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ゲームの中の悪役令嬢  作者: 春の堤
攻略チャート
9/9

幸運

母親と対談してから1週間が経った。

未だ、彼女からの連絡はない。

まあ、私がレオンハルトとどうにか親睦を深めお近づきになっている間にフィオーレが死んでくれるのならそれが最良だ。

無論、そうは問屋がおろさないだろう。なんていったってフィオーレはこゲームのヒロインである。もしこの国丸ごと操っているような人物が本当にいるのであれば、彼女をそう簡単に暗殺させるような真似はしない。

フィオーレを見つけ出すことができた場合、イザベラにこの国がゲームの舞台であることを伝えることも考えたが、どちらにせよ証拠となるものはなに一つとしてない。

よく考えればおかしな話だ。私は私の前世の記憶のみを根拠にこの国がゲームの中の世界だと断定しているなんて。

証拠・・・証拠か。

あの夢を思い出す。不思議だ、もうあの星空に心を動かされないし、宇宙を神聖視してもいない。

ある意味、これも証拠と言えるだろう。レオンハルトに恋をする前と後で明確に私の思考は変化している。ヒロインを殺すという、正に悪役令嬢的な考えになっているのだ。いやこれは私が前世の記憶を持っていることを前提としたものなので、また違うものだろう。鶏が先か卵が先かのような話になってきて、頭が痛い。考えるのはやめよう。私の目的はヒロインを殺すこと、それのみだ。

気晴らしのために日本語のノートを読み返し、改訂できる箇所がないか、ぼんやりと見つめる。

ノートを書いていた当初はただただ記憶のアウトプットをしていただけで気づかなかったが、どうにも違和感がある。セレスティーヌの行動とその動機の間に矛盾がある気がするのだ。

まず現在の国王が子供を成せない体質かつ、セレスティーヌが当初王の体質を知らなかったのは理解できる。王家の人間としては恥も同然。これが世間に知られてしまえば王になる道は閉ざされる。実際に王座に最も近い存在になってしまった手前、公表することもできなかったのだろう。そこはまあいい。

問題はそれを知ったセレスティーヌの行動だ。確かにイザベラが子を成せばその子供が最も王座に近い存在になるのは間違いない。それを阻止するためにわざわざ不倫してまで自分の血を引いた子供を王座に就かせ、貴族の女性としてイザベラより優れていると彼女に誇示したかったとも考えられる。

だがその後の彼女の行動は些か不自然だ。

私が2歳の時、両親は毒殺され1年前にセレスティーヌは正式に王妃となった。

この時、レオンハルトは4歳。

レオンハルトを確実に王座に就かせたいのであれば私をこの時点で殺してしまえばいいのではないだろうか。仮に私がイザベラの手元にいたおかげで殺されずに済んだとしても、あの毒殺事件のあとイザベラの権力はセレスティーヌより下となったはず。なぜ私は今こうして生きている?何か私を殺したくない理由があった?いや今までの彼女の行動を思い浮かべてみてもセレスティーヌは私のことを心底憎んでいる可能性の方が高いだろう。

まさかただの幸運で私がここまで生き延びたとでも?

いやそんなはずは・・・私が乙女ゲームの悪役令嬢だからここまで生かされている?

部屋の温度が急速に下がった気がした。自分とは何か?私を取り巻く環境はなんなのだろう。私の持論に基づくならば、この国で起こることは全て偶然とは限らないことになると初めて実感した。

恐らくこの国を操れるほどの力を持つものならこの国の人間などそれこそ人形以下の存在にしか見えないだろうことも、私の行動など簡単に操れそれを気づかせないまま「私」が自分で判断したことだと認識させることも出来る。

怖い、そう思った。それと同時にこれ以上ない不快感が湧き起こる。今の私の気持ちが操られている結果なのか、私という存在そのものを犯されていることに対する生理的な拒否感なのかすら判断がつかない。そもそも全て私の被害妄想によるものだと言われて仕舞えば、反論することすらできない。やっぱり証拠が必要だ。

とりあえず、フィオーレがどうなっているか。彼女がこの国に存在しない事が最善。いたとしてもただの孤児一人暗殺することに権力を持った貴族二人が手をこまねくことはないだろう。それができなければ少なくとも第三者からの介入は確実なものとなる。早く返事が来て欲しいものだ。



