられればいいんだけど……」

 俺がぼそっとつぶやくと、八幡先輩は立ち上がった。

「保健室……あそこなら脱いでも大丈夫じゃないかな」


 お弁当をすべて平らげると、先輩とともに保健室に向かう。先輩はそこで身体に入れ墨がないか見て欲しいと言ってくれたけど、ここには『女王様』がいる。見た目は茶色いロングヘアの美女だが、中身は岩屋と同じくらいの腹黒。そんな彼女にどんな言い訳をすればいいのか、俺には皆目見当もつかない。

 なのに八幡先輩は、堂々と保健室の扉をノックした。

「レイちゃん、いる?」

「あら、俐駆瑛くんじゃない。どうかしたのかしら~?」

 ふわふわな髪に、胸元にどうしても目が行ってしまうセクシーなブラウス。それにマニアックな白衣。保健医・松葉(まつば)伶子(れいこ)先生は、この私立鎌倉男子高等学校の大人気女神様兼女王様だ。女神は説明しなくてもわかるだろうが、うちの男子高唯一の美人保健医というところ。見た目も麗しいし、話し方も柔らかく、男子たちから崇拝されている。その反面、女王様と言われているのは……。

「俐駆瑛くん、ちょうど暇していたのよねぇ~。よかったら、足置きにでもなってくれないかしら~?」

 ……こういうところだ。唯一の女性教員。しかし、その実態はドS。多少のケガは唾をつけておけば治ると笑う、塩対応の女王様なのだ。ただし、お気に入りの生徒にはもっと他のことを要求する。八幡先輩に言ったように、足置きになれとか、雑巾になれとか、サンドバックになれとか……。はぁ、説明しているうちに、悲しくなってきた。それでも教育委員会に苦情が入らないのは、伶子先生のシンパが教職員にもいるかららしい。それが嘘か本当かは知らないが。

「レイちゃん、足置きはあとでやる。その前に、このふたりに僕の身体をチェックしてもらいたいんだ」

「……身体をチェック? あら、新しい遊び? 私も混ぜて欲しいわぁ~」

「せ、先生、これはSMプレイでもなんでもなくて……」

「どこをチェックすればいいの? 私がしてあげるわよ? ねぇ、俐駆瑛くん?」

「レイちゃん……」

「だ、ダメです! これは俺らの仕事なんですからっ!」

「あらぁ、一年生くんに怒られちゃったぁ~。私がしちゃいけないことなの~? 俐駆瑛くんは私のモノなのに~……」

 まずい、完全に誤解されている。先輩に予想通り『毘』の入れ墨があったら、教職員的に報告する義務があるかもしれない。だから、どうしてもこれは俺たちがやらないといけないことなんだ。

「センセ、ごめん。ちょっとだけオレたちだけにして?」

 隼真が両手を合わせて伶子先生にお願いする。すると、逆に彼女から提案を受けた。

「ふふっ、それなら……終わった後に先生とも遊んでね? や・く・そ・く♪」

「ぐふっ! は、はいっ!」

 伶子先生はそれだけ言い残すと、一旦保健室を出てくれた。

しかし隼真のやつ、完全に先生の色気にやられてるな。鼻をおさえてるってことは、まさか……。

「お前、鼻血……」

「う、うるせぇ! いいだろ! センセの色気を目の前にして、鼻血を出さねーほうがおかしい! 要するに、お前がおかしいっ!」

「おかしくないよ。俺だって先生はきれいで美人だって思ってるよ? でも、それより気にならない?」

「なにが?」

「先生と八幡先輩の関係、とか」

 俺がじっと見つめると、先輩はぼそっとつぶやいた。

「……別に変な関係じゃないよ。ただ、あの人、僕の先輩だから」

「先輩ッスか? 伶子センセ、八幡先輩よりだいぶ年上だと思うんだけど」

 隼真が不思議そうにしても、八幡先輩は特に何も言わない。……クールなのか、それとも言えないような関係?

