↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
残虐王は 死神さえも 凌辱す  作者: 寄賀あける
第2章 不遇の王子

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
76/404

復讐

 ジョジシアスの提案に、国王は初め難色を示した。王妃はどちらつかずの感じだったが、『ない話ではない』と反対することもなかった。グランデジア第二王子リオネンデを養子として迎えたい――ジョジシアスの提案だ。


 二十四のジョジシアスはまだ身を固めていない。それで相手が決まっているならまだしも、このままでは世継ぎが望めない。どんな美女を連れて来ようがジョジシアスをその気にさせることができなかった。しかも、このまま一生妻帯しなくてもいいと言い出す始末だ。


 百歩譲って妻を持たぬは良しとしても子が、つまり世継ぎができないのは困る。

「リオネンデの母親は我が国の王女、バイガスラ王の血を受け継ぐ者。もってこいだと思いませんか?」


 マレアチナとともに訪れたリオネンデは少し温和(おとな)し過ぎるきらいはあったが、聡明なのは見て取れた。グランデジア王位の第一継承権を持つのは第一王子のリューデント、春には立太子すると聞いている。ならば将来、グランデジア王と我がバイガスラ王は兄弟となり両国の絆はこれ以上ないものになる――


 まだ二十四なのだから妻を(めと)ることを考えて欲しい父王だ。我が子の愛しさ、(もたら)される幸福をジョジシアスにも味わわせたい。どうしたものかと迷っているうち、事態が思わぬ方向へと変わる。寝たきりだった第一王子ジャスチルムが自害したのだ。


 吹雪の日だった。たまには庭の雪が見たいとジャスチルムが言い出し、何とか抱き起して窓辺の椅子に座らせていた。


「子どものころはこの庭で、よく雪遊びをしたものだ」

背もたれに上体を支えられながら、ジャスチルムは静かに庭を眺めていた。


 たまには父上・母上や、ジョジシアスと茶を楽しみたい。そう言いだしたのもジャスチルムだった。(ふさ)ぎ込みがちなジャスチルムが誰かと一緒に、などと言い出したのはどれほどぶりか。


 喜んだナナフスカヤが手ずから菓子を焼き、ジョジシアスも呼び出され、和やかなお茶会になるはずだった。ジャスチルムの寝室に王と王妃に王太子、世話係の侍女はたった一人、そしてジャスチルム、水入らずのはずだった。


「母上、焼き菓子を切り分けましょう。それくらいなら、わたしにもできますよ」

にこやかに言うジャスチルムに、疑うことなく侍女がナイフを渡す。


「兄上!」

ジョジシアスが駆け寄った時には遅かった。侍女が焼き菓子の皿を運ぼうとしてジャスチルムから離れた隙に、渡されたナイフでジャスチルムは己の咽喉を掻き切った。飛ぶように溢れる血潮は、駆け寄ったジョジシアスが傷口を押さえたところで止まることを知らない。


「兄上!」

ジョジシアスの叫びに、瀕死のジャスチルムが応える。

「ジョジシアス、我が弟――バイガスラを……我が両親を頼む」

「兄上! いけません、お気をしっかり!」

ジョジシアスの呼びかけに、応える声はもうなかった。ナナフスカヤが息子の名を叫び、号泣する。狼狽(うろた)えた侍女が、へなへなと腰を抜かし壁に寄り掛かる。


「ロームバスカを――ロームバスカを呼べ」

国王の声に、はっと気を取り戻した侍女が慌てて部屋を出て行く。


 ナナフスカヤよ……国王が妻に手を伸ばした時だった。

「ジョジシアス! ジャスチルムが……ジャスチルムが!」

ナナフスカヤが(すが)ったのは夫ではなく、兄の亡骸をベッドに運び終えたジョジシアスだった。


「王妃さま……」

血まみれのジョジシアスに躊躇(ためら)うことなく縋りつくナナフスカヤ、そしてまた躊躇いもなく抱き返すジョジシアス――


 絶句する国王に二人は気づくこともない。二人の抱擁は国王の側近ロームバスカが姿を見せるまで続いていた。


 リオネンデの件、好きにするといい……国王がそう言いだしたのは、ジャスチルムの葬儀の直後だった。


「どうやらジョジシアスには子を作る気はないようだからな」

国王の皮肉に気が付かないジョジシアス、もちろんナナフスカヤも気が付かない。だが、グランデジアに打診した結果は(かんば)しくなかった。


「リオネンデは、いずれ王の片割れとなる大切な王子。他国に向かわせるわけにはまいりません」

我が国の事情をお汲み取りの上、どうぞ良しなにと言われれば強制できることではない。


 なるほど、と笑ったのはモフマルドだった。養子の件をジョジシアスに入れ知恵したのはモフマルドだが、ジャスチルムが自害したと聞いた時より、リオネンデを養子に貰い受けるのは無理だと見込んでいた。グランデジアは魔法使いの国、相次いで王子が不慮の死を遂げたバイガスラに、不穏な空気を読み取ったはずだ。大事な王子を寄こすはずがない。


