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シャイニーフェニックス~落ちこぼれ少女のヒーロー奮闘記~  作者: 影野龍太郎
第2章【将軍ヤーバン現る! 刺客はゲーム怪人!?】
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第5話 ゲーセンには危険が潜んでます!

 私がシャイニーフェニックスになってから数日、あれ以来ギーガーク帝国は動きを見せず平和な日が続いていた。


 いや……まあ相変わらず翔くんにちょっかいを掛けられるとか、勉強が辛いとか私個人としては全然平和ではないんだけども……、とりあえずマクロな視点から見たら極めて平穏な日々が続いていると言っていいだろう。


 ともかく、その日も私はいつものように学校に通い授業を受け、翔くんからのちょっかいに腹を立てつつも放課後を迎えていた。


「みう、今日は用事ないんでしょ? 一緒に帰らない?」


 ノートやら教科書やらを鞄に詰め、帰り支度をする私の横の席から智子が声を掛けてくる。


 彼女とは親友同士、かつ家も近所、おまけに部活に所属していない者同士ということもあり、ちょくちょく一緒に下校したりしている。今日もその流れだ。


 ちなみに登校を彼女と共にすることはほとんどない、その理由は……私が朝に弱いからである!(自慢げに言うようなことじゃない)。


 それはともかく、特に用事があるわけでもなく気分的にも断る理由などなかったので、私は二つ返事で了承した。


「うん、いいよ」


 そう言うと私は鞄を手に取り立ち上がった。同じく立ち上がった智子に対して手を差し出しながら声を掛ける。


「さっ、行こっか」


「ええ、行きましょう」


 そして私たちは手を取り合い教室を出て行ったのだった……。



「でもさぁ、このままうちに帰るのはつまらないわよね?」


 学校から出てしばらくしたところで、智子がそんなことを言い出した。確かにそうだ、せっかく学校が終わったのだからどこかに寄り道して帰りたいところである。しかし……。


「もう、智子ってば相変わらずね。いつも学校が終わったらまっすぐ帰れって先生に言われてるでしょ」


 ヒーロー大好き、正義の味方を目指す私としては、そういうお約束には従わねばならないのである。だから私は呆れ顔でそう言ったのだが、彼女はそんなことなどお構いなしとばかりに続けた。


「いいじゃない、ちょっとくらい。それに、たまには息抜きも必要よ? 何より、あんたも本当はこのまま帰りたくないって思ってんでしょ。顔に書いてあるわよ」


「えっ、うそっ!?」


 私は慌てて自分の顔に手を当てた。


 確かに心の中ではそう思ってたけど、まさか顔にそれが出てたなんて、と戸惑う私だったけど、智子はしてやったりと言わんばかりな表情でニヤニヤしている。


「ほらっ、やっぱり図星だったんじゃない。ほんと分かりやすいんだから」


 そんな彼女に何も言い返せない私だったが、智子は私の肩にポンと手を置くと言った。


「大丈夫よ、先生だってそこまできっちり見張ってはいないだろうし、ちょっと寄り道するくらいならバレやしないわよ!」


 そう言って彼女は私の手を取るとそのまま歩き始めるのだった……。


()()()()()()付き合ってあげるか。でも、どこに寄るつもりなの?」


 私は仕方ないからという部分をわずかに強調しつつ言った。そうだ、私は止めたんだ、でも彼女がどうしてもと言うのだから仕方なく付き合うだけだ、決して私が行きたいわけじゃない、うん。


 そんな私の心境を知ってか知らずか、智子はニコニコしながら答えた。


「あたしが行きたい場所なんて一つしかないでしょ。もちろん、ゲーセンよ」


 ああ、やっぱりねと私は心の中で呟いた。智子の趣味はゲームだ、それもかなりやり込んでいるタイプの。だから当然こういう展開になるだろうと思っていたのだ。


 一方の私はと言えば、智子ほどではないにしろゲームというもの自体は好きな方なので、たまにはこういうのもいいかなと思い始めていた。


 しかし、私としては自分の心を納得させるための最低限の条件だけは満たしておかねばならない。


「智子がどーしても行きたいって言うのなら私も親友として付いて行くしかないね」


 そう言って肩をすくめて見せる私に智子は、「あんたって面倒なとこあるわね、そこまで真面目じゃなくていいのに」と言いながら苦笑いを浮かべた。

 そして、そのまま歩き始めるのだった。


 まあ、智子の気持ちもわかるけど、シャイニーフェニックスとしての活動を始めた以上私は今まで以上に正義の味方としての自覚を持って行動しなければならないのだから、これは仕方ないことなのだ。