 俺が変な妄想でドキドキしていると、八幡先輩はおもむろに服を脱ぎ始めた。

「なっ! せ、先輩?」

「ん? 身体を見るんでしょ?」

「そ、それはそうなんですけど……」

 だからといって、パンツまで脱ぐことはないだろっ! なに楽しくて、黒のボクサー……いや、生尻なんて見なきゃいけないんだっ! ……と思ったが、先輩、ナイスだ。ナイスって全裸の男にいうことじゃないが、パンツまで脱がなきゃ絶対気づかなかったから。

「……どうかした?」

 先輩がこちらを振り返る。隼真も気づいたらしく、口を「あ」と開けている。

「先輩、鏡を見てください!」

 保健室にある姿見を先輩に向ける。先輩は、鏡に尻を向けた状態で振り返った。

「これ? 入れ墨って」

 先輩の尻に刻まれていたのは、まさしく『毘』の文字。やはり先輩は毘沙門天の生まれ変わりだ。

「まさか尻にあるとはな……」

 隼真がじーっと見つめていると、八幡先輩が不思議そうに言った。

「……瀧って、男の尻、好きなの?」

「い、いえ! まさかっ!」

 パッと先輩から離れる、隼真。でも、これで証明された。先輩も七福神のひとりだ。

「先輩がいれば、戦力にもなるはずだよ」

 俺がぼそりというと、隼真も意気揚々と先輩の手を握る。

「先輩! 先輩も一緒に、戦ってくれますよね!」

 だが、先輩はそんな隼真の手を、軽く払った。

「……え、嫌だ」

「そんな! なんでですか?」

「眠いし、だるい……」

 その言葉に、俺は思わず絶句した。初めて先輩と会ったとき。あのときは三ヶ岳に身体を乗っ取られていたから、無気力な人だと思ったんだ。岩屋いわく、龍は夜型だから。でも、この人は龍に身体を乗っ取られる前から、無気力系男子だったんだ! よく考えればわかることだ。ここ数日でクラスメイトの評価が変わるわけがない。先輩は元からよくサボってたんだ。だから出席日数も足りなかった。なんてこった! これが毘沙門天の生まれ変わりだなんて。

 そりゃ、俺だってこんな意味の分からない五頭龍退治なんてやりたくない。けど、俺たちがやらないと、江ノ島が沈むという。自分の住んでいる島が、愛する島がなくなるなんて、耐えられない。だから、やりたくなくてもやるしかない。

 隼真は正義の味方の自分に酔っている。それに、怖がりながらも楽しんでいる節がある。

でも、先輩は?

「先輩、江ノ島に思い入れは? 俺たち七福神が立ち上がらないと、島は沈んでしまうんです!」

「僕は江ノ島に住んでるわけじゃないから……まぁ、いいところだし、なくなったら寂しいけど、理由なく戦うのはちょっとね」

「正義の味方になりたくはないんですか!」

 今度は隼真が声を荒げる。それでも八幡先輩のテンションは低いままだ。

「……別に」

 ダメだ、こりゃ。こうなったらまた敵に出てきてもらって、否応なしにも戦ってもらうしかないのか? そんな無理やりな形で巻き込んでいいのだろうか。

 うーんと頭を捻っていると、トントンとノックが聞こえた。

「伶子先生、戻ってきたのかな」

 ガラッと扉が開くと、そこに立っていたのは岩屋だった。

「おい、八幡! お前まだ身体乗っ取られてんのか?」

「え……? 何の話?」

 全裸になっているところ、突然入って来た教育実習生に、ちょっとだけ驚いた様子の八幡先輩。『ちょっとだけ』とつけたのは、しばらく先輩を見ていて気づいたんだけど、この人、喜怒哀楽がわかりづらいというか、そういう感情が薄いみたいだからだ。

