表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第2章 丘の上の雑貨屋、やさしいゴーレムの子
3/162

自営業やるなら最初の客が超重要

さて、最初の小さなお客さんがやってきたようですが、うまくいくのでしょうか?

声の主は、大きなローブマントとマスクで顔がよく見えないけど、声の質から子どものようだ。

俺はオドオドとしながら答える。


「え、まだ、だけど、場合によっては対応するよ」

「マリーさんからきいてやってきたのです。土細工を作って、お店をやるって。作ってもらいたいものがあるんですが」


「ああそういうこと。まあ大掛かりなものでなければ、作らせてもらうよ」

「では、植木鉢をひとつお願いします。サイズはこのくらいで」


差し出されたのは、大きな画用紙に原寸大で描かれた植木鉢の設計図。直径はおよそ25センチ、厚さまでしっかり描かれている。


「へえ、よくかけてるね。と、ととにかく入って」

子ども相手に緊張してしまう。


それもそうだ。初めて招き入れる客なんだから。

家の入口は広い土間のような構造で、奥の台所まで続いている。

その手前に並べた椅子に案内すると――


「うわああっ!?」

悲鳴が上がった。

ルルドナを見て驚いたらしい。


古びたソファに寝ているルルドナ。俺はその上にハニワのかけらをかぶせていた。落ち着くと思って。もはやほとんどソファに横になるハニワである。


それを見て、思わず悲鳴を上げたのだ。


たしかに初めてハニワを見ると驚くかもしれない。


「だだ、大丈夫、大丈夫。安心して。無害だよ」

初作品を見られた恥ずかしさもあって、しどろもどろになる。


「あんな不気味なゴーレムは初めて見ました」

「いや、ゴーレムじゃなくて……ハニワだよ。今は置物みたいなものかな」


「ハニワ? 置物? ……怖くないんですか?」

「うん。とにかく安全だから安心して」


ハニワの上からぽんぽんと叩く。反応はない。まだ眠っているようだ。強制的に眠ってしまうと言ってたし、悲鳴で起きなくてよかった。


「そうですか。……じゃあ、とにかく形だけでもお願いします! どのくらいでできますか?」

「そんなに急ぎ?」


「はい……実は、おじいちゃんの盆栽の鉢を割ってしまって……」

「国民的アニメの男の子がやりがちなやつね」

「……え?」

「いや、なんでもないよ」


「とにかく手伝いますので、早く作ってください! 今日の町内会の会合、夜の9時までなんです! それまでに仕上げないと、絶対バレます!」

そう言って、フードを取る。


現れた顔は、小さなレンガでできていた。

「ゴーレム……だったんだ」

「はい。体は小さいですが、力仕事はまあまあできます。ちょっと体力はないですけど」

「じゃあ、俺が土をこねて焼くから……薪集め、頼める?」


正直、俺が今までやったのは家庭用オーブンで焼くやつだけだ。でも、ドキュメンタリー番組で見たことがある。


火で包み込むように焼けば、縄文土器みたいにいけるはず。

「はいっ!」

ゴーレムくんは勢いよく飛び出していった。


種族は違えど、子どものバネはすごい。

「さて、急いで作らなきゃ」


負けていられない。残りの土を配合し、素早く混ぜていく。

「割れないように、配合……か」


こういうのは昔から得意だ。手の感覚だけで、何故かうまくいく。

ろくろはないから、千利休の楽焼みたいに手で整える。盆栽好きならきっと気に入ってくれるはず。


**

数分後。木の板に出来上がった鉢を並べる。気づけば6つも作ってしまっていた。

まあ、焼いてる間にひび割れるかもしれないし、数は多いほうがいい。

「ただいまー!」


ゴーレムくんが、山のような木材を抱えて戻ってきた。

「じゃあ、外で焼いてみよう」


作品を板ごと持って外へ出る。すっかり夕焼け空だ。

見晴らしの良さに浸っていたかったけど、今は依頼優先。


「まず、少し穴を掘ろう。鉢が円形に並ぶくらいの穴で」

「はいっ!」


彼はまるでショベルカーのように勢いよく掘り始めた。

あっという間に、深さ20センチ、直径2メートルほどの穴が完成。


「さすが異世界……。じゃあ次は、薪を敷き詰めて」

熱が均等になるように木材を敷き詰め、器を間隔を空けて並べていく。


「え、もう6つもできてたんですか?」

「まあね。急ぎだし、単純な形ならすぐに作れるよ。細部にはこだわれないけどね」


「ひとつだけでよかったんですけど……」

「焼いて割れるかもしれないから、念のためね。6つあると並べやすいし」


鉢を円形に並べながら答える。

「さすがプロですね!」


ゴーレムくんが目を輝かせてくれる。

「まあね」


――今日が初めてだけど。

その一言は飲み込んで、テレビで見た内容を思い出しながら、たきぎをかぶせていく。


そのとき、気づいた。

「……ん?」

なんと、鉢がもう焼き上がっている。


「えっ、これもう完成してる?」

器を手にとって光にかざす。確かに、焼き上がっているようだ。

「どういうことです?」


他の鉢もすべて、きれいに焼けていた。

「えーっと……俺のチートスキルのひとつ、なのかな?」

「これが……異世界人のチートスキル……!」

ゴーレムくんが感動したように呟く。

「よかった! 急いで割れたのと交換しに行かないと! お代は、これで!」


1万ゲル札を取り出す。1万円分。特注は高いけど、最初はこのくらいかも。

「手伝ってくれたし……まけておいてやるよ!」

俺はマリーさんのマネをして、お得感を演出してみた。


「ありがとうございます! また来ます!」

「ちょっと待って、君の名前は? 俺はクタニ」

「イゴラ・ゴレム……です」


「素敵な名前だ。よろしくな」

「はいっ! よろしくお願いします!」

イゴラくんは出来上がった鉢を大切そうに抱えて、麓のほうへと駆けていった。


**

「……誰、あれ?」


日が傾きかけたころ、寝起きで不機嫌そうなルルドナがぽつりとつぶやいた。

家に戻った俺を、じと目で睨みながら問い詰めてくる。

「えっと、おはよう?」


「おはよう。……でも、誤魔化しても無駄よ。窓から全部見てたから」

腕を組み、ふいっとそっぽを向く。

「私というハニワがありながら、あんなゴーレム――レンガの塊になびくなんて。浮気者」

2025.4.19 大幅に書き換えました。


2025.8.9 一人称を僕から俺にしました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