第50話 ハンター、エルフの里帰りに付き合う
ホテルにしけ込むらしいレイ氏達を見送った後、報告のため、俺達はその場でダンジョン庁に電話をかけた。
庁の担当者は、俺達が十日でA級ダンジョンを潰した事にかなり驚いてた。S級ハンターを擁するパーティーとしても、異例の攻略速度だったらしい。
報告ついでに聞いてみたところ、やはりまだ誰も目的のダンジョンを見つけられていないとの事だった。
また、宮内氏ら対策局のハンター達が警戒にあたっている東京では、今の所魔物の再出現は起こっていないそうだ。
依頼はまだ半ばだが、東京側に応援も必要無さそうな状況だ。
ならばと数日間の休暇を申し込んだところ、すんなりと申請が通った。国の組織なのに結構柔軟だ。
担当者に礼を言って電話を切ると、通話を聞いていたみんなはほっとした表情をしていた。
「みんな聞いてた通りだ。今度こそ休暇が取れるぞ」
「あはは、東京旅行は半日で中断しちゃったもんね。今日はもうお家でゆっくり休もーよ。ね、ノルフィナちゃん?」
気の抜けた表情のトモミンが、体を預けるようにノルフィナに抱きつく。
当然ながら、さっきのレイ氏達と違っていやらしい雰囲気は全くしない。
「うふふ、ですね。 --あの、カリヤマさん。今回の休暇なんですが、私、向こうで過ごしてもいいでしょうか……?」
「ワフン……? ワフッ……! ワンワン!」
おずおずと切り出したノルフィナの言葉に、シロが同意するように鳴く。
向こう……? あ、そうだった。彼女、定期的に帰省すると言ってたな。
「ああ、もちろん構わないさ。というか、俺もついて行っていいか? 向こうの様子も気になるし」
「へ……? あ、そー言う事? だったら僕も一緒に行きたい! みんなにお土産買ってこーよ!」
俺とトモミンの言葉に、ノルフィナとシロが嬉しそうに笑う。
「お二人とも…… はい、喜んで!」
「ワン!」
その翌日。俺達は家の近所の鉄熊山に登り、木々の疎な開けた場所に集合した。
『黒門』
ズズズッ……
そこで俺が発動したのは、異世界ユグドラシアへの扉を開く魔法だ。
出現した黒い円環を全員で潜ると、景色は一変。目の前に、丸木で作られた要塞のような建造物が現れた。
ノルフィナとシロの故郷、フヴィートの里である。
里に近づいていくと、門の脇にうずくまっていた巨大な黒い影がのっそりと立ち上がった。
かつての強敵にして、現在はこの村の門番。俺の使い魔であるスチールベアである。
「グルル……」
首を垂れて迎えてくれるスチールベアの頭を、俺はワシワシと撫でた。毛がかてぇ……
「ご苦労さん。異常は無さそうだな。今後もしっかり頼む。あ、これお土産な」
俺は暗黒異空間から大きな肉塊を取り出し、スチールベアの前に置いた。昨日のうちに和牛を一頭買いしておいたのだ。
「グルッ……!」
スチールベアは嬉しそうに唸ると、猛烈な勢いで肉塊に喰らい付いた。
目玉が飛び出るくらい高かったけど買ってきてよかった。使い魔には食事の必要は無いのだけれど、労って悪いと言うことも無いだろう。
「な、なんの騒ぎだ……!?」
すると村の物見櫓から、恐る恐るといった感じでエルフの男性が顔を出した。あの人は確か、ノルフィナの実家のお隣さんの……
「あ、オッディさん! ノルフィナです! ただいま戻りました!」
「ワンワン!」
手を振るノルフィナと尻尾を振るシロの声に、オッディさんの表情はぱっと明るくなった。
「おぉ! ノルフィナ、シロ! 帰ってきたのか! カリヤマ様とトモミンもようこそ!