「岩屋先生、八幡先輩はもう大丈夫そうですよ? オレたちを襲ったりしないし、入れ墨も確認しました」

「そうなのか? だとしたらこれはどういうことなんだ」

「なにかあったんですか? ……あ」

 岩屋は持っていた、龍を感知できるピンクの珠を俺らに見せる。珠は光っていて、『三』という数字が浮かんでいる。

「『三』って、まだこの辺に三ヶ岳がいるってこと?」

 隼真の問いかけに、岩屋はうなずく。でも、もう八幡先輩は白だ。ということは、校内の誰かの身体を、また三ヶ岳が乗っ取ってるのか? だとしたら、今度は誰だ。

「……とりあえず、服着ていい?」

 こんなときでも八幡先輩はマイペースだ。それも、彼は五頭龍退治にも封印にも興味がないからなんだ。

 着替え終わると、伶子先生も戻ってくる。

「あら~、岩屋先生もいらっしゃってたのね? 男の子四人で何をしてたのかしら~?」

「いえ、私はそろそろ授業なので、うちのクラスのふたりを迎えに来ただけですよ」

 いつも『お前』とか、ともかく口の悪い岩屋が『私』? 大人の社会って怖い……。いや、豹変する岩屋が怖いのか。

「さ、君たち、行こう。ちゃんと授業の用意をしなさい」

「こわっ」

「しっ!」

 つぶやく隼真に、俺は人差し指を唇の前に置く。岩屋に聞こえてたら、あとで何をされるか。

 保健室から出ると、岩屋はもう一度珠を見た。

「……反応してるな。八幡が乗っ取られていないなら、もしかして……」

「伶子センセが三ヶ岳ってこと?」

「静かにしろ、聞こえるだろ。しかし……可能性はあるな」

 俺たち三人は、そろっとドアを開けて、隙間から八幡先輩と伶子先生の様子をのぞき見る。

「それじゃあ、俐駆瑛くん。さっき言った通り、足置きになって?」

「……レイちゃんがそれでいいなら」

 八幡先輩は、伶子先生の言う通りに四つん這いになり、背中に脚を乗せる。

「はぁ~……まったく、男子校の保健医なんてなるんじゃなかったわぁ。どいつもこいつもケンカしてはケガ……忙しいったらありゃしない」

 先輩に脚を乗せたまま、書類に目を通す。

「あの松葉って保健医、相当なSだな」

「岩屋先生顔負けですね」

「なんだと、新海」

 やべ、失言した。だが、ラッキーなことに岩屋は気にせず、ふたりの会話に耳をすます。

「それより俐駆瑛くん。七福神……って、知ってる?」

「……それがどうしたの?」

「もし、私が七福神の敵、五頭龍のひとりだったら……あなたは私を倒せるかしら?」

「どういうこと?」

「ふふっ、どういう意味かしらねぇ~?」

 伶子先生は笑うと、ドアのほうをちらりと見た。

「くそ、あの女、俺たちに気づいたやがったか」

「あの言い方……もしかして伶子センセが今度身体を乗っ取られてるんじゃない?」

「多分そうだよね。どうするんですか? 岩屋先生」

「あの女を倒す。それしかねぇだろ」

「だけど、八幡先輩みたいにまた七福神の可能性だってあるんじゃ……」

 不安げにたずねても、岩屋は岩屋だった。

「だったら倒して、気を流してみりゃわかるだろ! ともかく倒せ!」

 なんつー雑な指示だ。どっちにしろ倒せって……。

「ともかく、今日はあの女を追う。俺は教職員会議とかで、校内にいる限りあの女を見張っていられる。突くのは帰り道だ。お前らは一旦帰って宝具を持ってこい。校門前で集合して、夜道を襲うぞ」

