女に生まれたということは・・・
ここ数日のこの館の騒々しさは奥に横たわる和泉にも伝わっている。
宗也が今日、宮中へ入るという。剥奪された親王位を奪い返すために・・
正装である冠直衣姿を見かけたが、さすがだなと思う。陸奥に育ちながら雅びささえ感じさせるとは、生まれついてのものは隠せない。
鬼龍、野分、そして兼、いずれも姿を改め直衣を着用している。
下世話に言うなら、
(ああ、もったいないなあ・・)である。
これだけ違う種類の見目よき男たちがそろいながら、何故、謀反まがいのことをやろうとするのか?
眠りに就いた和泉を見届けて部屋の外で、その騒ぎを見ていた薫子に太刀を手にした兼が近づいてきた。
「和泉さまは?」
「今お休みになられました・・兄さま・・」
小さくうなづいた兼を見上げる。
「退くことは出来ぬのですか?どこで道を誤ってしまったのですか?」
「そうだな・・宗也は共に生きてきた野分の思いを叶えてやりたかったようだな。あいつらは、謀反などどうでもよいのかもしれぬ。宗也は母君に、野分は父にただ会いたかっただけなのではないか・・それが、鬼龍どのとつながって思いもよらぬほうへ転がってしまった。出てこねばよかったのよ・・」
「兄さまはどうなされますか?」
「俺か?俺は・・・」
それに、応えは、ない・・・
「兄さま、もしものときには薫子が骨を拾って差し上げまする・・・」
「それは、心強いな。したが俺はそう簡単に死ぬつもりなぞない」
笑顔を返して兼は妹の頭に手を載せた。
「お前をどこかへ片付けるまでは、死ねぬさ。じいに叱られるだろう?」
いつもこうして、死地に赴いて来たと言ってもよい。検非違使とは常に死と背中合わせである。それを承知で送り出してきた薫子でもあったのだ。
「和泉さまを頼む・・」
中を見るでもなく、そこに眠る人へ向けて頭を下げた兼は今一度、妹を見てから踏み出していった。その結果がどうなることかは誰にもわからないが、それが、兼の職務であるからだ・・本当は、声を上げて兄にしがみついて泣きたかったのに、それができなかった・・
兼を見送った薫子はこちらへ向かって駆けてくる女人と目があった。
「薫さま!」
半分泣き顔の美しい衣装のその人は、走った勢いそのままに薫子の体にぶつかってきた。
「瑠璃さま、か?」
抱きとめた人は信じられないという顔で薫子を見ている。少年のような姿の薫子しか見たことがない上に、随分と久しぶりの再会であった。
「薫さま・・姫さまでありましたか?」
桜襲の裾をひく瑠璃はそのまま桜に染まったかのように見えた。
「瑠璃さまは、なぜこのような所へ?」
「わたくし、宗也さまとともに宮中へ上がります。侍女として参るのです」
ここから、宮中へ入るのだという。
「今お一人、冬子さまと申されるお方がおられます。中納言さまのご息女でございます」
その人は何度か見かけたことがあったが、言葉を交わしたことはない。
美しい人であったと記憶はしていたが。まさかその人を兼が口説いたとは思ってもいない。宮中へ入るというが、何もなく過ぎるわけがない。
あの兄と、宮中ならば春宮付き武官である藤原基之が黙っているはずがないではないか!!何の罪もないのにこの娘たちは連座して獄につながれるかもしれないのだ。
男たちの野心の陰でこの命を散らせることになるのか?
(冗談ではない!!男は野心のままに生きればよいが、女まで道連れは許さない!!)
不安げな顔で自分にしがみついている瑠璃の肩を抱きながら、薫子の頭の中に怒りにも似たものが沸きあがってきていた。
(見ていろよ!!やってやるんだからね!!)
女に生まれてきたことは間違いであったと、幼いころからさんざんに言われてきたことであったが、この時、初めて薫子は自分が女に生まれてきたことを悔しいと思った。が、同時に女にしかやれないことを、見つけていることもちょっとうぬぼれてもいいかなと思った薫子であった・・・