おいみんな、ノルフィナ達が帰ってきたぞ! 開門だ! かいもーん!」
村の中が俄かに騒がしくなり、門が開き始める。
すると、トモミンがちょいちょいと俺の服を引っ張った。
「ねぇねぇ師匠。お土産、喜んでくれるかな!?」
「ははっ、ずいぶん悩んでたもんな。大丈夫、きっと喜んでくれるさ」
「だよねだよね!? うー……! 早くプレゼントしたい!」
招き入れられた俺達が早速お土産を配ると、里の人たちは大層喜んでくれた。
俺からは酒や便利な調理器具、トモミンからはバトミントンセット、シロからは高級ハムの詰め合わせが贈られた。
そして、一番気合を入れて選んでいたノルフィナのお土産はというと……
「ねぇちゃん! これ、外はふわふわ、中はトロトロですんげーうめー!」
「あまーい! いい匂い……!」
場所はノルフィナの実家。彼女の弟のヴァリルと妹のエルティは、黄色いお菓子を食べながら満面の笑みを浮かべた。
ご存知、東京ばな○である。東京のお土産といえばこれでしょうと、ノルフィナが自信満々に選んだ品だ。
確かに間違ってはいないし、とても美味しいのだが、情報の参照元が気になる…… また何かのアニメの影響なのでは……
ちなみにノルフィナは、原料であるバナナが東京産でない事に非常に驚いていた。
「うふふ、よかった。いっぱいあるからね」
喜ぶ弟達を、ノルフィナが慈愛の笑みで見つめる。その様子を眺める彼女のご両親も幸せそうだ。
「カリヤマ様。こうして家族で過ごせるのもあなた様のおかげです。さらにこんなに上等そうな酒まで…… いやぁ、頂くのが楽しみです……!」
「私からもお礼を。アツリョクナベですか…… 使うのが楽しみです。シロからもらった美味しそうな燻製肉も、早速お昼にでも使わせてもらうわね」
「喜んでいただけてよかったです。シロも頑張って選んだもんな?」
「ワンワン!」
揃ってお礼を言ってくれるノルフィナのご両親に、俺とシロは笑顔で頷き返した。
家の外からは子供達の楽しげな声が聞こえてくる。早速バトミントンで遊んでいるようだ。
「トモミンのお土産も好評みたいだな」
「うん! よかったよかった! 後で僕も混ぜてもらおーっと!」
そんな和やかな雰囲気の中で、お茶を頂きながらおしゃべりをする。
主にノルフィナからご家族に近況報告して、時々俺やトモミンが捕捉を入れる感じだ。
しかし、そうした時間がしばらく過ぎた頃、ノルフィナのお母さんが突然爆弾を投下した。
「それでノルフィナ。その、トモミンちゃんとの兼ね合いもあるでしょうけど、いつ頃になりそうなの?」
「へ? なんの話?」
「何って…… カリヤマ様とのお子よ」
「「ゴホッ!?」」
俺とノルフィナが揃ってお茶を吹き出す。な、なんて事を言い出すんですか!? --は……!?
異様な雰囲気を感じ、恐る恐るトモミンの方を見ると、彼女は表情の失せた顔で俺達を見つめていた。こ、怖い……
「--ノルフィナちゃん? 師匠と子供作るつもりだったの? 僕より先に?」
「ト、トモミン……!? ごご、誤解ですぅ! ま、まだ何もしてませぇん!」
「まだ? じゃあいつかするつもりだったの? 僕、聞いてないんだけど?」
「ひ、ひぃっ……!」
早口で捲し立てるトモミンに、ノルフィナが小さく悲鳴を上げる。
ノルフィナのご両親はというと、その様子に目を細めている。いや、笑ってる場合じゃないですよ……
「あ、あの、お母様。俺とノルフィナはパーティーメンバーでして、そういった関係では……」
「あら、遠慮しなくていいんですのよ? この子も全て納得づくでカリヤマ様のお側にいることでしょうし、もう百八十歳なんだからそろそろ、ねぇ……?」
「いや、色々と誤解が-- 百八十!?」
「え…… ノルフィナちゃん、そんなに年上だったの!?」
さらに投下された衝撃の情報に、俺とトモミンは目を見開き、ノルフィナが絶叫しながら席を立つ。
「わー!? ちょっとお母さん! なんで言っちゃうの!?」
「なんでって…… むしろあなた、言ってなかったの?」
「だ、だってぇ……」
気まずそうにこちらを伺うノルフィナ。どうやら本当に御年百八十歳らしい。
かなり驚いたが、そういえば彼女はエルフだった。ならばその可能性も予測しておくべきだったか……
俺とトモミンは頷きあうと、ノルフィナに向かって姿勢を正した。
「その…… ノルフィナさん。大変失礼な態度や言葉遣いをしてしまい、申し訳ございません。これまでの無礼、どうかお許しを」
「えっと…… ご、ごめんね、ノルフィナ、さん。やー、すごいなー。僕より一世紀以上も年上なんだ……! さっすが異世界!」
「や、やめて下さい! 今まで通り! 今まで通りでいいですから! こうなるから教えたくなかったのにぃ……!」
「ワフン……」
頭を抱え込んでしまったノルフィナの足に、シロが慰めるようにそっと前脚を触れる。
トモミンの殺気は治ったが、なんとも混沌とした状況だ。
ドンドンドンッ!
そこで、突然家の扉がノックされた。叩き方からして、急用のようだ。
「おや、誰だろう? どうぞ!」
ノルフィナのお父さんが応えると、扉が勢いよく開き、甲冑を着込んだエルフの男性騎士が入ってきた。
「御免! こちらにカリヤマ殿とノルフィナ殿は…… おぉ、ちょうどいらしていたか! よかった!」
騎士は、俺達を見つけると険しかった表情を緩めた。この顔、見覚えがある。
「あなたは確か、リースヒルド侯爵の…… 一体どうしたんですか?」
「は。領内で少々厄介な問題が生じてしまい…… 今からご領主様の元へ参じて頂けないだろうか?」