 いくら龍に身体を乗っ取られているとはいえ、女性の夜道を襲うなんて……。本当にクソ男だな、岩屋は。

 ま、それも最初からわかっていたことだ。これも江ノ島を守るため。仕方がない。

伶子先生には申し訳ないけど、ケンカに正々堂々もない。どんなに汚い手段でも、俺たちがやらなきゃいけないんだ――。


 放課後になると、俺と隼真は急いで帰宅し、宝具を持つと、校門前で教師たちが職員会議を終らせ帰宅する時間まで待機することになった。

「こんなところで待ちなんて、結構苦痛だよなぁ~」

「しょうがないだろ。もしかしたら伶子先生、三ヶ岳に身体を乗っ取られたまま、何か事件に巻き込まれるかもしれないんだから」

「事件って、まさか! 女の身体を龍たちに利用され、身体をいいように……」

 いやらしい想像をする隼真の頭を、俺はパンッ! と叩いた。

「何考えてるんだよ!」

「あり得なくない話じゃないだろ? 伶子センセ、超美人だし、胸だって……はぁ~……」

「妄想に浸るのは勝手だけど、あの人ドSだからな?」

「にしてもさ、なんで八幡先輩は伶子センセに付き合うんだろうな」

「ああ、そういえば」

 さっきから薄々気にはしていたんだよな。伶子先生のことを『レイちゃん』って呼んでたし、『レイちゃんがそれでいいなら』とかいって、自ら足置きになったり……。

「あの、クレイジーヤンキーがだぞ? 案外ドMなのか?」

「さあね。人は見た目に寄らないから……。でも、なんとなくだけど、あのふたりにはほかに何かある気がする」

「何かって?」

「それはわかんないよ。だけど八幡先輩、ずいぶん伶子先生に甘いような気がして」

「これはまさか……好きだったり!」

「まぁ、そうかもしれないね」

「八幡先輩が年上好きだとはなぁ~……伶子センセの魅力なら、年下男を落とすのも簡単かもしれないけど」

「おっと、着信だ」

 スマホが震える。相手は岩屋。メッセージで、これから校門に向かうとあった。どうやら職員会議は終わったようだ。

 時間は午後七時。学生は下校時間を過ぎているから、門から出てくるのは教師たちばかりだ。

「おっと、来るぞ」

 昇降口から、ジャケットにブラウス姿の伶子先生がこちらに向かって来る。俺たちは門の裏に隠れ、息を殺す。コツコツとヒールの音を鳴らし、伶子先生は俺たちの横を通り過ぎていく。……よかった、気づかれなかったようだ。

 しばらくすると、岩屋もこちらへ速足で来た。

「松葉伶子は?」

「向こう。江ノ電の駅のほうだと思います」

「追うぞ」

 俺たち三人は高校から最寄りの江ノ電の駅へと向かおうとする。伶子先生が定期で改札を通ると、俺たちも少し離れたところから彼女を見張る。江ノ電の車両は短い。ホームもその分短いから、自販機の横に身を潜めた。

