第49話 ハンター、マウント合戦をする
ズァッ……
バオバブトレントの討伐から三日後。俺達は光の渦を抜け、ダンジョンから地上へと帰還した。
時刻は昼過ぎ。冬の森はすでに暗くなり始めていて、少し離れた場所から川のせせらぎが聞こえてくる。
「無事帰還できたな…… 日が暮れそうだし、今日はもう川に沿って下山しよう」
「「おー……」」
川に向かって歩き始めると、パーティーメンバーの気の抜けた返事が聞こえてきた。
ちらりとみんなの方を振り返ると、全員がその顔に疲労を滲ませていた。
「みんなお疲れ様。往復十日の強行軍によくついて来てくれた」
「あはは、師匠は元気そうだね…… 僕は流石にちょっと疲れちゃったよぉ。 --でも僕ら、A級ダンジョンを攻略したんだよね……?
これでまた一歩、すんごハンターに近づいちゃったかも!?」
トモミンが疲れを振り払うように両の拳を握る。この子はいつもポジティブで助かる。
「ははっ、だな。そうだ。今回の依頼がひと段落したら、A級の昇級試験を受けてみよう。
カオスウルフ達との激闘を経て、みんなのレベルと戦闘技能は格段に上昇している。今のみんななら、合格間違い無しだろう」
俺たちパーティーは、俺がS級で、他のみんながB級というアンバランスな構成だ。
そんな状態で配信していると、S級の俺にみんなが寄生している、なんてコメントも来たりする。これはみんなの精神衛生上良くないだろう。
それを是正するには、みんなにA級に昇級してもらうのが手っ取り早い。
しかし、ノルフィナはまだ成長の実感が伴っていないのか、自信なさげに首を傾げている。
「そ、そうでしょうか……? でもA級って、確かハンターの上位0.1%しか居なかったんじゃ…… 私も成れるのかな……?」
「ワンワン!」
「シロ……? もしかして、励ましてくれてます? --ふふっ、ありがとうございます」
「ワフーン」
ノルフィナにわしゃわしゃと頭を撫でられ、シロが気持ちよさそうに目を細める。 --俺も後で撫でさせてもらおう。
しかし、イケイケどんどんなトモミンに対して、ノルフィナはいつもどこか控えめだ。知識欲が絡むと結構グイグイ来てくれるのだけど……
「あ、そういえばカリヤマさん。この十日間、結局ラーヴァスライムやストーンボムには遭遇しませんでした。
やはり、あのダンジョンはハズレだったという事ですよね……?」
「ん? ああ。残念だが、そういう事だろうな。ダンジョン庁からも連絡が無いから、他の連中もまだ見つけられていないんだろう」
「そっか。元々、あの子達が出てきたダンジョンを探すのが目的だったもんね。僕、すっかり忘れてたよー。あれ……」
話しながら歩く内に川縁に到着すると、トモミンが声を上げた。
彼女の視線の先を見ると、木陰から、山の中にはミスマッチな白銀鎧の集団が出て来た所だった。
レイ氏が率いる姫百合騎士団の面々だ。
「トモミンにノルフィナ! ごきげんよう。あなた方もダンジョン攻略の帰りですの?」
レイ氏達もこちらに気付き、嬉しそうに声を上げる。
相変わらず男は見えていないらしく、俺とシロは苦笑いで顔を見合わせた。
「レイちゃん十日振り! そーそー。僕らもちょうど今戻ったところなんだー」
「こ、こんにちは、レイさん。あの、もしかしてレイさんもダンジョンを……?」
「ふふふ…… もちろんですわぁ。ローズ、あれを」
「はい、レイ姉様」
ローズと呼ばれた女騎士が荷物から何かを取り出した、レイ氏に恭しく手渡した。
それは、グレープフルーツほどの大きな魔石だった。あのサイズは……
「ごらんなさい、このダンジョン核を! わたくし達、たった十日で未管理のB級ダンジョンを攻略しましてよ!
トモミン、ノルフィナ。お二人とも、これでわたくしに惚れなおしたのではなくって?
姫百合騎士団は、いつでもあなた達を待っていましてよ?」
レイ氏は二人に微笑みかけた後、俺の方に挑戦的な視線を向けてきた。
この人、まだ二人のことを諦めてないのか……
「わっ! さっすがレイちゃん! でも、僕らだって負けて無いよー? 師匠、あれを!」
「え? あ、はい」
俺はレイ氏達に背を向けると、暗黒異空間を発動させ、中からメロンほどの大きさの魔石を取り出した。
さっきまで俺たちがいたA級ダンジョンのダンジョン核だ。
トモミンに恭しく手渡すと、彼女はそれを高々と掲げた。
「じゃじゃーん! どうこれ! A級ダンジョンのダンジョン核だよ!」
「え…… A級ですって!? たった十日で、未管理のA級ダンジョンを攻略したんですの……!?
ありえない…… 早すぎますわ! で、ですがそのサイズは確かにA級相当…… くっ……!」
レイ氏が憎々しげに俺を睨む。いや、レイ氏達も十分に凄いんだが…… でも俺が言うともっと拗れそうだから黙っていよう。
「ふん。その挑戦、受けて立ちますわ! あなた達、今からもう一ヶ所ダンジョン潰しますわよ!」
「えー!? 今から!? レイちゃん、今日はもう帰ろうよ。みんな疲れてるんじゃない?」
「レ、レイ様。流石にそれは……」
「食料なども減っていますし……」
「ぐぬ、ぐぬぬぬっ……!」
トモミンやパーティーメンバーに諌められ、レイ氏が悔しげに唸る。
「レイ姉様、ここはどうか考え直して-- んむぅ!?」
さらに先ほどローズと呼ばれた女騎士が声を上げると、レイ氏は突然その人の唇を奪った。ディープキスである。
「わぉ……!」
「わ、わぁ……」
突然の展開にトモミンが感嘆の声を上げ、ノルフィナが顔を手で覆う。が、よく見ると指の間からレイ氏達をガン見していた。
そしてたっぷり十秒ほど経った後、レイ氏達はようやく唇を離した。
「--全く、うるさい口ですわぁね。まぁでも、確かにあなた達の言うとおりですわ。
今日の所は引き上げますわよ! この続きは、ホテルでたっぷりしてあげますわぁ……」
「はぁい、レイ姉様ぁ……」
「ではトモミン、ノルフィナ、そしてシロさん。ごきげんよう。 --カリヤマさん。これで勝ったと思わないことですわね!」
「あ、はい」
レイ氏は最後に俺をひと睨みすると、パーティーメンバーを引き連れて足早に去っていった。