 正義のヒロインシャイニーフェニックスが放課後遊び歩いていたせいで先生に怒られました、なんてのはあまりにも格好悪いからね。


 そんなことを考えているうちに私たちは駅前までやってきた。そこはたくさんの人で賑わっており、とても賑やかだった。


 そんな光景を見ていると、なんだかワクワクしてくる。やっぱり、こういう雰囲気は好きだなぁ……。そう思いながら私は智子に手を引かれるまま一軒のゲームセンターへと入っていったのだった……。


「ゲームセンターに来たのはいいけど、あんまりお金使わないように注意しないとね」


 お小遣いはそれなりに持っている私だけど、ゲームにすべてをつぎ込むわけにはいかないのだ。


 財布を覗き込みながらそんな言葉を口にした私に智子が笑顔で言う。


「大丈夫よ、誘ったのはあたしだし、今日はあたしが奢るわ」


「奢るって……智子もそこまでお金持ってきてないでしょ?」


 私がそう尋ねると彼女はニヤリと笑って言った。


「今あたしの手持ちはちょうど1000円。だけど十分なのよ、それだけあれば、()()()()()()()()ね」


「どういうこと?」


 首をかしげる私に智子は得意げな表情で答える。


「見せてあげるわ、ゲームクイーン森野智子の姿をね」


 ゲームクイーンというのはゲーム大好きでその腕前にも定評のある智子に対して自然と付けられたあだ名である。


 少し揶揄も入っていると私は思うのだけど、本人はその呼び名を気に入っているようで、自分から名乗ることもあった。


 まあ、実際森野智子という人物をこれほど的確に表現している言葉もないだろうなと思う。


 そんな智子が自信満々に言うものだから、私も期待せずにはいられなかった。


 智子はそのまま歩き出すと、一台のマシンの前で足を止める。アームを使って景品を取るクレーンゲームというやつだ。


 もちろん私も何度かやったことはあるのだけど、景品を取ったことなど一度もなかった。というか本当は絶対取れないようにできてるんじゃないかとすら思うくらいだし……。


 しかし、そんな私の考えを見透かしたかのように智子が言う。


「この手のゲームはね、お金を投入する前から戦いは始まってるの。景品の配置、アームの強さによっては絶対に取れないようになってるのよ」


 そう言いながら彼女は100円玉を入れる。そして、慣れた手つきで操作を始めた。私はその様子を後ろから見守ることにする。


「だけど、それさえ見誤らなければ、後はテクニックでどうとでもなる。こんな風にね」


 そう言うと、智子はアームが景品を掴む前にマシンに背を向けてこちらに戻ってきた。まさか、自分の操作の結果すら確認しないなんて……!


 私が驚いている間にもマシンは動き続け、やがてガコンという音と共に取り出し口に何かが落ちた音がした。見てみるとそこには確かにぬいぐるみが入っていたのだ!


「す、すごい……!」


 思わず感嘆の声を漏らす私に得意げな表情で言う彼女だった。


「このキャラってあんたの好きなプチピュアに出てくる妖精でしょ。あげるわ、あたしは景品そのものよりも、それをゲットするまでの過程を楽しむタイプだからね」


「あ、ありがとう!」


 私はぬいぐるみを取り出しそれに視線をやる。これ、限定品の……! 私じゃ絶対手に入れられないから後でオークションサイトで買おうと思ってたんだけど……。


 さすが、ゲームクイーンの森野智子、クレーンゲームの腕も一流ってわけね……。私は改めて彼女の凄さを思い知らされたのだった……。


「さて、肩慣らしはこのぐらいね。本命に挑みに行きましょうか……!」


 不敵な笑みを浮かべて言う智子に私は若干引き気味に尋ねる。


「本命って……?」


「もちろん、あれよ」


 そう言って智子は、壁に貼られたポスターを指差す、そこには【ストレートファイターズ】という文字と道着にハチマキを巻いたキャラクターが描かれていた。

 さらに、店員の物と思しき手書き文字で『新作入荷!』と書き込まれたPOPも貼ってある……。


 そっか、なるほど、智子はこれをやりに来たのね……。


 智子はゲーム全般が大好きだが、その中でも特に格闘ゲームは大好物だ。

 一人の時もゲームセンターに赴き、対戦に興じているという話を聞いたことがある。この間などは「あたしより強い奴に会いに行く……」とかわけのわからないことを言いながら、電車で数駅先のゲームセンターにまで遠征していたほどだ。