 電車が来ると、違う車両に乗り込む。しばらく乗っていたが、江ノ島の駅で伶子先生は降りた。

「おかしいな、松葉伶子の家は藤沢だ。途中の江ノ島に何の用だ?」

「とりあえず、俺らも降りましょう」

「オレたち、どっちにしろ家ここだからな」

 伶子先生は改札を抜けると、近くのカフェに入った。

「どうするんですか? さすがに俺たちも店に入ったらバレますよ?」

「……仕方ねぇ。外で待つぞ」

「えぇっ! オレも腹へったのに~……」

 ぶつくさ言う隼真を黙らせ、俺たちはカフェの外で飼い主を待つ犬のように待たされる。

「くそ、あの女、俺を待たせるなんて……」

 ギリリと爪を噛む岩屋。やっぱりS同士は仲が悪いようだ。三十分くらい待つと、伶子先生は出てきた。またこっそり尾行開始だ。

「伶子センセ、ひとりで夕飯だったのかな? なんで江ノ島で?」

「そこまではわかんないけど、まぁ、ライトアップされた江ノ島はきれいだからね」

「ふん、女ひとりで夜景を見ながらメシか? さびしいな!」

 どことなく勝ち誇ったように笑う岩屋。本当にこいつの性格は悪すぎる。いいじゃないか、ひとりで夜景を見ながら食事をしたって。

俺が呆れていると、伶子先生はそのまま歩いて片瀬江ノ島駅のほうへ向かう。小田急線を使って、藤沢に帰るのか? 江ノ電を使わなくても、これで藤沢までは行けるもんな。

てっきり駅に向かっていると思っていたが、先生は駅に入らず、この間三ヶ岳と戦った浜辺に足を踏み入れる。そして、こちらを振り返った。

「みんな~、尾行ご苦労様。ふふっ、最初からバレバレだったわよぉ~?」

「ちっ、罠だったか」

「岩屋先生、私に勝とうだなんて、何百年も早いわよ~」

 岩屋の髪が逆立っているような気がする。これは海風のせいなのか、それとも、本気でキレているのか……。ともかく怖い。美しく、慈愛の心を持っているはずの天女が殺気立ってるって、世も末すぎる。

「まぁ、私が三ヶ岳だってことに気づいたのは、お利口さんだけど……どうせ天女の宝具に頼ったんでしょう? 本当に岩屋先生は無能ねぇ」

「俺が無能……だと?」

「い、岩屋先生、押さえてっ! これは挑発ですから!」

「わかってる!」

 って、わかってない! 俺がどんなに抑えようとしても、岩屋はそのままずかずかと伶子先生へ向かって行って、普通に手を挙げそうだ。怖い、DV男ギリギリじゃないか。

「ふう、時間は九時……。まだ人目はあるけど……」


『始めましょうか?』


 ジャケットを脱ぐと、伶子先生の長く茶色い髪がうねる。まるで龍だ。

「三ヶ岳! 今度は女性の身体を乗っ取るなんて、卑怯だぞ!」

 俺と隼真も戦闘態勢に入る。珠に手を触れると、宝具が輝き出す。俺は釣り竿、隼真はリュック。岩屋も羽衣を取り出した。

「ふふん、女の身体って、便利よぉ? もしここで私が裸になったら……どうする?」

「嬉しいですっ!」

「バカ、隼真っ!」

「だったら天女の俺も脱ぐっ! 俺のほうがいい身体だ!」

「なっ! い、岩屋先生まで何言ってんですかっ!」

 こいつらダメだ……。三ヶ岳が伶子先生の身体を使って油断させるのはまだわかる。だけど、喜ぶなよ、隼真! ついでに岩屋はなんで張り合うんだよ! 男が脱いで喜ぶか!

 俺がつっこみに徹している隙に、三ヶ岳は手を空にかざす。まずい、武器を出される!

 三ヶ岳はこの間、毘沙門天の生まれ変わり・八幡先輩の身体を乗っ取っていたから、毘沙門天の宝具を使っていた。だったら、伶子先生は?

