神剣は踊る
私たちはエンズの戦いを安全圏から見守ることしかできないでいた。
エンズに足手まとい扱いされたことはしかたない。
目の前で繰り広げられる戦闘は自分たちには介入しようがないレベルだったから。
様々な造形の石像が間断なくエンズに襲い掛かる。
その攻撃速度はあまりにも速い。そして敵の数はべらぼうに多い。
見ているこっちが息をつく暇もないくらい。
「すごい……」
それでもエンズは一発も食らっていなかった。殆どの攻撃を回避し、避けられないものは剣で弾き、ダンスでも踊っているかのような軽やかなステップで石像を翻弄し続けていた。
「いつ息継ぎしてるんだろ」
リズがもっともな疑問を呈した。見ているだけでも苦しくなるくらいの高速移動を繰り返さなければ石像たちの繰り出す超高密度の攻撃は捌ききれない。ほんの僅かな呼吸の隙さえ命取りになりかねない。
「息してなかったりしてね。あはは」
「まさかそんな」
「……していないかもな」
フィオナが淡々とした口調で言った。彼女は冗談を口にするようなタイプではない。本気でその可能性があると思っているんだろう。
「英雄だか化物だかわからないが、私たちはとんでもないのに出遭ったみたいだね」
運が良かったか悪かったのか。どっちだろう。
「エンズは石像を倒せると思う?」
「見ている限り負けはしないだろうさ」
エンズが勝ったらダンジョン踏破だ。私たちのもうひとつの目的は果たされないままだから、ちょっと、いやかなり困ったことになる。エンズが負けると石像の矛先がこっちを向くだろうからもっと困るんだけど。
一対多数の戦闘おける定石に「一対一の状況を作り各個撃破する」というものがあるんじゃが、敵の密度が高すぎるとなかなか難しい。我が主にはまだ無理じゃろうな。我はできるが。
「Giaaaaaaaaaaa!!」
剣士の石像の斬撃を正面から迎撃する。剣を握る手から肩口にかけて唐竹割にしてやる。右腕の外側半分が落ちた。石像は痛みを感じない。それでも目方が減った分だけバランスは崩れる。
ぐらりと傾いた体を支えるために踏ん張った足とは逆方向へ体を捌く。剣士の石像と背合わせになるような位置取り。壁を背にする代わりじゃな。ほんの一瞬、背後からの攻撃を考慮せずともよくなった我は正面の魔物の形をした石像を切り刻んだ。崩れたそいつを踏み怖え次へ。
生じた死角に体を捻じ込み能動的に一対一を作れば、あとは簡単。順番に斬っていけば敵は減り、余裕が生まれ、敵の死角が増える。そうなればもう単純作業じゃな。
「つまらんな」
石像を一体残らず切り倒した。先のガーゴイルよりはマシじゃったが、歯ごたえが足らんな。これで迷宮守護者とは。
「……ほう」
地面に転がった石くれがずるずると集まって元の形を取ろうとしておった。自己修復か。
「じゃがまあ」
いくら修復しても性能が前と同じでは意味をなさん。戻った端から切り倒していけばいいだけの話じゃ。時間稼ぎ以上の意味はない。
自己修復がいつまで続くのか知らんが、根競べじゃな。
無限に再生する石像vs疲れを知らぬ我。
根競べが千日手の様相を呈するのにさほどの時間は要らんかった。負けはしないが我の方も決定打に欠ける。さてどうしたものかと思った時、石像の方に新たな動きがあった。
「はは、はははははっ」
笑ってしまった。
石くれはひとつにまとまって、とある人間の姿を作り上げた。
それは我のよく知る者の姿であった。
アルベルト・リーデルシュタインの姿であった。
そうかそうか。
そういうことをするのか。
守護者風情がよりにもよって我が主を模すなどと舐め腐りおって――
「ブチ壊してやろう!!」




