第17話
防革隊南九州支部を破壊したことで、南九州は瞬く間にこちら側の支配地域となった。
桐生の動きは凄まじく速かった。
鹿児島、宮崎、熊本、さらには佐賀・長崎の一部を制圧したあと、彼は単身で沖縄へ渡り、その地までも掌握。そして民衆へ、政府の真実を包み隠さず暴露した。
今まで魔法少女によって感情を抑え込まれていた民衆の怒りは、もはや制御不能だった。
正義の味方だと信じていた存在が、実際には“仮初の平和”を維持するため、国民の感情そのものを管理していた。
怒りも、不満も、反抗心も。全て魔法少女によって吸収され、政府へ向かうはずの矛先は奪われていたのだ。
だから無茶な法案にも反対運動は起きない。不当逮捕にも暴動は起きない。
国民はただ、“従順な民”として飼い慣らされていた。
桐生はその事実を利用し、巧みに民衆を煽動した。
結果として福岡・大分を含めた九州北部も制圧。わずか五日で、沖縄・九州全域が桐生側の支配下へと落ちた。
そして戦線は、本州と四国へ移る。
政府軍は山口・愛媛・高知を中心に迎撃態勢を敷き、島根や和歌山など沿岸部にも大規模防衛線を構築していた。
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「……九州全土の制圧は五日で終わった。だが、それは政府の出遅れと、九州の防革隊に我らへ対抗する力がなかっただけに過ぎん」
新拠点の会議室。
桐生は地図を見下ろしたまま言葉を続ける。
「本州・四国は違う。向こうも本気で来る。油断すれば潰されるぞ」
静まり返る室内。
「敵戦力は三方面」
桐生が地図を指差す。
「山口には由梨、防革隊五千。愛媛には絵梨花、防革隊三千。高知にはさくら、防革隊三千」
そして短く続けた。
「山口には俺と里奈。愛媛には卓と美香。高知には花蓮」
そこで一度止まり、夏美を見る。
「夏美、お前は九州防衛だ」
夏美は露骨に不満そうな顔をした。
だが、桐生は構わず言葉を続ける。
「ここで決着をつける。俺も前線へ出る。異論は認めん」
その一言で、全員が動き出した。
花蓮は「えぇ〜、また私働くのぉ?」と不満を漏らしていたが、誰も相手にしない。
夏美も留守番に不機嫌だったが、最終的には渋々了承した。
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出発前。
卓は夏美へ軽く手を振った。
「生きて帰ってきますよ。帰ったらまた――」
「帰ったら何よ……!」
夏美は思い切り睨みつけてきた。
「ていうか、その死亡フラグみたいな言い方やめて!」
耳が少し赤い。
しかも目は、妙に不安そうだった。
だから卓は笑いながら言った。
「いや、僕また蘇れるんで大丈夫ですよ」
「心配して損した!!」
そんなやり取りをしてから、卓は美香のもとへ向かった。
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花蓮との別れを済ませたあと、美香は急に真顔へ戻っていた。
切り替えが怖い。
「よろしくお願いしますねぇ。まぁ、自己紹介はいりませんか」
「えぇ。花蓮様から聞いています。あなたにやられましたし」
相変わらず淡々としている。
卓はふと気になって聞いた。
「花蓮さんが大事なのに、別行動で良かったんです?」
その瞬間、美香の表情がほんの少しだけ柔らかくなる。
「……花蓮様も大切です。でも、絵梨花も同じくらい大切なんです」
そして静かに続けた。
「まだ政府の人形になっている、可哀想な妹を助けたい。
……花蓮様と里奈は大丈夫でしょう。あの二人、強いですから」
話題が尽きた。
だから二人は、そのまま愛媛へ向かうことにした。
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九州全土を制圧した今、人間のふりをする必要はない。
二人は空を飛び、一直線に愛媛へ向かう。
豊後水道で迎撃を受けたが、美香が一瞬で無効化した。
「ねぇねぇ、今のどうやったの?」
「企業秘密です」
「教えてくださいよぉ」
「しつこいと嫌われますよ?」
「けち」
「知りません」
以前より少し冷たい。
けれど卓を完全に拒絶しているわけでもない。
そんな微妙な距離感だった。
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到着した時には、すでに防革隊が待ち構えていた。
愛媛防革隊総大将――絵梨花。
だが彼女は姉、美香を見るなり激しく動揺した。
卓は思う。
(……なるほど。桐生、姉妹を再会させたかったんだ)
粋なのか悪趣味なのかは分からない。
だが今はそれどころではない。
高知方面では、すでに花蓮が暴れているらしい。