 光の中から出てきたのは、先生には不似合いの大きなハンマーだった。

「くそっ、松葉伶子も七福神だったか!」

「え、ど、どういうことですか?」

「七福神? 女性ってことは、もしかして弁天様?」

 慌てる俺と、興奮する隼真。

 岩屋は軽く舌打ちすると、俺と隼真に言った。

「ありゃ、大黒天だ。大黒天の宝具は、小槌。それがでかくなってハンマーになったってことだ」

「弁財天様じゃないんスか? くっそー!」

「隼真、気を落としてる場合じゃないって! 七福神のひとりってことは、また三ヶ岳を身体から追い出さなきゃいけないんだから!」

「そうだぞ、瀧! さっさと攻撃しろっ!」

「れ、伶子センセに攻撃? できないよっ!」

「これだからガキはっ! 仕方ねぇ、俺が行くっ!」

 岩屋はまた羽衣を振り、三ヶ岳の持っているものと同じハンマーを手にする。

「行くぞっ! 新海は宝具を狙えっ!」

「は、はいっ!」

 岩屋の合図で、俺は大きく振りかぶり、釣り糸を投げる。だが、それにひっかかったのは……。

「八幡先輩? な、なんでここに!」

「……レイちゃんにケガはさせない」

「嘘でしょっ? 岩屋先生! 八幡先輩、また龍に身体を乗っ取られて……」

「いや、八幡は乗っ取られていない。あいつはあいつの本心で、あのクソ女を守ってるんだ」

「そんなっ!」

 八幡先輩の腕に巻きつけられた釣り糸は、ギリギリと彼の腕を締めつける。このままじゃ、八幡先輩の腕をちぎってしまう。釣り糸の力は、大きな魚を釣り上げられるような強いものなんだ。

「ちっ!」

 一旦糸を緩め、先輩の腕から釣り糸を巻き取る。なんで先輩は伶子先生のことを守るんだ?

「先輩! 先輩にも説明したじゃないですか! 伶子先生は今、龍に身体を乗っ取られているんですよ?」

「……だからって、レイちゃんに傷をつけるなんて許せない」

 下を向いたまま、八幡先輩はお弁当を一緒に食べたときに見たフォークを空に掲げる。光がそこに落ちると、煙がシュウシュウ出る。おさまったかと思い、ゆっくり目を開くと、先輩の手には宝棒があった。やっぱりあのフォークが彼の宝具だったんだ。

 八幡先輩はそれをくるくる回すと、俺たちに切っ先を向けた。

「レイちゃんの相手は……僕の相手だから」

「そーいうこと。みんな、おわかり? 私を倒したかったら、まず俐駆瑛くんを倒してね?」

「ずるいよ、伶子センセ!」

 隼真が大声をあげるが、伶子先生は笑顔を見せるだけだ。

「三ヶ岳のやつ、考えたな」

 感心している岩屋に、俺はつい言った。

「それよりどうするんですか? 八幡先輩は身体を乗っ取られていないんでしょ? 自分の意思で俺たちと戦おうとしてるんですよ!」

「少しは自分で考えろっ!」

「えぇっ!」

 あまりの無茶ブリに、俺は絶句する。だからと言って、八幡先輩まで倒すわけにはいかない。だとしたら、八幡先輩を捕えるしかない。

「隼真! 爆弾!」

「どこに投げるんだ!」

「先輩に向けて! 俺が釣り竿で先輩を釣り上げる!」

「OK!」

「……そうは簡単にいかないよ」

先輩は爆弾を投げる前に隼真の手前まで走り込む。

「これでゼロ距離だ。爆弾を投げたら……自殺行為だよ」

「くっ、マジか……っていうと思ったら、大間違いだよっ!」

「なっ?」

「食らえっ! ゼロ距離弾!」

 隼真は自分の目の前に爆弾を叩きつける。砂が舞い散って、姿が見えない。あいつ、大丈夫なのか? 八幡先輩がごほごほしていると、またいくつか爆弾が投げられる。方向から見て、先輩のうしろ。隼真は背後をばっちり捕えていた。

「航太! 今だ!」

「よしっ!」

 竿を振ると、先輩の襟首に向けて投げる。釣り針は見事シャツの後ろのタグに引っかかったようだ。リールを力任せに巻く。いくら細身でも、先輩は男だ。だけど、この釣り竿は宝具。大きな魚と同じくらいの手ごたえがあるが、竿が軽くしなっても、絶対逃さない!

