第2話
閃光と爆煙が吹き荒れる。
煙が完全に晴れるよりも早く、夏美はその中へ飛び込んだ。
「――っ!」
ためらいは一切ない。
卓はあえて動かない。相手は二人。無闇に突っ込めば、連携の餌食になる。
(相変わらず無鉄砲だなぁ)
呆れ半分に息をつきながらも、卓は視線を鋭く細める。
狙うのは――一網打尽。
その“瞬間”を待っていた。
夏美の正体は、九尾の妖狐。
人の姿を取っているが、その本質は妖だ。狐火と幻術。この二つを軸に、数十もの技へと派生させる戦闘スタイルを持つ。
__30分前
「私、妖狐なの。今は人のふりしてるけど」
あっけらかんとした告白だった。
「そーですか」
卓は興味なさげに頷く。
「……驚かないの?」
「別に。だって僕もリッチですし」
今度は夏美が固まった。
だが、すぐに理解する。
(……そういえば)
桐生も、桃乃木花蓮も、人ならざる存在だった。ならば卓がそうであっても不思議ではない。
「……もういい」
話す気をなくし、視線を逸らす。
「え〜、せっかくなんで教えてくださいよぉ。妖狐の力」
しつこい。
夏美は一瞬だけ苛立つが、すぐに考えを変えた。
(……いいわ)
どうせなら――全部知った上で、叩き潰す。
そう決め、最低限の情報だけを口にした。
__現在
煙が晴れる。
そこには、拮抗する二つの力があった。
狐火と氷。
夏美と里奈が、至近距離でぶつかり合っている。
火花のように散る魔力。
しかし卓の視線は、そこではなかった。
(……一人いない)
赤城美香の姿がない。
即座に周囲を見渡す。
――いた。
隣の倉庫の上。
(なるほど)
里奈が囮。その隙に、美香が夏美を仕留める算段。
「そうはさせませんよ」
低く呟き、卓は動いた。
火球を放つ。
初級魔法。だが、その威力は常軌を逸していた。
かつての大魔術師すら凌駕する密度。
それが、美香へと襲いかかる。
「っ!」
即座に迎撃。
さすがは魔法少女のリーダー。対応は完璧だった。
卓はそのまま、彼女の前へ降り立つ。
「二対一は卑怯でしょう?」
軽く手招きする。
「あなたの相手は、僕です」
美香の目が細まる。
「……すぐに排除する」
低く、静かな怒り。
「秩序を乱す者は、消さなければならない」
次の瞬間。
巨大な炎の龍が、卓へと襲いかかった。
無詠唱の上級魔法――火龍炎。
だが。
「おっと」
卓は、笑っていた。
炎に呑まれながらも。
(やっぱりこの人、強いなぁ)
余裕すらあった。
「軍服ちゃん、大丈夫ですか〜?」
戦闘中とは思えない声。
「大丈夫なわけないでしょう!?」
即答だった。
その一瞬の隙を、里奈は見逃さない。
氷刃が迫る。
「っ……!」
夏美は慌てて受け止める。
(……まずい)
焦りが滲む。
氷。
それは、彼女にとって最悪の相手だった。
過去に、氷に封じられた記憶。
トラウマが、動きを鈍らせる。
だが。
「……負けるか」
狐火が膨れ上がる。
高温、広範囲。
力任せの連撃。
本来なら非効率な攻撃。
だが――
「っ!?」
里奈の氷壁に、亀裂が入る。
(え……?)
予想外だった。
慢心。
そして、積み重なった熱量。
次の瞬間。
氷壁が砕け、狐火が里奈を飲み込んだ。
同時刻。
卓の火炎剣が、美香を貫いていた。
「――は?」
勝利を確信した、瞬間。
だが。
「甘い」
炎の中で、美香が立っていた。
火の使い手である彼女に、炎は致命傷にならない。
同時に。
里奈もまた、氷で自らを急速冷却し、ダメージを抑えていた。
(やば)
卓が思うよりも早く。
里奈が動く。
「――逃がさない」
初級氷結魔法――瞬間冷凍。
空気ごと凍りつく、異常な威力。
卓と夏美、そして里奈自身すら巻き込み、凍結させる。
「な……っ」
動けない。
その隙に。
「……ごめん、里奈」
美香は、一瞬だけ目を伏せると。
その場を離脱した。
リーダーとしての判断。
組織を守るための、切り捨て。
(……合理的だなぁ)
凍りつきながら、卓はぼんやりと思う。
もし桐生が捕まりそうになれば、自分も同じことをするだろう、と。
やがて凍結が解ける。
残ったのは――
動けない三城里奈。
「……捕縛、完了ですね」
卓は小さく笑った。
依頼は達成された。