しかも“さくらを堕とした”という情報まで入ってきていた。
山口方面も桐生と里奈が優勢。
つまり遅れているのは自分たちだけ。
卓は即座に動いた。
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透明化。
次の瞬間、防革隊内部へ突入する。
敵兵たちは混乱した。
見えない。
どこにいるか分からない。
その中を、大量の水魔法が蹂躙していく。
水弾。水槍。水壁。
ありとあらゆる魔法が飛び交い、兵士たちを次々に沈めていった。
「やっぱり、人間って兵器に頼りすぎなんですよねぇ」
自然と笑みが浮かぶ。
五分で五百人撃破。
そのまま深部へ進軍。
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二時間後。
愛媛防革隊は壊滅していた。
あまりにも兵器へ依存しすぎていた結果、連携も何も存在しなかった。
だから卓一人に、三千人が蹂躙された。
だが卓も無傷ではない。
対人外兵器の攻撃を受け、足に深い傷を負っていた。
死体の山の横で座り込みながら、卓は足を見る。
「……全治一週間くらいかなぁ」
リッチに深手を負わせる兵器。
やはり危険だった。
だが卓は一人頷く。
「まぁ前回即死だったこと考えたら、大進歩ですよね。うん、満足満足」
そんなことを呟きながら、卓は離れた場所で戦う姉妹を見る。
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魔法少女と元魔法少女。
妹と姉。
正義を見失った少女と、秩序を守ろうとした女。
二人の感情が、激しくぶつかり合っていた。
そして卓には分かった。
絵梨花の心は、もう限界寸前だった。
美香もそれを理解している。
卓が口を開こうとした瞬間、美香はこちらを一瞥した。
“分かっている”
そう言いたげな視線だった。
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「私は絵梨花を助けに来たの」
美香は静かに告げる。
「政府は、私たちを便利な道具としてしか見ていない」
絵梨花の雷光が揺れる。
「国民の負の感情を吸い取り、反乱を起こさせないための存在。それが魔法少女」
その言葉が、絵梨花の中で全てを繋げていく。
両親の死。
政府の異常。
魔法少女という制度。
そして――姉を切り捨てようとした政府。
やがて絵梨花は、ゆっくりと手を下ろした。
雷光が消える。
「……薄々分かってた」
震える声。
「私たち、都合のいい消耗品なんだって」
そして涙を滲ませながら呟く。
「……お姉ちゃんといられるなら、政府なんていらない」
戦意が消えた。
卓は思わず目を丸くする。
(え、そんな簡単に……?)
だがその時。
卓は“見つけた”。
建物の上。
ニコニコしながらこちらを見下ろしている花嫁姿の女。
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「ちょっとぉ。姉妹の感動シーンに精神干渉とか、ダメでしょう?」
卓が呆れて言う。
花蓮は悪びれもしない。
「だって、あと一押しだったんだもの」
しかも衝撃の事実を明かした。
「美香ちゃんに頼まれたのよ?」
「……は?」
「自分じゃ押し切れないから、私に精神干渉してほしいって」
卓は絶句した。
美香、思ったより重い。
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さらに花蓮は当然のように続ける。
「高知も終わったわよ?」
「え?」
「さくらちゃん、ちょっと干渉したらコロッと堕ちちゃった」
「……」
「そのあと二人で三千人片付けて、徳島と香川も制圧済み」
卓は思わず呟く。
「……バケモンじゃん」
「女の人に言う言葉?」
「すみません。でもイカれてますよ」
頭を叩かれた。
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花蓮が指差した先には、さくらが座っていた。
花蓮の持ち物をうっとり眺めている。
「また私のファンが増えちゃったわぁ」
「絶対困ってないですよね」
「さ、あの子たち迎えに行くわよ!」
完全に話を打ち切られた。
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花蓮は上機嫌。
美香は幸せそうに花蓮へ抱きつき。
絵梨花はおどおどしながら後ろを歩き。
さくらは完全に花蓮へ心酔していた。
卓はそれを見ながら思う。
(……もしかして、一番活躍してるの花蓮さんでは?)
だが今は考えている暇はない。
次は山口。
由梨を堕とし、今度こそ自分が活躍してみせる。
そう心に決め、卓は再び空を見上げた。