「智子も好きだね~、私は格ゲーには全然詳しくないからよくわからないけど」


 智子とは逆に私は格ゲーは大の苦手だった、数あるゲームの中でも特に反射神経と操作テクニックを要求される格ゲーに関しては全くついていけないのだ。

 キャラが可愛いとかの付加価値があればいいけど、あいにく智子が好むのは男臭いキャラばかりが出るゲームなので、その要素すらない。


「みうもたまにはやってみない? あんたが格ゲー得意になれば、あたしとしては家で対戦もできるし嬉しいんだけどなぁ」


 そう言って彼女は私を格ゲーコーナーに連れて行こうとするのだけど、私は両手を前に出してそれを拒否する。


「無理無理、智子は知ってるでしょ。格ゲーなんて私とは一番相性が悪いジャンルだって……」


 そうなのだ……私が格闘ゲームをやるといつも負けてしまう……理由は簡単……不器用だから……。


「苦手だからって避けてちゃ、いつまで経っても苦手なままでしょ? やってみれば案外楽しいものよ、それに今度の新作は初心者向けを謳ってるし、あたしが手取り足取り教えてあげるからさ!」


 確かにそれは魅力的な提案だ……でもやっぱり……私には無理だぁ~!! だけど抵抗虚しく、私は半ば強制的に格闘ゲームの筐体の前に座らされるのだった。



 結論として、私の格ゲーへの苦手意識はプレイ前よりさらに高まってしまった……。


 智子の指導もあり、なんとかCPU相手に少しだけ勝てるようになったのだけど、突如『New Challenger』の文字が画面に現れたかと思うと、瞬く間にボコボコにされてしまったのだ……!


 乱入という奴である、ほんの少しだけ自信をつけたと思ったらこれだ、世の中そんなに甘くないってことかな……? 私はガックリ肩を落として席を立つ。


「みうの初心者丸出しのプレイを見た上で乱入してくるなんてふざけたことやってくれるじゃないの! 全台乱入OKのこのゲーセンもゲーセンだけど、あたしはああいう奴が一番嫌いなのよね!」


 そう言って、怒り心頭といった様子で、私の代わりに台の前に座る。どうやら、このまま対戦を受けるつもりのようだ。


「智子、いいよ私は別に気にしてないから……」


 まったく気にしてないと言えば嘘になるけど、負けて当然とは思っているし、何より、これ以上、彼女に迷惑をかけたくないという気持ちの方が強い。


「あんたが良くてもあたしの気が済まないわ。親友の敵討ち、初心者狩りなんて言う行為に対する鉄槌、なによりこういう調子に乗ってる奴を完膚なきまでに叩きのめすのって楽しいのよ」


 そう言うと彼女は意気揚々と投入口にお金を入れるのだった。……あれ? 今なんか物騒な言葉が聞こえたような……気のせいだよね?


 そして、智子のキャラ選択が終わり対戦がはじまった……!


 まず動いたのは対戦相手のキャラだった、先ほど私を一瞬でボコボコにしたコンボ攻撃を繰り出してくる! しかし、それを智子は華麗なレバー捌きで回避して反撃に出た。


 彼女の操作するキャラクターが必殺技を放つも対戦相手は巧みなガードでそれを防ぎきると、追撃を警戒し距離を取った。


「「「「おおおおっ!」」」」


 いつの間にか集まっていたギャラリーから歓声が上がる、初心者の私ですら今の攻防がすごいということはわかったのだ、ゲーセンに集まるゲーマーたちからすれば尚更だろう。


 その後も激しい攻防戦が繰り広げられる。


「うおぉぉ!! どりゃああ!!!」


 智子が吠える。もはや完全にテンションがおかしくなっている。


 私はその様子に引きつつも、向こう側の台に座る対戦相手に目を向けた。


 それは黒いフードを目深にかぶった人物だった、背はそれなりに高いようだが、見た目からは男か女かすら分からない。私のプレイに乱入してきた時から今に至るまで一言も発さず、ただ淡々と機械のようにレバーを動かしてコマンド入力をしているだけだった。


 智子ほど熱くなる必要はないだろうが、これだけの激しい戦いを繰り広げているのだ、少しぐらい声を張り上げても良さそうなものなのに、それがないというのは不気味だった。


「くぅ!」


 智子のうめき声に私はハッとして画面に視線を戻す、見ると智子の操作キャラの体力ゲージが残りわずかになっていた! まずいこのままじゃ負けちゃう……! そう思った瞬間、相手のキャラが必殺技を放った……しかし!


