思いつきでやったほうがうまくいくときもある
さあ、パンは売れるのでしょうか?
***
俺の様子を見てかすかに微笑んだスコリィが、くるりと回って背伸びをしながら現状の問題を指摘する。
「……で、まずはお金っすね。メンバーも増えて、このままだとすぐに資金が底を尽きるのは目に見えてるっすよ」
いつでもしっかりしているのは女性だ。なんとなくスコリィには指摘されたくなかったが。
「俺に借金が75万もあるくせに」
と俺がツッコミをいれても、彼女は平気だった。
「借金100億の人に言われたくないっす」
「ぐっ……」
見事なカウンターに言葉が詰まる。
視線をそらした俺は、マリーさんにもらった月魔法時計を見て時間を確認する。
午後ニ時になろうとしていた。
広場を見渡すと、多くの人が思い思いの時間を過ごしていた。まるで先程の騒ぎはなかったかのように。さすが異世界だ。皆、騒ぎなど日常なのだろう。
ともかく、客の数は見える範囲でも十分。
「よし、ここでパンを売ろう」
俺は、ずぶ濡れのまま、高らかに宣言した。
***
――数十分後。
俺たちはパン販売を始めていた。
「おやつに、レンガパンはいかがっすかー? スロウタウンのレンガパンっすよー! 今なら60ゲル引きの220ゲル! 素敵なゴーレムが焼いたレンガパンですよー!」
身長の高いスコリィが客寄せをしてくれる。推し活で鍛えたらしい良い声で販売してくれる。私情がどこか入っているような気がしたが、聞こえないことにする。
ペッカに木材を召喚させ、火を付けさせ、火の番をしてもらい、俺の作った即席の立体かまどで、イゴラくんの練った小麦でパンを焼く。
完璧な連携だ。
「お、いい匂いだね。1つおくれ」
「こっちは2つ」
「俺には3つ!」
実演販売が珍しいのか、次々と売れていく。
広場での実演販売の許可はすでに取っている。もうクレームがくることもないだろう。
(我ながら経営の才が恐いぜ……)
「ありがとうございます! 水もどうぞー!」
そう声を一生懸命に張り上げるのは、水の精霊とデビルガーゴイルの娘、ガディだ。
俺はひと工夫をした。飲料用の無料の水場の見える位置で、パンの実演販売を始めたのだ。
パンを食べるとどうしても水分が欲しくなる。本当はミルクが最高に合うんだけど。ミルクを露店販売するのは許可が下りなかった。
「コップはご自由に。使うのは無料です! 使ったらこちらへお返しくださいー」
噴水の近くには、人が飲める用の小さな水場があり、俺はその近くに自分の作った焼き物のコップを並べていた。
こういう販売戦略はよくみる。器が余っていたから思いつきでやってみたけど、まあまあ、うまくいっている。
「旅費はこの感じでいけばどうにかなりそうっすね」
「油断大敵だけどな」
今までの売上の資金は、村を出る前になくなった。レンガパンの支払いとマリーさんへの支払いですっかりなくなってしまったのだ。何ヶ月も返ってこれないかもしれないから、近いうちに支払い義務のあるものだけ支払った。
まあ、100億の借金と比べれば些細なものだ。
俺達は夕食時まで売り続け、初日は全て売れて、1万ゲルほどの売り上げ。
一番頑張ったのはイゴラくんだが、捏ねるのをスコリィが手伝ったりしてなかなか楽しそうだった。
いや、スコリィは捏ねるふりをしながら小さなゴーレムを鼻の下を伸ばしながら見ていた。これも気が付かないふりをした。
大事なのは調和だ。……たぶん。
俺はこのまま三日くらいここでパンを売ろうと考えた。それだと、徒歩ではなく馬車での移動が可能になる。結果的には圧倒的に早く着くだろう。
***
次の日も、俺たちは意気揚々と売り始めた。
――だが、パンが売れることはほとんどなかった。