私の願いは次の日に叶うことになる。驚いた事に母親からの手紙が届いていた。はやる気持ちを抑えて読めば、カミラ公爵を紹介したいという手紙が届いていた。日程は明日の午後3時から。

窓を見れば曇天が広がっている。今日明日は雨が降るだろうと簡単に予測が出来た。ゲームに登場するキャラクターの中で私が2番目に会う人物がまさかカミラになるとは。出来れば、というか絶対に出会いたくなかった人物なのに。彼女の魅了(チャーム)は強力だ。カミラという存在を認識するだけで、思考を鈍らせ、意のままに操ることができる。弱点は魅了された人間が日の光、もしくは黄金の脈動(オーラム・ヴェラ)を浴びると解除されること。彼女はこの能力を使い、長らくこの国の上層部に居座っていた。

イザベラの狙いとしてはカミラに私を操らせ、情報を洗いざらい吐かせるつもりなのだろう。非常に行きたくないがここを逃すと恐らくフィオーレの情報は手に入らない。カミラが能力を使って思考を完全に制御するには目を合わせる必要があった。最低限目を合わせなければ同じ盤上で戦える・・・はずだ。

次の日、私は最初に離宮に来た際、通された部屋とは別の部屋に案内された。最初の部屋よりも重厚で賓客の迎え入れることを想定した部屋。つくづく、私はイザベラに舐められまくっていたらしい。

部屋には窓一つなないが、ランプとシャンデリアが部屋を照らしているおかげで暗い雰囲気は全くない。その中心には二人の女性がいた。

一人は母親であるイザベラ。今回は青いドレスを見に纏い化粧をしており、その鋭利な美しさがより引き立てられている。

もう一人の女性は言わずもがなカミラだろう。母親に視線を固定しながらちらりとドレスの端を見るとどうやら黒い衣装を着ているらしい。

「ご機嫌よう。お母様、ノクトゥルナ公爵」

「挨拶はいい、さっさと座れ」

母親にそう声をかけられ、空いている席に座る。心なしか部屋の扉から一番遠い気がするが――

「噂には聞いていたけれど、本当にイザベラ様にそっくりね」

「ああ、唯一私に似ている所だ。すぐに親子とわかって便利だろう?」

蜂蜜のようにとろける甘い声が耳にまとわりつき、思わず肩が跳ねた。どこか・・・そう前世の母親に似ているような安心感を与える声。危機感を強めながら笑顔で返事をする。

「ありがとうございます。お母様、ノクトゥルナ公爵」

「本当にいい子ね。私も子供が欲しくなるわ。お茶の好みもお母様と一緒なのかしら?」

「お茶の種類はあまり存じ上げないのですが、フルーツのジャムを入れたものをよく嗜んでいます」

扉に視線を固定しながらそう返事をする。失礼に当たるがまだ緊張している範囲で済むだろう。

視線の端で、白魚のような細い指がティーカップを持つのが分かった。

「それはよかった。これは柑橘系の香りを混ぜてみたものなの。あなたの好みに合うんじゃないかしら」

じっと机の上にある私のティーカップを見つめる。中には琥珀色の紅茶が揺らいでいた。母親の方を見れば完璧な所作で紅茶を飲んでいる。

「お母様、その、私の頼み事をした件についてなのですが」

「あまり急ぎすぎるな。淑女としての自覚が足りないぞ?」

とても淑女とは思えない口調でそう嗜められる。とはいっても正直この部屋で用意されたものは口に入れたくない。カミラの魔力が込められていた場合私は操られてしまうだけでなく、彼女の吸血鬼になってしまう可能性がある。

どう切り抜けようか言い訳を考えていると

「へえ、魔力の警戒までできるなんて、どこまで知っているのやら。安心して、私の魔法は聖霊の加護を持つものにしか効果がないから」

思考を読まれてる、私の知らない情報?いやそれよりなぜレオンハルトの声をこの女が?こんな能力ゲームには出てこなかった・・・

思わず顔を向け、それと同時に失敗したと悟る。

吸い込まれそうなほど深い紫紺の瞳が私を捉えている。黒鉄色の髪が艶やかな絶世の美女が悪戯っぽく笑っていた。

「あら、何をそんなに驚いているのかしらルヴィニア様?私に教えて頂戴」

その姿が一瞬、レオンハルトの微笑みと重なって見えた。

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