「負けられないのよ! 初心者狩りなんかするやつに!!」


 智子はそれをなんとかガードする、しかし、体力ゲージは削られる、おそらく後一発でも食らえば、智子は負ける……!


「せっかくみうが格ゲー好きになってくれるかもしれないチャンスだったのに、あたしの親友の心を傷つけた罪、償ってもらうわよ!!」


(智子……!)


私は彼女の言葉にじーんと感動していた、まさかそこまで私のことを思ってくれていたなんて……!


 その気持ちだけで私は十分だよ……でも、出来ることなら負けないで、私、心の底から応援してるから……!!


 そんな私の思いに応えるかのように、智子は繰り出された敵の超必殺技を華麗にかわし、逆に懐に飛び込むと連打を浴びせる。


「最後の最後で超必で決めようなんて欲出したのがあんたの敗因よ、そのキャラはね全キャラの中で一番超必後の隙が大きいの……だから……!」


 そしてそのままコンボを叩き込みフィニッシュ!! 画面いっぱいにKOの文字が表示されると同時にギャラリーから歓声が上がった……やったぁ! 勝ったんだ!


「ふぅ……」


 智子は額にびっしりと浮かんだ汗を拭い一息つく、その顔はどこか清々しい様子だった。


「やったね智子、凄かったよ! 私ドキドキしちゃった、あんな凄い戦い初めて見たもん!」


 私が興奮気味にそう言うと彼女は少し照れ臭そうに笑う、しかしすぐに得意げな顔を見せた。


「このぐらいは当然よ。所詮初心者狩りしか能のないやつだったからね、あたしの相手じゃなかったわ」


 そう言って胸を張る、その様子はとても誇らしげだった。


「しっ、相手に聞こえちゃうよ?」


 私は思わず対戦相手の方に視線をやりつつ言った。事実とは言えあまり挑発的なことを言うのも良くないだろう、それに、もし聞こえていたらどんな反応をするのかちょっと怖いし……。


「わかってるわかってる。ま、あんたもなかなか強かったわよ。それだけの腕があるなら初心者狩りじゃなくて、ちゃんとした対戦者を探してみたらどうかしら? きっと楽しい試合ができると思うな!」


 そんな私の心配をよそに智子は全く気にしていない様子だった、一応相手をフォローしているつもりなのだろうけど、完全に上から目線で言ってるから煽ってるようにしか見えないよ……。


 普段はここまでは言わない彼女がこんな事を言っているのは、私に対する初心者狩りのことで怒っているからなのだろう、私は再びじーんと感動していた、やっぱり持つべきものは友達だなぁ……。


 その時、ガタッという音と共に、対戦相手が無言のまま立ち上がると、こちらに向かって歩いてきた。


 まさか、怒った……?


 私は身をすくませるが、智子は気にした様子もなく「何?」とそいつに対して言いつつ顔を覗き込む。


「きゃあああああああっ!!」


 絶叫が店内に響き渡ると同時に彼女は飛び退くように後退りし、その場に尻餅をつくようにしてへたり込んだ。そして恐怖に満ちた表情でガタガタ震えながら後ずさる彼女に対し、そいつはゆっくりと近付いていく。


「ど、どうしたの智子!?」


 私は彼女に駆け寄り抱き起しつつ尋ねる、彼女はそいつを指差しながら震える声で言った。


「ば、ば、化け物よ……!」


 その言葉に私はそいつの顔をよく見た、な、なにこいつ……!?


 フードの下の顔は確かにどう見ても人間ではなかった、金属質な光沢を放つ銀色の肌、車のヘッドライトのような形をした目、鼻や口らしきものはあるが、なんというか全体的に四角く角張っていてまるでロボットのようだ……


 いや本当にこれロボットなんじゃないの?


 そんなことを考えているうちにもその謎の機械人間はこちらの間近にまで来ると口を開いた。


「見つけたぞ、シャイニーフェニックス……」


 え……? と私は思わず声を上げそうになるのを何とか堪える、今この人なんて言った……? いやでもまさかそんなはずないよね、だって私がシャイニーフェニックスだなんて知ってるはずがないし、きっと聞き間違いだよね……?


