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名持ち(ネームド)



「……で、デカけりゃいいってもんじゃないでしょ」


 見上げんばかりの巨躯に僕は思わず後ずさりしていた。 


 そいつは今までの狼とは一線を画していた。がっしりと大きな作りなのに鈍重さを感じさせないしなやかな四肢を包むのは、灰色狼(グレイウルフ)のそれとは異なる銀色の毛並みだった。森の中に差し込む僅かな光を反射してキラキラと煌めている。地面に突き立つ爪と口から覗く牙は恐ろしく鋭利で瞬きしている間にも切り裂かれそうなほどだ。


 月の色をした眼光が俺を射すくめる。


 その見た目の力強さとは対照的に静かなたたずまいが逆に恐ろしい。動き出せば荒れ狂う暴風雨さながらに敵を――つまりは僕を蹂躙するのだろう。


 まさかこのデカい奴も召喚されたクチなのだろうか。

 僕は《鑑定(アプローズ)》を使用した。

 で、結果がコレ。


 __________

 深き森の“銀閃(シルバーレイ)

 HP:6666

 MP:221

 STR:550

 AGI:900

 DEX:558

 VIT:239

 INT:195

 __________


 よりにもよって名持ち(ネームド)とか勘弁してほしい。


 名前から察するにこの森の(ヌシ)だろうか。そしてこの化物じみたステータス……。なまじ数値で見えるからおそろしい。見えないものが見えるのも善し悪しなのかもしれない。


 良し悪しで言うならこの状況は幸運な部類だと断言できる。万が一にもこんな大物が開拓地に向かっていたら……と想像しただけで背筋が凍る思いだった。普通の狼(グレイウルフ)でも結構な騒ぎになったのだ。ここで僕が遭遇できたことは僥倖以外のなにものでもない。


 僕がこいつを(たお)せれば、の話だけど。


 僕は大急ぎで《身体強化(フィジカルブースト)》を使用する。二回重ね掛けしているところにもう二回追加。身体強化×4の状態だ。

 素の状態の僕(ポンコツ第三王子)の身体能力はまあまあ低い。〈王の器〉によるステータス補正が入ってようやく人並みよりマシになるくらいだろう。こんなバケモノとやり合うにはどれだけ身体強化を重ね掛けしてもやりすぎってことはない。


 本来なら一流冒険者なり勇者様なりに依頼すべき討伐対象だよね、この名持ち(ネームド)狩りは。


 今はそんなことも言っていられない。この名持ちの銀狼が召喚されたものかどうかはわからないけど、もしそうだとしたらコイツは大きな手がかりだ。ここで逃がすわけにはいかない。そうじゃなくても開拓地のことを考えれば野放しにはできない。


「クラス:全知の賢人(オムニセンス)」を有効化(アクティベート)


 全知の賢人とは全ての魔法使いの最高峰にあたる職能(クラス)だ。簡単に説明すると、全ての属性魔法を使うことができる。


 土属性の呪文スペルから《土の城壁(アースウォール)》を使用。地面から土壁が盛り上がってくる。僕と銀狼を取り囲む円形の闘技場があっという間に完成した。


 ただし上はがら空き。なので続いて木属性の《茨の絡め取り(ソーンバインド)》を使用。土壁の上部から茨の枝が伸びて闘技場に天蓋が設けられる。


 “銀閃”はちらりと周囲を上に視線を向けただけで身動きは殆どしなかった。

 なんなら僕の準備を待ってる風情すらある。余裕だなこの野郎ぅ。


 ともあれ舞台は整った。

 僕にもコイツにも逃げ場はない。

 僕は全知の賢人(オムニセンス)からいつもの剣匠(ソードマスター)に変更、神剣エンズを両手で構えた。


「――勝負だ。来なよ」


 挑発すると、銀狼はぐるると喉を鳴らして、涎を垂らした。

 獲物としては認めてくれたらしい。嬉しくない。ちっとも嬉しくない。


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