「……っ!」

 先輩も暴れて何とか釣り糸を外そうとするが、一度ヒットしたらこの針は外れない。

「先輩の一本釣りだっ!」

「くそ……」

 釣り上げられた先輩は、ハッと三ヶ岳……伶子先生のほうを見る。三ヶ岳と岩屋は、同じ宝具を持ったまま、にらみ合っている。

「頼みの綱の八幡はこっちのもんだ」

「ハナから期待なんてしてなかったわ。あの子は捨て駒だもの」

「レイちゃん……」

 ブラーンと釣られたままの先輩が、悲し気につぶやく。

「ところで天女さん、あなたは宝具を羽衣で模倣できるみたいだけど、使い方はわかるの?」

「ふん、当然だ。こうやって地面を揺らしたりなっ!」

 岩屋はハンマーで思い切り砂浜を叩く。地面が揺れ、砂が飛ぶ。こちらまで揺れは響き、足元がふらつく。

「バカのひとつ覚えね。こうやって使うこともできるのよっ!」

 三ヶ岳は胸元から人形を取り出すと、それをハンマーで潰す。

「う、うぐっ……!」

「岩屋先生!」

 突然身体を押さえて座り込む岩屋を見た隼真が、驚いたように叫ぶ。これはもしかして……。

「呪いの人形(ひとがた)()。ふふっ、苦しみなさい? もっと痛みを与えてあげる」

 さらにハンマーで人形を潰す三ヶ岳。いつも強気の岩屋がやられている様を見た俺と隼真は、どうしようもなくただ突っ立っていることしかできない。どうすれば、三ヶ岳を倒せるんだ?

「あはは、あはははっ! いい気味だわぁ~。もっと本気を出しちゃおうかしら? もう少し力を込めれば、骨も折れちゃうわよ?」

「……新海」

「八幡先輩?」

「この針、外して」

「で、でも……」

「いいから。レイちゃんを止められるのは、僕だけだ」

 先輩は少しきつく俺に言う。彼が何を考えているのかわからないけど、逃げるつもりはなさそうだ。俺が針を外すと、八幡先輩はハンマーで人形見と呼ばれている紙を潰している三ヶ岳の前に立ちはだかった。

「なあに? 俐駆瑛くん」

「レイちゃん……僕に嫌がらせや意地悪するのはいいよ。だけど……他人を巻きこむなっ!」

 八幡先輩が宝棒を構えると、風が彼の身体を取り巻く。これが先輩の力?

「行くよ、レイちゃん」

 鋭くにらむと、先輩はハンマーを持つ三ヶ岳に襲いかかった。

「くっ! な、何よ、突然! 後輩のくせに!」

「後輩以上なんだよ、僕は。だからこれ以上他人に迷惑をかけさせないっ!」

 ハンマーと宝棒がガッ、ガッ! と交わる音が聞こえる。八幡先輩と三ヶ岳は互角……いや、八幡先輩のほうが押している。

「ちぃっ、松葉伶子の忠実な犬だと思ってたのに、飼い犬が手を噛んできやがったか!」

 違う、これは伶子先生の声じゃない。身体を乗っ取っている三ヶ岳の声だ。

「ようやく本音が出たなぁ? 三ヶ岳」

「うっ!」

 後ろから、今度は羽衣を宝棒に変えた岩屋が、三ヶ岳の首を押さえる。

「八幡! 今だ、七福神の力を吹きこめっ!」

「気を吹き込む?」

「キスだよ! キスっ!」

「……え、えぇっ! 僕が、レイちゃんに?」

「くそ、させてたまるかっ!」

 三ヶ岳はジタバタ暴れるが、さすがに男ふたりの力には勝てないようだ。とはいえ、八幡先輩もシャイなのか、キスするのを躊躇する。

「れ、レイちゃんのことは好きだけど、こんなところでするようなことじゃ……」

「うるせぇ! ヤンキーなんだから、そのぐらいやってみせろっ!」

 岩屋はやっぱりめちゃくちゃだ。さすがにこれは八幡先輩に同情してしまう。それでもなかなかキスしない八幡先輩に、業を煮やした岩屋は、隼真に命令した。

「瀧! 爆弾だ! こうなったら爆破の衝撃でキスさせるっ!」

「む、むちゃくちゃッスよ、それ!」

「いいから、やれよ!」

「わ、わかったよ……爆発に巻き込まれるくらいなら……レイちゃん、ごめんっ!」

「むっ!」

 先輩が伶子先生の唇にキスをすると、中から靄のようなものが飛び出てくる。それはだんだんと男の形になっていく。こいつが三ヶ岳。少し長めの髪に、黒縁メガネのオタクっぽいタイプだ。