しかし私の期待を裏切るようにその機械人間はさらに言葉を続ける。


「オレはギーガーク帝国のエージェントロボ、ゲームキング。シャイニーフェニックス探索の任務を受け探していたのだ、お前がシャイニーフェニックスだな?」


(ええええっ!!??)


 私は心の中で絶叫した。なんでバレてるのー!? なんでぇーーっ!? あまりの衝撃に頭が真っ白になる。どうしよう、どうすればいいの……!?


 しかし、戸惑う私を押しのけ、ゲームキングを名乗るそのロボットは智子に指を突き付けた。


「シャイニーフェニックス、貴様を我らが要塞へと連行する!」


 へ……? 何を言ってるのこのロボット……。智子が……シャイニーフェニックス?


 いやいや違う違う、シャイニーフェニックスは私だし、智子じゃないし……。


 案の定智子は、何を言われたのか全く理解できないといった様子でポカンと口を開けている。そりゃそうだよねぇ……。


「な、何を言ってるのあんた……。シャイニーフェニックスってこの間現れた正義のヒロインの名前よね? それが、あたし……?」


 戸惑いながらもそう反論する智子。


 ゲームキングはそんな彼女をあざ笑うように言う。


「ふふふ、とぼけるな。このゲームキング様にゲームで勝てる人間が普通の人間であるはずがない、貴様がシャイニーフェニックスだ、間違いない!」


 わけのわからない理屈に、言われた智子も私もあんぐりと口を開けて絶句するしかないのだった。


「そ、そんな理屈あるわけないでしょ! シャイニーフェニックスがゲーム不得意だって可能性は考えないの!?」


 私は思わず叫んでしまう。実際本物のシャイニーフェニックスである私はゲームが大の苦手だし……。


「ふ、奴の戦闘データは見せてもらった。あれだけの能力を持つものは変身前でも当然あらゆる能力に秀でているはずだ、正体を隠しゲームに興じていたようだが、うっかり実力を発揮してしまったのが運の尽きだったな!!」


 勝ち誇ったように言いながらゲームキングは再び智子に指を突き付ける。


 えええ……。シャイニーフェニックスとしての私を買ってくれるのは嬉しいけど、変身前の私はむしろあらゆる能力が底辺なんですけどぉ。


 自分で言ってて情けなくなるけど事実なんだから仕方ない。


 それはともかくとして、この状況はかなりまずい、私がシャイニーフェニックスと疑われないっぽいのはいいけれど、このままじゃ智子がシャイニーフェニックスとしてこいつにどこかに連れ去られてしまう。なんとかしないと……!


 そうこうしている間にも、ゲームキングは智子の腕を掴むとその体を軽々と持ち上げる。そしてそのままずるずると引きずっていく。


「ちょ、ちょっと! 離しなさいよっ!」


「大人しくしろ!」


 その時、ガン! という音と共にゲームキングの頭に筐体の前に置かれていた椅子が命中した。


「機械の化け物! 白昼堂々と女の子を攫おうとしてんじゃねーよ!」


 見ると、ギャラリーの一人だった金髪のお兄さんがゲームキングを睨みつけていた。どうやら彼が椅子を投げつけたようだ。


 おお、ナイスだよ、お兄さん。ちょっと怖そうな見た目の割にはいい人なんだね。


「地球人が……舐めた真似をしてくれるじゃないか……! いいだろう、まず貴様から始末してやる……!」


 怒り心頭といった感じでお兄さんを睨むゲームキング、重そうな椅子が頭に直撃したというのに全く動じておらず智子の手も離さない。


「ひ、ひぃ……」


 睨まれ、お兄さんは怯えた声を上げる。無理もない、あれで無傷なんだもの、普通の人間じゃ太刀打ちできないよねぇ……。


 なんて呑気に考えてる場合じゃない!


 私は周囲に視線を巡らせる。店内の視線はゲームキングとそいつに腕を掴まれたままの智子、そしてお兄さんに注がれている。誰も私の事なんて気にしてない……!


 これはチャンスだ、私はそっと立ち上がると、その場を離れ店のトイレの中へと駆け込んだ。


 トイレの中にも誰もいない! よし、行くぞー!!


 さて、ゲームキングさんとやら、そんなに会いたいなら会わせてあげるよ、正義のスーパーヒロインシャイニーフェニックスにね……!


 私は意識を集中すると、左腕を掲げて(外には聞こえないほどの声で)叫んだ。


「Start Up! シャイニーフェニックス!!」

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