 ジャスチルムの死はモフマルドにとっても予想外のことだった。ジョジシアスに聞いた話や遺書がなかったことから、衝動的なものと見ている。


「王の片割れ、と来ましたか」

「王の片割れとはなんだ?」

ジョジシアスの疑問にモフマルドが答える。


「王の半身ともいえる立場の者。王不在時には王の代理となり、万が一のことがあれば王そのものにもなれる立場――双子の王子となれば、まさしく片割れさまに(ふさ)()しい」


 ふぅん、と面白くないのはジョジシアスだ。だが、それ以上は何も言わない。リオネンデを再びこの腕に抱けるかもしれないという淡い期待が消えただなどと、相手がモフマルドだとしても言えはしない。


 しかしお見通しのモフマルド、

「リオネンデさまの代わりをさせる少年をご用意いたしましょうか?」

と笑う。


 慌てたジョジシアスが、

「な……そう簡単に、養子にできる者などいない。行く行くは王座に就くかもしれないのだぞ」

話を置き換えようとするが、

「そうではありますまい?」

と軽く()なされる。


 答えに窮したジョジシアスにモフマルドがそっと囁く。

「今一度ご自身を顧みられるといい。なぜリオネンデさまにご執心なのか? マレアチナさまに瓜二つだったからではありませんか?」

驚いたジョジシアスがモフマルドを見詰める。


「そしてナナフスカヤさまに心を奪われたのも、元はと言えばマレアチナさま――違いますかな?」

「な……何を言い出すのだ? 王妃さまはともかく、マレアチナは血の繋がった妹なのだぞ?」

「だからナナフスカヤさまを代わりにして満足した気になっていらした――リオネンデさまに幼い頃のマレアチナさまを見たのでしょう? だからジョジシアスさまはご自分を抑えきれなくなった」

「そんな――」


 ジョジシアスが大きく動揺する。それを見てモフマルドが北叟笑(ほくそえ)む。ジョジシアスにそんな気は多分ない。だがモフマルドに吹き込まれたことで、いずれ『そうだったのだ』と思い込む。モフマルドの狙いはそこにあった。


 いっぽう、ジャスチルム自害の日から、国王モーリシェンは鬱々とした日を過ごしていた。大事な息子を亡くしたのだ。そんなモーリシェンを誰も怪しんだりしない。


 だが、モーリシェンの不機嫌の原因は、息子の死ばかりではない。むしろ生きている家族に起因している。目の前で抱き合う己の妻と、妻とは別の女に産ませた己の息子――

(あれは……あれは親子の抱擁ではない)

間違いない、あの二人は通じている。いつからだ?


 おおよその見当はつく。ナナフスカヤのジョジシアスへの態度が急変したあの時からだ。下の息子を亡くし、上の息子も寝たきりとなった。そんな母親が義理の息子を頼りにし始めても不思議ではない。だから当時はなんの疑問を感じなかった。でも、まさか! 母として息子としてではなく、男女の仲になっていようとは――


 どうしたらいい? (とが)めれば、二人の仲を公表することになる。我がバイガスラ王家の権威は地に落ち、さらにジョジシアスをこのまま王太子とするわけにはいかなくなる。ナナフスカヤを生国バチルデアに返すことも考えなければならない。後継者を失い、隣国バチルデアとは信頼どころか友好関係も怪しくなる。下手をすれば攻め込まれないとも限らない。王家が揺らげば、攻め込む好機と捉えるはずだ。


 だからと言って、このまま捨て置いていいものか? あの女はわたしの妻だ。初めて会ったその日から、今も慕わしいわたしの妻だ。それを、それを! ()りにも選って、(おの)が息子に盗まれようとは――


 それともこれは復讐か? 同じ我が子でありながら、他の王子とは分け隔てした父親への復讐なのか? もしそうだとしたら……わたしはあの子に償わなくてはならないのか? それも、こんな人の(みち)(はず)れる形で?


 奥深く悩みを抱えたモーリシェンの目は、虚ろに宙を見詰めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。