「く、くそ……僕がこんな覚醒したばかりの七福神にやられるなんてっ……」

 男ががっくりと砂浜にひざをついていると、八幡先輩が宝具の先を向けた。

「よくもレイちゃんの身体に色々してくれたね。覚悟……できてる?」

「ひ、ひいっ!」

 こちらから八幡先輩の顔は影になっていて見えない。だけど三ヶ岳には相当怖く映ったのか、自分から珠に戻った。

「や、やったぜ! これで一ノ瀬、二前、三ヶ岳の三つの珠が集まったってことだよな!」

隼真が嬉しそうに飛び上がる。五頭龍ってことだから、残りはあと二匹。七福神はまだ四人しか集まっていないけど、これなら五頭龍を倒してめでたしめでたしになるんじゃないか? 岩屋は『今の俺たちじゃ五頭龍を倒せないかもしれない』って言ってたけど、これなら何とかなるよ、きっと。

俺が岩屋に目を移すと、岩屋は難しそうな顔をして三ヶ岳の珠を手にしていた。

「どうしたんですか? 岩屋先生」

「お前はここまできたら楽勝だと思ってるかもしれねぇけどな、一ノ瀬、二前と三ヶ岳じゃ攻撃の仕方が違った」

「そうですか? よくわかんねーけど」

 首を傾げる隼真。俺も岩屋の言いたいことがわからないので、次の言葉を待つ。岩屋は頭をかきながらため息をついて説明を始めた。

「いいか? 一ノ瀬と二前は自分の影……つまりヤンキー集団を操って戦いを仕掛けてきた。だが、三ヶ岳はどうだ?」

「あ……」

 言われてハッとする。三ヶ岳は影を使っていない。単独で戦いに挑んできた。しかも、七福神のメンバーの身体を乗っ取って。

「七福神の身体を乗っ取るのは、雑魚龍じゃできねぇ。だから、一ノ瀬や二前は影を使った。先の龍と三ヶ岳は、能力のレベルが違い過ぎだ」

「ってことは……次戦う四番目の龍はもっと強いってこと?」

「『次』が四番目とは限らねぇ。五番目の龍と一緒に来たら?」

「俺たち、勝てるんですか……?」

「さあな。少し特訓しねぇといけないかもしれない。それに、大黒天のクソ女の回復も待たなきゃいけねぇしな」

 岩屋はちらりと伶子先生を見た。今、伶子先生は、八幡先輩に抱きかかえられている。意識はまだなさそうだ。

「八幡先輩の身体が乗っ取られたときは、わりと早い回復だったけどな」

「言うな、隼真。あの悪夢の招福を思い出したくない」

 俺はつい耳を塞ぐ。完全にあれはトラウマだ。ファーストキスもセカンドキスも男だなんんてな。

「ま、今回は魔力を多く使ってたみたいだからな。八幡と戦ったときとは違い、呪いの人形見なんて取り出してただろ? 普通に戦っていればよかったものの……ああ、龍にとってはその依代がどうなろうが関係ないか」

「五頭龍め……許さない……」

 つぶやいたのは、八幡先輩だった。伶子先生を強く抱きしめ、誓う。

「レイちゃんはこれからずっと、僕が守るからね……」

 真剣な八幡先輩の姿は同性でもカッコイイと思うくらいだったけど……。本音を言おう。このふたり、一体どういう関係なんだ?

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