はぐれ国王
軽い痛みを感じる。
頬を打つ柔らかな感触だ。いつまでも寝ているとシャルロットにそうやって起こされることがあったな、と思う。最近は王の仕事があるのできちんと起きるのでそういう機会はない。たまには柔らかなベッドの中で惰眠を貪って、シャルに優しく起こされ――
「っ!」
意識が覚醒する。
と、同時に跳び起きた。
「痛たたっ!?」
動かした体に激痛が走った。それで色々一気に思い出した。ダンジョンの床が抜けて、落っこちて、エンズを見失って――
「うぅー……」
僕の顔を叩いていたのはさっき出会った幼女――コアルだったようだ。跳び起きた僕にびっくりしたみたいで、少し距離を取って唸っている。獣みたいな子だな。
「コアルちゃん」
おいでおいで、と手を振るとそろそろと近付き、僕の手指を掴んだ。噛むのはやめようね。舐めるのもダメだよ。ほんとに変わった子だ。
そんなコアルだけどパッと見た感じ、
「怪我はなさそうだね」
「あぅ」
とりあえず僕は《治癒》で自分の身体を癒しつつ、周囲を確認する現在位置は狭い小部屋のような空間。出入口はひとつだけだ。
上を見るが暗闇で何も見えない。《暗視》スキルでも見通せないほどだった。床の崩落からどれくらい下に落ちたかは類推することもできない。
「エンズ、無事だといいけど」
コアルを抱きかかえて小部屋の中を一応ぐるりと一周。探してみたけどエンズの姿も痕跡もなかった。
「完全にはぐれてちゃったみたいだね」
エンズ自身のことはさほど心配していなかった。僕なんかより戦闘能力は高いのだから心配する方が失礼だろう。それに《魔剣召喚》を使えばすぐに合流できるはずだ。
早速「クラス:大召喚術師」を有効化しようとする僕の髪の毛をコアルが引っ張った。
「あぅー……!!」
「なに? うわぁ」
小部屋にぞろぞろと魔物の群れがなだれ込んでくる。もしかして巣かなんかだったのだろうか。骸骨多め、種類はいろいろ。食人鬼の姿も確認できた。
「コアルちゃん」
「あぅ」
僕は幼女を抱きかかえて、魔法銀の剣を構えた。
退路は無い。
やるしかないってことだ。




